漫画・電子書籍のトレント共有と出版権|出版社からの意見照会書
漫画・電子書籍のトレント共有と出版権|出版社からの意見照会書
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月17日 最終更新日:2026年10月17日
BitTorrent(トレント)を理由とする意見照会書を開いてみたら、対象は映像作品ではなく、漫画や小説の電子データだった――。照会者の欄に作者ではなく出版社の名前が書かれていて、「なぜ出版社が?」「本なのに映像と同じ扱いなのか」と戸惑う方も少なくありません。
この記事では、漫画・小説などの書籍がどのような著作物として保護されているのか、電子書籍にも及ぶ「出版権」とは何か、出版社が請求者となる理由、令和3年に始まった違法ダウンロード規制との関係、そして照会書を受け取ったときの確認点を、発信者側の立場から解説します。
結論として、漫画や小説の電子データをBitTorrentで他の利用者が取得できる状態に置けば、著作権者の送信可能化権の侵害を理由に開示請求を受ける可能性があり、出版社が出版権の設定を受けている場合には、出版社自身が請求者となることもあります。照会書に記載された権利の種類と根拠、対象の巻・ファイル、発信日時を確認したうえで、回答の方針を決めることが大切です。
漫画・小説・電子書籍はどのような著作物か
著作権法は、著作物の例として「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」(10条1項1号)と「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」(同項4号)を挙げています。書籍の種類ごとに整理すると、おおむね次のとおりです。
| 対象 | 主に問題となる著作物 | 照会者となり得る者 |
|---|---|---|
| 小説・ライトノベル・実用書 | 言語の著作物(挿絵は美術の著作物) | 著作者、出版権者(出版社) |
| 漫画 | 絵とストーリー・台詞が一体となった著作物(美術・言語の要素を含む) | 漫画家、原作者、出版権者(出版社) |
| 写真集・画集 | 写真の著作物・美術の著作物 | 撮影者・作者、出版権者 |
電子書籍は、紙の本と同じ作品をデータとして表現したものにすぎず、紙か電子かで著作物としての保護が変わるわけではありません。原作付きの漫画では、作画者のほかに原作者の権利が問題となることもあります。
電子書籍にも及ぶ「出版権」とは
出版権は、複製権や公衆送信権を持つ者(多くは作者)が、出版社などに設定する権利です(79条1項)。平成26年の著作権法改正(平成27年1月1日施行)により、紙の出版だけでなく、電子書籍としてインターネットで送信する行為を引き受ける者にも出版権を設定できるようになりました。
出版権者は、設定行為で定めるところにより、原作のまま印刷等の方法で複製する権利や、記録媒体に記録された複製物を用いて公衆送信を行う権利を専有します(80条1項1号・2号)。ここでいう公衆送信には、自動公衆送信の場合の送信可能化も含まれます(79条1項)。そして、出版権者は、著作者・著作権者と並んで、自己の権利を侵害する者に対し侵害の停止等を請求できる者として規定されています(112条1項)。
文化庁も、この改正の狙いとして、出版者が海賊版の無断送信を自ら差し止められるようにすることを挙げています。漫画や小説の照会書で出版社が照会者となっているのは、こうした出版権を根拠とする場合があるためです。
BitTorrentでの書籍データの共有が問題とされる理由
著作権者は、著作物を公衆送信する権利を専有し、自動公衆送信の場合にはその送信可能化も含まれます(23条1項)。BitTorrentのクライアントソフトは、通常、ダウンロード中であっても取得済みのデータの断片(ピース)を、同じファイルを求める他の利用者に送信する仕組みになっています。そのため、「読むためにダウンロードしただけ」のつもりでも、送信可能化の状態にあったと評価される可能性があります。この点は「「ダウンロードしただけ」は通用するか|トレント開示請求と送信可能化権」で詳しく説明しています。
書籍のデータは映像に比べて容量が小さいことが多い一方、漫画では数巻から全巻をまとめた一つのファイルとして流通していることがあります。この場合、一つのファイルに複数の巻や作品が含まれ、巻ごとに権利者や権利の内容が異なることもあるため、照会書が作品ごとに複数届くことや、損害の算定で対象範囲が問題となることがあります。
令和3年の違法ダウンロード規制との関係
令和2年の著作権法改正により、令和3年1月1日から、違法にアップロードされたものと知りながら行うダウンロードの規制対象が、音楽・映像から漫画・書籍・論文など著作物全般に広がりました(30条1項4号)。ただし、数十頁の漫画の1コマから数コマのような「軽微なもの」などは除かれ、重大な過失により違法と知らなかった場合も含まれません(同条2項)。
刑事罰については、正規版が有償で提供されている著作物について、違法にアップロードされたものと知りながら、継続的又は反復してダウンロードする場合などが対象とされています(119条3項2号)。
もっとも、BitTorrentの開示請求で主に問題とされるのは、こうしたダウンロードではなく、前述の送信可能化のほうです。「ダウンロード規制の要件を満たさないから大丈夫」とは言えない点に注意が必要です。
「買った本をスキャンしたもの」「無料公開されていた」は通用するか
購入した本を自分でスキャンして電子データにすること(いわゆる自炊)は、私的使用のための複製として認められ得ます。しかし、そのデータをBitTorrentで共有すれば、他の利用者が取得できる状態に置くことになり、送信可能化の問題が生じます。また、私的使用目的で作成した複製物を目的外に使用すると、複製を行ったものとみなされる規定もあります(49条1項1号)。正規購入と私的複製の関係は「正規に購入した作品でもトレント共有は侵害か|私的複製の範囲と意見照会」で整理しています。
「期間限定で無料公開されていた作品だった」「絶版で入手できない作品だった」という事情も、権利者がBitTorrentでの共有を許諾していたことを意味するわけではなく、それだけで侵害が否定されるとは考えにくいところです。
漫画・書籍の意見照会書が届いたときの確認点
照会書を受け取ったら、まず次の点を確認してください。
- 照会者(請求者)は誰か。作者か、出版社か、連名か
- 主張されている権利の種類(著作権か出版権か)と、その根拠として示されている資料
- 対象のファイル名・ハッシュ値と、含まれている巻・作品の範囲
- 発信日時・IPアドレス・ポート番号と、その時間帯に回線を利用できた人
- 回答期限と、回答書の提出方法
損害賠償額は、作品の性質、ファイルに含まれる巻数・作品数、共有していた期間、照会の件数などを踏まえて個別に検討されるもので、一律の金額があるわけではありません。回答書に「全巻持っている」「読むためだった」などと書くと、利用の事実を認めたものと受け取られ、後の交渉で不利になるおそれもあります。横浜の当事務所の意見照会段階での考え方は意見照会対応のページでもご紹介しています。BitTorrentの意見照会書への具体的な対応の流れや弁護士費用は、BitTorrent著作権侵害の意見照会書が届いた方向けの特設ページでご案内しています。
よくある質問
漫画のトレント共有で、作者ではなく出版社から意見照会が来るのはなぜですか。
出版社が著作権者から出版権の設定を受けている場合、出版権者は、設定行為で定めるところにより、電子書籍として公衆送信を行う権利を専有し、自らの名で侵害の停止等を請求できるためです(著作権法79条・80条1項2号・112条1項)。出版社と作者が連名で照会者となっている場合もあります。
漫画を数巻まとめたファイルを共有していました。1冊だけの場合と違いはありますか。
複数巻をまとめたファイルでは、巻ごと・作品ごとに権利者や権利の内容が異なることがあり、照会書が複数届いたり、損害の算定で対象となる範囲が問題となったりすることがあります。照会書に記載されたファイル名・ハッシュ値と、どの巻・どの作品が対象とされているかを確認してください。
自分で買った漫画をスキャンしたデータを共有していました。それでも侵害になりますか。
私的使用のための複製として自分でスキャンすること自体は認められ得ますが、そのデータをBitTorrentで他の利用者が取得できる状態に置けば、送信可能化の問題が生じます。私的使用目的で作成した複製物を目的外に使用すると、複製を行ったものとみなされる規定もあります(著作権法49条1項1号)。購入していたことは、共有を正当化する事情にはなりにくいと考えられます。
漫画の違法ダウンロードは、令和3年から刑事罰の対象になったと聞きました。トレントでも同じですか。
令和3年1月1日から、違法にアップロードされたものと知りながら漫画・書籍等をダウンロードする行為も、一定の場合は違法となり、正規版が有償で提供されているものを継続的又は反復して行う場合などは刑事罰の対象にもなりました(著作権法30条1項4号・119条3項2号)。もっとも、BitTorrentの開示請求で主に問題とされるのは、ダウンロードではなく送信可能化のほうです。
まとめ
漫画・小説などの書籍は、言語の著作物や美術の著作物として保護され、電子書籍についても出版社が出版権者として権利を行使できる場合があります。BitTorrentでの共有は、送信可能化権や出版権の侵害を理由とする開示請求の対象となり得、購入済みであることや無料公開・絶版といった事情は、それだけで共有を正当化するものではありません。
照会書に記載された照会者・権利の種類・対象の巻やファイル・発信日時を一つずつ確認したうえで、回答の方針を決めることが大切です。横浜の当事務所では、全国の方からのBitTorrent事案のご相談に、弁護士がオンラインで対応しています。
漫画・電子書籍の意見照会書が届いて戸惑っている方へ
タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする意見照会書への対応から、開示後の損害賠償請求・示談交渉まで数多く取り扱っております。照会書と添付資料を確認し、照会者や対象のファイルについて事情を伺ったうえで、回答の方針をご説明します。BitTorrentの意見照会に関するご相談に限り、オンライン(20分程度)で無料のご相談を承っています(その他の分野のご相談は対象外です)。
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