タングラム法律事務所

トレントの開示請求は権利濫用か|「示談金目的」の主張と正当な理由

トレントの開示請求は権利濫用か|「示談金目的」の主張と正当な理由

トレントの開示請求は権利濫用か|「示談金目的」の主張と正当な理由

トレントの開示請求は権利濫用か|「示談金目的」の主張と正当な理由

トレントの開示請求は権利濫用か|「示談金目的」の主張と正当な理由

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年11月5日 最終更新日:2026年11月5日

意見照会書が届き、調べていくと、同じような書面が多くの人に届いていることが分かる。「著作権の保護ではなく、示談金を集めるためのビジネスではないか」「こんな請求は権利の濫用ではないか」――。納得できない気持ちを抱えたまま、回答書の前で手が止まっている方もいらっしゃると思います。

この記事では、BitTorrent(トレント)の開示請求に対して「示談金目的」「権利濫用」と主張できるのかを、法律の要件、裁判例、総務省の公表資料をもとに、発信者側の立場から解説します。あわせて、回答書で実際に意味を持つ主張についても整理します。

結論として、権利者が示談や損害賠償を予定していることは、それだけでは開示を拒む理由になりにくいと考えられます。法律は損害賠償請求権の行使のために必要な場合を、開示を受けるべき正当な理由の典型として定めているためです。争うのであれば、請求の動機を批判するよりも、請求先の誤り、権利関係、調査の正確性、発信者性、故意・過失など、具体的な事実に沿って主張を組み立てることが重要です。

なぜ「示談金目的ではないか」と感じるのか

そう感じること自体には、理由があります。総務省が令和7年11月に公表した「P2Pファイル共有ソフトの不適切な利用による著作権侵害に係る発信者情報開示請求への対応について」によれば、令和6年にアクセスプロバイダへ申し立てられた発信者情報開示請求154,484件のうち、147,746件(約95.6%)が、特定のP2Pファイル共有ソフトを用いたアダルト動画の著作権侵害を内容とする事案でした。なお、この数字は任意回答のアンケートによるもので、実態はさらに多い可能性があるとされています。

同じ資料には、裁判所やアクセスプロバイダの負担が大きくなっているとの声も記載されています。ただし、同資料は「著作権等の財産権侵害事案についても被害救済の必要性が生じ得ることは、誹謗中傷等による人格権侵害事案と変わるものではない」とも述べています。件数が多いことと、個々の請求が違法であることは別の問題です。

開示の要件|「正当な理由」は何を意味するか

発信者情報の開示請求については、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)5条1項が要件を定めています。中心となるのは次の2つです。

要件条文の内容発信者側の争い方の例
権利侵害の明白性(1号)侵害情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことが明らかであるとき権利者性、対象ファイル、調査の正確性、侵害の成否
正当な理由(2号)損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他開示を受けるべき正当な理由があるとき権利行使が明らかに不可能といえる事情の有無

2号の文言のとおり、損害賠償請求権の行使のために必要であることは、正当な理由の代表的な場面です。したがって、「この権利者は賠償金を求めている」という指摘は、法律の枠組みの中では、むしろ開示を求める理由の説明に近いものになります。

一方で、民法1条3項は「権利の濫用は、これを許さない」と定めています。そのため、著作権の行使や開示請求についても、権利濫用に当たる余地がまったくないとまではいえません。ただ、権利濫用は例外的な場合に認められる考え方であり、請求の動機が金銭であるというだけで直ちに認められるものとは考えにくいところです。

裁判例は「正当な理由」をどう判断しているか

裁判所ウェブサイトに掲載されたBitTorrent事案の判決のうち、確認できたものでは、次のように判断されています。

判決作品のジャンル正当な理由についての判断
知財高判令和7年10月20日(令和7年(ネ)第10028号)動画権利者が損害賠償請求等を予定していることから、正当な理由があるとした
東京地判令和6年4月18日(令和5年(ワ)第70386号)動画損害賠償請求等の権利行使を予定していることから、正当な理由を認めた
東京地判令和3年2月19日(令和2年(ワ)第24090号)漫画発信者の回答書だけでは故意過失がなかったとはいえず、損害賠償請求が明らかに不可能ともいえないとして、正当な理由を認めた

特に参考になるのは、令和3年の東京地裁判決です。この事件でプロバイダ側は、発信者の回答書によれば故意過失がなく、損害賠償請求ができないことが明らかなので、正当な理由がないと主張しました。裁判所は、回答書をもって故意過失がなかったとはいえないと判断しています。なお、この判決は現行の情プラ法になる前の法律の下での判断であり、個別の事案に対するものです。

これらの判決に共通するのは、発信者側の主張を退けるにあたり、権利者の動機の善悪ではなく、権利行使の予定や、損害賠償請求が明らかに不可能といえるかどうかを見ている点です。当事務所が今回確認できた範囲の判決文には、「示談金目的」や「権利濫用」を理由に開示を否定した判断は見当たりませんでした。もっとも、確認できたのは公開された判決の一部であり、この種の主張が一切認められないと断定するものではありません。

「権利濫用」より具体的な事実が重要な理由

示談は、損害賠償の問題を話合いで解決する手段です。訴訟を起こさず示談で解決することを目指している場合でも、損害賠償請求権の行使と無関係であるとはいえないと考えられます。法律上も、開示の要件は訴訟の提起に限定されていません。

また、「請求が多い」「費用目的に見える」といった評価は、誰に対する、どの作品についての請求なのかという争点に直接答えるものではありません。プロバイダや裁判所が判断するのは、基本的に個別の通信と権利についてです。意見照会書に記載された事項に対応しないまま反対意見だけを述べても、説得力は限られます。

開示に同意しないと回答した後の手続は、「開示に同意しない」と回答した後の流れの記事で解説しています。同意しないという結論に加えて、その理由の中身が重要になります。

回答書で意味を持つ主張|納得できない気持ちを事実に置き換える

「納得できない」という気持ちは、次のように具体的な検討事項に置き換えることができます。

感じていること確認すべき事項
自分は関係ないはず発信日時に、誰がどの端末で回線を使っていたか。請求先や対象の通信に誤りはないか
この請求者に権利があるのか著作権者や著作隣接権者、権利の譲受人であることが資料から確認できるか
調査が信用できないハッシュ値、ファイル名、IPアドレス、ポート番号、発信日時などの資料に不自然な点はないか
そんなつもりはなかった共有の仕組みの認識、ソフトの設定や利用の経緯など、故意・過失に関する具体的な事情があるか

総務省の資料は、請求先を誤って無関係の者に情報を提供すれば、発信者の権利利益を侵害することになり得ると指摘し、他のプロバイダが媒介した通信に係る請求が混在する事案が多数生じている旨の声も紹介しています。そのうえで、請求者には「権利行使の在り方及び情報の取扱いについて、適切な対応を徹底すること」を求めています。また、協議会が認定した検知システムかどうかを要件判断の参考とすることには「一定の合理性がある」としています。

こうした資料は、権利者の態度を一般的に批判するためではなく、自分の事案で請求先や調査の正確性に具体的な疑問がある場合に検討すべきものです。添付資料の確認方法は、意見照会書の添付資料の読み方の記事をご覧ください。

どの事実をどのように書くかは、利用状況や争点によって大きく変わります。回答書の方針は、発信者情報開示の意見照会対応のページでもご案内しています。また、事実と異なる説明は後の手続で不利になるおそれがあるため、書けることと書くべきことを分けて考える必要があります。

回答書を書くときの注意点

  • 期限内に回答する:総務省の資料は、ガイドラインの記述を引用しつつ、意見照会後2週間程度を経過しても回答がない場合には、回答がなかったことを前提に諾否を判断することは妨げられないとの考え方を示しています。書面に記載された期限を必ず確認してください。
  • 評価より事実を書く:「不当な請求」「金儲け」といった言葉を重ねても、判断の材料にはなりにくいものです。
  • 作り話をしない:回答書は開示の判断や裁判手続の資料となることがあります。令和3年の判決でも、発信者の回答書が判断の対象になっています。
  • 相手への連絡や公開の批判は慎重に:感情的な連絡や投稿が、事実を認める材料になったり、新たな紛争を招いたりするおそれがあります。

開示された後の情報の使われ方は別に確認する

「住所や氏名を何に使われるか分からない」という不安も、示談金目的への疑問と結びつきやすいものです。この点について情プラ法7条は、開示を受けた者が発信者情報をみだりに用いて、不当に発信者の名誉や生活の平穏を害する行為をしてはならないと定めています。

つまり、開示された情報を損害賠償請求に用いることと、不当な目的で用いることは区別されます。具体的な問題は、開示された氏名・住所の扱いと目的外使用の記事で解説しています。なお、開示後に請求を受けた場合には、動機の問題ではなく、対象作品、利用態様、期間、件数など、請求の根拠と内容を個別に検討することになります。

BitTorrentの意見照会書が届き、回答の方針に迷っている方は、BitTorrentの意見照会書への対応をまとめたページもご確認ください。

よくある質問

示談金を払わせるのが目的の開示請求は、違法ではないのですか?

示談は損害賠償請求権を行使する方法の一つと考えられるため、示談を予定していることだけで開示請求が違法になるとはいえません。もっとも、請求の相手や権利の内容、調査の正確性に問題があれば、その点を具体的に争うことはできます。

回答書に「権利濫用だから開示に反対する」と書けば十分ですか?

それだけでは、十分な回答とはいえません。権利濫用は例外的な場合に認められる主張であり、裁判例でも開示の可否は権利侵害の明白性と正当な理由を中心に判断されています。発信日時、回線の利用者、対象ファイルなどの事実に沿って回答を組み立てることが重要です。

訴訟を起こすつもりがなければ「正当な理由」はないのではありませんか?

法律の要件は「損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」であり、訴訟の提起だけが前提とされているわけではありません。確認できた裁判例でも、損害賠償請求等の権利行使を予定していることから正当な理由が認められています。

故意や過失がないと回答すれば、開示は止まりますか?

必ず止まるとはいえません。東京地裁令和3年2月19日判決は、発信者の回答書だけでは故意過失がなかったとはいえず、損害賠償請求が明らかに不可能ともいえないとして、正当な理由を認めました。主張する場合は、裏付けとなる事情を具体的に示す必要があります。

まとめ

  • 損害賠償請求権の行使のために必要な場合は、情プラ法5条1項2号の正当な理由の典型である
  • 権利者が示談や賠償を予定しているだけでは、開示を拒む理由になりにくいと考えられる
  • 確認できた裁判例は、権利行使の予定や、損害賠償請求が明らかに不可能といえるかを見ている
  • 争うときは、請求先、権利関係、調査の正確性、発信者性、故意・過失などの具体的な事実に沿って検討する
  • 回答期限を守り、評価や感情よりも事実を整理して回答する

納得できない気持ちがあるときほど、その気持ちを法的な主張に整理する作業が大切です。弁護士に相談すれば、ご事情の中で何が争点になるのか、何を書くべきでないのかを確認できます。横浜の当事務所では、全国の方からのBitTorrent事案のご相談に、弁護士がオンラインで対応しています。

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タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする意見照会書への対応から、開示後の損害賠償請求・示談交渉まで数多く取り扱っております。届いた書面の内容と利用状況を伺い、回答の方針をご説明します。BitTorrentの意見照会書が届いた方のご相談に限り、オンライン(20分程度)で無料のご相談を承っています(その他の分野のご相談は対象外です)。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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