タングラム法律事務所

不貞慰謝料の差押えを自分で申し立てる方法|費用と必要書類を解説

不貞慰謝料の差押えを自分で申し立てる方法|費用と必要書類を解説

不貞慰謝料の差押えを自分で申し立てる方法|費用と必要書類を解説

不貞慰謝料の差押えを自分で申し立てる方法|費用と必要書類を解説

不貞慰謝料の差押えを自分で申し立てる方法|費用と必要書類を解説

勝訴判決を得た、あるいは強制執行認諾文言付きの公正証書を作成した。それなのに、期日を過ぎても不貞慰謝料が振り込まれない——。ようやく手にした判決書が、ただの紙切れになってしまったように感じている方は少なくありません。しかし判決や公正証書は、それ自体が「相手の財産を差し押さえるための切符」です。使えば、預貯金や給与から強制的に回収できる可能性があります。

この記事では、不貞慰謝料の強制執行のうち最もよく使われる債権差押命令の申立てを、弁護士に依頼せず自分で行う方法を、必要書類・申立先・費用・申立て後の流れに沿って解説します。あわせて、相手の財産がわからない場合の手続と、本人で進める場合の限界も整理します。

不貞慰謝料の強制執行は自分で申し立てられるのか

結論からいえば、債権差押命令の申立ては本人でも可能です。弁護士に依頼しなければ受け付けてもらえない制度にはなっておらず、裁判所のウェブサイトには申立書の書式例が公開されています。

ただし大前提として、民事執行は申立てがなければ何も始まりません。判決が確定しても、裁判所が職権で相手の財産を探して差し押さえてくれることはなく、どの財産を差し押さえるかを特定して申立書を提出するのは、すべて債権者側の役割です。回収方法全般は不貞慰謝料を支払ってもらえない場合の対処法と強制執行の記事で解説しており、本記事はそのうち「自分で債権差押えを申し立てる」場面に絞った手引きです。

前提となる「債務名義」と必要書類

強制執行には債務名義が必要です(民事執行法22条)。不貞慰謝料の事案で債務名義となりうるのは、確定判決・仮執行宣言付判決、裁判上の和解調書・調停調書、強制執行認諾文言のある公正証書、仮執行宣言付支払督促などです。逆にいえば、当事者間で作成しただけの示談書は債務名義になりません。分割払いの合意を公正証書にしておくべきだといわれるのは、まさにこの点にあります(不貞慰謝料の公正証書を作成するメリットと手続き)。

書類内容・入手先
執行力のある債務名義の正本判決正本などに執行文の付与を受けたもの(民事執行法26条)。判決を出した裁判所の書記官、公正証書なら作成した公証役場に申請する
送達証明書債務名義が相手方に送達されたことを証明する書面(民事執行法29条)。同じく裁判所・公証役場に申請する
資格証明書第三債務者が法人(銀行・勤務先の会社など)の場合に必要。法務局で取得する商業登記事項証明書等
執行文は原則として必要ですが、少額訴訟の確定判決や仮執行宣言付支払督促は、執行文の付与を受けずに強制執行できるとされています(民事執行法25条ただし書)。支払督促を用いた場合の流れは不貞慰謝料の支払督促を自分で申し立てる方法もご確認ください。

何を差し押さえるか|預貯金と給与の違い

債権差押えでは、「相手(債務者)が第三者(第三債務者)に対して持っている債権」を差し押さえます。不貞慰謝料でよく使われるのは、預貯金債権と給料債権です。

預貯金の第三債務者は金融機関です。差押えの効力が及ぶのは差押命令が金融機関に送達された時点の残高に限られるため、給料日の直後など残高がある時期を狙わなければ「空振り」に終わります。支店を特定して申し立てるのが原則的な取扱いです。

給与の第三債務者は勤務先の会社です。毎月発生するため、一度差し押さえれば債権が満足するまで継続的に回収できる利点があります。ただし、給料等の債権は、税金や社会保険料を控除した手取額の4分の3にあたる部分が差押禁止です(民事執行法152条1項2号)。民事執行法施行令2条により、支払期が毎月と定められている場合の基準額は33万円とされており、手取額が44万円を超えるときは33万円を超える部分を差し押さえることができます。

養育費など扶養義務等に係る請求権(民事執行法151条の2)を請求債権とする場合、差押禁止の範囲は2分の1に縮小されます。しかし不貞慰謝料はこの特則の対象には含まれないと解されており、原則どおり4分の3が差押禁止となります。「養育費と同じように半分まで押さえられる」と考えて申し立てると、想定した金額を回収できません。

申立書の作成と提出先・費用

東京地方裁判所民事第21部(民事執行センター)の案内によれば、申立書はA4判縦・横書き・左とじで作成し、①申立書表紙 ②当事者目録 ③請求債権目録 ④差押債権目録の4つを綴じたものとされています。各目録は、綴じたもの以外に写しを1部ずつ提出します。差押債権目録では、「どの銀行のどの支店の預金か」「給料のうち手取額の4分の1の範囲か」といった形で、差し押さえる債権を過不足なく特定しなければなりません。あわせて、第三債務者に差押債権の有無や金額を答えさせる陳述催告の申立て(民事執行法147条)をしておくと、空振りかどうかを早期に把握できます。

執行裁判所は、原則として債務者の普通裁判籍の所在地(住所地)を管轄する地方裁判所です(民事執行法144条1項)。判決を出した裁判所ではない点に注意してください。相手が横浜市内に住んでいれば横浜地方裁判所が申立先になります。

費目金額の目安
申立手数料(収入印紙)債務名義1通につき4,000円
予納郵便切手裁判所・当事者の数により異なるため申立先に確認する
執行文付与・送達証明の手数料それぞれ数百円程度
資格証明書の取得費用第三債務者が法人の場合に必要

相手の財産がわからない場合の手続

債権差押えは、差し押さえる財産を債権者が特定できて初めて機能します。相手の口座も勤務先もわからない場合には、2019年(令和元年)改正民事執行法で整備された次の手続を検討します。

財産開示手続

債務者を裁判所に呼び出し、宣誓のうえで財産を陳述させる手続です。申立てには、①申立ての日前6か月以内に実施された強制執行等で完全な弁済を受けられなかったこと、または②通常行うべき調査をしても完全な弁済を得られないことの疎明、のいずれかが必要です(民事執行法197条1項)。申立手数料は2,000円です。改正で実効性が高められ、正当な理由なく財産開示期日に出頭しなかった場合や虚偽の陳述をした場合は、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という刑事罰の対象になります(民事執行法213条1項)。「拘禁刑」は2025年6月1日施行の改正刑法により従来の懲役・禁錮が一本化されたものです。

第三者からの情報取得手続

裁判所を通じて金融機関や登記所などから債務者の財産情報を取得する手続で、情報の種類ごとに要件が異なります。申立手数料は1件1,000円で、これに加えて照会先への予納金(不動産・給与は6,000円程度、預貯金・株式は5,000円程度)が必要とされる取扱いが一般的ですが、金額は裁判所により異なるため事前に確認してください。

情報の種類照会先主な要件
預貯金・上場株式等(207条)銀行・信用金庫・証券会社等財産開示手続の前置は不要
不動産(205条)登記所財産開示手続の前置が必要
給与債権=勤務先(206条)市町村・日本年金機構等財産開示手続の前置に加え、扶養義務等に係る請求権または人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の債務名義を有する債権者に限られる
実務上とくに重要なのが、給与債権に関する情報取得手続(民事執行法206条)を、不貞慰謝料の債権者は原則として利用できないと考えられる点です。不貞慰謝料は不貞行為による精神的損害の賠償であり、通常は「人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権」には当たらないと解されるためです。相手の勤務先は、債権者自身が調査によって把握しなければなりません。

申立て後の流れ|送達から取立てまで

申立てが受理されると、裁判所は債務者を審尋せずに差押命令を発令します。事前に知られて預金を引き出されることを防ぐためです。

  • 差押命令の送達:第三債務者、次いで債務者に送達され、債権者には送達通知書が届きます。
  • 取立権の発生:債務者への送達日から1週間を経過すると取立てができます。ただし、給料等の債権の差押えで、請求債権に扶養義務等に係る金銭債権が含まれていない場合は4週間とされています(民事執行法155条)。不貞慰謝料の給与差押えは、この4週間のケースに当たります。
  • 取立て:債権者が第三債務者と直接連絡を取って支払を受けます。裁判所が代わりに取り立ててくれるわけではありません。
  • 取立届の提出:支払を受けたら金額にかかわらず取立届を、完了したら取立完了届を、差押えの必要がなくなったら取下書を提出します。

取立てができることとなった日から取立届の提出がないまま2年が経過すると差押命令が取り消されることがあるため、継続の必要がある場合は「支払を受けていない旨の届出」を提出します。申立てをして終わりではなく、その後の届出まで債権者が管理しなければならないのが債権執行の特徴です。

自分で行う場合の限界と、弁護士に依頼した場合の違い

申立て自体は本人でも十分に可能です。それでも、次の点では本人での対応に限界が生じます。

第一に、財産の調査です。とくに勤務先については、前述のとおり不貞慰謝料の債権者は情報取得手続を利用できないと考えられるため、自力で調べるほかありません。弁護士に依頼した場合には弁護士会照会(弁護士法23条の2)により一定の範囲で調査できる可能性がありますが、照会先が必ず回答するとは限らず、万能の手段ではありません。

第二に、目録の正確さです。差押債権目録の記載が曖昧だと、対象が特定されていないとして補正を求められたり、第三債務者から支払を拒まれたりします。預貯金の支店の特定、給与の差押範囲の書き方、複数債権の充当順序の指定は、とくに間違えやすいところです。

第三に、手を出すべきかの見極めです。相手にめぼしい財産がなければ、費用と労力をかけても回収できません。強制執行に進むべきか、任意の分割払いの交渉に切り替えるべきかという判断は事案ごとの見立てによります。当事務所の考え方は不貞慰謝料の取扱い分野のページでご説明しています。

よくある質問

判決が確定すれば、裁判所が自動的に相手の財産を差し押さえてくれますか?

いいえ。民事執行は申立てがなければ始まりません。判決が確定しても、債権者が自ら債権差押命令などの強制執行を申し立てる必要があり、裁判所が職権で相手の財産を探して差し押さえてくれることはありません。差し押さえる財産を特定するのも債権者の役割です。

相手の勤務先がわかっています。給与はいくらまで差し押さえられますか?

給料等の債権は、税金・社会保険料を控除した手取額の4分の3にあたる部分が差押禁止とされています(民事執行法152条1項2号)。ただし民事執行法施行令2条により、月払いの場合は33万円が基準とされ、手取額が44万円を超えるときは33万円を超える部分を差し押さえることができます。なお、養育費など扶養義務等に係る請求権では差押禁止の範囲が2分の1に縮小されますが、不貞慰謝料はこの特則の対象には含まれないと解されています。

当事者間で作成した示談書があれば差押えはできますか?

当事者だけで作成した私製の示談書は、それ自体では債務名義になりません。強制執行をするには、確定判決、仮執行宣言付判決、和解調書・調停調書、または強制執行認諾文言のある公正証書などが必要です(民事執行法22条)。示談の段階で公正証書にしておくかどうかが、後の回収可能性を大きく左右します。

差押えが空振りに終わった場合、申立費用は返ってきますか?

申立手数料として納めた収入印紙は、原則として返還されません。予納した郵便切手は手続終了後に未使用分が返還される取扱いが一般的ですが、詳細は申立先の裁判所によって異なります。空振りを避けるためにも、申立て前に差押えの対象となる財産をできる限り具体的に調査しておくことが重要です。

まとめ

不貞慰謝料の債権差押命令の申立ては、書式が公開されており、手数料も債務名義1通につき4,000円と、本人でも十分に取り組める手続です。要点は次のとおりです。

  • 強制執行には債務名義が必要で、私製の示談書では足りない
  • 執行文の付与を受けた債務名義の正本と送達証明書を準備する
  • 申立先は債務者の住所地を管轄する地方裁判所
  • 給与は手取額の4分の3が差押禁止で、不貞慰謝料は2分の1の特則の対象外
  • 取立権は債務者への送達から1週間、給与差押えの場合は4週間で発生する
  • 相手の勤務先については、不貞慰謝料の債権者は情報取得手続を利用できないと考えられる

手続そのものより難しいのは、どの財産をどの順序で差し押さえるかという見立てです。相手の財産に見当がつかない、一度差し押さえたが空振りに終わったという段階では、弁護士に相談することで財産調査の手段や仮差押えを含めた選択肢を整理できる場合があります。判決や公正証書があるのに回収できていない状況は、時間が経つほど不利になりがちです。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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