遺留分侵害額請求と遺産分割の違い|両方ある場合の進め方を弁護士が解説
遺留分侵害額請求と遺産分割の違い|両方ある場合の進め方を弁護士が解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月16日 最終更新日:2026年10月16日
「遺言で兄にほとんどの財産が渡ることになっていた。遺産分割をやり直したいのか、遺留分を請求すべきなのか分からない」「遺産分割の話し合いをしていたら、相手から遺留分の話を持ち出された」――相続の紛争では、遺産分割と遺留分侵害額請求という2つの制度が入り混じり、何を、いつまでに、どの手続で求めればよいのか混乱してしまう方が少なくありません。
この記事では、遺留分侵害額請求と遺産分割の違いを「対象」「期限」「手続」の3つの面から整理し、遺言で一部の財産だけが分けられた場合など、両方が問題になるケースの進め方を、横浜で相続事件を扱う弁護士が解説します。
結論から言うと、遺産分割は「遺言等で行き先が決まっていない遺産を相続人間で分ける手続」、遺留分侵害額請求は「遺言や贈与で取り分を侵害された相続人が、受け取った人に金銭の支払を求める権利」です。遺留分には「知った時から1年」という短い期間制限があり、遺産分割の申入れをしているだけでは足りない場合があるため、両方が関係しそうなときは、遺留分の意思表示を別途明確に行っておくことが重要です。
遺留分侵害額請求と遺産分割の違い【比較表】
まずは2つの制度の違いを一覧で確認しましょう。
| 項目 | 遺産分割 | 遺留分侵害額請求 |
|---|---|---|
| 目的 | 相続人が共有している遺産を、誰が何を取得するか決める | 遺言・贈与で侵害された最低限の取り分を金銭で回復する |
| 主な根拠 | 民法906条・907条 | 民法1042条・1046条 |
| 当事者 | 相続人全員(包括受遺者等を含む) | 遺留分権利者と、遺贈・贈与を受けた人 |
| 求める内容 | 遺産そのものの分け方 | 遺留分侵害額に相当する金銭の支払 |
| 期間制限 | 分割請求自体に期限はない(ただし相続開始から10年経過後は原則として特別受益・寄与分を主張できない。民法904条の3) | 相続の開始と侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、または相続開始から10年(民法1048条) |
| 裁判所の手続 | 家庭裁判所の遺産分割調停 → 不成立なら自動的に審判へ | 家庭裁判所の遺留分侵害額の請求調停 → 不成立なら訴訟 |
| 兄弟姉妹 | 相続人であれば参加できる | 遺留分がないため請求できない |
なお、現行の遺留分侵害額請求の規定は、令和元年(2019年)7月1日以降に開始した相続に適用されます。それより前に亡くなった方の相続では、改正前の「遺留分減殺請求」の規定が適用されます。
遺産分割とは|行き先の決まっていない遺産を分ける手続
遺言がない場合、相続財産はいったん相続人全員の共有状態になり、これを解消するのが遺産分割です。共同相続人は、遺言で分割が禁じられている場合などを除き、いつでも協議で遺産の全部または一部を分割でき(民法907条1項)、協議が調わないときは家庭裁判所に分割を請求できます(同条2項)。
遺産分割では、法定相続分を出発点に、生前贈与などの特別受益や、介護・家業への貢献による寄与分を考慮して、各相続人の取得分を調整します。ただし、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益・寄与分の主張ができなくなる点に注意が必要です(民法904条の3)。
家庭裁判所の遺産分割調停は、相手方のうち一人の住所地の家庭裁判所などに申し立て、費用は被相続人1人につき収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手です。調停が不成立になった場合には自動的に審判手続が開始されます(裁判所ウェブサイト)。手続の詳細は「遺産分割調停を自分で申し立てる方法」で解説しています。
遺留分侵害額請求とは|侵害された取り分を金銭で取り戻す権利
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に法律上保障された最低限の取り分です。直系尊属のみが相続人の場合は基礎財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1に、各自の法定相続分を掛けた割合となります(民法1042条)。
遺言や生前贈与によってこの取り分が侵害された場合、遺留分権利者は、遺贈や贈与を受けた人に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できます(民法1046条1項)。改正前のように不動産などの「物」を取り戻す権利ではなく、あくまで金銭債権である点が、遺産そのものを分ける遺産分割との大きな違いです。具体的な計算方法は「遺留分侵害額の計算方法」をご覧ください。
話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てることができます(相手方の住所地の家庭裁判所等。収入印紙1,200円分と郵便切手)。調停が成立しなかった場合、遺産分割と異なり審判には移行しないため、地方裁判所(請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所)に訴訟を提起して解決を図ることになります。
遺産分割と遺留分の両方が問題になる典型的なケース
ケース1:遺言で全財産が特定の相続人に渡る場合
「全財産を長男に相続させる」という遺言が有効であれば、遺産分割の対象となる財産は原則として残りません。この場合、他の相続人が取り得る手段は、遺言の効力を争うか、遺留分侵害額請求をするかのいずれかとなります。
ケース2:遺言で一部の財産だけが指定されている場合
たとえば「自宅は長女に相続させる」とだけ書かれ、預貯金については何も書かれていない場合、自宅は遺言どおり長女が取得し、残りの預貯金は遺産分割で分けることになります。このとき、遺留分侵害額は「遺産分割で取得すべき遺産の価額」を差し引いて計算されます(民法1046条2項2号)。つまり、遺産分割の結果が遺留分侵害額に影響するため、2つの問題を切り離さず、全体を見通して進めることが重要です。
なお、この計算で用いる相続分は、民法900条から902条まで・903条・904条により算定するものとされ、寄与分(904条の2)は条文上挙げられていません。遺産分割で寄与分を主張する場合と、遺留分を計算する場合とで、数字の扱いが異なり得る点にも注意が必要です。
ケース3:生前贈与が多額にある場合
遺言がなくても、特定の相続人に多額の生前贈与がされている場合には、遺産分割の中で特別受益として調整するのか、遺留分侵害額請求の問題になるのかが争点となることがあります。どちらの枠組みで主張するかによって、期限や手続が変わります。
注意!遺産分割の申入れだけでは遺留分の時効を止められないことも
両方が問題になるケースで最も注意すべきなのが、遺留分侵害額請求の「1年」という期間制限です。遺産分割の話し合いが長引いている間に1年が経過してしまうと、遺留分を請求できなくなるおそれがあります。
この点について、最高裁平成10年6月11日判決(民集52巻4号1034頁)は、遺産分割協議の申入れに当然に遺留分減殺の意思表示が含まれるとはいえないとしつつ、被相続人の全財産が一部の相続人に遺贈され、遺留分権利者が遺贈の効力を争わずに遺産分割協議を申し入れたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれると解するのが相当と判断しました。これは改正前の制度に関する判断であり、事情によっては遺産分割の申入れだけでは意思表示と認められない可能性があります。
また、裁判所ウェブサイトでも、遺留分侵害額の請求調停を申し立てただけでは相手方に対する意思表示とはならず、調停の申立てとは別に内容証明郵便等で意思表示を行う必要があると案内されています。
調停手続の流れは「遺留分侵害額の請求調停を自分で申し立てる方法」で詳しく解説しています。
遺留分侵害額請求と遺産分割を進める手順
- 遺言書と遺産の全体像を確認する:遺言の有無・内容、預貯金・不動産・生前贈与を調査します。
- どの財産が遺産分割の対象で、どこに遺留分の問題があるかを整理する:遺言で行き先が決まった財産と、決まっていない財産を区別します。
- 遺留分の意思表示を期限内に行う:内容証明郵便で明確に行い、配達の記録を保管します。
- 協議・調停で全体的な解決を目指す:当事者が合意すれば、遺産の分け方と遺留分の精算をまとめて取り決めることも考えられます。
- 合意できなければ、遺産分割は審判、遺留分は訴訟で解決する:手続が分かれるため、主張の一貫性に注意します。
相続税の申告後に遺留分侵害額の支払額が確定した場合は、支払った側は確定を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求ができる場合があり(相続税法32条1項3号)、受け取った側は申告が必要になる場合があります。税金の具体的な扱いについては、税理士または税務署にご確認ください。
当事務所の相続分野の取扱内容は、相続・遺留分侵害額請求・遺産分割のご相談ページでご案内しています。
よくある質問
遺産分割調停の中で遺留分侵害額請求も一緒に解決できますか?
調停は話し合いの手続ですので、当事者全員が合意すれば、遺産の分け方と遺留分の精算をまとめて取り決めることは可能と考えられます。ただし、遺留分侵害額請求権は金銭の支払を求める権利で、遺産分割の審判で支払を命じてもらう手続ではありません。合意に至らなければ、遺留分については別途訴訟で解決することになります。
遺言の有効性を争いながら遺留分侵害額請求もできますか?
できます。遺言が無効であれば遺産分割の問題となり、有効であれば遺留分の問題となるため、実務では遺言の無効を主張しつつ、予備的に遺留分侵害額請求の意思表示をしておくことが一般的です。遺言の効力を争っている間も遺留分の1年の期間は進行すると考えておくべきです。
兄弟姉妹にも遺留分はありますか?
ありません。民法1042条は遺留分を兄弟姉妹以外の相続人に認めています。兄弟姉妹が相続人となる場合、遺言がなければ遺産分割に参加できますが、遺言で他の人に財産が承継された場合に遺留分侵害額請求をすることはできません。
遺留分侵害額を受け取った場合、相続税はどうなりますか?
受け取った側は相続税の申告や修正申告が必要になる場合があり、支払った側は、支払うべき金額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求ができる場合があります(相続税法32条1項3号)。具体的な扱いは税理士または税務署にご確認ください。
まとめ|遺留分と遺産分割が絡む相続は早めに弁護士へ
- 遺産分割は「行き先の決まっていない遺産を分ける手続」、遺留分侵害額請求は「侵害された取り分を金銭で請求する権利」
- 遺産分割調停は不成立なら審判へ、遺留分侵害額の請求調停は不成立なら訴訟へと、手続が分かれる
- 遺言で一部の財産だけが指定されている場合、遺産分割の結果が遺留分侵害額の計算に影響する
- 遺留分は知った時から1年で時効にかかるため、遺産分割の協議中でも内容証明で意思表示をしておくのが安全
2つの制度が絡む相続では、どの順序で何を主張するかによって、最終的に受け取れる金額が変わる可能性があります。弁護士にご相談いただければ、遺言の有効性、遺産の範囲、遺留分の金額を全体として検討したうえで、期限を逃さない進め方をご提案できます。横浜周辺で相続の紛争にお悩みの方は、お早めにご相談ください。
遺留分と遺産分割が絡む相続のご相談
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