相続で遺産かどうか争いがあるとき|遺産確認の訴えを弁護士が解説
相続で遺産かどうか争いがあるとき|遺産確認の訴えを弁護士が解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年11月5日 最終更新日:2026年11月5日
「兄名義の預金は、本当は親のお金のはず」「その土地は自分が買ったものだから遺産ではない」。遺産分割の話し合いを始めたところ、分け方以前に、どの財産が遺産なのかで対立してしまうことがあります。相手の言い分に納得できないまま、話が止まってしまった方も多いのではないでしょうか。
この記事では、遺産かどうかの争いが遺産分割調停でどう扱われるのか、合意できないときの「遺産確認の訴え」の仕組み、相手方の範囲、証拠、見落としやすい期限を解説します。
結論として、遺産かどうかは遺産分割の前提となる問題です。相続人全員が合意できれば調停を進められますが、合意できなければ、地方裁判所等での遺産確認の訴えにより、遺産に属するかを確定させることが考えられます。この訴えは原則として相続人全員を当事者とする必要があり、調停を取り下げる場合は相続開始から10年の期限にも注意が必要です。
相続で遺産かどうかが争いになる典型例
民法898条1項により、相続人が複数いるとき、相続財産は相続人の共有となります。しかし、死亡時に被相続人のものだったかどうかが、名義だけでは分からない財産もあります。争いになりやすいのは次のような場合です。
| 財産の例 | 主な対立点 |
|---|---|
| 子や配偶者名義の預金 | 実質は被相続人の預金か、名義人の固有の預金か(生前に贈与された預金か) |
| 相続人名義の不動産 | 購入資金を出した被相続人のものか、名義人のものか |
| 被相続人名義の不動産 | 資金を出した相続人の財産か、生前に贈与・売買があったか |
| 現金・貴金属など | 死亡時に存在していたか、誰のものか |
名義預金については、名義預金の帰属の判断基準の記事も参考にしてください。なお、生前に引き出されて死亡時に残っていない預金は、遺産の範囲の問題とは別に、不当利得返還請求などの問題となることが一般的です。
遺産の範囲は遺産分割調停でどう扱われるか
遺産分割調停は、一般に、相続人の範囲、遺言の有無、遺産の範囲、評価、特別受益・寄与分、分割方法という順序で段階的に進められます。遺産の範囲は、分け方の話に入る前に整理すべき「前提問題」にあたります。遺産分割調停を有利に進める方法の記事で解説した主張の整理も、この段階から重要になります。
調停はあくまで話し合いの手続ですから、相続人全員が「この財産を遺産に含める」と合意できれば、その前提で手続を進めることができます。合意の内容は調書等に残し、後から蒸し返されないようにしておくことが大切です。
合意できない場合、審判に進めばよいと考えるかもしれません。確かに、最高裁昭和41年3月2日大法廷決定(民集20巻3号360頁)は、家庭裁判所が審判の中で前提問題を判断してもよいとしています。ただし、その判断には既判力がなく、後の民事訴訟で権利の存在が否定されれば、審判もその限度で効力を失うとされています。
そのため実務では、先に訴訟で決着をつけるよう、裁判所から調停の取下げを勧められることがあります。応じない場合は、家事事件手続法271条の「調停をしない」措置により事件が終了することもあると解説されています。
遺産確認の訴えとは
遺産確認の訴えは、特定の財産が被相続人の遺産に属すること、つまり遺産分割前の共有状態にあることの確認を求める民事訴訟です。最高裁昭和61年3月13日判決(民集40巻2号389頁)は、共同相続人間のこの訴えを適法と認めました。
勝訴判決が確定すると、その財産が遺産分割の対象であることが既判力をもって確定します。後の遺産分割の手続で遺産かどうかを争い直せなくなる点が、自分の持分の確認を求める訴訟との大きな違いです。
| 手続 | 場所 | 特徴 |
|---|---|---|
| 遺産分割調停での合意 | 家庭裁判所 | 全員の合意が必要。合意できれば早い解決が期待できる |
| 遺産分割審判での判断 | 家庭裁判所 | 前提問題も判断できるが既判力はなく、後の訴訟で覆るおそれがある |
| 遺産確認の訴え | 地方裁判所等 | 判決確定により遺産かどうかを確定できる。判決まで長期化することもある |
訴訟の費用(収入印紙)や提起する裁判所は、対象財産の価額などによって変わるため、個別に確認が必要です。手続の選び方や当事務所の対応範囲は、遺産分割・遺留分などの相続問題のページをご覧ください。
遺産確認の訴えは相続人全員を当事者にする
最も注意すべきなのは当事者です。最高裁平成元年3月28日判決(民集43巻3号167頁)は、共同相続人間の遺産確認の訴えを、共同相続人全員が当事者として関与し、全員について一律に確定する必要がある「固有必要的共同訴訟」と判断しました。争っている相手だけを被告にすると、訴えが不適法とされるおそれがあります。
- 争いに関心のない相続人も、原告または被告として加える必要がある
- 訴訟の途中で一部の共同被告に対する訴えだけを取り下げても、原則として効力を生じない(最高裁平成6年1月25日判決・民集48巻1号41頁)
- 自己の相続分の全部を譲渡した者は当事者適格を有しないとされる(最高裁平成26年2月14日判決・民集68巻2号113頁)
提訴の前に、戸籍で相続人を確定し、相続分の譲渡や相続放棄の有無も確認しておくことが重要です。
遺産かどうかを判断する証拠
名義預金では、名義だけでなく、預金の原資、口座を開設した人、通帳や届出印を管理していた人、名義人となった経緯、出金の内容などを総合して判断される傾向があります。特に原資が重要とされますが、古い資金の流れは証明が難しいことも少なくありません。
- 預金:取引履歴、口座開設時の資料、贈与税の申告書、贈与契約書
- 不動産:売買契約書、登記事項証明書、購入資金の振込記録、固定資産税の負担状況
- 共通:被相続人の収入や資産の資料、当時のメール・手紙など
金融機関の保存期間が過ぎた記録は入手できないこともあるため、早めの資料収集が大切です。また、遺産でないと確定した財産でも、生前贈与であれば特別受益として問題になる可能性があります。
見落としやすい期限と税務の注意点
まず、遺産分割の10年ルールです。民法904条の3により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益・寄与分による具体的相続分の主張ができません。ただし、10年を経過する前に家庭裁判所へ遺産分割の請求をしていれば、この制限は適用されません。
遺産確認の訴えのために調停を取り下げると、この請求がなくなり、訴訟の間に10年が経過してしまうおそれがあります。訴訟は判決確定まで数年かかることもあるため、古い相続では特に慎重な判断が必要です。なお、10年経過後の調停の取下げには、相手方の同意が必要です(家事事件手続法273条2項)。令和5年4月1日より前に開始した相続には経過措置があり、相続開始から10年と2028年4月1日のいずれか遅い時が基準となります。
次に、遺留分です。遺産に含まれるかどうかは遺留分の計算にも影響します。遺留分侵害額の請求権は、相続の開始と侵害を知った時から1年で時効により消滅するため(民法1048条)、遺産の範囲の決着を待たず、期限内に意思表示をしておくことが重要です。争いのない財産については、遺産の一部分割を先行させることも検討できます。
また、相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月です(相続税法27条1項)。遺産の範囲が未確定でも期限は延びず、名義預金は税務上も相続財産と扱われることがあります。具体的な取扱いは、税理士または税務署にご確認ください。
よくある質問
遺産かどうかの争いは、遺産分割調停で解決できますか。
相続人全員が「遺産に含める」「含めない」と合意できれば、その前提で調停を進められます。合意できない場合は、遺産確認の訴えなど民事訴訟での解決が必要になることがあります。
遺産確認の訴えは、相続人の一部だけを相手にできますか。
できないと考えるべきです。最高裁は、共同相続人全員が当事者として関与する必要がある訴訟と判断しています。そのため、自分以外の相続人全員を被告にするのが基本です。
亡くなった親の名義ではない預金も遺産になりますか。
名義だけでは決まらず、原資、口座の開設者、通帳や印鑑の管理者などを総合して判断される傾向があります。子の名義でも実質は親の預金と判断される場合があり、反対に贈与が成立していて遺産にあたらない場合もあります。
遺産確認の訴えの前に、遺産分割調停を取り下げても大丈夫ですか。
相続開始から10年が近い場合は特に注意が必要です。取下げによって、特別受益や寄与分の主張に影響するおそれがあります。10年経過後の取下げには相手方の同意も必要です。取り下げる前に弁護士へご相談ください。
まとめ
遺産かどうかの争いは、遺産分割の前提問題です。調停で全員が合意できれば進めることができますが、合意できない場合は遺産確認の訴えが選択肢となります。この訴えは相続人全員を当事者とする必要があり、証拠の見通しに加えて、10年ルールや遺留分の時効にも配慮して手続を選ばなければなりません。
調停で粘るか、訴訟に進むか、一部分割を先行させるかは、事案によって判断が分かれます。横浜で相続に対応する弁護士として、当事務所でもご相談をお受けしています。早い段階で弁護士に相談することで、証拠と期限を踏まえた見通しを立てやすくなります。
遺産かどうかの争いでお困りの方へ
横浜のタングラム法律事務所では、遺産分割や遺留分など、相続人間の紛争について多くのご相談をお受けしております。遺産の範囲の争いについても、証拠と期限を踏まえて手続の選択をご一緒に検討します。
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