財産開示手続を自分で申し立てる方法|預貯金の調べ方を弁護士が解説
財産開示手続を自分で申し立てる方法|預貯金の調べ方を弁護士が解説
裁判で勝った、支払督促も確定した。それなのに相手はいっこうに支払わない——。強制執行をしようにも、相手の預金口座がどこにあるのか、どんな財産を持っているのかがわからなければ、差押えの申立てすらできません。中小企業の売掛金回収では、この「財産がわからない」という壁で回収を断念してしまう例が少なくありません。
この壁を突き破るために民事執行法が用意しているのが、財産開示手続と第三者からの情報取得手続です。この記事では、事業者がご自身で財産開示手続を申し立てる場合を想定して、利用できる要件・申立先・費用・必要書類・期日当日の流れ、そして預貯金や不動産を金融機関や法務局から直接調べる情報取得手続との使い分けまでを、横浜の弁護士が順を追って整理します。あわせて、自分で行う場合の限界がどこにあるのかもお伝えします。
財産開示手続とは──債務者に財産を陳述させる手続
財産開示手続とは、債権者の申立てにより、債務者(開示義務者)が裁判所の期日に出頭し、自分の財産の状況を宣誓のうえ陳述する手続です。債務者本人の口から、預貯金・不動産・売掛金・車両などの財産を明らかにさせるところに特徴があります。
注意していただきたいのは、財産開示によって財産が明らかになっても、その財産に差押えの効力が及ぶわけではないという点です。回収を実現するには、開示によって知ることができた財産に対して、別途、債権差押命令の申立てなどの強制執行を行う必要があります。強制執行そのものの手順については、強制執行を自分で申し立てる方法(差押えの流れ・費用)もあわせてご覧ください。
財産開示手続の申立てができる人と要件
1 執行力のある債務名義の正本を持っていること
財産開示手続を申し立てられるのは、原則として、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者です(民事執行法197条1項)。債務名義には、確定判決、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、少額訴訟判決、和解調書、民事調停調書、そして強制執行に服する旨の陳述が記載された公正証書などが含まれます。まだ債務名義をお持ちでない場合は、支払督促や少額訴訟など、事案に見合った手続で先に債務名義を取得する必要があります。
債務者の財産について一般の先取特権を有する債権者も、その存在を証する文書を提出して申し立てることができます(同条2項)。従業員の未払賃金などが典型例です。
2 「不奏功要件」を満たすこと
債務名義があるだけでは足りず、次のいずれかを主張・立証する必要があります(民事執行法197条1項各号)。
- 強制執行または担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6か月以上前に終了したものを除く)において、申立人が金銭債権の完全な弁済を得られなかったこと
- 知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったこと
実務上は後者によることが多く、東京地方裁判所では「財産調査結果報告書」という書式に、どのような調査を行い、どの財産が判明したのか(あるいはしなかったのか)を具体的に記載し、その裏づけ資料を添付して疎明します。取引時の登記簿、名刺、契約書、送金記録など、手元の資料を洗い出す作業がここで効いてきます。
3 3年以内に開示済みの債務者ではないこと
債務者が申立ての日前3年以内に財産開示期日でその財産を開示した者である場合、原則として再度の実施決定はされません(民事執行法197条3項)。ただし、一部の財産を開示していなかった場合、新たに財産を取得した場合、雇用関係が終了した場合には例外が認められています。
自分で申し立てる手順と費用
申立先は、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所です(民事執行法196条)。この管轄は専属管轄とされているため(同法19条)、便宜で他の裁判所に出すことはできません。相手が横浜市内に住所(本店)を置いているなら横浜地方裁判所、東京23区内なら東京地方裁判所民事執行センターというように、相手方の現住所を基準に決まります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立先 | 債務者の住所(本店所在地)を管轄する地方裁判所(専属管轄) |
| 申立手数料 | 収入印紙2,000円(申立て1件につき) |
| 郵便料 | 別途予納が必要。額は裁判所により異なる |
| 主な書類 | 財産開示手続申立書、当事者目録、請求債権目録、財産調査結果報告書 |
| 添付書類 | 執行力のある債務名義の正本、送達証明書、確定証明書、資格証明書・住民票など |
申立書の書式と記載例は、裁判所のウェブサイトから入手できます。ご自身で作成する場合は、必ず申立てを予定している裁判所のページにある最新の書式・必要書類一覧を確認してください。書式は改訂されますし、必要書類や予納郵便料の運用は裁判所ごとに異なります。近年は電子債務名義に基づく申立ての書式も用意されており、紙の債務名義の場合とは提出書類が変わります。
実施決定が出て確定すると、東京地方裁判所の運用では1か月ほど後の日が財産開示期日として指定され、その7日から10日前が債務者側の財産目録提出期限とされます。申立人は期日に出頭し、執行裁判所の許可を得て開示義務者に質問することができます(民事執行法199条4項)。ただし根拠のない探索的な質問は許可されないため、事前に質問書を提出しておくのが実務的です。
財産開示期日については、法改正により、一定の要件のもとで申立人・開示義務者がウェブ会議の方法で参加できる規定が設けられました(民事執行法199条の2・199条の3)。この規定の施行日は令和8年(2026年)5月21日です。遠方の裁判所が管轄となる場合は、上申書によりウェブ参加を希望できるか、管轄裁判所に確認するとよいでしょう。
出頭しない・嘘をついた場合の罰則
かつて財産開示手続は「呼び出しても相手が来ない」ことが多く、実効性に乏しいと言われていました。2019年(令和元年)の民事執行法改正により罰則が過料から刑事罰に引き上げられ、現在は次の行為が処罰の対象とされています。
- 執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく出頭せず、または宣誓を拒んだ開示義務者(民事執行法213条1項5号)
- 宣誓した開示義務者が、正当な理由なく陳述すべき事項を陳述せず、または虚偽の陳述をした場合(同項6号)
これらに該当する者は、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処せられます(同条柱書)。なお、2025年6月1日に施行された刑法改正により懲役刑・禁錮刑は拘禁刑に一本化されており、現行の条文上も「拘禁刑」と規定されています。
もっとも、開示義務者が期日に出頭しなければ、その財産開示手続自体は終了してしまいます。刑事罰の可能性は任意の支払いを促す圧力として働くことがありますが、それだけで回収が実現するわけではない点は理解しておく必要があります。
預貯金や不動産を直接調べる「第三者からの情報取得手続」
債務者本人に語らせる財産開示に対し、金融機関や法務局といった第三者から直接情報を取り寄せるのが第三者からの情報取得手続です。中小企業の債権回収では、こちらのほうが実効性が高い場面も多くあります。
| 取得できる情報 | 情報提供者 | 根拠条文 | 財産開示の前置 |
|---|---|---|---|
| 預貯金(支店名・口座番号・額) | 銀行、信用金庫、労働金庫、農協等 | 民事執行法207条 | 不要 |
| 上場株式・国債等 | 証券会社、振替機関等 | 民事執行法207条 | 不要 |
| 不動産(土地・建物の所在等) | 法務省令で定める登記所 | 民事執行法205条 | 必要(期日から3年以内) |
| 給与(勤務先) | 市町村、日本年金機構等 | 民事執行法206条 | 必要(期日から3年以内) |
実務上、押さえておきたいポイントは三つあります。
第一に、預貯金情報の取得には財産開示手続の前置が不要です。心当たりのある金融機関を選択して申し立てれば、口座の有無・支店・残高の情報が得られます。まずこの手続から検討するのが定石です。
第二に、不動産情報と給与情報は、財産開示期日における手続が実施されたうえで、その期日から3年以内に申し立てる必要があります(民事執行法205条2項等)。相手が期日に出頭せずに手続が終了した場合であっても、期日における手続が実施されていれば前置の要件を満たすものと扱われます。この意味で、財産開示を一度経ておくことには手続上の価値があります。
第三に、給与(勤務先)情報を取得できる債権者は限られています。養育費など扶養義務に係る請求権を有する債権者と、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者だけです(民事執行法206条1項)。売掛金・貸金・請負代金といった通常の取引債権では利用できません。事業者からのご相談で誤解の多いところですので、注意してください。
情報取得手続の申立手数料は、1件につき収入印紙1,000円です。ほかに郵便料等の予納が必要で、金額は裁判所や情報の種類、申立先として選択する第三者の数によって変わります。
自分で行う場合の限界と、弁護士に依頼した場合の違い
財産開示手続の申立て自体は、書式が公開されており、ご自身で行うことも十分に可能です。特に、債務名義を持っていて相手の住所も判明している場合には、まず預貯金の情報取得手続を自分で申し立ててみるという選択は合理的です。
他方で、限界もはっきりしています。まず、不奏功要件の疎明は「どこまで調べたか」を裁判所に納得させる作業であり、資料の集め方と書き方によって結論が分かれ得ます。次に、どの金融機関を選択するか、いつ差押えに踏み切るかという判断は、口座残高が動く前に手を打てるかどうかという時間の勝負になります。さらに、開示や情報取得で得た情報を差押えに結びつける段階では、債権差押命令の申立て、第三債務者の陳述、取立てといった別の手続が続き、相手方が異議を述べれば争いにもなります。
弁護士に依頼した場合は、債務名義の取得から情報取得手続、差押えまでを一連の回収戦略として設計でき、相手の資産が散逸する前に押さえる順序を組み立てられます。取引先ごとの与信管理や契約書の見直しといった予防の側面も含め、当事務所の企業法務のページで取扱内容をご案内しています。費用の考え方については弁護士費用のページもご参照ください。回収可能性と費用のバランスは事案ごとに異なりますので、申立て前の段階でご相談いただくのが結局は早道になることも多いといえます。
よくある質問
売掛金の回収でも、相手の勤務先を調べることはできますか。
給与(勤務先)に関する情報取得手続を利用できる債権者は、養育費など扶養義務に係る請求権を有する債権者と、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者に限られています(民事執行法206条1項)。売掛金や貸金などの一般の商取引債権では利用できません。この場合は、預貯金に関する情報取得手続や、財産開示期日での債務者本人の陳述によって財産を把握することになります。
判決などがなくても財産開示手続は使えますか。
原則として、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者であることが必要です(民事執行法197条1項)。確定判決、仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、和解調書、民事調停調書、強制執行に服する旨の陳述が記載された公正証書などが債務名義にあたります。例外として、債務者の財産について一般の先取特権を有する債権者も申立てができます(同条2項)。
相手が財産開示期日に出頭しなかったらどうなりますか。
開示義務者が期日に出頭しなかった場合、その財産開示手続は終了します。もっとも、正当な理由なく出頭せず、または宣誓を拒んだ開示義務者は、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処せられる可能性があります(民事執行法213条1項5号)。虚偽の陳述をした場合も同様です(同項6号)。刑事罰の可能性は、任意の支払いを促す事実上の圧力として働くことがあります。
財産開示手続にはどのくらいの費用と期間がかかりますか。
申立手数料は収入印紙2,000円(申立て1件につき)で、ほかに郵便料の予納が必要です。第三者からの情報取得手続の申立手数料は1,000円です。いずれも郵便料の額や予納すべき費用は裁判所や取得する情報の種類によって異なるため、申立先の裁判所に確認してください。期間は、東京地方裁判所の運用では実施決定が確定してから1か月ほど後の日が財産開示期日として指定されます。
まとめ
債務名義を取ったのに回収できないという状況は、相手に資力がないからとは限りません。財産の在りかがわからないだけということも多く、その場合には財産開示手続と第三者からの情報取得手続が有効な武器になります。要点を整理します。
- 財産開示手続は、債務者に財産を宣誓のうえ陳述させる手続。開示されても差押えの効力は生じず、別途の強制執行が必要
- 申立てには執行力のある債務名義の正本と、不奏功要件(民事執行法197条1項)の主張・立証が必要
- 申立先は債務者の住所地を管轄する地方裁判所(専属管轄)。申立手数料は収入印紙2,000円
- 正当な理由なく出頭しない・虚偽の陳述をした開示義務者には、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
- 預貯金情報の取得は財産開示の前置が不要。不動産・給与情報は財産開示期日から3年以内という制限がある
- 給与情報の取得は扶養義務に係る請求権等を有する債権者に限られ、売掛金の回収では利用できない
ご自身で申し立てることも可能な手続ですが、どの順序でどの手続を使うかという設計次第で、回収できるかどうかが変わります。相手の資産が動いてしまう前に手を打つという観点からは、早い段階で弁護士に相談し、回収の見通しを立てておくことをおすすめします。
売掛金の回収・強制執行についてお困りの事業者の方へ
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