海外赴任・海外在住中にトレントの意見照会書が届いたら|回答と送達
海外赴任・海外在住中にトレントの意見照会書が届いたら|回答と送達
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月2日 最終更新日:2026年10月2日
海外赴任や留学で日本を離れている間に、日本の自宅に残る家族から「プロバイダから『発信者情報開示に係る意見照会書』が届いている」と連絡を受けた——BitTorrent(トレント)を理由とする意見照会書は、回線の契約住所あてに郵送されるため、受け取る本人が海外にいるという事態は珍しくありません。また、近く帰国・出国の予定がある方から「日本を離れれば、もう関係ないのではないか」というご質問を受けることもあります。
この記事では、海外にいる方(海外赴任中・海外在住・出国予定の方)に意見照会書が届いた場合に、何が起きるのか、どのように回答すればよいのか、開示後に損害賠償請求や訴訟になった場合に海外にいることがどう影響するのかを、民事訴訟法の送達・管轄の規定に沿って、横浜の弁護士の立場から整理します。
結論から述べると、海外にいても意見照会の手続は止まらず、回答しなければ反論の機会を失うだけになります。開示後の損害賠償請求についても、日本の裁判所で訴えを起こされる可能性があり、外国への送達や公示送達という方法も法律に用意されているため、「海外にいれば請求されない」とは考えないほうが安全です。
意見照会書は「契約住所」に届く——海外にいても手続は止まらない
権利者からの発信者情報開示請求(または裁判所での開示命令の申立て)を受けたプロバイダは、情報流通プラットフォーム対処法6条1項により、「発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き」、開示に応じるかどうかについて発信者の意見を聴かなければなりません。これが意見照会書です。
プロバイダが把握している連絡先は、通常は回線の契約住所です。そのため、契約者本人が海外にいても、照会書は日本の住所に届きます。注意したいのは、条文が「連絡することができない場合」を意見聴取の例外としている点です。照会書が届いたのに誰も対応しなければ、プロバイダは発信者の意見を聴けないまま判断を進めることになり、結果として、開示に反対する理由を述べる機会を失うことになります。
回線をすでに解約していても、プロバイダには契約時の情報が残っていることが通常であり、解約したことだけで手続が止まるわけではありません。
海外から回答するときの実務上の注意
意見照会書の回答期限は、照会書の到着から2週間程度とされていることが多く、海外にいる方にとっては時間的な余裕がほとんどありません。次の点に注意してください。
- まず照会書の内容を正確に把握する:日本にいる家族に開封してもらう場合は、照会書本体だけでなく、権利者側の添付資料(作品名、発信日時、IPアドレス等)も含めて、スキャンや写真で全ページを送ってもらいます
- 郵送にかかる日数を見込む:国際郵便では期限に間に合わないおそれがあります。回答の方法(郵送先、郵送以外の方法を受け付けているか等)は照会書の記載やプロバイダの案内で確認し、不明な点はプロバイダに問い合わせてください。回答方法の運用はプロバイダごとに異なります
- 期限に間に合わない場合は早めに連絡する:期限前に事情を伝えることで対応が得られる場合もありますが、延長が認められるとは限りません。期限を過ぎてしまった場合の考え方は、トレント意見照会書の回答期限に間に合わないときで解説しています
- 記載された日時に自分が日本にいたかを確認する:照会書に記載された発信日時に、すでに出国していた場合や、日本の回線を自分以外の家族等が使っていた場合には、その事実は発信者性を検討するうえで重要な事情になり得ます。パスポートの出入国記録や航空券の記録など、客観的な資料を確保しておきましょう
なお、家族に照会書の開封や転送を頼む場合、照会の内容(作品の種類等)が家族に知られることになります。回答書の作成を含む意見照会段階の対応については、当事務所の意見照会対応のページでもご案内しています。
開示後の損害賠償請求——海外にいても届くのか
開示が認められると、権利者側には契約者の氏名・住所等が伝わります。その後、権利者の代理人から損害賠償請求の通知書が送られてくるのが一般的ですが、送付先は開示された住所、つまり日本の契約住所です。海外にいる間に通知書が届き、気づかないまま回答期限が過ぎてしまうこともあります。
通知書に回答しないまま放置すると、権利者が訴訟などの法的手続に進む判断をしやすくなります。日本の家族と連絡を取り合い、郵便物を確認してもらえる体制を整えておくことが大切です。
海外在住者を相手とする訴訟——日本の裁判所で裁判ができるのか
「海外に住んでいれば、日本で訴えられることはない」と考える方もいますが、そうとは限りません。民事訴訟法は、日本の裁判所が国際的な事件を扱える場合(国際裁判管轄)を定めています。
| 規定 | 内容 | 海外在住者への影響 |
|---|---|---|
| 民事訴訟法3条の2第1項 | 被告の住所が日本国内にあるとき等に、日本の裁判所が管轄権を有する | 海外赴任中でも、日本に住所があると評価される場合には、この規定により日本で訴えられ得る |
| 民事訴訟法3条の3第8号 | 不法行為に関する訴えは、不法行為があった地が日本国内にあるときに管轄権が認められる | 日本の回線を通じた共有が問題とされている場合、現在海外に住んでいても、日本の裁判所で訴えられる可能性がある |
また、国内のどの裁判所に訴えるかについても、民事訴訟法4条2項は、日本国内に住所がないときは居所により、居所もないときは最後の住所により普通裁判籍が定まるとしています。海外に住所を移していても、日本国内で訴訟を起こす道は閉ざされていません。
外国への送達と公示送達——知らないうちに判決が出るおそれ
訴訟を起こすには、訴状を被告に送達する必要があります。被告が海外にいる場合の送達について、民事訴訟法は次のような仕組みを設けています。
- 外国における送達(108条):外国においてすべき書類の送達は、裁判長がその国の管轄官庁又はその国に駐在する日本の大使、公使若しくは領事に嘱託して行います。国内の送達に比べて時間がかかりますが、海外にいる被告にも訴状は届き得ます
- 公示送達(110条1項):住所・居所その他送達をすべき場所が知れない場合(1号)、外国での送達が108条によることができない、またはこれによっても送達できないと認めるべき場合(3号)、108条の嘱託を発した後6か月を経過しても送達を証する書面の送付がない場合(4号)には、公示送達をすることができます
- 公示送達の効力(112条):公示送達は原則として2週間の経過で効力を生じ、外国においてすべき送達についてした公示送達では、この期間は6週間とされています
公示送達がされると、被告が実際に訴状を読んでいなくても送達があったものとして手続が進みます。被告が反論しないまま、権利者側の主張に沿った判決が出るおそれがあるということです。判決が出れば、日本国内にある預金などの財産が強制執行の対象となり得ます。
一方、支払督促については、民事訴訟法382条ただし書が「日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る」と定めているため、海外にいる方に対しては利用できない場面があります。訴訟・支払督促を受けた場合の対応は、トレントで訴訟・支払督促を受けたらをご参照ください。
帰国・出国の予定がある場合に考えておきたいこと
近く日本を離れる予定がある方(海外赴任の決まった方、留学予定の方、母国へ帰国予定の外国籍の方など)にとっても、意見照会書を放置することにメリットはありません。理由は次のとおりです。
- 上で見たとおり、出国後も日本の裁判所で手続が進み得ること
- 知らないうちに判決が確定すると、将来日本に戻った際や、日本に残した財産について問題が顕在化し得ること
- 意見照会の段階は、発信者が開示に反対する理由を述べられる事実上の機会であり、これを逃すと、後から争える範囲が狭まりがちであること
日本を離れる前に、照会書への回答方針を決め、連絡先(メールアドレス等)を整えておくことが、結果として負担を小さくすることにつながります。弁護士に依頼すれば、回答書の作成や、その後の権利者側との連絡窓口を任せることができ、海外にいても手続に対応しやすくなります。意見照会書が届いてからの対応の流れや弁護士費用は、BitTorrent著作権侵害の意見照会書が届いた方向けの特設ページにまとめています。なお、権利者が外国法人である場合の論点は、意見照会書の権利者が外国法人のときで解説しています。
よくある質問
海外に住んでいて、日本の回線はもう解約しました。それでも意見照会書や請求は来ますか。
来る可能性があります。プロバイダには契約時の情報が残っていることが通常で、意見照会書は契約住所あてに送られます。開示後の損害賠償請求も、開示された住所あてに届くのが一般的です。解約や出国だけで手続が止まるわけではありません。
回答期限までに海外から書面を郵送できそうにありません。どうすればよいですか。
まず照会書に記載された回答方法を確認し、郵送以外の方法が可能か、期限について相談できるかをプロバイダに問い合わせてください。運用はプロバイダごとに異なり、延長が認められるとは限りません。早めに弁護士に依頼し、代理人として回答してもらう方法もあります。
海外にいれば、日本で訴えられることはないのではありませんか。
そうとはいえません。民事訴訟法3条の3第8号は、不法行為があった地が日本国内にあるときに日本の裁判所の管轄権を認めています。外国への送達(108条)や、一定の場合の公示送達(110条1項)の仕組みもあり、反論しないまま判決が出るおそれがあります。
日本の家族に意見照会書を開封・転送してもらっても問題ありませんか。
法的に禁じられているわけではありませんが、照会の内容が家族に知られることになります。期限が短いため、内容を早く把握することを優先しつつ、全ページを正確に共有してもらうことが大切です。家族が回線を使っていた可能性がある場合は、その点も含めて事実関係を整理してください。
まとめ
BitTorrentの意見照会書は回線の契約住所に届くため、海外にいる方は気づくのが遅れがちです。しかし、海外にいても意見照会の手続は止まらず、回答しなければ反論の機会を失います。開示後も、日本の裁判所の管轄、外国への送達、公示送達といった仕組みにより、海外在住者に対する訴訟は可能とされています。
大切なのは、照会書の内容を早く正確に把握し、発信日時に自分が日本にいたか、誰が回線を使っていたかを整理したうえで、期限内に回答することです。横浜の当事務所では、全国の方からのご相談にオンラインで対応しており、海外にいる方からのご相談も、時差を考慮しつつオンラインでお受けしています。
海外にいる間に意見照会書が届いた方へ——オンラインで対応します
タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする意見照会書への対応を数多く取り扱っております。ITエンジニアの経験を持つ弁護士が、照会書に記載された発信日時・IPアドレス等を読み解き、回答書の作成から開示後の示談交渉まで対応します。BitTorrentの意見照会に関するご相談に限り、オンライン(20分程度)で無料のご相談を承っています(その他の分野のご相談は対象外です)。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。