正規に購入した作品でもトレント共有は侵害か|私的複製の範囲と意見照会
正規に購入した作品でもトレント共有は侵害か|私的複製の範囲と意見照会
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月14日 最終更新日:2026年10月14日
BitTorrent(トレント)を理由とする意見照会書を受け取り、対象の作品名を見て「この作品はDVDも持っているし、配信でもお金を払って見ている。自分は正規の購入者なのに、なぜ著作権侵害と言われるのか」と戸惑う方がいらっしゃいます。お金を払って手に入れた作品なのだから、自分が使う分には自由なはずだ、と考えるのは自然な感覚かもしれません。
この記事では、作品を購入した人に著作権法上どこまでの利用が認められているのか、BitTorrentでの共有がその範囲に入るのか、購入していた事実が示談金の算定や意見照会への回答でどう扱われ得るのかを、発信者側の立場から解説します。
結論として、作品を購入した人に認められるのは、主に個人的・家庭内での視聴や私的使用目的の複製であり、不特定多数の人に向けて送信できる状態に置くこと(送信可能化)までは含まれません。BitTorrentでは、ダウンロード中のデータが他の利用者にも送信され得るため、正規に購入した作品であっても著作権侵害が問題とされる可能性があります。購入の事実だけで開示を止めたり請求を免れたりすることは難しく、照会書に記載された事実を具体的に確認することが大切です。
なぜ「購入したのだから問題ない」と考えてしまうのか
意見照会書が届いた方からは、「手元のディスクが傷んだので、同じ作品をトレントで入手し直しただけ」「定額配信サービスで見られる作品を、オフラインで見るために落とした」「購入済みのゲームや漫画のデータをバックアップしたかった」といったお話を伺うことがあります。
いずれも、作品の対価をすでに支払っている以上、権利者に経済的な損失は生じていないはずだ、という感覚が背景にあります。しかし、著作権法は、作品を「見る・持つ」ことと、作品を「他人に送信できる状態に置く」ことを、別々の行為として扱っています。購入によって得られる地位と、BitTorrentで行われている行為の中身を、分けて考える必要があります。
購入した人に認められる利用と「私的使用のための複製」
ディスクやデータを購入した人は、その作品を視聴したり読んだりすることができます。また、著作権法30条1項は、著作物を個人的に、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用すること(私的使用)を目的とする場合には、一定の例外を除き、使用する者が複製することができると定めています。購入した作品を自分で視聴するために複製することは、この範囲で認められ得ます。
ただし、私的使用目的であっても、次のような複製は同項の例外として、私的複製の範囲から外れます。
- コピーガードなどの技術的保護手段を回避して可能になった複製を、その事実を知りながら行う場合(30条1項2号)
- 著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音・録画や複製を、侵害によるものと知りながら行う場合(同項3号・4号。4号には、著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合などの除外があります)
つまり、私的使用のための複製は、あくまで「自分や家庭内で使うための複製」に限って認められる例外であり、購入者であれば何をしてもよいという意味ではありません。条文上、受信した人がその作品を別途購入していたかどうかによる区別も置かれていません。
BitTorrentの共有は「複製」ではなく「送信可能化」の問題
BitTorrentをめぐる発信者情報開示請求で権利者が問題にしているのは、多くの場合、手元での複製ではなく、作品のデータを他の利用者が取得できる状態に置いたことです。著作権法23条1項は、著作者が著作物を公衆送信する権利を専有すると定め、自動公衆送信の場合には送信可能化を含むとしています。送信可能化とは、インターネットに接続された機器にデータを記録するなどして、公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にすることをいいます(同法2条1項9号の5)。
BitTorrentのクライアントソフトは、通常、ダウンロード中のデータの断片(ピース)を、同じファイルを求める他の利用者にも送信する仕組みになっています。そのため、本人は「入手し直しただけ」のつもりでも、送信可能化に当たると評価される可能性があります。この仕組みは「ダウンロードしただけ」は通用するか|トレント開示請求と送信可能化権で詳しく解説しています。
さらに、著作権法49条1項1号は、私的使用目的で作成した複製物であっても、その目的以外の目的で頒布したり、その複製物によって著作物を公衆に提示(送信可能化を含みます)したりした者は、複製を行ったものとみなすと定めています。私的複製として適法に作られたデータであっても、後に共有すれば、私的複製の例外による保護は及ばなくなるということです。
| 行為 | 購入者に認められるか(考え方) |
|---|---|
| 購入した作品を自分で視聴する | 認められる |
| 自分や家庭内で使うために複製する | 私的使用目的の複製として認められ得る(30条1項。技術的保護手段の回避などの例外あり) |
| 侵害と知りながら、違法にアップロードされたデータを入手する | 私的複製の範囲から外れる(30条1項3号・4号) |
| BitTorrentで他の利用者が取得できる状態に置く | 購入とは別の行為。公衆送信権(送信可能化)の侵害が問題となり得る(23条1項) |
「意図せず共有していた」場合との関係
購入者の方の中には、「共有するつもりはまったくなかった」とおっしゃる方も多くいらっしゃいます。BitTorrentの仕組みを知らずに利用していた、ダウンロード完了後すぐにソフトを閉じたつもりだった、といった事情です。
こうした事情は、権利侵害の故意・過失や、送信していた期間の評価に関わる可能性があります。ただし、ソフトの仕組みや設定によっては、本人の認識と実際の通信状況が一致しないこともあり、「購入していた」「共有するつもりはなかった」という説明だけで責任が否定されるとは限りません。故意・過失の考え方は「意図せず共有していた」は通用するか|トレント意見照会と故意・過失で整理しています。
購入していた事実は示談金の算定でどう扱われ得るか
開示後に損害賠償を請求される場面で問題とされるのは、主に、他の利用者が作品を取得できる状態にしたことで権利者が受けた損害です(著作権法114条は損害額の推定等を定めています)。作品の対価を一度支払っていることは、この「他者への送信」による損害とは別の事情であるため、購入の事実が直ちに損害額を減らす事情になるとは限りません。
一方で、購入の経緯や利用の目的、送信していた期間、対象作品の数などは、示談交渉において事情として説明する意味がある場合もあります。示談金は、作品の性質、利用の態様、期間、件数などの要素を踏まえて決まるもので、一律の金額があるわけではありません。算定の考え方はトレントの示談金はどう決まるのか|損害賠償額の算定要素を解説をご覧ください。
意見照会の段階で、購入の事実をどう扱うか
意見照会書への回答で「この作品は正規に購入している」と書きたくなるかもしれません。しかし、その記載は、照会書に記載された日時に自分がその作品をBitTorrentで扱っていたことを前提にした説明と受け取られるおそれがあります。開示の可否を判断するうえで、購入の事実が決め手になることは考えにくく、かえって自ら利用の事実を認める結果になりかねません。
意見照会の段階でまず確認すべきなのは、次のような照会書記載の具体的な事実です。
- 記載された発信日時・IPアドレス・ポート番号に、その回線を誰がどのように使っていたか
- ハッシュ値やファイル名が、権利者の作品と同一のファイルを示しているか
- 家族・同居人など、回線を利用できた人がほかにいないか
購入時の領収書や購入履歴は、開示後の交渉で利用の経緯を説明する資料になる可能性があるため、削除せずに保管しておくとよいでしょう。回答書に何を書き、何を書かないかは事案ごとの判断が必要です。横浜の当事務所の考え方は意見照会対応のページでもご紹介しています。BitTorrentの意見照会書への具体的な対応の流れや弁護士費用は、BitTorrent著作権侵害の意見照会書が届いた方向けの特設ページでご案内しています。
よくある質問
DVDを持っている作品をトレントでダウンロードし直しただけでも、責任を問われますか。
問われる可能性があります。購入者に認められるのは主に個人的・家庭内での視聴や私的使用目的の複製であり、BitTorrentで他の利用者が取得できる状態に置くこと(送信可能化)は含まれません。BitTorrentはダウンロード中のデータを他の利用者にも送信し得る仕組みのため、公衆送信権の侵害が問題とされることがあります。
定額配信サービスを契約している作品なら、問題にならないのではありませんか。
配信サービスの契約で認められるのは、通常、そのサービスの利用規約の範囲での視聴です。契約していることによって、BitTorrentで作品を共有することが認められるわけではありません。
購入していたことは、示談金の減額理由になりますか。
直ちに減額理由になるとは限りません。請求で問題とされるのは主に他の利用者への送信による損害であり、作品の対価を支払っていたこととは別の事情だからです。ただし、利用の経緯や目的、送信期間などとあわせて、交渉で説明する意味がある場合もあります。
意見照会書への回答で「購入済みです」と書くべきですか。
慎重に検討すべきです。購入の記載は、照会書記載の日時にその作品を扱っていたことを前提にした説明と受け取られるおそれがあり、開示を止める効果も期待しにくいためです。照会書の発信日時やファイルの同一性などを確認したうえで、記載内容を弁護士と相談することをおすすめします。
まとめ
作品を正規に購入した人に認められるのは、主に個人的・家庭内での視聴や私的使用目的の複製です。BitTorrentでの共有は、購入とは別の「送信可能化」の問題であり、私的複製として作ったデータであっても、共有すれば私的複製の例外は及びません。購入の事実は、開示の可否や損害額を直ちに左右する事情とはいいにくく、回答書の書き方によってはかえって不利に働くこともあります。
「買ったのに」という思いは自然なものですが、まずは照会書と添付資料に記載された事実を一つずつ確認し、事案に即した対応を検討することが大切です。横浜の当事務所では、全国の方からのBitTorrent事案のご相談に、弁護士がオンラインで対応しています。
「購入していたのに」と戸惑っている方へ
タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする意見照会書への対応から、開示後の損害賠償請求・示談交渉、訴訟対応まで数多く取り扱っております。照会書と添付資料を確認し、購入の経緯を含めた事情を伺ったうえで、回答の方針をご説明します。BitTorrentの意見照会に関するご相談に限り、オンライン(20分程度)で無料のご相談を承っています(その他の分野のご相談は対象外です)。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。