誹謗中傷の削除代行業者は違法?弁護士法72条の非弁行為を解説
誹謗中傷の削除代行業者は違法?弁護士法72条の非弁行為を解説
ネット上に自分や自社を中傷する書き込みを見つけて検索すると、「投稿削除は成功報酬」「最短即日で削除」といった広告が数多く目に入ります。弁護士に頼むより安く、手続も早く済みそうに見えるため、まずはこうした業者に問い合わせてみようと考える方は少なくありません。
しかし、こうした「削除代行」の中には、弁護士法72条が禁じる非弁行為にあたるとして、裁判所が契約自体を無効と判断したものがあります。この記事では、削除代行業者への依頼にどのような法的問題があるのか、適法なサービスとの線引きはどこにあるのかを、横浜で誹謗中傷案件を扱う弁護士の視点から整理します。
削除代行業者とは——広告でよく見るサービスの中身
「削除代行業者」「風評被害対策会社」などと呼ばれる事業者のサービスは、実際には性質の異なる複数の業務が混在しています。
| 業務の類型 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 削除申請の代行 | 依頼者に代わってサイト運営者に投稿の削除を求める |
| 逆SEO・検索対策 | 中傷ページの検索順位を下げる、好意的なコンテンツを増やす |
| 風評監視・レポート | 掲示板やSNSを継続的に監視し、書き込みを報告する |
このうち法的に問題となりやすいのは、一番上の「削除申請の代行」です。逆SEOや監視サービスは、権利侵害を主張して相手方に義務の履行を迫るものではないため性質が異なります(逆SEO・サジェスト汚染への対処法もあわせてご覧ください)。
弁護士法72条が禁止する「非弁行為」とは
弁護士法72条は、次のように定めています。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。(弁護士法72条本文)
ポイントは、①報酬を得る目的があること、②「法律事件」に関する「法律事務」を取り扱うこと、③それを業として(反復継続の意思をもって)行うこと、の3点です。これらを満たす行為を弁護士でない者が行った場合、弁護士法77条3号により2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処せられることがあります(2025年6月1日施行の刑法改正により、懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されています)。
「一般の法律事件」の範囲
「法律事件」とは、裁判になっている案件だけを指すものではありません。最高裁は、立退き交渉の事案について、立退き合意の成否・立退きの時期・立退料の額をめぐって法的紛議が生ずることがほぼ不可避であるとして、弁護士法72条の「その他一般の法律事件」にあたると判断しています(最高裁平成22年7月20日決定・刑集64巻5号793頁)。訴訟になっていなくても、相手方との間に法的な争いが避けられない場面であれば「法律事件」にあたり得るということです。
削除代行は非弁行為にあたるのか——裁判例の判断
投稿の削除を求める行為は、「この投稿は名誉毀損にあたる」という権利侵害の主張を根拠として、サイト運営者に削除を求めるものです。運営者が応じるかどうかは権利侵害の有無の評価にかかっており、応じなければ削除の仮処分に進むことになります。つまり、法的紛議が生じる可能性が構造的に組み込まれています。
この点について東京地方裁判所は平成29年2月20日、ネット上の書き込みの削除代行を行った業者について、その業務が弁護士法72条に違反する非弁行為にあたり、依頼者との契約は公序良俗に反して無効であるとしたうえで、代金全額を返還するよう命じました。削除依頼が「法律事務」にあたることを正面から認めた裁判例として、実務上たびたび参照されています。
もっとも、業者が行う一切の行為が違法になるわけではありません。裁判例の考え方を踏まえると、次のような整理になります。
| 行為 | 弁護士法72条との関係 |
|---|---|
| 権利侵害を主張して運営者に削除を求める | 法律事務にあたると判断された裁判例がある |
| 削除に向けた交渉・条件のすり合わせ | 法的紛議を伴うため問題となりやすい |
| 本人名義の申請書類の清書・郵送の事務代行 | 本人の判断を代替しない限り問題となりにくい |
| 検索順位対策・投稿の監視 | 権利主張を伴わない限り法律事務にはあたりにくい |
非弁業者に依頼したときに生じる4つのリスク
1.契約が無効となり、支払った費用が宙に浮く
弁護士法72条に違反する契約は、民法90条の公序良俗違反により無効と判断され得ます。理屈のうえでは支払った費用の返還を求められますが、業者が任意に応じなければ訴訟が必要になります。
2.削除できなかったときに次の手段が使えない
業者には裁判手続の代理権がありません。運営者が任意の削除に応じなかった場合、削除仮処分や発信者情報開示命令の申立てには進めず、そこで手詰まりになります(削除請求と発信者情報開示請求の違い)。
3.投稿者を特定する機会を失う
これが最も見落とされやすいリスクです。削除が先行すると、投稿の内容・URL・投稿日時といった証拠が失われ、後から発信者情報開示請求を行うことが難しくなります。加えて、アクセスプロバイダが保有する通信ログの保存期間には限りがあり、削除交渉に数か月を費やしている間に、投稿者を特定する道が事実上閉ざされてしまうことがあります。手続の全体像は発信者情報開示請求の取扱いページをご覧ください。
4.守秘義務・懲戒制度による担保がない
弁護士には法律上の守秘義務があり、不適切な処理があれば弁護士会の懲戒手続の対象となります。業者にはこうした制度的な担保がありません。
適法な業務との線引き——業者に頼んでよい場面
誤解のないように付け加えると、風評被害対策を行う事業者のすべてが違法というわけではありません。次のような業務は、権利侵害の主張を伴わない限り、弁護士法72条の問題を生じにくいものです。
- 自社に関する書き込みの継続的な監視とレポート作成
- 検索結果や口コミの分析、対応方針に関する情報提供
- 自社サイトやSNSでの発信を強化する広報・SEO施策
- 削除申請フォームの入力方法など、手続に関する一般的な案内
問題となるのは、これらを超えて「権利侵害だから削除せよ」と運営者に迫る段階です。なお、被害者本人が自分で削除を求めること自体は制限されておらず、手順は送信防止措置依頼書の書き方で解説しています。
依頼先を見分けるチェックポイント
広告だけでは違いが分かりにくいため、問い合わせの段階で次の点を確認することをおすすめします。「弁護士監修」との表示があっても、契約の相手方が業者であれば、実質的には業者が法律事務を取り扱っていると評価される余地があります。
| 確認事項 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 契約の相手方 | 契約書の名義が法律事務所か、事業会社か |
| 費用の請求元 | 入金先が法律事務所の口座か、業者の口座か |
| 担当者の資格 | 実際に交渉・申請を行う者が弁護士か |
| 削除できない場合の対応 | 仮処分や開示命令の申立てまで対応できるか |
| 証拠保全の説明 | 削除前に証拠を残す手順の説明があるか |
費用はネット誹謗中傷の弁護士費用相場と当事務所の弁護士費用のページをご参照ください。飲食店・クリニックなど店舗の口コミ被害については、Googleマップ口コミ・低評価の削除の特設ページもご用意しています。
よくある質問
削除代行業者に支払った費用は取り戻せますか?
裁判例では、削除代行契約が弁護士法72条に違反し公序良俗に反して無効であるとして、業者に代金全額の返還を命じたものがあります(東京地裁平成29年2月20日判決)。もっとも、返還が認められるかは契約内容や業者の実際の関与の程度によって異なり、業者に資力がなければ現実の回収が困難な場合もあります。
自分で削除依頼をするのは非弁行為になりますか?
なりません。弁護士法72条が禁止しているのは、報酬を得る目的で他人の法律事務を業として取り扱うことです。被害を受けた本人が自分の権利を主張して削除を求める行為は対象外であり、送信防止措置依頼書を自分で作成して送ることもできます。
逆SEO対策や風評監視を業者に依頼するのは違法ですか?
検索結果の表示順位を下げる施策や投稿の監視・レポート作成それ自体は、権利侵害を主張して相手方に対応を求めるものではないため、直ちに法律事務にあたるとはいえないと考えられます。ただし、業者が権利侵害を主張して削除を求める交渉に踏み込む場合には、弁護士法72条の問題が生じ得ます。
業者に依頼した後で弁護士に依頼し直すことはできますか?
できます。ただし、業者とのやり取りの過程で投稿が削除されてしまうと、発信者情報開示請求に必要な証拠が失われることがあります。また、アクセスログの保存期間には限りがあるため、切り替えるのであれば早い段階で弁護士に相談することが望ましいといえます。
まとめ
誹謗中傷の削除代行は、権利侵害を主張して運営者に削除を求める点で「法律事務」にあたると判断された裁判例があり、非弁行為として契約が無効とされた例もあります。費用が宙に浮くだけでなく、削除できなかったときに次の手段がない、投稿者を特定する機会を失うといった副作用にも注意が必要です。他方で、監視・分析・広報支援は業者の得意分野であり、弁護士と役割を分けて使うことは十分に考えられます。分かれ目は「権利侵害を主張して相手方に対応を迫るかどうか」です。
2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法により、大規模なプラットフォーム事業者には削除申出への対応体制の整備が求められるようになりました。まずは証拠を保全したうえで、削除と発信者情報開示のどちらを先に進めるかを含めて、弁護士とともに方針を立てることをおすすめします。
ネット上の誹謗中傷にお困りの方へ
タングラム法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷について、投稿の削除請求から発信者情報開示請求、投稿者に対する損害賠償請求まで一貫して対応しております。横浜・山下公園の事務所で、理系・ITエンジニア出身の弁護士がご相談をお受けします。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。