意見照会書が届いた後もトレントを使い続けるとどうなるか|継続利用のリスク
意見照会書が届いた後もトレントを使い続けるとどうなるか|継続利用のリスク
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年9月30日 最終更新日:2026年9月30日
プロバイダから意見照会書が届いたものの、「もう見つかってしまったのだから、今さらやめても同じではないか」「照会の対象は過去の1回だけだから、今使っている分は関係ないはずだ」と考えて、トレントソフトをそのまま動かしている方は少なくありません。忙しさに紛れて、ソフトが常駐していることに気づいていないという方もいます。
この記事では、意見照会書が届いた後もBitTorrent(トレント)の利用を続けた場合に、損害賠償・新たな開示請求・刑事責任・回線契約の各面で何が起こり得るのかを、横浜の弁護士の立場から整理します。あわせて、「やめる」とは具体的に何をすることか、やめた事実をどう残しておくかについても解説します。
結論から述べると、意見照会書が届いた後にトレントの利用を続けることには、法的に有利な点が一つもありません。継続すれば損害賠償の対象期間が延び、新たな観測による別の意見照会を招き、「知らなかった」という説明も通りにくくなります。届いた時点で共有を止め、止めた日時を記録しておくことが、その後の開示・示談のいずれの段階でも自分を守る土台になります。
「過去の1回」だけの問題ではない理由
意見照会書には、権利者側が観測した特定の日時・IPアドレス・ファイル(ハッシュ値)が記載されています。そのため、照会の対象は「その1回」に限られるように見えます。しかし、BitTorrentの仕組み上、ソフトを起動している限り、ダウンロード済みのファイルは他の利用者に向けて送信可能な状態に置かれ続けます。
著作権法23条1項は、「著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。」と定めています。実際に誰かに送信したかどうかにかかわらず、送信可能な状態に置くこと自体が権利の対象となるため、ソフトが動いている間は侵害の状態が続いていると評価され得ます。意見照会書に書かれた日時は、あくまで権利者側が観測した「一時点」にすぎません。
継続利用で起こり得ること①——損害賠償の対象期間が延びる
BitTorrentによる著作権侵害の損害については、知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決(令和3年(ネ)第10074号)が参考になります。裁判所ウェブサイトで公表されている判決要旨によれば、同判決は、利用者が「本件著作物をダウンロードしてからBitTorrentの使用を中止した時点までの間」、同時期に同じ著作物を送信可能な状態に置いていた者と共同で著作権を侵害していたと認定し、その期間を基準に損害を算定しています。
注目すべきは、同判決が、原審が「警告書を受領した後に弁護士に相談した時点」を使用停止の時点としていたのに対し、控訴審では「警告書を受領した時点でBitTorrentの使用を停止した」と認定した点です。つまり、いつ利用をやめたかが、責任を負う期間の終期として損害の範囲を左右するということです。裏を返せば、書面を受け取った後も利用を続ければ、その分だけ対象期間が延びる可能性があります。共同不法行為と責任の範囲については、トレントの共同不法行為と連帯責任を裁判例で解説した記事で詳しく扱っています。
継続利用で起こり得ること②——新たな観測と別の意見照会
権利者側の調査は、一度きりで終わるとは限りません。利用を続けていれば、別の日時・別の作品について新たに観測され、改めて発信者情報開示請求がされる可能性があります。作品や権利者が異なれば、それぞれが別の請求となり、意見照会書が時期をずらして何通も届くこともあります。
複数の照会が届いた場合の考え方はトレントの意見照会書が複数届いたときの対応で解説していますが、ここで強調したいのは、最初の1通が届いた時点で利用をやめていれば、それ以降の観測を新たに生むことはないという点です。すでに観測済みの分についての照会が後から届くことはあり得ますが、継続利用によって請求の数そのものを増やしてしまう事態は避けられます。
継続利用で起こり得ること③——「知らなかった」が通りにくくなる
著作権法114条3項は、「故意又は過失により」著作権を侵害した者に対し、権利の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を損害として請求できると定めています。BitTorrentの事案では、「ダウンロードしかしていないつもりだった」「アップロードされる仕組みを知らなかった」という説明がされることがありますが、意見照会書には送信可能化による侵害である旨が記載されています。書面を受け取った後も利用を続ければ、少なくともそれ以降については、侵害であることを認識しながら行為を続けたと評価されやすくなると考えられます。
このことは、示談交渉の場面にも影響します。減額を求めるうえで、「事情を知ってすぐにやめた」という経緯は説明の材料になり得ますが、照会後も利用を続けていた事実が明らかになれば、その説得力は大きく損なわれます。また、示談書には、今後同種の行為をしない旨の条項が置かれることが少なくありません。示談の前後を問わず、利用を続けることは交渉の前提そのものを崩しかねません。
継続利用で起こり得ること④——刑事責任・回線契約への影響
著作権侵害は、著作権法119条1項により「十年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とされる犯罪でもあります。同法123条1項により、原則として告訴がなければ公訴を提起できない親告罪とされていますが、一定の要件を満たす場合には告訴を要しないとする例外(同条2項)も設けられています。BitTorrentの開示請求の多くは民事上の損害賠償を目的とするものですが、照会後も侵害を続けることは、刑事の場面でも悪質性を基礎づける事情になり得ます。刑事責任の考え方はトレントで逮捕される可能性を解説した記事もご参照ください。
また、多くのプロバイダは、約款で第三者の著作権を侵害する行為を禁止しています。どのような場合に利用停止や契約解除に至るかは各社の約款と判断によりますが、侵害の継続が確認されれば、回線契約の面で不利益を受ける可能性も否定できません。なお、著作権法112条1項は、権利者が侵害する者に対し「その侵害の停止又は予防を請求することができる」と定めており、利用の継続は差止めの請求を受ける理由にもなり得ます。
「やめる」とは具体的に何をすることか
ここでいう「やめる」とは、送信可能な状態を解消すること、つまり共有(シード)を止め、ソフトの通信を止めることです。次の点を確認してください。
- トレントソフト上のすべてのタスク(ダウンロード中・シード中)を停止し、ソフトを終了する
- パソコン起動時にソフトが自動で起動する設定になっていないかを確認し、自動起動を無効にする
- スマートフォン・タブレット・NAS(ネットワーク接続ストレージ)など、パソコン以外の機器でクライアントが動いていないかを確認する
- 同じ回線を使う家族・同居人の端末でトレントが使われていないかを確認する
- シードボックス等の外部サービスを使っている場合は、そちらのタスクも停止する
一方で、ソフトのアンインストール、ダウンロード履歴やファイルの削除、端末の初期化は、「行為をやめること」ではなく「記録を消すこと」です。記録を消すと、自分の反論を裏づける材料まで失うおそれがあります。この区別については意見照会書が届いたらトレントソフトは消していいかを解説した記事で詳しく述べています。
やめた日時を記録しておく
先の裁判例のとおり、利用をやめた時点は損害の範囲を画する事情になり得ます。後になって「いつやめたのか」を説明できるよう、停止した日時を記録しておくことをおすすめします。
| 記録の方法 | ポイント |
|---|---|
| 停止後のソフト画面のスクリーンショット | 画面の時計やファイルの作成日時で日付が分かるように残す |
| 停止した日時・操作のメモ | いつ、どの端末で、何を止めたかを具体的に書く |
| 意見照会書の到達日の記録 | 封筒を含めて保存し、受け取った日を書き留める |
| 家族への確認の経緯 | 誰に、いつ確認し、どう対応したかを記録する |
ただし、こうした記録をそのまま回答書に書くべきかは別の問題です。利用の事実を前提とした記載は、発信者であることを自認したものと受け取られる可能性があります。回答書に何をどこまで書くかは、事実関係を整理したうえで慎重に判断する必要があります。回答書の作成を含む意見照会段階の対応全般は、当事務所の意見照会対応のページでもご案内しています。
BitTorrentを理由とする意見照会書への対応手順と弁護士費用は、BitTorrent著作権侵害の意見照会書が届いた方向けの特設ページにまとめています。
よくある質問
意見照会書の対象になった作品以外なら、使い続けても問題ありませんか。
問題があります。別の作品であっても、送信可能な状態に置けば同じく著作権侵害となり得ます。権利者側の調査で新たに観測されれば、その作品について別の開示請求がされる可能性があります。
意見照会書が届いた後にやめても、もう手遅れではありませんか。
手遅れではありません。すでに観測された分の責任がなくなるわけではありませんが、裁判例では、利用をやめた時点が損害の期間の終期として考慮されています。早くやめるほど、対象期間の拡大や新たな請求を防ぐことにつながります。
家族が使っていた場合、家族にもやめてもらう必要がありますか。
必要です。意見照会は回線契約者に届くため、家族の利用が続けば、契約者に新たな照会が届く可能性があります。実際に誰が利用していたかは回答内容にも関わるため、家族への確認の経緯も記録しておくとよいでしょう。
やめたことを回答書に書いたほうが有利になりますか。
一概にはいえません。やめた経緯は示談交渉などで意味を持ち得ますが、回答書の段階で利用の事実を前提とした記載をすると、発信者であることを認めたものと受け取られるおそれがあります。記載の要否は弁護士と相談して判断することをおすすめします。
まとめ
意見照会書が届いた後もトレントの利用を続けると、①損害賠償の対象期間が延びる可能性、②新たな観測による別の意見照会、③「知らなかった」という説明が通りにくくなること、④刑事・回線契約の面での不利益、というリスクが重なります。他方で、利用を続けることで得られる法的な利点はありません。
届いた時点ですべての端末で共有を止め、止めた日時を記録し、データは消さずに残しておく——これが基本の対応です。そのうえで、回答書に何を書くか、開示後の示談にどう備えるかは、事案ごとの判断が必要になります。回答期限はおおむね到達から2週間と短いため、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。横浜の当事務所では、遠方の方からのご相談にもオンラインで対応しています。
意見照会書が届いた方へ——使い続ける前に、まずご相談ください
タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする意見照会書への対応を数多く取り扱っております。ITエンジニアの経験を持つ弁護士が、回答書の作成から開示後の示談交渉まで対応します。BitTorrentの意見照会に関するご相談に限り、オンライン(20分程度)で無料のご相談を承っています(その他の分野のご相談は対象外です)。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。