強制執行を自分で申し立てる方法|差押えの流れ・費用を弁護士が解説
強制執行を自分で申し立てる方法|差押えの流れ・費用を弁護士が解説
裁判で勝訴判決を得た、あるいは支払督促や少額訴訟で「支払え」という結論が出た——それなのに、相手が一向にお金を払ってくれない。中小企業や個人経営の事業者の方から、そうしたご相談をよく伺います。判決などの書面は、それ自体が現金に変わるわけではありません。相手が任意に支払わないときに、国の力を借りて相手の財産から強制的に回収する手続が「強制執行」です。なかでも、相手の預貯金や売掛金といった債権を差し押さえる「債権差押え」は、事業者の債権回収で最もよく使われる方法です。
強制執行は弁護士に依頼せず、本人(法人の場合は代表者など)が自分で申し立てることもできます。この記事では、債権回収を考える事業者の方に向けて、強制執行とは何か、どんな財産を差し押さえられるのか、自分で債権差押命令を申し立てる場合の申立先・費用・必要書類、申立てから取立てまでの流れ、そして相手の財産がわからないときに使える制度までを、横浜の弁護士がわかりやすく解説します。
強制執行(債権差押え)とは?まず「債務名義」が必要
強制執行とは、裁判所などの公的機関の力によって、債務者の財産から強制的に債権を回収する手続です。差押えの対象となる財産によって、大きく「不動産執行」「動産執行」「債権執行」に分かれます。事業者の売掛金・貸金回収では、相手の預金口座や、相手が第三者に対して持っている売掛金などを差し押さえる「債権執行(債権差押え)」が中心になります。
強制執行を申し立てるには、その前提として「債務名義」が必要です。債務名義とは、請求権の存在と内容を公的に証明する文書で、これがなければ強制執行はできません。代表的な債務名義には、次のようなものがあります。
- 確定した判決、仮執行宣言の付いた判決
- 仮執行宣言の付いた支払督促
- 少額訴訟の確定判決、仮執行宣言の付いた少額訴訟の判決
- 裁判上の和解調書、調停調書
- 金銭の支払を目的とし、「強制執行に服する」旨の陳述(執行認諾文言)が記載された公正証書(執行証書)
つまり、まだ判決なども何もない段階では、いきなり強制執行はできません。まずは訴訟・支払督促・少額訴訟・調停などで債務名義を取得することが出発点になります。相手が金額を争っていないケースでは支払督促や少額訴訟で比較的早く債務名義を得られることもあります。すでに債務名義がある方は、この記事で解説する差押えの段階に進むことになります。
どんな債権を差し押さえられる?預貯金・売掛金・給与
債権差押えでは、債務者が第三者(これを「第三債務者」といいます)に対して持っている金銭債権を差し押さえます。事業者の債権回収でよく使われるのは、次のような債権です。
| 差し押さえる債権 | 第三債務者 | 特徴 |
|---|---|---|
| 預貯金債権 | 銀行・信用金庫など | 差押禁止がなく回収しやすいが、残高がないと空振りになる |
| 売掛金・請負代金債権 | 債務者の取引先 | 相手の取引先を把握している必要がある |
| 給与・報酬債権 | 債務者の勤務先 | 差押禁止の範囲があり、原則として手取りの4分の1までなどの制限がある |
注意したいのが「差押禁止債権」です。民事執行法第152条は、生活の維持に必要な部分を保護するため、給料・賃金・退職金などについては、原則として手取り額の4分の1を超えて差し押さえることができないと定めています(手取りが一定額を超える場合の扱いなど、細かなルールがあります)。一方、預貯金債権にはこうした差押禁止の定めがないため、口座に残高さえあれば全額を差押えの対象にできます。どの債権を差し押さえるかは、回収の確実性を左右する重要な判断です。
強制執行を自分で申し立てるメリット・デメリット
債権差押命令の申立ては、本人でも行えるように書式や記載例が用意されています。もっとも、手続には正確さが求められます。自分で行う場合の主なメリットとデメリットを整理します。
自分で申し立てるメリット
- 弁護士費用をかけずに手続を始められる
- 申立書の書式・記載例が裁判所ウェブサイトや裁判所の窓口で入手できる
- 申立手数料自体は1件4000円と比較的低額である
自分で申し立てるデメリット・注意点
- 差し押さえる債権(どの銀行のどの支店の預金か等)を自分で特定しなければならず、相手の財産情報が必要になる
- 債務名義の正本・送達証明書・資格証明書など、そろえるべき添付書類が多い
- 目録の記載に不備があると命令が出ず、補正を求められることがある
- 差し押さえた口座に残高がない、売掛金がすでに支払済みだったなど、「空振り」に終わるリスクがある
申立先・費用・必要書類
申立先の裁判所
債権差押命令の申立先は、原則として債務者(相手方)の住所地(法人の場合は主たる事務所の所在地)を管轄する地方裁判所です。動産執行や不動産執行とは管轄が異なる点に注意が必要です。正確な管轄は、裁判所ウェブサイトの案内や、申立てを予定する裁判所の窓口で確認できます。
費用の目安
裁判所に納める費用は、次のとおりです。申立手数料は債権執行1件につき収入印紙4000円です(差し押さえる債権や当事者が複数になると増える場合があります)。あわせて、当事者や第三債務者への書類送達に使う郵便切手(予納郵券)を納めます。予納郵券の額は、当事者・第三債務者の人数や後述する陳述催告の有無によって変わり、裁判所ごとに定められているため、申立先の裁判所で確認してください。
| 費目 | 内容の目安 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 債権執行1件につき4000円 |
| 予納郵券(郵便切手) | 当事者・第三債務者の人数や陳述催告の有無で変動。申立先の裁判所で確認 |
| 債務名義正本・送達証明書等の取得費用 | 裁判所や公証役場で交付を受ける実費 |
主な必要書類
- 債権差押命令申立書(表紙、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録)
- 債務名義の正本(判決正本、和解調書正本、執行証書の正本など)
- 債務名義が債務者に送達されたことを証明する「送達証明書」
- 執行文(債務名義の種類によっては不要な場合があります。たとえば少額訴訟の確定判決や仮執行宣言付支払督促は、執行文の付与を受けずに執行できるとされています)
- 当事者が法人の場合の資格証明書(代表者事項証明書など)。第三債務者が法人であればその資格証明書も必要になることがあります
申立てから取立てまでの流れ
債権差押命令の申立てから実際にお金を回収するまでの流れは、おおむね次のとおりです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ①申立て | 債務者の住所地を管轄する地方裁判所へ、申立書と添付書類を提出し、手数料・郵券を納める |
| ②差押命令の発令・送達 | 裁判所が差押命令を発し、第三債務者と債務者に送達する |
| ③陳述催告への回答 | 申立時に求めておけば、第三債務者が差押えの対象債権の有無・金額などを裁判所へ回答する |
| ④取立て | 債務者への送達日から所定の期間経過後、債権者が第三債務者から直接取り立てる |
陳述催告(民事執行法147条)で相手の債権を確認する
差押えの対象とした預金や売掛金が、実際にいくら存在するのかは、申し立てた時点では確実にはわかりません。そこで、申立ての際に「第三債務者に対する陳述催告の申立て」をあわせて行っておくと、裁判所書記官から第三債務者に対して、差押えにかかる債権が存在するか、金額はいくらか、支払う意思があるかなどを回答するよう催告してもらえます。民事執行法第147条は、催告を受けた第三債務者に回答の義務を課し、故意・過失により回答しなかったり、事実と異なる回答をしたりした場合には、これによって生じた損害の賠償責任を負うと定めています。差押えが空振りかどうかを早い段階で把握するためにも、陳述催告はあわせて申し立てておくのが一般的です。
取立てができる時期(民事執行法155条)
差押命令が出て第三債務者・債務者に送達されると、債権者は一定期間の経過後に、第三債務者から直接取り立てることができます。民事執行法第155条第1項は、金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に差押命令が送達された日から原則として1週間を経過したときに、その債権を取り立てることができると定めています。銀行預金を差し押さえた場合であれば、この期間の経過後に、債権者が銀行に取立てを求めて支払を受けるという流れになります。なお、給料などの一部については、取立てができる時期が原則として4週間の経過後とされるなど、債権の種類によって扱いが異なります。
相手の財産がわからないとき——財産開示手続・第三者からの情報取得手続
差押えの最大の壁は、「相手にどんな財産があるのか」を把握できないことです。差押えは、原則として差し押さえる債権を特定して申し立てる必要があるため、相手の取引銀行や勤務先がわからないと手続が進みません。この点を補うために、2020年4月1日に施行された改正民事執行法で、財産を調べるための手続が強化されました。
財産開示手続の強化(罰則の強化・対象の拡大)
財産開示手続は、債務者本人を裁判所に呼び出し、自分の財産について陳述させる手続です。従来は実効性が乏しいと指摘されていましたが、2020年施行の改正で次の2点が大きく変わりました。第一に、正当な理由なく出頭しなかったり、虚偽の陳述をしたりした場合の制裁が、それまでの過料(行政罰)から、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰に強化されました。第二に、財産開示手続を利用できる債務名義の範囲が広がり、従来は対象外とされていた仮執行宣言付支払督促や、金銭の支払を目的とする執行証書(公正証書)などによっても申し立てられるようになりました。
第三者からの情報取得手続
あわせて、債務者以外の第三者から財産情報を取得する「第三者からの情報取得手続」が新設されました。裁判所を通じて、次のような情報を得られる場合があります。
- 金融機関から、預貯金債権や上場株式などに関する情報
- 登記所(法務局)から、債務者名義の土地・建物に関する情報
- 市町村・日本年金機構などから、給与債権(勤務先)に関する情報
ただし、勤務先に関する情報の取得は、養育費など扶養義務等に係る請求権を持つ債権者と、生命・身体の侵害による損害賠償請求権を持つ債権者に限られています。売掛金など通常の商取引債権では、この給与情報の取得は利用できない点に注意が必要です。それでも、預貯金や不動産の情報取得は事業者の債権回収でも活用でき、これらの制度を差押えと組み合わせることで、回収の実効性を高められる可能性があります。
自分で行う場合の限界と弁護士に依頼するメリット
債権差押命令の申立ては本人でも可能ですが、実務上のハードルは決して低くありません。差し押さえる債権の特定、目録の正確な記載、債務名義や送達証明書などの書類の取りそろえ、執行文の要否の判断など、一つでも不備があると命令が出ず、補正のやり取りで時間を要することがあります。さらに、せっかく差し押さえても口座に残高がない、売掛金がすでに支払済みだった、といった空振りのリスクもあります。相手の財産状況の見極めや、どの財産を差し押さえるべきかの判断が、回収の結果を大きく左右します。
弁護士に依頼すれば、債務名義の取得から差押えの対象財産の選定、財産開示手続・情報取得手続の活用、申立書類の作成、取立てまでを一貫して進めることができます。まずは自分で申し立ててみて、空振りが続く場合や相手の財産が把握できない場合に弁護士へ相談するという進め方も可能です。企業法務の全体像や当事務所の取扱いについては企業法務のページもご覧ください。横浜のタングラム法律事務所でも、中小企業・個人事業者の債権回収について、手続の選択の段階からご相談をお受けしています。
よくある質問(FAQ)
強制執行は弁護士に依頼せず自分で申し立てられますか?
債権差押命令の申立ては本人でも可能で、裁判所ウェブサイトに書式や記載例が公開されています。ただし、債務名義や送達証明書などの添付書類をそろえ、差し押さえる債権を正確に特定する必要があり、書類に不備があると命令が出ないことがあります。相手の財産が不明な場合や事案が複雑な場合は、弁護士に依頼することで手続を円滑に進められる可能性があります。
強制執行を申し立てるにはいくらかかりますか?
債権差押命令の申立手数料は、1件につき収入印紙4000円です。このほか、当事者や第三債務者への送達に使う郵便切手(予納郵券)を納める必要があり、金額は当事者の人数や陳述催告の有無によって変わるため、申立先の裁判所で確認します。債務名義の正本や送達証明書、資格証明書などの取得実費も別途かかります。
差し押さえたお金はいつ受け取れますか?
民事執行法第155条第1項により、金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に差押命令が送達された日から原則として1週間を経過すれば、第三債務者(銀行や取引先など)から直接取り立てることができます。ただし給料などの差押えでは取立てができる時期が原則4週間経過後とされるなど、債権の種類によって扱いが異なります。
相手の預金口座や勤務先がわからなくても差押えはできますか?
差押えには、原則として差し押さえる債権(どの銀行の預金か等)を特定する必要があります。相手の財産が不明な場合は、2020年4月施行の改正民事執行法で拡充された財産開示手続や、第三者からの情報取得手続を利用して、預貯金・不動産・勤務先などの情報を得られる場合があります。ただし勤務先情報の取得は、養育費等の債権者や生命・身体の侵害による損害賠償請求権を持つ債権者に限られます。
まとめ
強制執行(債権差押え)は、判決や支払督促などの債務名義があるのに相手が支払わないとき、預貯金・売掛金などを差し押さえて回収する手続です。申立先は債務者の住所地を管轄する地方裁判所、申立手数料は1件4000円と、手続自体は本人でも申し立てられるように整えられています。申立時に陳述催告をあわせて行い、差押命令が債務者へ送達された日から原則1週間の経過後に取り立てるのが基本の流れです。相手の財産がわからない場合には、2020年に強化された財産開示手続や第三者からの情報取得手続の活用も検討できます。
もっとも、差押えは対象財産の特定と正確な書類作成が要となり、空振りのリスクもつきまといます。「どの財産を差し押さえればよいか判断がつかない」「相手の財産が把握できない」「そもそも債務名義をどう取ればよいかわからない」といった場合には、早めに弁護士へ相談することで、回収までの遠回りを避けられることがあります。横浜のタングラム法律事務所では、中小企業・個人事業者の債権回収について、債務名義の取得から差押え・回収までを一貫してサポートしています。
売掛金の回収・強制執行のご相談はタングラム法律事務所へ
タングラム法律事務所では、企業法務(債権回収・契約トラブル・労務等)について、中小企業・個人経営の事業者向けに豊富な実績を有しております。債務名義の取得から差押え・財産調査・取立てまで、横浜の弁護士がサポートいたします。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。具体的な案件については弁護士にご相談ください。