BitTorrent意見照会に不同意回答した後の流れを弁護士が解説
BitTorrent意見照会に不同意回答した後の流れを弁護士が解説
プロバイダから届いた「発信者情報開示に係る意見照会書」に「開示に同意しない」と回答した——。そこまでは済ませたものの、その後は誰からも連絡がないまま数週間、数か月が過ぎ、「これで終わったのだろうか」「裁判の準備が進んでいるのだろうか」と落ち着かない日々を送っている方は少なくありません。
この記事では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする発信者情報開示請求について、意見照会に「同意しない」と回答した後の流れを、条文と実務の両面から整理して解説します。権利者が次にとる手続、審理における発信者の立場、開示後の損害賠償請求までを順に確認していきます。
意見照会に「同意しない」と回答することの法的な位置づけ
プロバイダが発信者情報の開示請求を受けたときは、発信者と連絡できない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示請求に応じるかどうか、応じるべきでないとの意見の場合はその理由について、発信者の意見を聴かなければならないとされています(情報流通プラットフォーム対処法6条1項)。意見照会書は、この法律上の義務に基づくものです。
ここで重要なのは、意見照会は「開示するかどうかをあなたに決めさせる手続」ではないという点です。プロバイダは寄せられた意見を可能な限り尊重して対応することが求められますが、最終的に開示するか否かは法律上の要件を満たすかどうかで決まります。不同意の回答は、権利者が裁判所の判断を求める道を閉ざすものではありません。
不同意回答の後、権利者がとる手続——開示命令の申立て
不同意の回答を受けたプロバイダは、通常、任意の開示には応じません。そこで権利者は、裁判手続によって開示を求めるかどうかを判断することになります。選択肢は次の2つです。
| 手続 | 根拠 | 特徴 |
|---|---|---|
| 発信者情報開示命令の申立て | 情報流通プラットフォーム対処法8条 | 非訟事件として簡易迅速な審理が予定されている。近年の実務では主流 |
| 発信者情報開示請求訴訟 | 同法5条 | 通常の民事訴訟。同一の投稿について開示命令の申立てと同時には行えないと解されている |
BitTorrentの事案では、権利者がP2Pネットワークを監視してIPアドレスとタイムスタンプを直接取得しているため、SNSの誹謗中傷のようにコンテンツプロバイダを経由する必要がなく、契約者情報を保有するアクセスプロバイダに対して直接開示を求めるのが通例です。そのため提供命令(同法15条)が使われる場面は多くありませんが、審理中のログ消去を防ぐ消去禁止命令(同法16条)が併せて申し立てられることはあります。
裁判所での審理——発信者は「当事者」ではない
開示命令の申立てがあった場合、裁判所は、申立てが不適法なときや理由がないことが明らかなときを除き、申立書の写しを相手方(プロバイダ)に送付しなければならないとされています(同法11条1項)。決定をする場合、裁判所は原則として当事者の陳述を聴かなければなりません(同条3項)。
ここで注意すべきは、この手続の当事者は権利者とプロバイダであり、発信者本人は当事者ではないという点です。あなたの言い分は、意見照会に対して提出した回答書を通じて、プロバイダから間接的に裁判所に伝えられます。
つまり、回答書に何を書いたかが、そのまま防御の内容になります。「同意しません」の一言だけの回答書と、権利侵害の明白性を争う具体的な理由を記載した回答書とでは、審理に与える影響が大きく異なり得ます。
開示命令が発令された場合の通知と、その後の効力
裁判所が開示命令を発令した場合、「開示に応じるべきでない」との意見を述べていた発信者に対しては、プロバイダは開示命令が発令された旨を遅滞なく通知しなければならないとされています(同法6条2項。通知が困難な場合を除きます)。不同意の回答には、結果を知らされる立場を確保できるという実務上の意味もあります。
決定に不服がある当事者は、告知を受けてから1か月以内に異議の訴えを提起でき、これを行わない場合、決定は確定判決と同一の効力を有します。ただし異議の訴えを提起できるのは当事者、すなわち権利者とプロバイダであり、発信者本人が自ら提起することは想定されていません。
手続に要する期間は事案により幅がありますが、開示請求を受けてから契約者情報が開示されるまで数か月単位を要するのが一般的です。発信者情報開示にかかる期間については別の記事でも解説しています。
開示された後——損害賠償請求と示談交渉
契約者の氏名・住所が開示されると、多くの場合、権利者側の代理人弁護士から損害賠償を求める通知書が届きます。BitTorrentはファイルをダウンロードすると同時にその一部を他の利用者へ送信する仕組みであるため、著作権法23条1項の公衆送信権(送信可能化を含む)の侵害が問題とされます。
請求額の算定については、著作権法114条が損害額の推定等に関する規定を置いています。もっともこれは推定規定であり、権利者が当初提示した金額がそのまま認められることを意味しません。裁判例でも作品の単価や提供された数量等を基礎に損害額が算定されており、請求額と認容額が一致しない例も見られます。
実務上は、訴訟に至らず示談によって解決する例が多くみられます。示談金の水準は対象作品の数や権利者の数などによって大きく異なり、一律の相場を示すことは困難ですが、裏を返せば個別事情によって交渉の余地が生じ得る領域でもあります。BitTorrentの開示請求への対応については、BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の特設ページでも詳しくご案内しています。
不同意回答が意味を持つ場面・持ちにくい場面
不同意の回答が実質的な意味を持つかは、事案の内容によって異なります。
| 場面 | 不同意回答の意味 |
|---|---|
| そもそも当該通信に心当たりがなく、家族・同居人・第三者による利用の可能性がある | 発信者の同一性が争点となり得るため、具体的事情を記載する意味は大きい |
| 対象とされている作品や送信の事実に争いがある | 権利侵害の明白性を争う余地があり、回答書に理由を記載する意味がある |
| 侵害の事実自体は争わないが、請求額に疑問がある | 開示を止めることは難しく、開示後の交渉に備える段階に重点が移る |
いずれの場面でも、回答書は後の交渉や訴訟で権利者側が参照し得る資料となります。事実に反する記載や争点を不用意に確定させる記載は、後の防御を狭めかねません。開示請求に心当たりがない場合の対処法もあわせてご確認ください。
よくある質問
「同意しない」と回答すれば開示を止められますか?
不同意の回答は、プロバイダが任意に開示することを事実上抑える効果を持ちますが、それだけで開示が確定的に止まるわけではありません。権利者が裁判所に発信者情報開示命令を申し立て、裁判所が開示要件を満たすと判断すれば、プロバイダは開示を命じられます。もっとも、権利侵害の有無が裁判所の判断に付される点に意味があります。
開示命令の手続で、発信者本人は反論できますか?
開示命令事件の当事者は権利者とプロバイダであり、発信者本人は当事者ではありません。発信者が自ら法廷で主張・立証を行う立場にはなく、意見照会に対する回答書の内容が、プロバイダを通じて審理に反映されます。回答書が実質的な防御手段となるため、その作成は慎重に行う必要があります。
開示が認められたことは、どうやって知らされますか?
情報流通プラットフォーム対処法6条2項により、「開示に応じるべきでない」との意見を述べていた発信者に対しては、プロバイダは開示命令が発令された旨を遅滞なく通知しなければならないとされています(通知が困難な場合を除きます)。不同意の回答をしていれば、通常はこの通知によって結果を知ることができます。
開示された後、必ず訴訟になりますか?
必ずしも訴訟になるとは限りません。実務上は、権利者側の代理人弁護士から損害賠償を求める通知書が届き、示談交渉によって解決に至る例が多くみられます。金額や条件で折り合いがつかない場合には訴訟に至ることもあります。請求された金額が当然に認められるわけではないため、算定根拠の確認が重要です。
不同意と回答したら刑事事件になりますか?
不同意と回答したこと自体が刑事責任に結びつくものではありません。著作権侵害は著作権法119条1項により10年以下の拘禁刑または1000万円以下の罰金の対象とされ、同法123条1項により原則として親告罪とされていますが、BitTorrentに関する権利者側の請求は民事上の損害賠償を目的とするものが中心です。
まとめ——不同意回答の後にこそ準備が必要です
最後に要点を整理します。
- 不同意の回答により、プロバイダが任意に開示することは通常抑えられる
- 権利者は、開示命令の申立て(情報流通プラットフォーム対処法8条)等により裁判所の判断を求め得る
- 開示命令事件の当事者は権利者とプロバイダであり、回答書の内容が実質的な防御手段となる
- 不同意の意見を述べていた場合、開示命令が発令された旨はプロバイダから通知される(同法6条2項)
- 開示後は、損害賠償請求の通知が届き、示談交渉に移行するのが一般的である
不同意と回答したこと自体は、決して誤った対応ではありません。しかし、そこで手続が終わるわけではなく、その後の展開に備える段階が始まっているとお考えください。回答書の検討、事実関係の整理、請求額の妥当性の検証には、専門的な判断を要する場面が多く含まれます。
タングラム法律事務所は横浜・新横浜を拠点とし、弁護士がインターネット関連の法律問題に継続的に取り組んでいます。BitTorrentの意見照会への対応は、回答書の作成だけでなく、開示後の示談交渉まで見据えた方針決定が重要です。
BitTorrentの意見照会・開示請求への対応でお悩みの方へ
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。意見照会書への回答書作成から、開示後の示談交渉まで一貫して対応いたします。
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