トレントの請求者は本当に著作権者か|意見照会と権利者性の確認
トレントの請求者は本当に著作権者か|意見照会と権利者性の確認
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月3日 最終更新日:2026年10月3日
BitTorrent(トレント)を理由とする意見照会書を受け取り、添付資料を読み進めると、権利者として聞き覚えのない会社名が書かれていることがあります。「この会社は作品を作った会社なのか」「本当に請求する権利があるのか」「別の会社からも同じ作品で請求されたらどうなるのか」——こうした疑問を持つのは自然なことです。
この記事では、トレントの発信者情報開示請求や損害賠償請求をしてくる「請求者」が本当に権利を持っているのか(権利者性)という視点から、著作権が誰に帰属するのか、著作権の譲渡や利用許諾(ライセンス)があった場合にどう考えるのか、意見照会書や請求書のどこを確認すればよいのかを、著作権法と情報流通プラットフォーム対処法の条文に沿って、横浜の弁護士が整理します。
結論から述べると、開示請求や損害賠償請求ができるのは、侵害された権利を持つ者に限られます。そのため、請求者が著作権者であることの根拠を確認することには意味があります。ただし、映像作品の著作権は制作を担った会社に帰属することが多く、著作権の譲渡も登録なしに有効に行えるため、「聞いたことのない会社だから権利がない」とは限りません。権利者性は、発信者性や侵害の態様とあわせて冷静に検討すべき論点の一つです。
開示請求・損害賠償請求ができるのは「権利を侵害された者」だけ
情報流通プラットフォーム対処法5条1項は、発信者情報の開示を請求できる者を「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」と定め、開示の要件として「当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(同項1号)を挙げています。つまり、開示請求をする者は、自分自身の権利が侵害されたことを示す必要があります。
開示後の損害賠償請求も同じです。トレントによる著作物の共有で損害賠償を請求できるのは、侵害された著作権(送信可能化権等)を持つ者であり、作品と無関係の第三者が請求することはできません。意見照会書の添付資料に権利者の名称や権利取得の経緯が記載されているのは、この点を裁判所やプロバイダに示すためです。添付資料の読み方全般は、トレント意見照会書の添付資料の読み方で解説しています。
著作権は誰に帰属するのか——映像作品は「映画製作者」が原則
著作権は、原則として作品を創作した「著作者」に帰属します(著作権法17条1項)。もっとも、トレントで問題となることの多い映像作品については、特別なルールがあります。
| 規定 | 内容 | 権利者性を考えるうえでの意味 |
|---|---|---|
| 著作権法2条3項 | 映画の効果に類似する視覚的・視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、物に固定されている著作物は「映画の著作物」に含まれる | 劇場映画に限らず、動画作品の多くが「映画の著作物」として扱われ得る |
| 著作権法29条1項 | 映画の著作物の著作権は、著作者が映画製作者に対し製作への参加を約束しているときは、映画製作者に帰属する | 監督等の個人ではなく、制作を担った会社が著作権者となることが多い |
| 著作権法2条1項10号 | 「映画製作者」とは、映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう | 名義上の表示だけでなく、誰が企画し費用とリスクを負ったかが問題となり得る |
| 著作権法14条 | 作品の公衆への提供の際に、著作者名として通常の方法により表示されている者は、著作者と推定する | パッケージや配信ページの表示が、権利関係を示す出発点となる |
また、著作権の発生には登録などの手続は不要です(著作権法17条2項)。文化庁の著作権登録制度についても、登録は権利が発生するための条件ではないと案内されています。したがって、「登録がない」ことだけを理由に、請求者に著作権がないということはできません。
著作権の譲渡と登録——「作った会社」と「請求する会社」が違うとき
著作権は、その全部又は一部を譲渡することができます(著作権法61条1項)。制作会社とは別の会社が著作権を譲り受け、その会社が権利者として開示請求や損害賠償請求を行うことは、法律上あり得ることです。権利者が外国法人である場合の論点は、意見照会書の権利者が外国法人のときで取り上げています。
著作権の移転については、著作権法77条1号が「登録しなければ、第三者に対抗することができない」と定めています。そこで「譲渡の登録がないのだから、請求者は権利を主張できない」と考える方もいますが、この規定は、主として著作権を二重に譲り受けた者どうしのように、権利の帰属を争う正当な利益を持つ者との関係を調整するものと一般に解されています。著作権を侵害したとされる者が、登録がないことを理由に請求を拒むことは、一般には難しいと考えられています。
一方で、譲渡の時期と、問題とされている共有の時期との前後関係は重要です。共有の時点で請求者がまだ著作権を譲り受けていなかった場合、その時点の侵害について請求者が損害賠償を請求できるかは、譲渡契約の内容(過去の侵害に基づく損害賠償請求権も譲り受けているか等)によって変わり得ます。
利用許諾(ライセンス)を受けた会社からの請求
著作権者は、他人に著作物の利用を許諾することができます(著作権法63条1項)。配信や販売の権利だけを許諾された会社(ライセンシー)は、著作権者そのものではありません。
- 差止請求:著作権法112条1項が侵害の停止・予防を請求できる者として挙げているのは、著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者であり、利用許諾を受けた者は含まれていません。独占的なライセンスを受けた者に差止請求権を認める制度の導入は、文化審議会の検討の場で提言されてきたものの、現行の112条1項にはその旨の規定はありません
- 損害賠償請求:独占的な許諾を受けた者が自らの利益の侵害を理由に損害賠償を求めることができるかは、許諾契約の内容や独占性の実態によって判断が分かれ得る問題です
このように、請求者が「著作権者」なのか「許諾を受けた者」なのかによって、請求の根拠や範囲が変わり得ます。添付資料に権利の根拠として何が示されているか(著作権者である旨の表示、譲渡契約、許諾契約等)を確認する意味はここにあります。
意見照会書・請求書で確認したいポイント
権利者性の観点から、意見照会書や開示後の通知書では次の点を確認するとよいでしょう。
- 請求者の名称と立場:著作権者として請求しているのか、譲受人や許諾を受けた者として請求しているのか
- 権利の根拠資料:作品の権利表示、著作権の譲渡を示す資料、登録の有無などがどのように示されているか
- 権利取得の時期:請求者が権利を取得した時期と、照会書に記載された発信日時との前後関係
- 対象作品の特定:作品名やファイル名、ハッシュ値と、請求者が権利を主張する作品が一致しているか
- 同じ作品での別請求:同じ作品について、別の会社から照会や請求を受けていないか
なお、意見照会の段階で「請求者が権利者であることは明らかでない」と回答すること自体は可能ですが、開示の可否は、権利者側が提出した資料をもとに判断されます。権利者性だけを根拠に開示が退けられるとは限らないため、発信者性(自分が共有した者か)や、共有の事実・態様についての事情とあわせて回答の方針を組み立てることが大切です。意見照会段階の対応については、当事務所の意見照会対応のページでもご案内しています。
示談交渉の段階で権利者性を確認する意味
開示後に損害賠償請求を受け、示談を検討する段階でも、請求者の権利の根拠を確認しておくことには実益があります。真の権利者でない者に支払っても、本来の権利者からの請求を防ぐことはできないからです。
特に、同じ作品について複数の会社が権利を主張している場合や、作品ごとに権利者が異なる複数の照会を受けている場合には、示談書の当事者・対象作品・清算条項の範囲を慎重に確認する必要があります。複数の照会を受けた場合の考え方は、トレントの意見照会書が複数届いたらをご参照ください。
もっとも、権利者性の確認は、請求を不当に引き延ばすためのものではありません。根拠資料の提示を求めつつ、事実関係に即した交渉を進めることが、結果として早期の解決につながります。権利者性・発信者性・損害額の各論点をどう組み合わせるかは事案ごとに異なるため、BitTorrent事案に詳しい弁護士への相談を検討してください。意見照会書が届いてからの流れと弁護士費用は、BitTorrent著作権侵害の意見照会書が届いた方向けの特設ページにまとめています。
よくある質問
意見照会書に書かれた権利者が、作品のパッケージに表示された会社と違います。請求は無効ですか。
直ちに無効とはいえません。著作権は譲渡することができ(著作権法61条1項)、制作会社から権利を譲り受けた会社が請求することもあります。添付資料に譲渡の経緯や時期がどう示されているかを確認し、共有の時期との前後関係も含めて検討する必要があります。
著作権の登録がされていない作品なら、請求を拒めますか。
一般には難しいと考えられます。著作権の発生に登録は不要であり(著作権法17条2項)、著作権法77条の登録は主として権利の帰属を争う者どうしの関係を調整するものと解されているため、侵害したとされる側が登録の欠缺を理由に請求を拒むことは、一般には認められにくいとされています。
同じ作品について、別の会社からも請求が来ることはありますか。
あり得ます。作品の権利が分かれている場合や、権利の譲渡・許諾が重なっている場合などです。示談をする際は、示談書の当事者と対象作品、清算条項の範囲を確認し、真の権利者との間で解決することが大切です。
権利者性を争えば、開示を止められますか。
権利者性だけで開示が退けられるとは限りません。開示の可否は、権利者側が提出した資料をもとに判断されます。権利者性は検討すべき論点の一つとして、発信者性や共有の態様に関する事情とあわせて回答の方針を立てることが重要です。
まとめ
トレントの開示請求や損害賠償請求ができるのは、侵害された権利を持つ者に限られます。映像作品の著作権は映画製作者に帰属するのが原則であり(著作権法29条1項)、著作権の譲渡も登録なしに当事者間で有効に行えるため、聞き覚えのない会社名であっても、それだけで権利がないとはいえません。一方で、権利取得の時期や、著作権者なのか利用許諾を受けた者なのかによって、請求の根拠や範囲が変わることがあります。
意見照会書や請求書が届いたら、添付資料の権利表示・権利取得の経緯・時期・対象作品を確認し、発信者性や共有の態様とあわせて方針を立てることが大切です。横浜の当事務所では、全国の方からのBitTorrent事案のご相談にオンラインで対応しています。
請求者の権利関係に疑問がある方へ——添付資料から確認します
タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする意見照会書への対応を数多く取り扱っております。ITエンジニアの経験を持つ弁護士が、照会書の添付資料に記載された権利者・作品・発信日時等を読み解き、回答書の作成から開示後の示談交渉まで対応します。BitTorrentの意見照会に関するご相談に限り、オンライン(20分程度)で無料のご相談を承っています(その他の分野のご相談は対象外です)。
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