遺留分侵害額請求が認められても払ってもらえない?強制執行・財産開示手続きを弁護士が解説
遺留分侵害額請求が認められても払ってもらえない?強制執行・財産開示手続きを弁護士が解説
遺留分侵害額請求の調停が成立した、あるいは訴訟で勝訴判決を得たにもかかわらず、相手が約束の期日になっても支払ってこない——そのような状況に置かれている方は少なくありません。「これでようやく解決した」と思った矢先に支払いが滞ると、次に何をすればよいのか分からず、不安と苛立ちだけが募ってしまいます。
実は、調停や判決によって権利が認められたことと、実際にお金を受け取れることの間には、もう一段階の手続きが必要になる場合があります。それが「強制執行」です。本記事では、遺留分侵害額請求の相手が任意に支払わない場合に、どのような手順で財産を特定し、強制的に回収へとつなげていくのかを、財産開示手続や第三者からの情報取得手続といった具体的な制度とあわせて解説します。
調停・判決が出ても支払われないケースは珍しくない
遺留分侵害額請求は、調停で合意が成立するか、訴訟で判決が確定することで権利の存在と金額が公的に確定します。しかし、これらはあくまで「支払うべき義務がある」ことを確認したものにすぎず、相手が自発的に振り込みや現金の交付をしなければ、お金は手元に届きません。特に、相手方の受遺者・受贈者がすでに遺産である不動産や預貯金を使い切ってしまっている場合や、支払いを不服に思い意図的に無視している場合には、任意の履行が期待できないことがあります。このような場合に備えて用意されているのが、裁判所の力を借りて強制的に権利を実現する「強制執行」の制度です。
強制執行の前提となる「債務名義」とは
強制執行を行うためには、まず「債務名義」と呼ばれる公的な文書が必要です。遺留分侵害額請求の場面では、調停が成立した際に作成される調停調書、訴訟の確定判決、裁判上の和解調書などがこれにあたります(民事執行法22条)。逆にいえば、当事者間で口頭や合意書のみで支払いを約束しただけでは、直ちに強制執行はできません。将来的な強制執行の可能性も見据えて、遺留分侵害額請求を進める段階から、調停や訴訟という公的な手続きを選択しておくことには大きな意味があります。債務名義を取得したら、裁判所に対して強制執行の申立てを行い、差し押さえる財産を特定していく流れになります。
相手の財産が分からないときの「財産開示手続」
強制執行を申し立てるには、差し押さえる相手の財産(預貯金口座や不動産など)をこちらで特定しなければなりません。しかし、相手がどの銀行に口座を持っているか、どのような資産を保有しているかを債権者側が把握していないケースは多くあります。そこで活用できるのが「財産開示手続」です(民事執行法197条)。これは、債務名義を有する債権者の申立てにより、裁判所が相手方(債務者)を呼び出し、自身の財産状況について陳述させる制度です。2020年施行の民事執行法改正により罰則が強化され、正当な理由なく出頭しない場合や虚偽の陳述をした場合には、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰の対象となり得ます(民事執行法213条1項5号・6号)。以前と比べて相手方に出頭や誠実な陳述を促す実効性が高まったといえます。
「第三者からの情報取得手続」で財産を特定する
財産開示手続と並んで有効なのが「第三者からの情報取得手続」です。これは、金融機関や登記所、市区町村などの第三者に対して、裁判所を通じて債務者の財産に関する情報の提供を求める制度で、主に次の3種類があります。①預貯金債権や上場株式等に関する情報(民事執行法207条)、②不動産に関する情報(同法205条)、③給与(勤務先)に関する情報(同法206条)です。このうち預貯金等に関する情報取得手続は、財産開示手続を経ていなくても申し立てることができますが、不動産や給与に関する情報取得手続については、原則として先に財産開示手続を行っていることが要件とされる傾向があります。これらの制度を組み合わせることで、相手が財産を隠していても、金融機関や法務局を通じて実際の資産状況を把握できる可能性が広がります。両手続の違いを簡単に整理すると、次のようになります。
| 項目 | 財産開示手続 | 第三者からの情報取得手続 |
|---|---|---|
| 情報の取得元 | 債務者本人(裁判所に出頭させて陳述) | 金融機関・登記所・市区町村等の第三者 |
| 対象となる財産 | 債務者が保有する財産全般 | 預貯金・上場株式等/不動産/給与(勤務先) |
| 先行手続の要否 | 不要 | 不動産・給与情報は原則として財産開示手続の先行が要件とされる傾向 |
| 相手の協力 | 本人の出頭・陳述が前提 | 不要(第三者が直接回答) |
特に預貯金等の情報取得手続は財産開示手続を経ずに申し立てられるため、相手の口座を持つ金融機関にある程度心当たりがある場合には、比較的早い段階から着手できる点がメリットといえます。
実際の強制執行の方法と差し押さえの範囲
財産の所在が判明したら、いよいよ強制執行の申立てに進みます。相手が不動産を保有していれば不動産執行(競売)、預貯金があれば債権差押えという方法で回収を図ります。給与を差し押さえる場合には、生活の維持に配慮する趣旨から、原則として手取り額の4分の1に相当する部分までしか差し押さえられない点に注意が必要です(民事執行法152条1項2号)。養育費のように優先的な差押えが認められる債権とは異なり、遺留分侵害額請求権にはこうした特別な優遇は設けられていないため、給与のみを原資とする場合は回収に時間がかかる傾向があります。複数の財産が判明した場合には、回収の実効性が高い財産から優先的に手続きを進めるなど、状況に応じた戦略的な判断が求められます。
相手が無資力の場合や「期限の許与」が絡む場合の注意点
強制執行の手続きを整えても、相手に見るべき資産がまったくない「無資力」の状態であれば、事実上回収が困難になってしまう場合があります。また、遺留分侵害額請求の場面では、支払う側の資力状況などを考慮して、裁判所が相当の期限を許与できる制度も設けられています(民法1047条5項)。これにより分割払いや支払期日の猶予が認められている場合には、その期限が到来するまでは強制執行に着手できないことがあります。相手の資力状況や、調停・訴訟の中でどのような条件が定められたかによって、その後に取り得る手段は大きく変わってくるため、個別の記録を丁寧に確認しながら方針を立てる必要があります。
まとめ|権利の実現まで見据えたサポートを
遺留分侵害額請求は、調停の成立や判決の確定がゴールではなく、実際に金銭を受け取ってはじめて意味を持ちます。相手が支払いに応じない場合には、財産開示手続や第三者からの情報取得手続を通じて財産を特定し、強制執行へとつなげていく専門的な対応が必要になります。これらの手続きは書類の準備や裁判所とのやり取りが複雑であり、個人で進めるには相応の負担が伴います。横浜の弁護士に相談することで、財産調査の段階から強制執行の実行まで一貫したサポートを受けられ、回収可能性を見極めた現実的な方針を検討しやすくなります。お一人で抱え込まず、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
遺留分侵害額請求の支払いが滞っている方へ
タングラム法律事務所では、遺留分侵害額請求の交渉から調停・訴訟、そして強制執行による回収まで、豊富な実績を有しております。相手が支払いに応じずお困りの方は、お早めにご相談ください。
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