売掛金を仮差押えで回収する方法|要件・流れ・費用を弁護士が解説
売掛金を仮差押えで回収する方法|要件・流れ・費用を弁護士が解説
取引先が売掛金を支払わないまま、資産を処分したり他の債権者に支払ったりしてしまえば、後で裁判に勝っても回収できる財産が残っていない――こうした事態を防ぐための手続が「仮差押え」です。「請求はしているが、うちより先に別の会社に払われてしまうのではないか」「不動産を売られたら手遅れになる」といった不安を抱える経営者の方は少なくありません。
この記事では、売掛金・未払い代金の回収を検討している中小企業・個人事業の方に向けて、仮差押えの仕組み、2つの要件、対象にできる財産、手続の流れ、担保金(供託金)の目安、注意点を、横浜の弁護士が整理して解説します。条文は民事保全法(平成元年法律第91号)を一次情報として確認しています。
仮差押えとは?売掛金回収における役割
仮差押えとは、金銭の支払を求める債権を持つ人(債権者)が、将来の強制執行が空振りに終わらないよう、あらかじめ相手方(債務者)の財産を仮に押さえておく裁判上の手続です。民事保全法上は、仮差押命令と仮処分命令を総称して「保全命令」と呼びます。
売掛金の回収では、通常、内容証明郵便による督促から交渉、支払督促や訴訟へと進みます。しかし判決を得るまでには時間がかかり、その間に相手方が預金を引き出したり不動産を売却したりすれば、勝訴判決を得ても回収不能になりかねません。仮差押えは、こうした「回収する前に財産が失われる」リスクに備えて、判決を待たずにスピーディーに財産を確保しておく点に意義があると解されています。
ただし、仮差押えはあくまで財産を「仮に」押さえる手続であり、それ自体で支払を受けられるわけではありません。最終的な回収には、本案訴訟などで確定した債務名義に基づく強制執行(本執行)が必要になります。
仮差押えが認められる2つの要件
仮差押命令を得るには、次の2つの要件を「疎明」する必要があります。疎明とは、証明ほど厳格ではないものの、裁判官に「一応確からしい」との心証を抱かせる程度の説明・資料を指し、保全すべき権利と保全の必要性の双方について求められます(民事保全法13条2項)。
1.被保全権利(保全すべき権利)の存在
まず、相手方に対して金銭債権を有していることを示す必要があります。売掛金であれば、取引基本契約書・注文書・請求書・納品書・発注メールなど、取引の存在と金額を裏づける資料が重要になります。契約書がない口頭取引でも、やり取りの履歴等から疎明できる場合がありますが、資料が乏しいほど疎明のハードルは上がる傾向にあります。
2.保全の必要性
次に、仮差押えをしておかなければ将来の強制執行ができなくなる、または著しく困難になるおそれがあることが必要です(民事保全法20条1項)。相手方が資産を処分しようとしている、他社への支払を優先している、事業を縮小・廃業しようとしている、複数の債権者から追及を受けているといった事情が、必要性を基礎づける要素として考慮されると解されています。
仮差押えできる財産の種類
仮差押えの対象になる財産にはいくつかの種類があり、相手方のどの財産を押さえるかによって効果も注意点も異なります。主なものを整理すると次のとおりです。
| 財産の種類 | 特徴・注意点 |
|---|---|
| 不動産 | 登記により押さえる。資産価値が把握しやすい一方、既に抵当権が付いていると回収余地が乏しい場合がある。 |
| 預貯金 | 金融機関(第三債務者)に通知が届き、弁済が禁止される。効果は大きいが、残高が少ないと空振りになりやすい。 |
| 売掛金等の債権 | 相手方が第三者に対して持つ債権を押さえる。第三債務者に通知が届くため、相手方の信用に影響が及ぶ可能性がある。 |
| 動産 | 商品・機械等。換価が難しく、実務上は選ばれにくい。 |
債権(預金・売掛金)を対象とする仮差押えでは、命令が第三債務者(銀行や相手方の取引先など)に送達されると、第三債務者は相手方への弁済を禁止されます。仮に第三債務者がこれを無視して相手方に支払っても、債権者は改めて支払を求めることができると解されています。どの財産を選ぶかは、回収可能性と相手方への影響のバランスを踏まえた戦略的な判断が必要になります。
仮差押えの手続の流れ
売掛金回収における仮差押えは、おおむね次の流れで進みます。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ①申立ての準備 | 被保全権利と保全の必要性を疎明する資料(契約書・請求書・登記情報・調査結果等)を収集し、申立書を作成する。 |
| ②申立て | 管轄裁判所に仮差押命令を申し立てる。管轄は、本案の管轄裁判所または仮に差し押さえるべき物の所在地を管轄する地方裁判所とされています(民事保全法12条)。 |
| ③裁判官との面接・審理 | 書面審理に加え、裁判官との面接(債権者審尋)が行われることが多い。相手方は原則として関与しない。 |
| ④担保決定・供託 | 裁判所が担保金の額を定め、債権者が法務局に供託する(民事保全法14条)。 |
| ⑤発令・執行 | 仮差押命令が発令され、不動産の登記や第三債務者への送達により執行される。 |
迅速性が重視されるため、事案によっては申立てから比較的短期間で発令に至ることもありますが、疎明資料の充実度によって期間は変動します。仮差押えの後は、相手方の申立てにより起訴命令(民事保全法37条)が出されることがあり、指定期間内に本案の訴えを提起した書面を提出しないと命令が取り消されるため、原則として本案訴訟の提起へ進む流れになります。
担保金(供託金)はいくら必要か
仮差押えは相手方に事前の言い分を述べる機会を与えずに発令されるため、後に仮差押えが不当だったと判明した場合に相手方が被る損害を担保する目的で、債権者は裁判所が定めた担保金を供託する必要があります(民事保全法14条)。
担保金の額は事案・対象財産により異なりますが、実務上は、押さえる目的物や被保全債権の額の10〜30%程度が一つの目安とされることが多いようです。売買代金・貸金などの債権を対象とする場合は20〜30%程度が目安とされる例が紹介されています。あくまで幅のある目安であり、最終的には個別の事情を踏まえて裁判所が決定します。
この担保金は費用として消えてしまうものではなく、本案で勝訴が確定するなど一定の要件を満たし、担保取消しの手続を経れば返還を受けられるのが原則です。もっとも、一時的にまとまった資金を用意する必要がある点は、仮差押えを検討するうえで押さえておきたいポイントです。
仮差押えのメリット・デメリットと注意点
仮差押えの最大のメリットは、判決を待たずに相手方の財産を確保できることです。財産を押さえられた相手方が、資金繰りや信用への影響を避けようとして、任意の支払や分割・和解の交渉に応じるケースもあり、事実上の回収促進効果が期待できる場合があります。売掛金回収の初期段階での資料の残し方については、内容証明郵便を自分で出す方法の記事もあわせてご参照ください。
一方で注意点もあります。担保金の負担が生じること、疎明が不十分だと申立てが認められないこと、相手方に不当な損害を与えた場合には後に損害賠償責任を問われるおそれがあることです。対象財産の選定を誤ると空振りに終わったり、第三者に通知が及んで相手方との関係を悪化させたりする可能性もあります。仮差押えは強力な手段であるだけに、対象財産の調査と疎明資料の組み立てが結果を左右します。
なお、相手方に支払能力があり争いも大きくない場合には、まずは支払督促や交渉で足りることもあります。回収不能のリスクが具体的に迫っているかどうかを見極めたうえで、仮差押えという選択肢を検討することが実務上は重要です。時効管理の観点は売掛金の消滅時効に関する記事で解説しています。
よくある質問(FAQ)
仮差押えをすると取引先に知られてしまいますか?
仮差押命令は債務者に事前に知らせず発令されるのが一般的ですが、財産に執行された時点で相手方はこれを知ります。預金や売掛金を対象とした場合は、銀行や取引先などの第三債務者にも通知が届くため、相手方の信用に影響が及ぶ可能性があります。対象財産の選び方は慎重な検討を要します。
仮差押えをすれば売掛金は必ず回収できますか?
仮差押えは将来の強制執行に備えて財産を仮に確保する手続であり、それ自体で支払を受けられるわけではありません。最終的な回収には本案訴訟等で債務名義を得て本執行に移行する必要があると解されています。もっとも、財産を押さえられた相手方が任意の支払や和解に応じる例も少なくありません。
担保金(供託金)は戻ってきますか?
担保金は、本案で勝訴が確定するなど一定の要件を満たし、担保取消しの手続を経ることで返還を受けられるのが原則です。ただし手続には時間を要し、相手方の同意や裁判所の決定が必要になる場面もあります。
仮差押えの後は何もしなくてよいのですか?
そのままにしておくと、債務者の申立てによる起訴命令(民事保全法37条)を受けることがあります。指定された期間内に本案の訴えを提起したことを証する書面を出さないと仮差押命令が取り消されてしまうため、原則として本案訴訟の提起へ進む必要があります。
まとめ
仮差押えは、判決を待たずに相手方の財産を確保し、売掛金回収の実効性を高める手続です。認められるには被保全権利の存在と保全の必要性の疎明が求められ(民事保全法13条2項・20条1項)、担保金の供託(同法14条)も必要になります。対象財産の選定、疎明資料の組み立て、担保金の見通し、その後の本案訴訟への流れまでを一体で設計することが、回収の成否を分けます。
「財産を処分される前に手を打ちたい」「どの財産を押さえれば効果的か判断できない」という場面では、時機を逃さないことが何より重要です。疎明資料の評価や対象財産の選定には専門的な判断を要するため、早い段階で弁護士に相談することで、確保すべき財産を的確に押さえ、その後の回収まで見据えた対応がとりやすくなります。
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