不倫で妊娠・中絶した場合の慰謝料|請求できる範囲を弁護士が解説
不倫で妊娠・中絶した場合の慰謝料|請求できる範囲を弁護士が解説
不貞行為の発覚に妊娠という事実が重なると、当事者の受ける衝撃は一段と大きくなります。配偶者の立場からは「中絶までしていたのだから慰謝料は当然高くなるはずだ」と感じられるでしょうし、中絶を選ばざるを得なかった女性の立場からは「身体の負担も費用も自分だけが負ったのに、相手は何もしてくれなかった」という思いが残ることも少なくありません。
不倫による妊娠・中絶が絡む事案では、立場の異なる複数の請求が同時に問題になります。本記事では、①配偶者から不貞をした夫(妻)・不倫相手への慰謝料、②中絶をした女性から相手の男性への損害賠償、③中絶費用の負担という三つの場面を切り分け、裁判例や母体保護法の定めを踏まえて、横浜の弁護士がそれぞれ請求できる範囲と注意点を解説します。
不倫による妊娠・中絶で問題になる三つの慰謝料
「不倫で妊娠して中絶した」という一つの事実からは、誰が誰に何を請求するのかによって性質の異なる請求が生じます。全体像を整理しておきましょう。
| 場面 | 請求する人 | 請求される人 | 法的な性質 |
|---|---|---|---|
| ①不貞慰謝料 | 不貞をされた配偶者 | 不貞をした配偶者・不倫相手 | 婚姻共同生活の平和を侵害したことによる不法行為(民法709条・710条) |
| ②中絶に関する損害賠償 | 中絶をした女性 | 相手の男性 | 共同で行った性行為から生じた不利益を分担すべき義務に違反したことによる不法行為 |
| ③中絶費用の分担 | 中絶をした女性 | 相手の男性 | ②の損害の一部(治療費等の実費) |
①は「家庭を壊されたこと」に対する請求、②③は「妊娠と中絶という身体的・精神的・経済的な負担を一人で負わされたこと」に対する請求です。請求権者も守られている利益も異なるため、同じ出来事から双方の請求が並行して生じることもあります。
配偶者からの不貞慰謝料|妊娠・中絶は増額事由になるのか
不貞行為に対する慰謝料額は、裁判実務では概ね数十万円から300万円程度に収まることが多いとされますが、これは目安であり個別事情で上下します。そのうえで、不倫相手が妊娠したという事実は、慰謝料を高める方向に働く事情として評価されるのが一般的です。妊娠は肉体関係が現実に継続していたことを強く推認させて不貞の悪質性を裏づけますし、具体的な結果が生じたことで配偶者の精神的衝撃も大きくなったと評価されやすいためです。慰謝料額を左右する事情の全体像は、不貞慰謝料の増額事由をまとめた記事もあわせてご覧ください。
「中絶させたこと」そのものを理由に請求できるか
配偶者の立場から「胎児の生命を奪ったこと」を理由に慰謝料を請求したい、というご相談を受けることがあります。しかし、不貞慰謝料で保護されているのは配偶者としての婚姻共同生活の平和という利益であり、胎児それ自体は請求の根拠になりません。中絶の事実は、不貞の悪質性や精神的苦痛の大きさを基礎づける事情として主張することになります。なお、中絶ではなく出産に至った場合は、嫡出推定・嫡出否認、認知、養育費の問題が同時に生じます。その対応は不倫で子どもができた場合の慰謝料・認知・養育費に関する記事をご覧ください。
中絶をした女性から男性への損害賠償|東京高裁平成21年判決
次に、中絶をした女性の側から相手の男性に対する請求です。従来は、中絶を選択するのは女性自身の意思であることを理由に、男性への損害賠償は認められにくいと考えられてきました。この見方を変えたのが、東京地方裁判所平成21年5月27日判決と、その控訴審である東京高等裁判所平成21年10月15日判決です。
高裁判決は、性行為は男女が共同して行った行為であり、その結果として妊娠・中絶に至った場合、身体的・精神的苦痛と経済的負担は「男女が等しく分担すべき筋合いのもの」であると述べ、女性は相手の男性から不利益を軽減・解消するための行為の提供を受ける法律上保護される利益を有するとして、男性がこれを怠ることは違法な権利侵害にあたると判断しました。
この事案で男性に義務違反が認められた事情は、具体的な話し合いをしようともせず、産むか中絶するかの選択を女性に委ねるのみであった点にあります。同意書に署名するといった受動的な対応にとどまっていたことも、義務の履行として不十分と評価されています。
認められた損害の内訳
- 慰謝料:200万円(中絶手術後に心身症の胃炎・不眠症・重篤なうつ状態を発症したことを含む精神的・身体的苦痛に対するもの)
- 治療費等:合計68万4604円
- 男性が賠償すべき額:上記合計の2分の1にあたる134万2302円
- 弁護士費用:10万円
注目すべきは、損害の全額ではなく2分の1が賠償額とされた点です。高裁判決は、賠償義務の発生原因と性質からすれば、賠償の範囲は生じた損害の2分の1とすべきであるとしています。中絶に至る不利益は本来男女が等しく分担すべきものだ、という考え方が金額にも反映されているわけです。
中絶費用の分担と合意書
中絶手術の費用は原則として公的医療保険の対象外であり、実費の負担が生じます。「男性が全額払うべきか、折半か」はしばしば争いになりますが、上記の考え方に照らせば、治療費等の実費も損害の一部として、原則2分の1の分担が一つの基準になります。実務上も話し合いで折半とする例が多くみられます。
もっとも、これは裁判になった場合の枠組みです。実際には、負担する金額と支払期限・支払方法、通院交通費や休業損害を含めるかどうか、清算条項や接触禁止・口外禁止を置くかどうかを明確にした合意書を作成しておくことが、後の紛争を防ぐうえで重要です。とくに清算条項は、後から慰謝料を追加請求できるかどうかを左右します。
中絶の同意|法律上「配偶者」に不倫相手は含まれない
人工妊娠中絶の要件は母体保護法に定められています。同法14条1項は、指定医師は一定の要件に該当する者に対して「本人及び配偶者の同意」を得て人工妊娠中絶を行うことができる、と規定しています。
ここでいう「配偶者」には、同法3条1項の括弧書きにより、届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者が含まれます。逆にいえば、単なる交際相手はこれにあたりません。したがって、女性が独身である場合、相手の男性が既婚者であっても、その男性の同意は法律上の要件ではありません。また、同条2項は、配偶者が知れないとき、その意思を表示することができないとき、または妊娠後に配偶者が亡くなったときは、本人の同意だけで足りると定めています。
この点は「相手の男性が同意しないから中絶できない」「同意書に署名したのだから責任は果たした」といった誤解が生じやすいところです。前掲の東京高裁判決も、同意書への署名という受動的な対応で義務を果たしたとはいえないと述べています。
妊娠・中絶が絡む事案で見落としやすい論点
1.請求される側が「既婚者と知らなかった」場合
女性が相手を独身だと信じており、そのように偽られていた場合には、貞操権の侵害を理由として、女性の側から男性に慰謝料を請求できる可能性があります。配偶者からの不貞慰謝料請求に対しては故意・過失を争いつつ、男性に対しては逆に請求を立てるという構図になり得ます。詳しくは貞操権侵害と独身と偽られた場合の慰謝料に関する記事をご覧ください。慰謝料を請求されている側の対応は、不倫慰謝料を請求された方向けの特設ページでも取り扱っています。
2.求償権と時効の管理
配偶者が不倫相手だけに慰謝料を支払わせた場合、不倫相手は不貞をした配偶者に対し、負担部分に応じた求償を求めることができます。示談の際に求償権を放棄する条項を置くかどうかで、実質的な負担額が大きく変わります。また、不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で消滅時効にかかります(民法724条)。時効が迫っている場合の対応は不貞慰謝料の時効を止める方法に関する記事をご覧ください。
3.証拠の確保
妊娠・中絶の事実は、それ自体が肉体関係を推認させる有力な証拠になり得ます。他方で、診療に関する情報は秘匿性が高く、無断で医療機関に照会しても回答は得られません。実務上は、当事者間のやり取りや費用の授受の記録といった間接的な資料を積み重ねて立証することになります。証拠の集め方や請求の組み立てについては、不貞慰謝料請求・減額交渉の取扱いページもご参照ください。
よくある質問
配偶者の不倫相手が妊娠・中絶した場合、慰謝料は増額されますか?
妊娠に至ったという事実は、不貞行為が継続的・現実的なものであったことを示す事情として、慰謝料額を高める方向に働くことが多いと考えられます。もっとも、増額の幅は婚姻期間や不貞の態様など他の事情と併せて総合的に判断されるため、妊娠・中絶があれば必ず一定額が上乗せされるという性質のものではありません。
中絶費用は男性が全額負担しなければなりませんか?
当然に全額を負担すべきものとされているわけではありません。東京地方裁判所平成21年5月27日判決とその控訴審である東京高等裁判所平成21年10月15日判決は、妊娠・中絶に伴う不利益は男女が共同して行った性行為に由来するとして、生じた損害の2分の1を男性が負担すべきものと判断しました。
既婚者と知らずに交際して妊娠・中絶した場合、相手の男性に慰謝料を請求できますか?
独身であると偽られていたなど、相手方に違法と評価できる行為があれば、貞操権の侵害を理由とする慰謝料請求が認められる可能性があります。加えて、中絶に至る過程で男性が話し合いに応じず負担を分担しなかった場合には、その点を理由とする損害賠償を求める余地もあります。
不倫相手の女性が中絶するとき、既婚男性の同意は必要ですか?
母体保護法14条1項が同意を求めているのは「本人及び配偶者」です。ここでいう配偶者には、届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者は含まれますが、単なる交際相手はこれにあたりません。したがって、婚姻していない相手の男性の同意は法律上必要とされていません。
まとめ
不倫による妊娠・中絶が生じた事案では、配偶者から不貞をした配偶者・不倫相手への不貞慰謝料と、中絶をした女性から相手の男性への損害賠償という、性質の異なる請求が同時に問題となります。前者では妊娠・中絶が慰謝料を高める方向に働きやすく、後者では、東京高等裁判所平成21年10月15日判決の示した「不利益を等しく分担すべき」という枠組みのもと、生じた損害の2分の1が賠償の目安とされました。中絶の同意について母体保護法が定める「配偶者」に単なる交際相手が含まれない点も、誤解されやすいところです。
妊娠・中絶が絡む事案は感情の対立が強く、証拠の取り扱いにも配慮を要します。どの請求をどの順序で立てるか、示談書にどのような条項を置くかによって最終的な負担額は大きく変わります。横浜のタングラム法律事務所では、請求する側・請求された側の双方について、不貞慰謝料に関するご相談に対応しています。
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タングラム法律事務所では、不貞慰謝料の請求・対応について豊富な実績を有しております。慰謝料額の見通しから、中絶費用の分担、示談書の条項の設計まで、横浜の弁護士がサポートいたします。
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