BitTorrentの開示請求で逮捕される?刑事責任を弁護士が解説
BitTorrentの開示請求で逮捕される?刑事責任を弁護士が解説
BitTorrent(トレント)の利用を理由に、プロバイダから意見照会書が届いた。あるいは著作権者の代理人から損害賠償を求める通知書が届いた。そうした書面を手にした方から最も多く寄せられるご質問が、「このまま逮捕されてしまうのでしょうか」というものです。2026年7月には大手トレントサイトの利用者が著作権法違反の疑いで逮捕されたと報じられ、不安を強くされた方も少なくないと思われます。
この記事では、横浜で発信者側の対応を数多く扱う弁護士の視点から、BitTorrentの利用がなぜ著作権法違反となり得るのか、刑事罰はどの程度重いのか、親告罪と非親告罪の違いが実務上どう効いてくるのかを、条文と公表された摘発事例に即して整理します。
「ダウンロードしただけ」でも刑事責任が問題になる理由
BitTorrentは、中央のサーバーからファイルを配る仕組みではありません。同じファイルを求める利用者どうしが断片を交換し合うことで成り立っており、ダウンロードを始めた時点で、すでに取得した断片を他の利用者へ送信できる状態に置かれます。
この「送信できる状態に置くこと」は送信可能化にあたり、公衆送信権(著作権法第23条第1項)の侵害が問題となります。本人の意識としては受け取っているだけでも、法的な評価としては配っている側にも立っている——ここが通常のダウンロードと決定的に異なる点です。著作権者側の監視も、この「配っている側」のIPアドレスを記録する形で行われています。
純粋な受信行為についても、違法にアップロードされたものだと知りながら行うダウンロードは、私的使用のための複製の例外から外されています(著作権法第30条第1項第4号)。この規制は2021年1月1日から、音楽・映像に限らずすべての著作物へ拡大されました。ただし、単に視聴・閲覧するだけの行為や、漫画の1コマ程度といった「軽微なもの」は対象外です(文化庁「侵害コンテンツのダウンロード違法化に関するQ&A」)。
著作権侵害の刑事罰はどれくらい重いのか
法定刑は著作権法第119条に定められています。なお、2025年6月1日に施行された改正刑法により、従来の「懲役」と「禁錮」は「拘禁刑」へ一本化されました。
| 条文 | 対象となる行為 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 著作権法119条1項 | 著作権等の侵害(アップロード・送信可能化を含む) | 10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、またはその併科 |
| 著作権法119条3項2号 | 有償著作物等を、違法と知りながら継続的または反復してダウンロードする行為 | 2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、またはその併科 |
ダウンロード側の罰則は対象が絞り込まれており、文化庁の解説によれば、①正規版が有償で提供されていること、②それを知っていたこと、③継続的または反復してダウンロードしたことがいずれも必要で、単発的な行為は対象から外れます。他方、BitTorrentのように送信を伴う場合は、より重い119条1項の問題として扱われ得ます。
親告罪か非親告罪か——実務上の分かれ目
著作権侵害罪は原則として親告罪であり(著作権法第123条第1項)、著作権者の告訴がなければ起訴されません。告訴期間は原則として犯人を知った日から6か月です(刑事訴訟法第235条第1項)。もっとも、2018年12月30日に施行されたTPP整備法により、次の3要件をすべて満たす場合は非親告罪とされました(同条第2項)。
- 対価を得る目的、または権利者の利益を害する目的があること
- 有償著作物等(有償で公衆に提供・提示されている著作物等)を、原作のまま譲渡・公衆送信または複製するものであること
- それにより権利者の得ることが見込まれる利益が不当に害されること
文化庁の資料は、非親告罪となる例として「映画の海賊版をネット配信する行為」を、親告罪のままとなる例として「漫画のパロディをブログに投稿する行為」を挙げています。配信中・販売中の映画やドラマをそのままの形で共有する行為は前者に近い性質を持ちますので、「告訴がなければ絶対に刑事事件にならない」と考えるのは危険です。
実際の摘発事例——2026年7月「Nyaa」第一アップローダーの逮捕
一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の発表によれば、2026年7月28日、京都府警察サイバー対策本部サイバー捜査課および京都府伏見警察署は、世界最大級のトレントサイト「Nyaa」を通じてテレビドラマのデータを権利者に無断で共有していたとして、男性を著作権法違反の疑いで逮捕しました。CODAはこの男性を、完全なデータを最初に流通させトレントファイルをサイトに掲載した「第一アップローダー」と位置づけています。
あわせて注目すべきは、この逮捕に先立ち、京都府警が2025年に、Nyaa上のトレントファイルへのリンクを掲載するリーチサイトを通じて著作物を無断アップロードしていた二次アップローダー3名をそれぞれ摘発したと発表されている点です。摘発の対象が流通の起点となる人物だけに限られていないことを示しています。
もっとも、これらの事例と、市販作品を数本ダウンロードしたにとどまる利用者とでは、拡散への寄与や行為の継続性が大きく異なります。報道をもって「自分も必ず逮捕される」と考える必要はありません。他方で、「第一アップローダーではないから無関係だ」と言い切ることもできない、というのが正確な理解です。
逮捕されるかどうかを左右する要素
逮捕は、嫌疑があれば当然に行われるものではありません。裁判官は、被疑者が逃亡し、または罪証を隠滅するおそれがないなど明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状を発しないこととされています(刑事訴訟法第199条第2項ただし書、刑事訴訟規則第143条の3)。勾留も、住居不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれのいずれかが要件です(同法第60条第1項)。
実務上は、共有した作品の数と期間、行為の営利性、捜査への対応、被害弁償・示談の状況といった事情が、身柄拘束の要否や処分の判断に影響します。書面が届いた段階での対応が、その後の民事・刑事双方の展開に影響し得るということです。対応全般はインターネット上のトラブルで書面が届いた方への取扱分野ページもご覧ください。
意見照会書が届いた段階でやるべきこと
プロバイダから届く意見照会書は、著作権者が発信者情報の開示を求めたことを受け、契約者に意見を聴くための書面です(情報流通プラットフォーム対処法第6条)。刑事手続の通知ではありませんが、回答内容は書面として残り、後の交渉や手続で参照され得ます。
- 期限を確認する。回答期限は2週間程度と短いことが多く、放置すると意見を述べる機会自体を失います(意見照会書を無視・放置するとどうなるか)。
- 心当たりの有無を整理する。家族名義の回線や共用Wi-Fiなど、契約者と実際の発信者が一致しない可能性もあります(開示請求に心当たりがない時の対処法)。
- その後の流れを把握する。不同意と回答しても手続は終わらず、開示命令の申立てへ進むのが通常です(不同意回答した後の流れ)。
- 端末やファイルを自己判断で削除しない。過去の通信の事実は消えず、かえって不利に評価されるおそれがあります。
意見照会段階の対応方針はBitTorrentの意見照会書が届いた方向けのご案内に、すでに損害賠償請求の通知書が届いている方向けの説明はBitTorrentの損害賠償請求を受けた方向けのご案内にまとめています。
よくある質問
意見照会書が届いたということは、刑事事件になったということですか。
いいえ。意見照会書は、プロバイダが契約者の意見を聴くために送る民事手続上の書面です(情報流通プラットフォーム対処法第6条)。刑事手続とは別のものであり、届いたこと自体が逮捕や起訴を意味するものではありません。ただし、同じ行為について著作権者が刑事告訴を行う可能性まで否定されるわけではありません。
ダウンロードしただけでも著作権法違反になりますか。
BitTorrentはダウンロードと同時にデータ断片を他の利用者へ送信する仕組みであるため、受け取っているだけのつもりでも公衆送信権の侵害が問題となり得ます。純粋な受信行為のみであっても、違法にアップロードされたものと知りながら行えば、著作権法第30条第1項第4号により私的複製の例外から外れます。
著作権侵害の刑罰はどれくらいですか。
10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、またはその併科です(著作権法第119条第1項)。2025年6月1日施行の刑法改正により、従来の懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されました。違法ダウンロードに係る罰則は同条第3項第2号に規定され、2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、またはその併科です。
一般の利用者でも逮捕されることはありますか。
可能性がまったくないとはいえません。もっとも、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは令状は発せられません(刑事訴訟法第199条第2項ただし書、刑事訴訟規則第143条の3)。公表されている摘発事例は、作品を最初に流通させた第一アップローダーなど、拡散への寄与が大きいものが中心です。
端末やソフトを削除すれば問題はなくなりますか。
削除しても過去の通信の事実は消えません。著作権者側は監視により取得したIPアドレスとタイムスタンプをもとに手続を進めています。むしろ書面が届いた後の削除は、刑事手続に発展した場合に不利な事情と評価されるおそれがあるため、自己判断で行わないことをおすすめします。
まとめ
BitTorrentの利用は、本人の意識にかかわらず送信行為を伴うため、著作権法第119条第1項の問題として刑事責任が検討され得ます。法定刑は10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金と決して軽くはなく、配信中・販売中の作品をそのまま共有する行為は、同法第123条第2項により非親告罪となる可能性もあります。
他方、発信者情報開示請求や意見照会書は民事手続に属するものであり、それ自体が刑事事件化を意味するわけではありません。過度に恐れる必要はありませんが、「ダウンロードしただけだから関係ない」と自己判断で処理してしまうことにもリスクがあります。弁護士に依頼すれば、届いた書面が民事・刑事のどの段階のものかを整理したうえで、回答書の作成から著作権者側との示談交渉まで一貫して進めることができます。費用の考え方は弁護士費用のページをご参照ください。
BitTorrentの開示請求・意見照会書でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、BitTorrentを理由とする発信者情報開示請求について、意見照会段階のご相談から著作権者との示談交渉まで、発信者側の対応を数多く取り扱っております。横浜の事務所として全国からのご相談に対応しております。回答期限は短いことが多いため、届いた書面をお手元にご用意のうえ、お早めにご相談ください。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。