タングラム法律事務所

相続トラブルを防ぐ遺言書の付言事項|効力と書き方を弁護士が解説

相続トラブルを防ぐ遺言書の付言事項|効力と書き方を弁護士が解説

相続トラブルを防ぐ遺言書の付言事項|効力と書き方を弁護士が解説

相続トラブルを防ぐ遺言書の付言事項|効力と書き方を弁護士が解説

相続トラブルを防ぐ遺言書の付言事項|効力と書き方を弁護士が解説

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月13日 最終更新日:2026年10月13日

「遺言書で長男に多く残したいが、ほかの子どもたちに恨まれないか心配だ」「親の遺言書の最後に『兄弟仲良く』と書いてあったが、これに従わなければならないのか」――遺言書の末尾に書かれる「付言事項(ふげんじこう)」については、遺言を書く側からも、受け取る相続人の側からも、さまざまな疑問が寄せられます。

この記事では、相続における遺言書の付言事項とは何か、法的効力はあるのか、相続トラブルや遺留分侵害額請求を防ぐためにどのように書けばよいのかを、紛争案件を扱う横浜の弁護士の視点から解説します。付言事項をめぐって相続人の間で意見が対立した場合の考え方にも触れます。

結論から言うと、付言事項は遺言者の想いや遺言の理由を伝えるメッセージであり、それ自体に法的な強制力はありません。「遺留分を請求しないでほしい」と書いても請求権は消えませんが、財産配分の理由を丁寧に説明しておくことで、相続人の納得を得やすくなり、遺言の内容が争われた際の解釈の手がかりにもなります。法的な効果を生じさせたい事項は、付言ではなく遺言の本文に明確に書くことが重要です。

遺言書の「付言事項」とは?法定遺言事項との違い

遺言書に書く内容は、大きく「法定遺言事項」と「付言事項」に分けられます。民法960条は「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」と定めています。また、遺言によって法的効果を生じさせることができる事項も、法律で定められたものに限られると解されています。これが法定遺言事項です。

これに対し、付言事項とは、法定遺言事項以外に遺言書に書き添えるメッセージのことをいいます。家族への感謝、財産配分をそのように決めた理由、葬儀やお墓についての希望などがその典型です。法務局が公表している自筆証書遺言の作成案内でも、財産に関する条項の後に「(付言事項)」と見出しを付けて家族へのメッセージを記載する例が示されています。

区分主な内容法的効力
法定遺言事項相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈、遺言執行者の指定、祭祀主宰者の指定、特別受益の持戻し免除 などあり(方式・要件を満たす場合)
付言事項家族への感謝、財産配分の理由、兄弟仲良くしてほしいという願い、葬儀・納骨の希望 など原則としてなし

付言事項に法的効力はない?書いても実現しないこと

付言事項は、相続人を法的に拘束するものではありません。たとえば、次のような記載は、相続人が従わなかったとしても法的な制裁や効果はありません。

  • 「兄弟で争わず、仲良く暮らしてほしい」
  • 「実家は売らずに守ってほしい」
  • 「次男は遺留分侵害額請求をしないでほしい」

特に注意が必要なのが遺留分です。兄弟姉妹以外の相続人には、民法1042条により遺留分が保障されています。被相続人が生前に遺留分を放棄させるには、民法1049条1項により家庭裁判所の許可が必要であり、遺言書の付言で「請求しないように」と書いても、遺留分侵害額請求権を消滅させることはできません。遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年で時効により消滅します(民法1048条)ので、請求を受ける側・する側のいずれも期限に注意が必要です。

一方で、法的な効果を持ち得る内容を付言事項の欄に書いてしまうケースもあります。たとえば、特別受益の持戻し免除(民法903条3項)や祭祀を主宰すべき者の指定(民法897条1項ただし書)は、遺言で定めることができる事項です。これらが「付言」の見出しの下に書かれている場合、内容が明確であれば法的な意思表示として扱われる可能性がある一方、表現があいまいだと「単なる希望なのか、法的な指定なのか」が争いになりかねません。持戻し免除の詳しい仕組みは特別受益の持戻し免除の解説記事をご覧ください。

付言事項が相続トラブル防止・遺留分対策に役立つ理由

法的効力がないにもかかわらず、付言事項が重視されるのは、相続紛争の多くが「金額」だけでなく「なぜ自分の取り分が少ないのか」という感情面の不満から始まるためです。財産配分の理由が書かれていないと、相続人は「誰かが親に書かせたのではないか」と疑いを抱きやすく、遺言無効の主張や遺留分侵害額請求に発展することがあります。

また、付言事項は遺言の解釈の手がかりにもなり得ます。最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決(判例タイムズ496号80頁)は、遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究すべきであるという趣旨を述べています。本文の条項の意味が争われたとき、付言事項に書かれた理由や経緯が、遺言者の真意を推し量る材料の一つとして考慮される可能性があります。

付言事項の書き方と文例|紛争を招かないためのポイント

付言事項に決まった書式はありませんが、相続トラブルを防ぐ観点からは、次の点を意識するとよいでしょう。

  • 財産配分の理由を具体的に書く:「長年同居して介護をしてくれたため」「事業を継ぐため」など、客観的な事情を書く
  • ほかの相続人への配慮・感謝を書く:取り分が少ない相続人にも感謝の言葉を添える
  • 特定の相続人を非難しない:「長女は親不孝だった」といった記載は、かえって感情的な対立を深めます
  • 本文と矛盾させない:本文と異なる配分を付言で書くと、解釈をめぐる争いの原因になります
  • 法的効果を求める事項は本文に書く:持戻し免除や祭祀主宰者の指定などは、本文の条項として明確に定める

文例(同居して介護をした長男に自宅を相続させる場合)
「自宅を長男○○に相続させるのは、○○が10年以上にわたり私と同居し、介護を続けてくれたことに報いるためです。長女△△と次男□□には、これまで十分に支えてもらったことに感謝しています。私の気持ちを理解し、兄弟で協力して手続を進めてくれることを願っています。」

なお、付言事項を丁寧に書いても、遺留分を侵害する内容であれば請求を受ける可能性は残ります。遺留分相当額の金銭を準備しておくなど、本文の内容自体で紛争リスクを下げる工夫と組み合わせることが大切です。

自筆証書遺言・公正証書遺言での付言事項の注意点

自筆証書遺言の場合

自筆証書遺言は、民法968条1項により、遺言者が全文、日付及び氏名を自書し、押印しなければなりません。パソコン等での作成が認められているのは財産目録(同条2項)に限られるため、付言事項も遺言書の一部として自書しておくのが無難です。また、書き加えや訂正には同条3項の方式が必要です。付言事項を後から書き足したくなった場合は、方式の誤りを避けるため、全体を書き直すことも検討しましょう。遺言の書き直しの方法は遺言書の撤回・書き直しの方法の記事で解説しています。

公正証書遺言の場合

公正証書遺言でも、公証人に希望を伝えれば付言事項を記載してもらうことができます。遺言者の言葉に近い表現で残したい場合は、事前に文案を用意して公証人と調整するとよいでしょう。作成手続の流れは公正証書遺言の作り方の記事をご参照ください。

付言事項をめぐって相続人間で争いになった場合

相続が開始した後、「付言に『兄弟仲良く』とあるのだから、取り分が少なくても我慢すべきだ」「付言では自宅を売るなと書いてある」といった主張が出され、話し合いが行き詰まることがあります。前述のとおり付言事項に法的拘束力はないため、遺留分侵害額請求をするか、遺言と異なる内容で遺産分割をするかといった判断は、法的な権利関係を踏まえて行うことになります。

他方で、遺言の本文の意味自体が争われている場合には、付言事項の記載が遺言者の真意を示す資料として重要になることがあります。遺言の解釈、遺留分の計算、遺産分割調停での主張の組み立てなどは専門的な判断を要しますので、紛争になりそうな段階で弁護士に相談することをおすすめします。当事務所の相続・遺留分侵害額請求の取扱分野のページもあわせてご覧ください。

また、遺言の内容によっては相続税の申告が必要となり、申告期限は原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。具体的な税額や申告の要否については、税理士または税務署にご確認ください。

遺言書の付言事項に関するよくある質問

Q1. 付言事項に書いたことは、相続人が必ず守らなければなりませんか?

いいえ。付言事項は遺言者の想いを伝えるメッセージであり、原則として相続人を法的に拘束するものではありません。ただし、付言の内容によっては、遺言の本文の解釈に影響する可能性があります。

Q2. 付言事項で「遺留分を請求しないで」と書けば、遺留分侵害額請求を防げますか?

防ぐことはできません。生前の遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要であり(民法1049条1項)、付言事項の記載だけで遺留分侵害額請求権が失われることはありません。もっとも、理由を丁寧に説明することで、相続人が請求を思いとどまる可能性はあります。

Q3. 付言事項だけをパソコンで作成して遺言書に添付してもよいですか?

自筆証書遺言では、自書によらない作成が認められているのは財産目録に限られます(民法968条2項)。付言事項も遺言書の一部として扱われ得るため、自書しておくのが無難です。

Q4. 付言事項の内容と遺言の本文が食い違っている場合はどうなりますか?

付言事項には原則として法的効力がないため、基本的には本文の条項が基準になります。ただし、本文の意味があいまいな場合には、遺言書全体の記載や作成当時の事情などを考慮して遺言者の真意が探究されるため、付言の内容が解釈に影響することもあります。

まとめ|付言事項は相続トラブル予防の大切な手段

  • 付言事項は、法定遺言事項以外に遺言書に書き添える家族へのメッセージで、原則として法的効力はない
  • 「遺留分を請求しないで」と書いても、遺留分侵害額請求権はなくならない
  • 財産配分の理由や感謝を具体的に書くことで、相続人の納得を得やすくなり、遺言の解釈の手がかりにもなり得る
  • 持戻し免除や祭祀主宰者の指定など、法的効果を求める事項は本文に明確に書く
  • 自筆証書遺言では付言事項も自書しておくのが無難

遺言書の内容が相続トラブルの火種にならないようにするには、付言事項だけでなく、遺留分への配慮を含めた本文の設計が欠かせません。また、相続が始まった後に付言事項や遺言の解釈をめぐって争いが生じた場合も、早い段階で弁護士に相談することで、取り得る選択肢を整理しやすくなります。

遺言の内容や遺留分をめぐる相続トラブルでお悩みの方へ

タングラム法律事務所では、横浜を拠点に、遺産分割・遺留分侵害額請求など紛争性のある相続事件を数多く取り扱っております。遺言の解釈や付言事項をめぐる対立、遺留分の請求・対応について、具体的な見通しをご説明いたします。

法律相談の予約はこちら

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

遺言・相続の手続を確認する

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。