タングラム法律事務所

相続で遺言執行者を解任したい|解任の要件と手続を弁護士が解説

相続で遺言執行者を解任したい|解任の要件と手続を弁護士が解説

相続で遺言執行者を解任したい|解任の要件と手続を弁護士が解説

相続で遺言執行者を解任したい|解任の要件と手続を弁護士が解説

相続で遺言執行者を解任したい|解任の要件と手続を弁護士が解説

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月1日 最終更新日:2026年10月1日

「遺言で兄が遺言執行者に指定されたが、何か月たっても財産の内容を教えてくれない」「遺言執行者が、自分に都合のよいように手続を進めているように見える」。遺言執行者の対応に不信感を抱いた相続人から、このようなご相談をいただくことがあります。

この記事では、相続で遺言執行者を解任したいと考えたときに、どのような場合に解任が認められるのか、家庭裁判所への申立ての方法と費用、解任の審判が出るまでの間に財産を守る方法、解任後の流れを、横浜の弁護士が解説します。

結論から言うと、遺言執行者は、任務を怠ったときその他正当な事由があるときに限り、相続人などの利害関係人の請求により家庭裁判所が解任することができます(民法1019条1項)。「相続人の一人だから」「遺言の内容に納得できないから」というだけでは足りず、財産目録を交付しない、報告に応じないといった具体的な事情を資料で示すことが重要です。

遺言執行者の解任とは|民法1019条の要件

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条1項)。そして、遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができず(民法1013条1項)、これに違反した行為は原則として無効とされます(同条2項)。遺言執行者が職務を果たさなくても、相続人が代わりに手続を進めることは困難です。

そこで民法1019条1項は、「遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる」と定めています。相続人の多数決などで辞めさせることはできず、家庭裁判所の審判が必要です。遺言執行者の役割や権限そのものについては、遺言執行者の役割と選任方法の解説記事もご覧ください。

解任が認められやすいケース・認められにくいケース

解任事由は大きく「任務を怠ったとき(任務懈怠)」と「その他正当な事由」に分かれます。遺言執行者には、次のような法律上の義務があり、これを果たしていないことが任務懈怠の典型です。

  • 就職を承諾したときは、直ちにその任務を行うこと(民法1007条1項)
  • 任務を開始したときは、遅滞なく遺言の内容を相続人に通知すること(同条2項。2019年7月1日施行の改正で新設)
  • 遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人に交付すること(民法1011条1項)
  • 善良な管理者の注意をもって職務を行い、求めがあれば事務の処理の状況を報告すること(民法1012条3項が準用する644条・645条)
解任が認められる可能性がある例それだけでは解任が難しい例
相続人が再三求めても相続財産の目録を交付しない遺言執行者が相続人や受遺者の一人である
正当な理由なく長期間、執行に着手しない遺言の内容そのものに不満がある
遺言の内容と異なる財産の処分や分配をしている遺言執行者と感情的に対立している
病気や長期不在で職務の遂行が事実上できない報酬が高いと感じる

裁判例では、遺言執行者が一部の相続人と近い立場にあるというだけでは解任は認められず、任務懈怠や、公正な執行を期待できない具体的な事情が認められるかどうかで判断される傾向があります。また、報酬について遺言に定めがない場合、家庭裁判所が相続財産の状況等を考慮して報酬を定めることができる仕組みもあります(民法1018条1項)。

解任を申し立てる前にすべきこと

いきなり解任を申し立てるよりも、まず遺言執行者に対して、遺言の内容の通知、相続財産の目録の交付、事務の処理状況の報告を書面で求めるのが一般的です。内容証明郵便など記録が残る方法で請求しておけば、応じてもらえなかった場合に「任務を怠った」ことを示す有力な資料になります。

ご自身でも財産の手がかりを集めておくと、遺言執行者の説明との食い違いを指摘しやすくなります。預貯金や不動産の調べ方は、相続財産の調査方法の解説記事で紹介しています。

遺言執行者の解任を家庭裁判所に申し立てる方法

項目内容
申立人利害関係人(相続人、受遺者など)(民法1019条1項)
申立先相続を開始した地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法209条1項)
費用収入印紙800円、裁判所ごとに定められた郵便切手
主な書類申立書、被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本、遺言書の写し又は検認調書謄本の写し、利害関係を証する資料(戸籍謄本など)、解任事由を裏付ける資料

遺言執行者の解任は家事事件手続法の別表第一に掲げる審判事件(106の項)で、調停ではなく審判により判断されます。家庭裁判所は、解任の審判をする場合には遺言執行者の陳述を聴かなければならないとされており(家事事件手続法210条1項1号)、遺言執行者にも反論の機会があります。必要書類や郵便切手の額は裁判所によって異なることがあるため、申立先の家庭裁判所に確認してください。

解任の審判に対しては遺言執行者が、申立てを却下する審判に対しては利害関係人が、それぞれ即時抗告をすることができます(同法214条4号・5号)。即時抗告は、原則として審判の告知を受けた日から2週間の不変期間内にしなければなりません(同法86条1項・2項)。

審判までの間に財産を守る「職務執行停止」

解任の審判が出るまでには一定の時間がかかります。その間に不動産の売却や預貯金の払戻しが進んでしまうおそれがある場合には、保全処分を検討します。家庭裁判所は、遺言執行者の解任の申立てがあった場合において、相続人の利益のため必要があるときは、申立人の申立てにより、審判が効力を生ずるまでの間、遺言執行者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができます(家事事件手続法215条1項)。

解任後の流れと遺言執行者の責任

解任されても遺言そのものの効力は失われません。遺言執行者がなくなった場合には、利害関係人の請求により、家庭裁判所が新たな遺言執行者を選任することができます(民法1010条)。中立的な弁護士などを候補者とすることが考えられます。

また、遺言執行者には委任の規定が準用されるため(民法1012条3項)、任務終了後には事務の経過と結果を報告し、受け取った金銭等を引き渡す必要があります(同項が準用する645条・646条)。善良な管理者の注意を怠って相続財産に損害を与えた場合には、損害賠償を請求できる可能性もあります。

税務上の注意:遺言執行者の対応が遅れても、相続税の申告が必要な場合の期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。解任の手続中に申告期限が迫る場合の対応については、税理士または税務署にご確認ください。

遺言執行者の解任を弁護士に依頼するメリット

解任が認められるかどうかは、どのような事実をどのような資料で示せるかに左右されます。弁護士に依頼すれば、遺言執行者への報告請求から、解任事由の整理、申立書と証拠の準備、保全処分、新たな遺言執行者の選任申立てまで一貫して任せることができます。当事務所の相続事件への対応は、遺産相続・遺留分の取扱分野のページでもご案内しています。

なお、遺言の内容に不満がある場合の金銭的な請求先は、遺言執行者ではなく、遺贈や贈与を受けた人です。詳しくは遺留分侵害額請求は誰に請求するかの解説記事をご覧ください。

よくある質問

遺言執行者が相続人の一人で、自分に有利な執行をしそうです。それだけで解任できますか?

相続人の一人や受遺者が遺言執行者に指定されていても、それだけで直ちに解任が認められるわけではありません。民法1019条1項は「任務を怠ったとき」その他「正当な事由」があるときに解任を認めているため、財産目録を交付しない、報告に応じない、遺言の内容と異なる処理をしているなど、公正な執行を期待できない具体的な事情を示す必要があります。

遺言執行者の解任の申立てには、どのくらいの費用がかかりますか?

家庭裁判所への申立てには、収入印紙800円と、裁判所ごとに定められた郵便切手が必要です。このほか戸籍謄本などの取得費用がかかります。弁護士に依頼する場合は別途弁護士費用がかかります。金額は申立先の家庭裁判所や弁護士に事前に確認してください。

解任の審判が出るまでの間に、遺言執行者が財産を処分してしまわないか心配です。

遺言執行者の解任の申立てをした人は、相続人の利益のため必要があるときに、審判が効力を生ずるまでの間、遺言執行者の職務の執行を停止し、又は職務代行者を選任するよう家庭裁判所に求めることができます(家事事件手続法215条1項)。不動産の売却や預貯金の払戻しが差し迫っている場合は、解任の申立てとあわせて検討します。

遺言執行者を解任すれば、遺言そのものも無効になりますか?

なりません。解任によって遺言執行者の地位がなくなるだけで、遺言の効力には影響しません。解任後も遺言の執行が必要な場合は、利害関係人が家庭裁判所に新たな遺言執行者の選任を請求することができます(民法1010条)。遺言の内容そのものに不満がある場合は、遺言無効の主張や遺留分侵害額請求を別途検討することになります。

まとめ

  • 遺言執行者は、任務を怠ったときその他正当な事由があるときに、利害関係人の請求により家庭裁判所が解任できる(民法1019条1項)
  • 財産目録の不交付、報告の拒否、執行の放置、遺言と異なる処分などが典型的な解任事由で、遺言執行者が相続人であることだけでは足りない
  • 申立先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所で、費用は収入印紙800円と郵便切手
  • 審判までの間に財産が処分されるおそれがあれば、職務執行停止・職務代行者選任の保全処分を検討する(家事事件手続法215条1項)

遺言執行者の対応に疑問を感じたら、まず書面で報告を求めて記録を残し、解任の見込みに迷う場合は早めに弁護士へご相談ください。

遺言執行者の対応にお困りの方へ

タングラム法律事務所は、横浜・山下公園に事務所を構え、相続人間で対立の生じた遺産分割・遺留分の事案について、交渉から調停・審判まで一貫して対応しております。遺言執行者への報告請求や解任の申立てについても、事案に即してご提案します。

法律相談の予約はこちら

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

遺言・相続の手続を確認する

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。