BitTorrentの損害賠償請求を無視したら?通知書が届いた後の対応
BitTorrentの損害賠償請求を無視したら?通知書が届いた後の対応
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月1日 最終更新日:2026年10月1日
BitTorrent(トレント)の利用について発信者情報が開示された後、著作権者やその代理人弁護士から「損害賠償請求の通知書」や「示談のご案内」が届いた――。突然の金額の提示に驚き、「本当に払わなければならないのか」「このまま無視していたらどうなるのか」と悩んでいる方も多いと思います。
この記事では、BitTorrentの損害賠償請求の通知書を無視・放置した場合に起こりうること、時効で請求が消えるとは限らない理由、刑事告訴の可能性、そして通知書が届いたときに確認すべきことを、請求を受けた側の立場から横浜の弁護士が解説します。
結論として、BitTorrentの損害賠償請求の通知書を無視しても、請求そのものがなくなるわけではありません。請求する側は訴訟や支払督促といった裁判所の手続をとることができ、裁判所からの書面まで放置すると、反論の機会を失ったまま判決等が確定し、給与や預金の差押えを受けるおそれがあります。通知書が届いたら、内容と期限を確認し、早めに対応方針を決めることが重要です。
BitTorrentの損害賠償請求の通知書とは|開示後に届く書面
BitTorrentは、ダウンロード中も同じファイルの断片を他の利用者に送信できる状態にする仕組みのため、動画などを共有すると、著作権者の公衆送信権(送信可能化を含む)の侵害として発信者情報開示請求を受けることがあります。
プロバイダからの意見照会を経て、開示命令などにより契約者の氏名・住所が開示されると、権利者は開示された情報をもとに、損害賠償請求や示談の提案を行います。通知書には、一般に次のような事項が記載されています。
- 請求者(権利者)と代理人弁護士の名称・連絡先
- 問題とされた作品・ファイル、通信の日時やIPアドレス
- 請求金額または示談金額の提示
- 回答や支払いの期限
- 期限までに回答がない場合の対応(法的手続をとる旨など)
損害賠償請求の通知書を無視するとどうなるか
通知書は裁判所からの書面ではなく、請求する側からの「請求」です。返事をしなかったこと自体で直ちに支払義務が確定するわけではありませんが、無視を続けると、次のような展開が考えられます。
| 段階 | 起こりうること |
|---|---|
| 再度の通知・督促 | 期限経過後に、改めて書面が届いたり、回答を求められたりする |
| 訴訟の提起 | 損害賠償を求める訴訟が提起され、裁判所から訴状が特別送達で届く |
| 支払督促の申立て | 簡易裁判所の書記官から支払督促が届く(書類審査のみで発付される) |
| 判決・仮執行宣言 | 反論しないまま、請求を認める判決や仮執行宣言付支払督促が出る |
| 強制執行 | 給与・預金などの財産が差し押さえられるおそれがある |
さらに、損害賠償債務には原則として法定利率による遅延損害金が付くため、放置している間に支払うべき金額が増えていく可能性があります。
また、訴訟になると、示談であれば調整できた支払方法などの条件を交渉する機会を失いかねません。示談金の考え方や減額交渉のポイントは、BitTorrentの示談金相場と減額交渉のポイントをご参照ください。
訴状や支払督促が届いたら、期限の放置は厳禁
通知書の段階と異なり、裁判所から届いた書面を放置することは非常に危険です。
訴状が届いた場合
訴状には、第1回口頭弁論期日の呼出状と、答弁書の提出期限が同封されています。答弁書を提出せずに期日に欠席すると、相手方の主張した事実を自白したものとみなされ(民事訴訟法159条3項・1項)、請求をそのまま認める判決が言い渡される可能性があります。支払い自体は争わない場合でも、答弁書で分割払いの希望などを伝えることが大切です。
支払督促が届いた場合
支払督促は、送達を受けた日から2週間以内に督促異議を申し立てないと、債権者の申立てにより仮執行の宣言が付されます(民事訴訟法391条1項)。さらに、仮執行宣言付支払督促の送達を受けてから2週間を経過すると督促異議を申し立てることができなくなり(同法393条)、支払督促は確定判決と同一の効力を持つことになります(同法396条)。
無視していれば時効で消える?
「何年か放っておけば時効になるのでは」と考える方もいます。不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、または不法行為の時から20年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法724条)。
しかし、権利者は開示によって氏名・住所を把握しているため、3年の期間内に訴訟の提起や支払督促の申立てをすれば、時効の完成は猶予されます(民法147条1項)。判決等で権利が確定すれば、時効期間は10年となります(民法169条1項)。また、「少しずつなら払います」といった連絡は、債務の承認として時効が更新される原因になり得ます(民法152条1項)。
時効を当てにして放置するのは現実的ではありません。BitTorrentの事案における時効の考え方は、BitTorrentの開示請求は何年前まで遡る?著作権侵害の時効で詳しく解説しています。
無視すると刑事告訴される可能性はあるか
著作権侵害は、民事上の損害賠償とは別に、刑事罰の対象にもなり得ます(著作権法119条1項)。著作権侵害罪は原則として告訴がなければ起訴できない親告罪ですが(同法123条1項)、有償で提供されている著作物を原作のまま公衆送信するなど、一定の要件をすべて満たす場合には告訴がなくても起訴できるとされています(同条2項)。
通知書を無視したことだけを理由に刑事事件になるとは限りませんが、示談が成立していない状態では、権利者が刑事告訴を検討する余地が残ることになります。示談書に告訴をしない旨の条項を入れることで、こうした不安を解消できる場合もあります。刑事責任については、BitTorrentの開示請求で逮捕される?刑事責任もあわせてご覧ください。
損害賠償請求の通知書が届いたときに確認すべきこと
無視も、言われるがままの即時の支払いも、おすすめできません。通知書が届いたら、まず次の点を確認してください。
- 差出人は実在するか:開示手続を装った架空請求の可能性もゼロではありません。代理人弁護士の名前がある場合は、日本弁護士連合会のウェブサイトの弁護士検索などで登録を確認し、通知書に記載された連絡先ではなく、確認した連絡先を用いるのが安全です
- どの作品・どの通信が対象か:作品数、通信の日時やIPアドレス、回線が自分のものか(家族など他の利用者がいなかったか)を確認します
- 金額の根拠は何か:損害額の算定方法(著作権法114条の推定規定などを根拠とする場合があります)と、その前提となる事実を確認します
- 期限はいつか:回答期限を手帳などに記録し、期限前に方針を決めます
- 連絡する前に方針を整理する:不用意な発言は、後の交渉や訴訟で不利に扱われるおそれがあります
弁護士に依頼すると、請求額の妥当性の検討、権利者との交渉窓口の一本化、示談書の内容確認(清算条項や告訴をしない旨の条項など)を任せることができます。開示後の損害賠償請求への対応は、当事務所の損害賠償請求を受けた方への対応のページで解説しています。BitTorrent事案の損害賠償請求への対応内容と費用は、BitTorrent著作権侵害の損害賠償請求対応の特設ページでご案内しています。
よくある質問
BitTorrentの損害賠償請求の通知書を無視したら、すぐに裁判になりますか?
すぐに裁判になるとは限りません。再度の通知や電話・書面での督促が先に届くこともあります。ただし、請求する側は、交渉に応じない相手に対して訴訟や支払督促といった裁判所の手続をとることができるため、無視を続けると、そうした手続に進む可能性は高まると考えられます。
無視していれば、そのうち時効で請求されなくなりますか?
不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年で時効により消滅します(民法724条1号)。しかし、期間内に訴訟の提起や支払督促の申立てがあれば時効の完成は猶予され(民法147条1項)、判決等で権利が確定すれば時効期間は10年となります(民法169条1項)。また、支払う意思を示す連絡をすると「承認」として時効が更新されることもあります(民法152条1項)。時効を当てにして放置するのは危険です。
裁判所から訴状が届いたのに放置するとどうなりますか?
答弁書を提出せずに第1回口頭弁論期日に欠席すると、相手方の主張した事実を自白したものとみなされ(民事訴訟法159条3項・1項)、請求を認める判決が言い渡される可能性があります。判決が確定すると、給与や預金の差押えといった強制執行を受けるおそれがあります。
請求額が高すぎると感じます。払わないといけませんか?
請求額が常に正しいとは限りません。請求の対象となった作品数や通信の内容、金額の算定根拠を確認し、事案によっては減額交渉の余地があります。ただし、無視するのではなく、根拠を確認したうえで交渉や反論を行うことが大切です。
まとめ
BitTorrentの損害賠償請求の通知書は、無視しても請求がなくなるわけではありません。請求する側は訴訟や支払督促を利用でき、裁判所からの書面まで放置すると、反論の機会を失ったまま判決等が確定し、強制執行を受けるおそれがあります。時効も、訴訟の提起や債務の承認によって完成が妨げられるため、当てにすることはできません。
通知書が届いたら、差出人・対象の作品と通信・金額の根拠・期限を確認したうえで、交渉するのか、争うべき点があるのかを判断することが大切です。請求額が妥当かどうかの判断や示談交渉には専門的な検討が必要となるため、期限が来る前に弁護士へ相談することをおすすめします。
損害賠償請求の通知書が届いてお困りの方は、BitTorrent損害賠償請求への対応の詳細はこちらをご覧ください。
BitTorrentの損害賠償請求の通知書が届いた方へ
タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)に関する発信者情報開示の意見照会対応から、開示後の損害賠償請求・示談交渉まで、多数のご相談をお受けしております。請求額の妥当性を検討したうえで、対応方針をご提案します。
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