タングラム法律事務所

トレントの損害賠償と遅延損害金|起算日・利率と請求書の確認点

トレントの損害賠償と遅延損害金|起算日・利率と請求書の確認点

トレントの損害賠償と遅延損害金|起算日・利率と請求書の確認点

トレントの損害賠償と遅延損害金|起算日・利率と請求書の確認点

トレントの損害賠償と遅延損害金|起算日・利率と請求書の確認点

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月4日 最終更新日:2026年10月4日

BitTorrent(トレント)を理由に発信者情報が開示され、権利者の代理人から損害賠償請求の通知書が届くと、請求額の内訳に「遅延損害金」という項目が含まれていることがあります。「示談金とは別に、なぜ金額が上乗せされるのか」「いつから、何パーセントで計算されているのか」「早く払わないと、どんどん増えていくのか」——そうした不安を抱えてご相談に来られる方は少なくありません。

この記事では、トレントの損害賠償請求における遅延損害金について、発生する根拠、起算日(いつから計算されるか)、法定利率、請求書で確認すべき点、示談交渉での扱いを、民法の条文と最高裁判例に沿って、横浜の弁護士が整理します。

結論から述べると、不法行為に基づく損害賠償債務は、判例上、催告がなくても不法行為の時から遅滞となり、遅延損害金は原則として法定利率(現在は年3%)で発生します。ただし、請求書で起算日をどこに置くか、元本に何を含めるかは請求者によって異なり、2020年3月以前の行為については年5%となる場合もあります。遅延損害金があるからといって、内容を確かめずに急いで支払う必要はなく、元本となる請求額そのものの検討が先決です。

遅延損害金とは何か——支払いの「遅れ」に対する損害

遅延損害金とは、金銭の支払義務を負う者が支払いを遅らせたことによって生じる損害の賠償です。民法419条1項は、金銭債務の不履行による損害賠償の額は「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める」とし、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によると定めています。

同条2項は、この損害賠償について債権者は「損害の証明をすることを要しない」と定め、3項は、債務者は「不可抗力をもって抗弁とすることができない」と定めています。つまり、支払いが遅れている限り、権利者は実際の損害を立証しなくても、法定利率による遅延損害金を求めることができる仕組みです。

トレントの事案では、著作権(送信可能化権等)の侵害による損害賠償債務が「元本」にあたり、遅延損害金はその元本に対して日割りで加算されるものです。元本となる損害額がどのような要素で組み立てられるかは、トレントの示談金はどう決まるのか(算定要素の解説)で詳しく説明しています。

起算日は「不法行為の時」が原則——請求を受けた時ではない

契約に基づく代金のように期限の定めがない債務は、民法412条3項により「履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」のが原則です。これに対し、不法行為に基づく損害賠償債務については、最高裁昭和37年9月4日第三小法廷判決が、損害の発生と同時に、なんらの催告を要することなく遅滞に陥ると判断しており、この考え方が実務上定着しています。

さらに、最高裁昭和58年9月6日第三小法廷判決は、被害者が訴訟のために要した弁護士費用のうち不法行為と相当因果関係のある部分についても、当該不法行為の時に発生し、かつ遅滞に陥ると判断しています。

トレントに当てはめると、遅延損害金は理論上、通知書が届いた日ではなく、侵害行為(ファイルを送信可能な状態に置いた時点)から発生していると考えることになります。もっとも、BitTorrentによる共有は一定期間にわたって続くことが多く、侵害が一回で完結しないため、どの時点を「不法行為の時」として計算するかは一義的ではありません。実際の請求書では、次のように起算日の置き方がさまざまです。

  • 意見照会書の添付資料に記載された発信日時(観測された日時)
  • 複数回観測されている場合の最初または最後の観測日
  • 損害賠償請求の通知書が到達した日、またはその回答期限の翌日
  • 訴訟になった場合の訴状送達の日の翌日

起算日が遅いほど、発信者側に有利な計算になります。起算日の根拠が示されていない場合は、どの日を基準にしているのかを確認することが大切です。

利率は年3%——2020年3月以前の行為は年5%となる場合も

法定利率は、民法404条2項により「年三パーセント」とされ、同条3項により3年を一期として見直される変動制がとられています。法務省の公表によれば、令和8年(2026年)4月1日から令和11年(2029年)3月31日までの期についても、法定利率は年3%のまま変動しないこととされました。

注意が必要なのは、2020年4月1日に施行された民法改正の経過措置です。改正法附則17条3項は、施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合の遅延損害金の法定利率について、なお従前の例によると定めています。改正前の民法404条の法定利率は年5%でしたから、侵害行為が2020年3月31日以前であれば、遅延損害金は年5%で計算されることになります。

侵害行為(遅滞の責任を負った時点)遅延損害金の法定利率根拠
2020年3月31日以前年5%改正法附則17条3項・改正前民法404条
2020年4月1日以降年3%(2029年3月31日までの期も据置き)民法404条2項・3項、419条1項

法定利率は「遅滞の責任を負った最初の時点」のものが適用され(民法419条1項)、その後に法定利率が変動しても、すでに発生している債務の利率は変わりません。なお、古い発信日時が対象となっている場合には、遅延損害金より先に、損害賠償請求権そのものの消滅時効が問題になることもあります。

請求書で確認したい4つのポイント

遅延損害金は計算式自体は単純で、おおむね「元本 × 利率 × 遅延日数 ÷ 365日」で求められます。年3%であれば、1年分の遅延損害金は元本の100分の3にとどまります。請求書を受け取ったら、次の点を確認してください。

  1. 元本に何が含まれているか:著作物の使用料相当額などの損害に加え、調査費用や弁護士費用が元本に上乗せされている場合、遅延損害金もその合計額を基礎に計算されています。各項目の根拠を確認する必要があります。
  2. 起算日はいつか:前述のとおり、起算日の置き方は請求者によって異なります。発信日時より前の日付が起算日とされていないかも確認します。
  3. 利率は正しいか:侵害行為の時期に応じて、年3%か年5%かを確認します。法定利率を超える利率が記載されている場合、その根拠を確認すべきです。
  4. 作品ごと・発信ごとに分けて計算されていないか:複数の作品や複数回の観測が対象とされている場合、それぞれの起算日と元本が適切に区分されているかを確認します。

開示後に届く通知書の読み方や、回答の進め方全般については、トレント開示後に損害賠償請求の通知書が届いたらをあわせてご覧ください。開示後の請求段階での当事務所の対応は、損害賠償請求を受けた方への対応(取扱分野ページ)でもご案内しています。

示談交渉における遅延損害金の扱い

実務上、トレントの事案は示談(和解)で解決することが多く、示談では遅延損害金を個別に積算するのではなく、遅延損害金を含めた「解決金」として総額を合意し、清算条項によって他に債権債務がないことを確認する形がよく見られます。遅延損害金の扱いは交渉事項の一つであり、元本の金額とあわせて全体として調整されるのが通常です。

一方で、次の点には注意が必要です。

  • 一部だけ支払った場合の充当:債務の全部を消滅させるのに足りない支払いをしたときは、合意がない限り、費用・利息・元本の順に充当されます(民法489条1項)。遅延損害金は利息に準じて扱われるため、一部の支払いがまず遅延損害金に充てられ、元本が思ったほど減らないことがあります。
  • 分割払いの示談書の遅延損害金条項:分割払いの合意には、支払いが遅れた場合の遅延損害金の利率や、期限の利益の喪失(残額を一括で支払う義務)が定められることがあります。約定利率が法定利率を超える場合は約定利率によるため(民法419条1項ただし書)、署名前に条項を確認することが大切です。

請求額の妥当性の検討から示談書の確認まで、開示後の対応については、BitTorrentの損害賠償請求の通知書が届いた方向けの特設ページでもご案内しています。

遅延損害金を理由に慌てて支払うべきか

「早く払わないと遅延損害金が増える」と考えて、請求額をそのまま支払おうとする方もいます。しかし、年3%という利率を前提にすれば、数週間から数か月の検討期間で増える遅延損害金は、元本全体からみれば大きな割合にはならないのが通常です。発信者性(本当に自分が共有したのか)、権利者性、対象作品・期間、請求額の根拠を確かめないまま支払うことのほうが、結果的に負担を大きくするおそれがあります。

他方で、請求を無視し続けると、訴訟や支払督促に移行し、判決では「支払済みまで」の遅延損害金の支払いが命じられるのが一般的です。訴訟になれば、権利者側の弁護士費用が損害として上乗せして請求されることもあります。検討に時間をかけることと、放置することは別のことです。訴訟や支払督促を受けた場合の対応は、トレントで訴訟・支払督促を受けたらで解説しています。

なお、まだ意見照会書の段階にある方も、理論上は侵害行為の時から遅延損害金が進行していると考えられます。ただし、この段階では開示に同意するかどうか、どのような理由を回答するかが最初の分かれ目となります。意見照会の段階の対応は、BitTorrent著作権侵害の意見照会書が届いた方向けの特設ページで詳しくご案内しています。

よくある質問

意見照会書が届いた段階から、遅延損害金は発生しているのですか。

判例の考え方によれば、不法行為に基づく損害賠償債務は、催告がなくても不法行為の時から遅滞となるため、理論上は侵害行為の時から遅延損害金が発生していると考えられます。もっとも、実際の請求で起算日をどの時点に置くかは請求者によって異なり、通知書の到達日や訴状送達日の翌日を起算日とする例もあります。

遅延損害金の免除や減額を求めることはできますか。

示談交渉の中で求めることは可能です。示談では、遅延損害金を含めた解決金として総額を合意する形がよく見られ、遅延損害金の扱いは元本の金額とあわせて全体として調整されます。ただし、権利者側が応じるかどうかは個別の交渉によります。

2019年頃の発信日時が対象の場合、利率は年5%になりますか。

侵害行為(遅滞の責任を負った時点)が2020年3月31日以前であれば、民法改正法附則17条3項により改正前の法定利率である年5%が適用されると解されます。あわせて、古い発信日時が対象となっている場合には、損害賠償請求権の消滅時効が問題となる余地がないかも確認が必要です。

通知書に遅延損害金が記載されていない場合、後から請求されることはありますか。

通知書の段階で遅延損害金を明示しない請求もありますが、示談が成立せずに訴訟となった場合には、遅延損害金をあわせて請求されることがあります。示談で解決する場合は、示談書の清算条項によって、遅延損害金を含めて他に債権債務がないことを確認しておくことが大切です。

まとめ

トレントの損害賠償請求における遅延損害金は、不法行為の時から催告なしに発生するというのが判例の考え方であり、利率は原則として年3%(2020年3月以前の行為は年5%となる場合があります)です。請求書では、元本に何が含まれているか、起算日はいつか、利率は正しいか、作品・発信ごとの区分は適切かを確認することが大切です。

遅延損害金は元本に比べれば小さな割合にとどまることが多く、それを理由に請求内容の検討を省くべきではありません。一方で、放置すれば訴訟に移行し、支払済みまでの遅延損害金が加算されます。横浜の当事務所では、全国の方からのBitTorrent事案のご相談に、弁護士がオンラインで対応しています。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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