相続のデジタル遺言(保管証書遺言)とは?改正点を弁護士が解説
相続のデジタル遺言(保管証書遺言)とは?改正点を弁護士が解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月20日 最終更新日:2026年10月20日
「パソコンやスマートフォンで遺言が作れるようになったと聞いた」「親が残した遺言がデジタルだったら、相続でもめずに済むのだろうか」。2026年6月に民法が改正され、いわゆる「デジタル遺言」が新しく設けられることになりました。報道を見て、遺言の作り方や相続への影響が気になっている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、新設される「保管証書遺言」の仕組みと手続きの流れ、現行の遺言との違い、先に施行される押印の任意化などの改正点を整理します。あわせて、方式がデジタルになっても残る相続トラブル(遺留分・遺言能力など)についても解説します。
結論として、デジタル遺言(保管証書遺言)は、パソコン等で作成した遺言を法務局で本人確認・全文の口述を経て保管する新しい方式で、公布から3年以内に施行される予定であり、現時点ではまだ利用できません。偽造や紛失をめぐる争いは減ることが期待されますが、遺留分侵害額請求や遺言能力をめぐる争いがなくなるわけではないため、遺言の内容そのものの検討が引き続き重要です。
デジタル遺言(保管証書遺言)とは|2026年6月成立の民法改正
2026年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、同月24日に公布されました。この改正は成年後見制度と遺言制度の見直しを内容とするもので、遺言については、電子データ等で作成し法務局で保管する「保管証書遺言」が新たに創設されます(改正後の民法968条の2)。一般に「デジタル遺言」と呼ばれているのがこの方式です。
現行の民法では、普通の方式の遺言は自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類です。このうち自筆証書遺言は、財産目録を除き、全文・日付・氏名を自書して押印しなければなりません(民法968条1項・2項)。手書きの負担や遺言ニーズの多様化が、見直しの背景とされています。
施行時期は改正事項によって異なり、法務省の公表資料では次のように整理されています。
| 改正事項 | 施行時期(政令で定める日) |
|---|---|
| 押印の任意化、特別方式の遺言の見直し、証人等の欠格事由の追加 | 公布から1年を超えない範囲内 |
| 保管証書遺言の創設、自筆証書遺言書保管制度のデジタル化 | 公布から3年を超えない範囲内(システム改修を要するため) |
具体的な施行日は政令で定められます。最新の情報は法務省のウェブサイトで確認してください。
保管証書遺言の作り方と手続きの流れ(予定)
法務省の概要資料によれば、保管証書遺言は次のような流れで作成・保管される予定です。なお、細部は今後定められる法務省令等によるため、変更の可能性があります。
- 作成:パソコン等で遺言を作成し、署名またはこれに代わる措置(電子署名が想定されています)を行います。
- 保管の申請:遺言のデータ、またはそれを印刷したものを法務局(遺言書保管所)に保管申請します。オンライン申請も可能とされています。
- 本人確認・全文の口述:遺言書保管官が本人確認を行い、遺言者が遺言の全文を口述します。保管官が相当と認める場合はウェブ会議も利用できます。口がきけない方は通訳人の通訳や自書で代えることができ、財産目録は閲覧させる方法で口述に代えられます。
- 保管:法務局で保管されることで効力が生じます。保管されなければ遺言としての効力を生じません。
- 相続開始後:あらかじめ指定した人に遺言の存在が通知されます。相続人等は証明書の交付や閲覧を請求でき、証明書はデータ・書面のいずれでも受け取れ、オンラインでの請求も可能とされています。
注目すべきは、家庭裁判所の検認が不要とされている点です。現行法では、公正証書遺言と法務局に保管された自筆証書遺言を除き、遺言書の保管者や発見した相続人は家庭裁判所に検認を請求しなければなりません(民法1004条1項・2項、法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。保管証書遺言はこの手間がかからない方式になります。現行の保管制度については「法務局の遺言書保管制度の費用・手続き・メリット」で詳しく解説しています。
現行の遺言との違い|自筆証書遺言・公正証書遺言と比較
| 方式 | 作成方法 | 保管・確認 | 検認 |
|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言(自宅保管) | 全文・日付・氏名を自書(目録は除く) | 本人が保管。紛失・改ざんのおそれ | 必要 |
| 自筆証書遺言(法務局保管) | 同上 | 法務局で保管(外形的な確認のみ) | 不要 |
| 保管証書遺言(新設) | パソコン等で作成可。署名または電子署名等 | 法務局で本人確認・全文の口述を経て保管 | 不要 |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成(証人2人の立会い) | 公証役場で原本を保管 | 不要 |
公正証書遺言は、2025年10月1日施行の改正公証人法により、原則として電子データで作成・保存され、一定の場合はウェブ会議での作成も可能になっています。手続きの詳細は「公正証書遺言の作り方・費用・必要書類」をご覧ください。
押印の任意化など、先に施行される改正点
保管証書遺言より先に(公布から1年以内に)施行される改正として、次のものがあります。
- 押印の任意化:自筆証書遺言・秘密証書遺言・特別方式の遺言について、遺言者や証人等の押印要件が廃止され、押印は任意となります。加除その他の変更の際の押印要件も廃止されます。
- 特別方式の遺言の見直し:死亡の危急に迫った方の遺言について、録音・録画と証人の立会い(ウェブ会議可)による方式などが加わります。
- 証人等の欠格事由の追加:受遺者の被用者(受遺者が法人の場合はその役員・被用者を含む)が証人等になれない者に加わります。高齢者施設等への遺贈の例があることが背景とされています。
一方、法務省の概要資料に挙げられている自筆証書遺言の見直しは押印の任意化と保管制度のデジタル化であり、本文を自書するという要件は維持される見込みです。施行前に作成する自筆証書遺言では、現行法どおり押印が必要である点に注意してください。
デジタル遺言でも相続トラブルはなくならない|遺留分・遺言能力
保管証書遺言は、法務局での本人確認と全文の口述を経るため、「誰かが書いた偽物ではないか」「本人の意思で作られたのか」といった争いや、遺言書の紛失・隠匿をめぐる争いを減らす効果が期待されています。しかし、遺言の方式が変わっても、相続トラブルの火種がすべてなくなるわけではありません。
遺留分侵害額請求は変わらず問題になる
兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があり(民法1042条)、「全財産を長男に相続させる」といった遺言があっても、他の相続人は遺留分侵害額請求をすることができます。この請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、相続開始から10年で消滅します(民法1048条)。デジタル遺言は作成が手軽になる分、遺留分への配慮を欠いた遺言が増える可能性もあります。
遺言能力や内容の解釈をめぐる争い
遺言者は、遺言をする時にその能力を有しなければなりません(民法963条)。口述による確認があっても、認知症の程度などをめぐって遺言能力が争われる可能性は残ると考えられます。疑問がある場合の手続きは「遺言無効確認訴訟の要件・手続き・証拠収集」で解説しています。
遺言の内容をめぐって他の相続人と対立している場合や、遺留分を請求する・された場合の対応については、当事務所の遺言・相続の取扱分野ページもあわせてご覧ください。
施行までの間に遺言を作る・受け取る場合の注意点
- 今すぐ遺言を作りたい方:保管証書遺言の施行を待つ必要はありません。現行の自筆証書遺言(法務局の保管制度の利用を含む)や公正証書遺言で作成できます。施行を待つ間に遺言を残せなくなるリスクにも注意が必要です。
- パソコンのメモや動画は遺言にならない:遺言は民法に定める方式に従わなければすることができません(民法960条)。現行法では、スマートフォンのメモや動画は原則として有効な遺言になりません。
- 遺言を受け取った相続人の方:遺言の形式が何であれ、遺留分の期限(1年)は短いため、内容に疑問があれば早めに確認することが大切です。
よくある質問
デジタル遺言(保管証書遺言)はもう使えますか?
まだ使えません。保管証書遺言の創設は、改正法の公布(2026年6月24日)から3年を超えない範囲内で政令で定める日に施行される予定です。それまでの間は、自筆証書遺言(法務局の保管制度の利用を含む)または公正証書遺言などの現行の方式で作成する必要があります。
スマートフォンに残したメモや動画は遺言として有効ですか?
現行法では、原則として有効な遺言にはなりません。遺言は民法に定める方式に従わなければすることができず(民法960条)、改正後の保管証書遺言も、法務局での本人確認・全文の口述・保管を経て初めて効力を生じる仕組みです。
デジタル遺言で全財産を一人に相続させれば、遺留分の請求はされませんか?
遺言の方式が変わっても、遺留分の制度はそのまま適用されます。兄弟姉妹以外の相続人は遺留分侵害額請求をすることができ(民法1042条・1046条)、請求の期限(知った時から1年・相続開始から10年、民法1048条)も変わりません。
すでに作成した自筆証書遺言や公正証書遺言は作り直す必要がありますか?
改正によって既存の遺言が当然に無効になるわけではないと考えられるため、直ちに作り直す必要はありません。ただし、財産や家族の状況が変わっている場合は、改正を機に内容を見直すことが有益です。経過措置の詳細は施行時の法務省の公表情報で確認してください。
まとめ|デジタル遺言の時代も「内容」が相続の争いを左右する
- 2026年6月成立の民法改正で、パソコン等で作成し法務局で保管する「保管証書遺言(デジタル遺言)」が創設されます。
- 本人確認と全文の口述を経て保管され、家庭裁判所の検認は不要とされています。施行は公布から3年以内の予定で、現時点では利用できません。
- 押印の任意化などは公布から1年以内に施行されます。施行前の自筆証書遺言には押印が必要です。
- 方式がデジタルになっても、遺留分侵害額請求や遺言能力をめぐる争いは残ります。
遺言は「どの方式で作るか」以上に、「どのような内容にするか」が相続人間の紛争を防げるかどうかを左右します。遺言の内容をめぐって相続人間で対立が生じている場合や、遺留分侵害額請求を検討している場合は、早めに弁護士に相談することで、期限を守りつつ見通しを立てた対応がしやすくなります。横浜の弁護士として相続紛争に取り組む当事務所でもご相談をお受けしています。
遺言・遺留分をめぐる相続トラブルは弁護士にご相談ください
タングラム法律事務所では、遺産分割や遺留分侵害額請求など、相続人間で紛争となっている案件に数多く取り組んでいます。遺言の内容に納得できない、遺留分を請求された・請求したいといったお悩みについて、横浜の弁護士が状況を伺い、対応の方針をご提案します。
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