ハラスメント防止規程の作り方|10月改正対応の条項例を弁護士が解説
ハラスメント防止規程の作り方|10月改正対応の条項例を弁護士が解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年11月5日 最終更新日:2026年11月5日
「カスハラ対策が義務になったが、社内の規程はパワハラとセクハラのまま」「就業規則まで変える必要があるのか」。法務担当者のいない中小企業では、こうした声が少なくありません。
この記事では、2026年10月1日施行のカスタマーハラスメントと求職者等へのセクシュアルハラスメントの措置義務を踏まえ、ハラスメント防止規程の構成、条項の例、就業規則との関係、手続を、横浜の弁護士が解説します。
結論として、ハラスメント防止規程は、対象となる行為と人の範囲、禁止事項、懲戒、相談窓口、不利益取扱いの禁止、再発防止を定めるのが基本です。2026年10月の改正後は、顧客等からの言動と求職者等への言動を対象に加える見直しが考えられます。カスハラは既存の規定で足りれば就業規則の改正は必須ではありませんが、求職者等へのセクハラの行為者への対処は就業規則等の文書に定める必要があります。
ハラスメント防止規程と2026年10月施行の改正ポイント
労働施策総合推進法等の改正法(令和7年法律第63号)により、2026年10月1日から、カスハラ対策と求職者等へのセクハラ対策が事業主の措置義務となりました。企業規模による猶予はありません。各ハラスメントの根拠と文書化の扱いは、次のように整理できます。
| 類型 | 根拠 | 就業規則等への規定の扱い |
|---|---|---|
| パワーハラスメント | 労働施策総合推進法31条(改正前30条の2) | 行為者への対処方針・内容を就業規則等の文書に規定 |
| 職場のセクハラ | 男女雇用機会均等法11条 | 同上 |
| 求職者等へのセクハラ | 男女雇用機会均等法13条、指針(令和8年厚生労働省告示第52号) | 行為者への対処方針・内容を就業規則等の文書に規定(指針4(1)ロ) |
| カスタマーハラスメント | 労働施策総合推進法33条、指針(令和8年厚生労働省告示第51号) | 就業規則等への規定は例示。行為者への懲戒は望ましい取組 |
規程に条文番号を引用している会社は、パワハラの根拠が31条に移った点もあわせて修正が必要です。措置の全体像はカスハラ対策の義務化で企業がすべき措置、採用場面の実務は就活セクハラ防止の義務化の記事で解説しています。
カスハラ対策に就業規則の改正は必須か
厚生労働省の解釈事項Q&A(令和8年9月30日改訂)問18は、信用失墜行為や服務規律違反に対する懲戒規定など、既存の規定に基づいて必要な措置を講じられる場合には、必ずしも就業規則等を改正してカスハラの規定を新設する必要はないとしています。
ただし、指針が求める方針の明確化、対処の内容の周知、相談窓口、プライバシー保護、不利益取扱いの禁止の周知は別途必要です。指針は、相談等を理由に不利益な取扱いをされない旨を就業規則等に規定して周知することを、措置の例として挙げています。
また、自社の社員が取引先などにカスハラをした場合について、指針は就業規則等の規定に基づく懲戒その他の措置を望ましい取組としています。既存の懲戒事由で対応できるか確認しておくとよいでしょう。
就業規則本則か別規程か|委任規定の置き方
規定の方法は大きく2つあります。就業規則の本則に書き込む方法と、本則に委任規定を置いて詳細を別規程に定める方法です。労働局が公表している規定例にも後者の形式があり、類型が増えていく現状では管理しやすいと考えられます。
委任規定の例(就業規則本則)
第○条 ハラスメントの禁止については、第○条(服務規律)及び第○条(懲戒)のほか、詳細は「ハラスメント防止規程」に定める。
別規程にする場合は、懲戒の種別と事由を本則の懲戒条項と結びつけて書くことが重要です。最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決(フジ興産事件)は、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則に懲戒の種別と事由を定めておくことを要し、就業規則が拘束力を生ずるには適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとしています。
ハラスメント防止規程の作り方|盛り込む条項の構成
中小企業であれば、次の構成が考えられます。
| 条項 | 定める内容 |
|---|---|
| 目的・適用範囲 | 対象者と、顧客・求職者等との関係も対象とする旨 |
| 定義 | パワハラ、セクハラ、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント、カスハラ、求職者等へのセクハラ |
| 禁止行為 | 具体例を挙げた禁止事項 |
| 懲戒 | 本則の懲戒条項との対応 |
| 相談窓口 | 担当者、連絡先、相談方法 |
| 事実確認と対応 | 調査の手順、被害者への配慮、行為者への措置 |
| 保護 | プライバシー保護、相談等を理由とする不利益取扱いの禁止 |
| 再発防止 | 研修、周知、事案後の見直し |
規程の見直しや研修の支援については、企業法務の取扱分野のページもご覧ください。
10月改正に対応して追加する条項の例
追加する場合の文例です。自社の実情に合わせて調整してください。
カスハラの定義と対応方針
第○条 顧客等の言動であって、従業員の業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、従業員の就業環境が害されるものをカスタマーハラスメントという。
2 会社は、カスタマーハラスメントに対して毅然とした態度で対応し、従業員を保護する。対応の手順は別に定めるマニュアルによる。
求職者等への言動の禁止
第○条 従業員は、求職者、会社の採用に資する活動に参加する者その他の求職者等に対し、性的な言動を行ってはならない。
2 採用活動における面談の時間、場所、連絡手段等は、会社が別に定めるルールに従う。
3 前2項に違反した者は、就業規則第○条に基づき懲戒処分の対象とする。
不利益取扱いの禁止
第○条 会社は、相談をしたこと又は事実確認に協力したことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしない。
カスハラでは、指針が例示する、管理監督者の指示を仰ぐこと、できる限り1人で対応させないこと、犯罪に該当し得る言動の警察への通報などをマニュアルに具体化します。業界団体のマニュアルを配布するだけでは足りず、自社の実情に応じた調整が必要です(Q&A問20)。
規程の届出・意見聴取と周知の手順
- 意見聴取:常時10人以上の事業場では、過半数組合又は過半数代表者の意見を聴きます(労働基準法90条1項)。
- 届出:意見書を添付して、所轄の労働基準監督署長に届け出ます(同法89条、90条2項)。懲戒の定めは就業規則の記載事項(同法89条9号)で、別規程も就業規則の一部として扱われると解されています。
- 周知:掲示、書面交付、社内システムへの掲載などで周知します(同法106条1項)。Q&A問8は、所属部署や雇用形態を問わず全労働者への周知が必要としています。
これらの違反は30万円以下の罰金の対象とされています(同法120条1号)。手続の詳細は就業規則の作成義務と届出手順の記事をご覧ください。
常時10人未満の事業場でも措置義務は適用されるため、簡潔な規程を作って周知しておくことが望ましいでしょう。求職者等の窓口や面談ルールは、採用サイト等での周知も検討します。
ハラスメント防止規程に関するよくある質問
カスハラ対策のために就業規則を必ず改正しなければなりませんか?
必ずとは限りません。厚生労働省のQ&A(問18)は、信用失墜行為や服務規律違反に対する懲戒規定など既存の規定に基づいて必要な措置を講じられる場合には、必ずしも就業規則等を改正してカスハラの規定を新設する必要はないとしています。もっとも、方針や対処の内容の明確化と周知は必要です。
従業員が10人未満の会社にもハラスメント防止規程は必要ですか?
常時10人未満の事業場に就業規則の作成・届出義務はありませんが、ハラスメント防止の措置義務は規模を問わず適用されます。懲戒にはあらかじめ種別と事由を定めて周知しておくことが求められるため、文書で定めておくことが望ましいといえます。
相談窓口はハラスメントの種類ごとに分ける必要がありますか?
カスハラ指針は、他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置することも考えられるとしています。Q&A(問11)は、一体化する必要はないが妨げるものでもないとしており、会社の規模に合わせて選ぶことができます。
今は採用活動をしていない会社も、求職者等に関する規定が必要ですか?
Q&A(問37)は、定期的に採用活動をしていない場合でも、採用活動を始めるのであれば措置義務を履行する必要があるとしています。規程の改定時に対象に含めておくと効率的です。
まとめ|ハラスメント防止規程は実情に合わせて見直しを
ハラスメント防止規程は、対象を顧客等からの言動と求職者等への言動に広げ、条文番号も確認することが基本です。カスハラは既存の規定で足りる場合もありますが、方針、窓口、対処の内容の周知は欠かせません。別規程では本則の懲戒条項とのつながりと周知に注意しましょう。
既存の規定で足りるか、懲戒の根拠として十分かは会社ごとに判断が分かれます。弁護士に相談すれば、問題が起きた際の調査や処分まで見通して整備できます。当事務所は横浜の法律事務所として、中小企業からのご相談に対応しています。
ハラスメント防止規程の見直しはご相談ください
タングラム法律事務所では、企業法務(契約書レビュー・労務・法改正対応等)について、中小企業・個人経営の事業者向けに豊富な実績を有しております。就業規則やハラスメント防止規程の整備、事案発生時の調査・処分についても弁護士がサポートいたします。
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