タングラム法律事務所

ハラスメントの社内調査の進め方|ヒアリングと事実認定を弁護士が解説

ハラスメントの社内調査の進め方|ヒアリングと事実認定を弁護士が解説

ハラスメントの社内調査の進め方|ヒアリングと事実認定を弁護士が解説

ハラスメントの社内調査の進め方|ヒアリングと事実認定を弁護士が解説

ハラスメントの社内調査の進め方|ヒアリングと事実認定を弁護士が解説

「部長からパワハラを受けている」という相談が総務に持ち込まれた——こうした場面で多くの中小企業が戸惑うのは、「どこまで調べればよいのか」「誰から、どの順番で話を聞けばよいのか」という点ではないでしょうか。関係者はいずれも自社の従業員であり、対応を誤れば、相談者との関係も行為者とされた社員との関係も同時にこじらせてしまいます。

もっとも、社内調査は「やってもやらなくてもよい対応」ではありません。事業主には相談を受けた際に事実関係を確認する義務があり、調査を怠ったこと自体が会社の責任として問われることがあります。この記事では、調査を始める前に決めておくべきこと、ヒアリングの順序、事実認定の考え方、調査後の措置までを、横浜の弁護士が実務に沿って整理します。

ハラスメントの社内調査は法律上の義務——「事実関係の迅速かつ正確な確認」

職場のハラスメントについては、類型ごとに事業主の措置義務が定められています。いずれも企業規模を問わず適用され、中小企業も対象です(パワーハラスメントは中小企業も2022年4月1日から義務化されています)。

ハラスメントの類型根拠となる法律
パワーハラスメント労働施策総合推進法30条の2
セクシュアルハラスメント男女雇用機会均等法11条
妊娠・出産等に関するハラスメント男女雇用機会均等法11条の3
育児休業等に関するハラスメント育児・介護休業法25条

措置義務の具体的な内容は、厚生労働省の指針(パワーハラスメントについては令和2年厚生労働省告示第5号)に定められており、①方針の明確化と周知・啓発、②相談体制の整備、③事後の迅速かつ適切な対応、④併せて講ずべき措置(プライバシーの保護、不利益取扱いの禁止の周知)の四つに整理されます。

このうち③の中核が「事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること」、すなわち社内調査です。指針は、相談者と行為者の双方から確認し、主張に食い違いがあり事実確認が十分にできない場合には第三者からも聴取するなどの措置を求めています。「当事者同士の問題だから」という理由だけで調査を行わない対応は、措置義務を果たしていないと評価されるおそれがあります。

調査を尽くさなかったことは、行政指導の対象となるだけでなく民事上の責任にもつながり得ます。詳しくは職場でパワハラ・セクハラが発生したら会社はどう責任を問われるかをご覧ください。

調査を始める前に決めておく三つのこと

1 誰が調査するか(調査体制)

行為者とされた人物の直属の上司や、相談者と親しい社員が担当すると、中立性への疑いが生じ、調査結果そのものの信用性が低下します。社長・役員が関わる場合や部署ぐるみの問題が疑われる場合、社内での中立的な調査は事実上困難であり、外部の弁護士を調査担当者に加えることを検討すべきです。

2 何を調べるか(調査の対象範囲)

相談内容を日時・場所・言動・目撃者の有無に分解し、確認すべき事実を特定します。「高圧的な態度」といった評価ではなく、「◯月◯日の朝礼で、他の従業員の前で『使えない』と発言した」という出来事の単位に落とし込むことが重要です。評価を先に決めるのではなく、その前提となる出来事の有無を固めることが調査の目的です。

3 情報をどう管理するか

指針は、相談者・行為者等のプライバシーの保護を必要な措置として挙げています。調査の事実を知る者を限定し、記録はアクセス制限のうえ保管します。相談があったことを職場に漏らさない運用は、相談者を二次的な被害から守るうえで欠かせません。

ヒアリングの進め方——順序と質問の仕方

ヒアリングは、原則として①相談者、②目撃者等の第三者、③行為者とされる者の順で行います。裏付けを固めてから行為者に事実を示すほうが、証拠の隠滅や関係者への働きかけを防ぎやすく、説明の変遷も把握しやすいためです。

対象聞くべきこと注意点
相談者いつ・どこで・誰が・何を言ったか、目撃者、残っている資料、希望する対応評価を誘導しない。不利益取扱いをしない旨を説明する
第三者(目撃者等)実際に見聞きした事実の範囲、その場の状況伝聞と直接体験を区別する。誰が相談者かを明かさない
行為者とされる者指摘された言動の有無、経緯・意図、業務上の必要性結論を決めつけず、弁明の機会を実質的に与える

あわせて、メール・チャットの履歴、勤怠記録、日報、録音データなど客観的な資料を早期に確保します。一定期間で自動削除される仕組みもあるため、保全は調査開始と同時に行うべきです。

なお、従業員が常に調査に応じる義務を負うわけではありません。最高裁昭和52年12月13日判決(富士重工業事件)は、調査協力義務は労務提供義務の履行に必要かつ合理的と認められる場合に限られる旨を判断しており、範囲を超えた質問への回答を強要することはできません。

事実認定の考え方——「言った・言わない」をどう判断するか

調査でもっとも難しいのが、当事者の言い分が食い違う場合の事実認定です。実務では、裁判における事実認定の考え方を参考に、次の視点で検討します。

  • 客観的な資料との整合性——メール、勤怠記録、診断書など後から作り替えにくい資料と矛盾しないか
  • 供述の具体性と迫真性——体験した者でなければ語りにくい細部が含まれているか
  • 供述の一貫性・変遷——初期の相談内容から不自然に変化していないか
  • 利害関係と動機——虚偽を述べる動機があるか
  • 第三者の供述との符合——利害関係の薄い者の話と一致するか

重要なのは、「決定的な証拠がないから認定できない」と短絡しないことです。密室での言動は当事者の供述しか証拠がないことが通常であり、上記の要素を総合して判断します。他方、相談者の話のみを根拠に重い処分を科すと、処分が無効とされるおそれがあります。認定した事実とその理由を書面に残すことが、いずれの方向のリスクにも防御となります。

調査結果を踏まえて講ずべき措置

指針は、事実確認ができた場合に、被害者への配慮の措置、行為者への措置、再発防止の措置を適正に行うことを求めています。

被害者への配慮としては、行為者との引き離し(配置転換・席替え)、謝罪の機会の設定、労働条件上の不利益の回復などが考えられます。行為者への措置は懲戒処分が典型ですが、認定した事実の重さと処分の重さが釣り合っていることが不可欠です。労働契約法15条により、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でない懲戒は無効となります。最高裁平成27年2月26日判決(L館〔海遊館〕事件)は、管理職による性的言動が1年余り繰り返された事案で出勤停止処分と降格を有効としており、行為の内容・期間・行為者の立場が判断を左右します。手続面は懲戒処分の進め方|種類・手順と無効にならない注意点で解説しています。

再発防止としては、方針の再周知、管理職向けの研修、相談窓口の運用見直しが基本です。なお、2025年6月公布の改正労働施策総合推進法により、2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策等も事業主の措置義務となります(【2026年10月施行】カスハラ対策の義務化)。体制を見直す機会にあわせて整備しておくと効率的です。

社内調査でよくある失敗と法的リスク

  • 相談を受けたのに調査をしない——措置義務違反に加え、損害賠償を求められるおそれがあります
  • 相談者の意向を確認せずに行為者へ相談者名を伝える——報復や孤立を招き、二次被害となります
  • 行為者に弁明の機会を与えないまま処分する——処分が無効とされるおそれが高まります
  • 調査記録を残さない——労働審判や訴訟となった際、適切に対応したことを立証できません
  • 相談を理由に配置転換・評価引下げを行う——不利益取扱いの禁止(同法30条の2第2項等)に反します

調査後に紛争へ発展すれば、会社は短期間で主張と証拠を整える必要に迫られます。労働審判を申し立てられたときの会社側の対応で解説したとおり、勝負を分けるのは調査段階でどれだけ記録を残せていたかです。企業法務の全般的なご相談は企業法務・顧問弁護士のページもご覧ください。

よくある質問

ハラスメントの相談を受けたら、会社は必ず社内調査をしなければなりませんか。

労働施策総合推進法30条の2および同法の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、相談があった場合に事実関係を迅速かつ正確に確認することを事業主に求めています。放置すれば措置義務違反として行政指導の対象となるほか、職場環境配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。

行為者とされた社員が調査への協力を拒んだ場合はどうすればよいですか。

最高裁昭和52年12月13日判決(富士重工業事件)は、調査協力義務は労務提供義務の履行に必要かつ合理的と認められる場合に限られると判断しています。自らの行為が調査対象であれば協力を求めやすいものの、拒否された場合は、その事実を記録に残し、他の証拠から事実を認定することになります。

調査の結果、ハラスメントがあったと認定できなかった場合はどうすればよいですか。

認定できなかったという結論自体は不当ではありませんが、何もしない対応は適切といえません。理由を相談者に説明したうえで、席の配置や業務分担の変更、管理職への注意喚起や研修を検討します。相談を理由とする不利益取扱いは、労働施策総合推進法30条の2第2項等により禁止されています。

ハラスメントの調査記録はどの程度残しておくべきですか。

法律上の保存期間の定めはありませんが、労働審判や訴訟になった場合、適切に対応したことを裏付ける中心的な資料になります。相談受付票、ヒアリングの録取書、認定した事実と判断の理由、講じた措置を一件記録にまとめ、アクセス権限を限定して保管する運用が実務的です。

まとめ

ハラスメントの社内調査は措置義務の中核であり、会社が「適切に対応した」といえるかどうかの分かれ目になります。要点は次のとおりです。

  • 相談を受けた事業主には、事実関係を迅速かつ正確に確認する義務がある(労働施策総合推進法30条の2ほか)
  • 調査体制の中立性、調査対象の特定、情報管理の三点を着手前に決める
  • ヒアリングは相談者→第三者→行為者の順で行い、客観的資料を早期に保全する
  • 事実認定は客観的資料との整合性・供述の具体性・一貫性等を総合して行い、認定の理由まで記録に残す
  • 行為者への処分は、認定した事実の重さに見合ったものとする(労働契約法15条)

とくに社長・役員が関係する事案や懲戒解雇につながり得る事案は、調査の中立性そのものが後に争点となるため、社内だけで進めることに限界があります。外部の弁護士が関与すれば、調査の適正さを担保しつつ処分の相当性まで見通して判断できます。横浜のタングラム法律事務所では、相談受付の段階から調査設計・ヒアリング・処分の検討までを一貫してご支援しています。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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