トレントで逮捕される可能性はあるのか|著作権法の罰則と親告罪
トレントで逮捕される可能性はあるのか|著作権法の罰則と親告罪
プロバイダから意見照会書が届いた方から、最初に受けるご質問はほとんど同じです。「これは、警察が来るということですか」——書面には著作権侵害という言葉と、見覚えのある日時が並んでいます。仕事や家族のことを考えれば、まず頭に浮かぶのが逮捕の二文字であるのは、当然のことだと思います。
この記事では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする発信者情報開示請求について、刑事事件としての逮捕・起訴がどのような場合に問題となるのかを、著作権法の罰則規定と親告罪の仕組み、そして公的な統計資料に即して、横浜の弁護士が整理します。過度に楽観することも、必要以上に恐れることも避けるための、事実の確認から始めます。
意見照会書は民事の手続であり、刑事手続とは系統が異なる
最初に押さえるべきなのは、手続の性質です。意見照会は、情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律。旧・プロバイダ責任制限法)6条1項に基づき、発信者情報の開示請求を受けたプロバイダが、開示に応じるかどうかを判断する前提として発信者の意見を聴く手続です。
この手続の当事者は、権利者とプロバイダ、そして発信者であり、捜査機関は登場しません。開示請求の目的は、権利者が民事上の損害賠償請求の相手方を特定することにあります。刑事手続は、告訴や捜査機関の独自の端緒によって別に開始されるものであり、両者は並行し得ますが、一方が他方を当然に呼び込む関係にはありません。書面が届いた側の対応全般については、インターネット問題(発信者側の対応)のページでも取扱いを整理しています。
著作権法の罰則——条文上はどこまで定められているか
もっとも、刑事罰の規定が存在しないわけではありません。むしろ、条文上の法定刑は決して軽いものではありません。現行の著作権法は、次のように定めています。
| 条文 | 対象となる行為 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 119条1項 | 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(私的使用目的の複製等を除く) | 10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金、又はその併科 |
| 119条2項1号 | 著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者 | 5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はその併科 |
| 119条3項1号 | 私的使用目的で、有償の音楽・映像について違法配信と知りながら行うデジタル方式の録音・録画 | 2年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金、又はその併科 |
| 119条3項2号 | 私的使用目的で、有償の著作物について違法配信と知りながら継続的・反復的に行うデジタル方式の複製(軽微なものを除く) | 2年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金、又はその併科 |
| 124条1項1号 | 法人の業務に関して119条1項等の違反行為が行われた場合(両罰規定) | 行為者の処罰に加え、法人に3億円以下の罰金刑 |
「拘禁刑」という見慣れない用語は、令和7年(2025年)6月1日施行の改正刑法により懲役と禁錮が一本化されて新設された刑を指します。従来「懲役」と表記されていた部分が拘禁刑となったもので、法定刑の重さ自体が変わったわけではありません。
BitTorrentの利用が問題とされる場面で中心となるのは、119条1項です。ファイル共有ソフトは、ダウンロードと同時に取得済みの部分を他の利用者へ送信する仕組みを持つため、利用者の側に送信の認識が乏しくても、著作権法23条1項の公衆送信権(送信可能化を含む)の侵害が問題となり得ます。この点は、「ダウンロードしただけ」という主張は通用するかで詳しく解説しています。
親告罪と、平成30年の一部非親告罪化
ここからが、刑事事件化を考えるうえで実際に効いてくる部分です。著作権法123条1項は、119条の罪などについて、告訴がなければ公訴を提起することができないと定めています。いわゆる親告罪です。つまり、権利者が告訴をしなければ、原則として起訴には至りません。
ただし、これには重要な例外があります。TPP協定の発効等に伴う改正により、平成30年12月30日から、一定の要件をすべて満たす場合には告訴がなくても起訴できることになりました(一部非親告罪化)。実務上、次の三つの要件で整理されています。
- 目的の要件——侵害行為の対価として財産上の利益を得る目的、又は有償著作物等の販売等により権利者が得ることを見込まれる利益を害する目的があること
- 原作性の要件——有償著作物等を「原作のまま」譲渡・公衆送信し、又はそのために複製するものであること
- 不当性の要件——有償著作物等の提供・提示により権利者が得ることを見込まれる利益が不当に害されること
この改正は、海賊版の販売や映画の違法配信のような行為を念頭に置いたものとされ、二次創作やパロディは原作のままの利用ではないため対象外と解されています。もっとも、BitTorrentによる有償の作品の共有が当然に対象外になる、と言い切ることはできません。有償で提供されている作品を改変せずそのまま送信可能な状態に置く行為は、少なくとも原作性の要件との関係では議論の余地があり、目的の要件をどう評価するかが分かれ目になります。「親告罪だから告訴されなければ大丈夫」という理解は、正確ではないということです。
告訴には期間の制限がある
親告罪について、刑事訴訟法235条1項は、犯人を知った日から6か月を経過したときは告訴をすることができないと定めています。ここでいう「犯人を知った」とは、告訴権者が犯人が誰であるかを知ることをいうと解されており、住所や氏名の細部まで知っている必要はないとされています。発信者情報の開示によって権利者が氏名を把握した時点との関係で、この期間がどう進行するかは、事案ごとの検討を要する論点です。
実際に検挙されているのは、どのような事案か
条文の話と、現実に起きていることは分けて考える必要があります。警察庁生活安全局が令和7年3月に公表した「令和6年における生活経済事犯の検挙状況等について」によれば、令和6年中の著作権侵害事犯の検挙事件数は65事件で、前年より33事件(33.7%)減少しました。このうちインターネット利用事犯は52事件(80.0%)です。過去10年でみると、平成27年の239事件から一貫して減少傾向にあります。
同資料に検挙事例として挙げられているのは、漫画の海賊版の「早バレ」サイト運営に係る事案など、組織性・営利性を伴う行為です。課題として言及されているのも、海賊版サイト、通信匿名化技術や海外サーバの利用、日本のコンテンツの外国語翻訳による海外向け配信といった類型でした。
他方で、過去にはファイル共有ソフトを利用したアップロード行為について一斉取締りが行われ、個人が検挙・送致された例も報道されています。個人利用者が刑事事件の対象になる可能性がゼロだ、という前提に立つことはできません。統計から言えるのは、刑事の検挙が年間数十件の規模にとどまり、その中心が営利性・組織性のある事案だという傾向にすぎず、個別の事案について何かを保証するものではありません。
意見照会書が届いた方が、現実に直面する問題
ご相談の場で申し上げているのは、多くの場合、心配の重心を置く場所が違っている、ということです。BitTorrent事案で現実に生じているのは、開示後に権利者の代理人から届く損害賠償請求であり、そこでの交渉です。逮捕を心配して眠れずにいるうちに回答期限が過ぎてしまい、対応の選択肢を狭めてしまう——これが最も避けたい経過です。
情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会が定めるガイドラインでは、意見照会後2週間程度経過しても回答がない場合、発信者はこの点について特段の主張を行わないものとして扱うこととされています。総務省の資料も、十分な回答期限を明示して意見照会を行った場合には、期限経過後に回答がなかったことを前提として諾否の判断を行うことは妨げられない、との考え方を示しています。沈黙は、防御にはなりません。不同意と回答した後にどのような手続が続くのかは、「開示に同意しない」と回答した後の流れで整理しています。
また、回線を使っていたのが自分ではないと考えている場合には、刑事責任以前に、そもそも誰が発信者なのかという問題を先に整理する必要があります。この点は家族・同居人が使っていた場合、発信者性は否認できるかをご覧ください。事案の見立てと回答の方針については、BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の特設ページでも、対応の流れをご案内しています。
よくある質問
意見照会書が届いた段階で、警察に情報が渡っているのですか。
意見照会は、情報流通プラットフォーム対処法6条1項に基づき、開示請求を受けたプロバイダが発信者の意見を聴くための民事手続上の手続です。プロバイダが警察に通報する仕組みではなく、照会が行われたこと自体が捜査機関への情報提供を意味するものではありません。刑事手続は、権利者による告訴や捜査機関の独自の端緒によって別途開始されるものであり、民事の開示請求とは手続の系統が異なります。
著作権法違反は親告罪だと聞きました。告訴されなければ捜査もされないのですか。
親告罪とは、告訴がなければ公訴を提起することができない罪をいい、著作権法123条1項が定めています。起訴の要件であって捜査の要件ではないため、告訴前に捜査が行われること自体は否定されません。また、平成30年12月30日施行の改正により、対価を得る目的または権利者の利益を害する目的があること、有償著作物等を原作のまま譲渡・公衆送信または複製するものであること、権利者の得ることが見込まれる利益が不当に害されることという要件をすべて満たす場合には、告訴がなくても公訴を提起できるものとされています。
意見照会書への回答で事実を認めると、刑事事件で不利になりますか。
回答書は権利者側にも伝わり得る書面であり、記載した内容が後の交渉や紛争で参照される可能性があります。他方で、事実と異なる記載をすれば、後に矛盾が判明したときに供述全体の信用性が問われます。したがって、事実を偽るのではなく、認める部分と争う部分をどう切り分け、どこまでを書面に残すかを検討することが重要になります。回答の方針は、後の示談交渉まで見据えて決めるべき事柄です。
パソコンやダウンロードしたファイルは削除しておくべきですか。
証拠を隠す目的で機器を破壊したり処分したりすることは、事案の評価を悪化させる方向にしか働きません。他方で、違法に取得した著作物の共有を継続することは侵害状態を続けることになります。ファイル共有ソフトの稼働を止めて共有状態を解消することと、機器そのものを処分してしまうことは意味が異なりますので、対応を決める前に弁護士に相談されることをおすすめします。
権利者と示談すれば、刑事責任の問題も終わりますか。
示談は民事上の損害賠償責任を解決するものであり、それ自体が刑事責任を消滅させるものではありません。もっとも、親告罪については告訴がなければ公訴を提起できないため、示談の内容として告訴をしない旨や告訴を取り消す旨が合意されることがあり、その限りで刑事手続との関係が生じます。示談書にどのような条項を設けるかは、後の紛争の再燃を避けるうえでも重要な検討事項です。
まとめ
トレントの意見照会書と刑事責任の関係について、要点を整理します。
- 意見照会は情報流通プラットフォーム対処法6条1項に基づく民事手続であり、それ自体が捜査機関への情報提供を意味するものではない
- 著作権法119条1項は10年以下の拘禁刑又は1000万円以下の罰金(併科あり)を定めており、条文上の法定刑は軽いものではない
- 同法123条1項により原則は親告罪だが、平成30年12月30日施行の改正で、目的・原作性・不当性の三要件を満たす場合には非親告罪となる
- 親告罪の告訴は、刑事訴訟法235条1項により犯人を知った日から6か月に制限されている
- 警察庁の統計では令和6年中の著作権侵害事犯の検挙は全国で65事件であり、中心は営利性・組織性のある事案だが、個人が対象となる可能性がないとは言えない
- 現実に多くの方が直面するのは開示後の損害賠償請求であり、回答期限内に方針を決めることが最も重要である
刑事事件になるかどうかという不安は、情報が足りないところで最も大きく膨らみます。手元の書面がどの段階のもので、次に何が起き得るのかを整理するだけでも、判断できることは相当に増えます。回答期限が迫っている場合には、期限内に弁護士へご相談ください。BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の特設ページでは、対応の流れと費用を具体的にご案内しています。
逮捕や刑事事件への不安を抱えて意見照会書をお持ちの方へ
横浜のタングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする発信者情報開示請求・意見照会書への対応を継続的に取り扱っており、ITエンジニアの経験を持つ弁護士が技術的背景を踏まえて対応します。ご相談・お打合せはオンラインで完結し、全国からご依頼をお受けしています。なお、本件(BitTorrent著作権侵害の意見照会・開示対応)に限り、オンラインによる20分程度の法律相談を無料で実施しています。他の分野の事案については、この取扱いの対象外となります。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。なお、法令・裁判手続の運用およびプロバイダの取扱いは変更されることがあります。手続の詳細は裁判所・総務省・警察庁および各社の公式情報を必ずご確認ください。