相続の生前贈与はいつまで遡る?7年・10年の違いを弁護士が解説
相続の生前贈与はいつまで遡る?7年・10年の違いを弁護士が解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年11月2日 最終更新日:2026年11月2日
「兄は20年前に親から住宅資金を出してもらったのに、相続では考慮されないのか」「8年前の贈与はもう関係ないと言われた」。相続の話し合いでは、昔の生前贈与をどこまで持ち出せるのかが争いの火種になりがちです。
この記事では、生前贈与が遡る期間を相続税・遺産分割・遺留分の3場面に分けて整理し、2027年1月から始まる相続税の加算期間の延長と、争いになったときの確認点を横浜の弁護士が解説します。
結論として、生前贈与が遡る期間は場面ごとに異なります。相続税の加算は相続開始前3年以内から7年以内へ段階的に延長され、遺留分の計算は相続人への贈与が原則10年、相続人以外への贈与が原則1年です。遺産分割の特別受益には贈与時期の制限がありませんが、相続開始から10年を経過すると原則として主張できなくなります。
生前贈与が遡る期間は3つの場面で異なる
「生前贈与は7年」「10年」という説明を耳にすることがありますが、これらは別々の制度の話です。まず全体像を確認します。
| 場面 | 遡る期間 | 対象となる贈与 | 評価の時点 |
|---|---|---|---|
| 相続税の加算(相続税法19条) | 3年以内から7年以内へ段階的に延長 | 相続等で財産を取得した人が、被相続人から暦年課税で受けた贈与 | 贈与時 |
| 遺産分割の特別受益(民法903条) | 贈与時期の制限なし(相続開始から10年経過後の分割は原則適用なし) | 共同相続人が受けた、婚姻・養子縁組のため又は生計の資本としての贈与 | 相続開始時(民法904条) |
| 遺留分の計算:相続人への贈与(民法1044条3項) | 原則として相続開始前10年間 | 婚姻・養子縁組のため又は生計の資本としての贈与 | 相続開始時(民法1044条2項) |
| 遺留分の計算:相続人以外への贈与(民法1044条1項) | 原則として相続開始前1年間 | 贈与全般 | 相続開始時(民法1044条2項) |
注意したいのは、ある場面で対象外の贈与が、別の場面でも対象外になるとは限らないことです。たとえば15年前の住宅資金の援助は、相続税の加算対象にはなりませんが、遺産分割では特別受益として問題になることがあります。
相続税の生前贈与加算は2027年から段階的に7年へ
相続税の加算期間は令和5年度税制改正で3年から7年に延長されましたが、経過措置があるため、影響が出始めるのは2027年1月1日以後の相続からです。国税庁の案内では次のとおりです。
| 相続開始日 | 加算対象期間 |
|---|---|
| 2026年12月31日まで | 相続開始前3年以内 |
| 2027年1月1日~2030年12月31日 | 2024年1月1日から死亡の日までの間 |
| 2031年1月1日以後 | 相続開始前7年以内 |
延長された部分(相続開始前3年以内より前の贈与)については、その合計額から総額100万円までは加算されません。相続等で財産を取得しなかった人への贈与は原則として加算されず、相続時精算課税を選択した贈与は別の仕組みで扱われます。
遺産分割の特別受益に贈与時期の制限はない
相続人間の公平を図る制度が特別受益です。共同相続人の中に、婚姻・養子縁組のため又は生計の資本として贈与を受けた人がいる場合、その価額を相続財産に加えて各自の相続分を計算し、贈与を受けた人の相続分から差し引きます(民法903条1項)。この条文には贈与時期の限定がないため、数十年前の贈与でも特別受益にあたる可能性があります。どのような贈与が該当するかは、相続の特別受益にあたるものの具体例と判断基準で解説しています。
ただし、次の2点に注意が必要です。
- 10年の期間制限:相続開始から10年を経過した後の遺産分割には、特別受益の規定が原則として適用されません(民法904条の3)。10年を経過する前に家庭裁判所へ遺産分割を請求した場合などは例外です。2023年4月1日より前に開始した相続にも適用され、相続開始から10年と施行から5年のいずれか遅い時までの猶予が設けられています。詳しくは遺産分割の10年ルールをご覧ください。
- 持戻し免除:被相続人が特別受益の計算をしなくてよいとの意思を表示していた場合は、その意思に従います(民法903条3項)。
遺留分の計算は相続人10年・相続人以外1年が原則
遺留分を算定するための財産の価額は、相続開始時の財産に贈与した財産の価額を加え、債務を控除して計算します(民法1043条1項)。ここに含まれる贈与には期間の限定があります(民法1044条)。
- 相続人以外への贈与:相続開始前の1年間にしたものが原則です。
- 相続人への贈与:相続開始前の10年間にしたもので、婚姻・養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に限られます。
- 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与:上記の期間より前のものも含まれます。
この「損害を加えることを知って」は、贈与の当時、遺留分を侵害することになると認識していたことに加え、将来被相続人の財産が増加しないとの認識まで必要とするのが判例の立場とされています(大判昭和11年6月17日など)。贈与から相続開始まで長期間が経過している場合には認められにくく、立証責任は請求する側にあると解されています。
なお、10年の限定は2019年7月1日に施行された改正民法によるものです。改正前は、相続人への贈与は相当以前のものでも特段の事情がない限り遺留分の対象になるとされていました(最判平成10年3月24日)。2019年6月30日以前に開始した相続では扱いが異なるため、相続開始日の確認が欠かせません。
また、遺留分侵害額を算定する際には、請求する本人が受けた遺贈や特別受益にあたる贈与の価額を控除します(民法1046条2項1号)。この規定に10年という限定は書かれていないため、請求する側も、自身が過去に受けた贈与の有無を確認しておく必要があります。計算の全体像は遺留分侵害額の計算方法をご覧ください。
昔の生前贈与が争いになったときの確認点
生前贈与をめぐる紛争では、「いつ」「誰に」「何のために」「いくら」贈与されたのかが、結論を左右します。次の点を順に確認しましょう。
- 相続開始日:相続税の加算期間、遺留分の適用法令、10年の期間制限の起算点が決まります。
- 贈与の時期と受贈者:相続人か相続人以外かで、遺留分の計算上の期間が変わります。
- 贈与の趣旨:住宅資金、開業資金、結婚の際の持参金などは、生計の資本等にあたるかが問題になります。
- 証拠:預金の取引履歴、贈与契約書、不動産登記事項証明書、贈与税の申告書控えなどを集めます。相続人の一人は、金融機関に被相続人名義の預金の取引経過の開示を求めることができるとされています(最判平成21年1月22日)。
古い贈与ほど資料が残りにくいため、早い段階で調査を始めることが重要です。遺留分侵害額の請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年で時効により消滅するため(民法1048条)、贈与の調査に時間がかかりそうな場合でも、まず請求の意思表示を済ませておくことを検討すべきです。
当事者間で贈与の事実や趣旨の認識が食い違う場合には、遺産分割調停を利用することも考えられます。争点の整理や証拠の集め方に不安がある場合には、相続問題の取扱分野ページもご参照のうえ、弁護士へのご相談をご検討ください。
よくある質問
15年前に兄が受けた住宅資金の援助は、遺産分割で主張できますか?
婚姻・養子縁組のため又は生計の資本としての贈与にあたれば、特別受益の規定に贈与時期の制限はないため、主張できる可能性があります。ただし、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益を主張できなくなります。また、被相続人が持戻し免除の意思を示していた場合は計算に含まれません。
10年より前の贈与は、遺留分の計算に一切入らないのですか?
相続人への贈与は原則として相続開始前10年間のものに限られますが、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合は、それより前の贈与も算入されます。もっとも、この事情は請求する側が立証する必要があると解されており、贈与から長期間経過している場合には認められにくい傾向があります。
2026年中に亡くなった場合、相続税の加算期間は何年ですか?
国税庁の案内によれば、2026年12月31日までに開始した相続の加算対象期間は相続開始前3年以内です。
まとめ
生前贈与が遡る期間は、相続税・遺産分割・遺留分で異なります。「税金の話では対象外だから、相続人間でも関係ない」とは言い切れない点が、この問題の難しいところです。どの贈与を主張できるかは、相続開始日、贈与の趣旨、証拠の有無によって変わります。弁護士に相談することで、主張できる贈与を整理し、時効や期間制限を踏まえた進め方を検討できます。横浜で相続の紛争にお悩みの方は、早めに弁護士へご相談ください。
昔の生前贈与をめぐる相続トラブルでお悩みの方へ
タングラム法律事務所では、遺産分割や遺留分侵害額請求など、相続に関する紛争のご相談をお受けしています。過去の贈与をどこまで主張できるのか、事案に即して検討いたします。
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