タングラム法律事務所

相続で遺言書の内容があいまいなときは?解釈の争いと解決法を弁護士が解説

相続で遺言書の内容があいまいなときは?解釈の争いと解決法を弁護士が解説

相続で遺言書の内容があいまいなときは?解釈の争いと解決法を弁護士が解説

相続で遺言書の内容があいまいなときは?解釈の争いと解決法を弁護士が解説

相続で遺言書の内容があいまいなときは?解釈の争いと解決法を弁護士が解説

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月21日 最終更新日:2026年10月21日

「長男にすべて任せる」「自宅は妻に」――。亡くなった親の遺言書を開いてみたら、書かれている言葉の意味がはっきりせず、相続人の間で「財産をもらえるという意味だ」「いや、手続を任せただけだ」と受け止め方が分かれてしまった。相続の現場では、遺言書そのものは有効でも、その内容の解釈をめぐって争いになるケースが少なくありません。

この記事では、遺言書の文言があいまいな場合に裁判所がどのような考え方で解釈するのか、「相続させる」と「遺贈する」の違い、複数の遺言書が見つかった場合の扱い、そして解釈をめぐって相続人同士がもめたときの具体的な解決手順を、横浜の弁護士が解説します。

結論から言うと、あいまいな遺言書でも直ちに無効になるわけではなく、裁判所は遺言書の文言を出発点に、遺言書全体の記載や作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況も考慮して「遺言者の真意」を探る方法で解釈します。解釈について相続人全員の合意ができなければ、最終的には調停や訴訟で決着をつけることになるため、早い段階で作成経緯の資料を集め、遺留分の時効(1年)にも注意しながら対応することが大切です。

遺言書の解釈で相続トラブルになりやすい典型例

遺言書の「解釈」が問題になるのは、遺言書が無効かどうか(方式違反や遺言能力の有無)とは別の場面です。遺言書自体は有効であることを前提に、「その文章が法的に何を意味するのか」が争われます。よくあるパターンは次のとおりです。

パターン遺言書の記載例争いになる点
あいまいな動詞「長男に任せる」「〇〇に託す」「面倒を見てくれた者に」財産を取得させる趣旨か、管理や手続を委ねただけか
財産の特定が不十分「自宅」「預金」「不動産を妻に」土地も含むのか、どの口座が対象か
法的性質の不明確さ「〇〇に与える」「〇〇にやる」遺贈か、遺産分割方法の指定か、相続分の指定か
受け取る人の特定「孫たちに」「家を継ぐ者に」誰が対象者か、人数や割合はどうなるか
複数の遺言書日付の異なる遺言書が2通あるどちらが優先するか、どこまで矛盾しているか

専門家が関与せずに作成されることの多い自筆証書遺言で起きやすい問題ですが、公正証書遺言でも生じることがあります。

裁判所は遺言をどう解釈するか|最高裁判例の考え方

遺言者本人に意味を確認できないため、裁判所は次のような考え方で遺言者の真意を探ります。

文言だけでなく全体の記載や作成当時の事情も考慮する

最高裁昭和58年3月18日判決(判例タイムズ496号80頁)は、遺言の解釈にあたっては遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく遺言者の真意を探究すべきであり、特定の条項を解釈する場合も、その条項だけを切り離して読むのではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況などを考慮すべきだと判断しました。

また、最高裁平成5年1月19日判決(民集47巻1号1頁)も、遺言書の文言を前提にしながら、遺言者が遺言書作成に至った経緯やその置かれた状況等を考慮することも許されるとしています。

ただし出発点はあくまで遺言書の文言

一方で、最高裁平成13年3月13日判決(判例時報1745号88頁)は、遺言書の記載自体から遺言者の意思を合理的に解釈できる場合には、遺言書に表れていない事情を根拠に別の意味に読み替えることは許されない、という趣旨を述べています。最高裁平成17年7月22日判決(集民217号581頁)では、遺言書の記載だけに依拠して文言を形式的に解釈し、遺言者と受遺者との生活関係などの事情を考慮しなかった原審の判断が違法とされました。

つまり、「文言が第一、ただし文言だけで意味が決まらないときは周辺事情も考慮する」というのが判例の基本的な姿勢といえます。「任せる」「まかせる」といった表現については、下級審の裁判例でも、遺産を取得させる趣旨(包括遺贈)と解したものと、そうした意思を否定したものがあり、判断は分かれています。

「相続させる」と「遺贈する」で何が変わる?

  • 「相続させる」旨の遺言:最高裁平成3年4月19日判決(民集45巻4号477頁)は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、特段の事情がない限り、遺産分割方法の指定(民法908条1項)にあたり、原則として遺言者の死亡時に何らの行為を要せず当該遺産がその相続人に承継されると判断しました。現在の民法では「特定財産承継遺言」と呼ばれています(民法1014条2項)。
  • 「遺贈する」旨の遺言:民法964条は、遺言者が包括又は特定の名義で財産の全部又は一部を処分できると定めています。相続人以外の人に財産を残す場合は、遺贈によることになります。

どちらにあたるかで承継の仕組みや登記・預金の手続が変わることがあるため、争点になっている場合は早めに専門家に確認することをおすすめします。

遺言書が複数ある・遺言後に財産を処分していた場合

遺言書が2通以上見つかり、その内容が食い違う場合もあります。民法1023条1項は、前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなすと定めています。抵触しない部分は、前の遺言も有効なまま残ります。

また、同条2項により、遺言をした後に遺言者が生前にその財産を売却・贈与するなど、遺言と抵触する行為をした場合も同様に扱われます。たとえば「A土地を長男に相続させる」と書いた後にA土地を売却していれば、その部分は撤回されたものとみなされます。

実際には「どこまでが抵触しているのか」が争点になり、両方の遺言書の全体を読み比べることになります。なお、遺言書に記載のない財産が見つかった場合の扱いについては、遺言書に書かれていない財産が見つかったときの分け方で詳しく解説しています。

遺言書の解釈で相続人同士がもめたときの解決手順

1.遺言書の原本と作成経緯の資料を集める

まずは遺言書の原本(自筆証書遺言で法務局に保管されていないものは家庭裁判所の検認が必要です)を確認し、作成当時の事情を示す資料を集めます。遺言者のメモや下書き、手紙、当時の財産の状況がわかる登記事項証明書や通帳などが、真意を推認する手がかりになります。

2.相続人全員で解釈について話し合う

相続人全員が解釈に合意できれば、その内容で遺産を分けることができます。遺言の内容とは異なる分け方で合意することも、一定の条件のもとで可能です(詳しくは遺言と異なる遺産分割はできるかの記事をご覧ください)。遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者は遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法1012条1項)ため、遺言執行者の意見も確認しておく必要があります。

3.調停・訴訟で決着をつける

話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用することが考えられます。ただし、遺言の解釈によって「その財産がそもそも遺産分割の対象になるのか」が左右される場合など、前提となる権利関係について合意ができないときは、最終的に地方裁判所の訴訟(遺言の効力や財産の帰属の確認を求める訴えなど)で確定させる必要が生じることがあります。どの手続から始めるのが適切かは事案によって異なるため、紛争性のある相続については当事務所の相続・遺産分割の取扱分野ページもあわせてご覧ください。

4.遺留分侵害額請求の時効(1年)にも注意する

見落としやすいのが遺留分の期限です。遺言の解釈しだいで自分の取り分がほとんどなくなる可能性がある場合、解釈の争いが長引いている間に、遺留分侵害額請求権の時効が進むおそれがあります。民法1048条は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅し、相続開始の時から10年を経過したときも同様とすると定めています。解釈を争いつつ、念のため遺留分侵害額請求の意思表示を内容証明郵便で行っておくといった対応も検討すべきです(遺留分侵害額請求と遺言無効の同時主張と時効の注意点も参考になります)。

また、相続税の申告が必要な場合、申告期限は原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条1項)。遺産の帰属が決まらないまま期限を迎えるときの申告方法など、税務の詳細については税理士または税務署にご確認ください。

あいまいな遺言を残さないために|遺言を書く側のポイント

これから遺言書を作成する方は、次の点に気をつけると解釈の争いを防ぎやすくなります。

  • 「任せる」「託す」などの表現は避け、「相続させる」「遺贈する」と明確に書く
  • 不動産は登記事項証明書のとおり(所在・地番・家屋番号など)、預金は金融機関名・支店名・口座番号まで特定する
  • 受け取る人を氏名・生年月日・続柄で特定し、その人が先に亡くなった場合の受取人(予備的な定め)も書いておく
  • 遺言執行者を指定し、公正証書遺言の利用など作成段階で専門家の確認を受ける

よくある質問

遺言書の内容があいまいだと、遺言書は無効になりますか?

あいまいであることだけを理由に、直ちに無効になるわけではありません。裁判所は、遺言書の文言を出発点に、遺言書全体の記載や作成当時の事情なども考慮して、できる限り遺言者の真意に沿うよう解釈します。

「長男に任せる」と書かれた遺言で、長男は遺産をすべてもらえますか?

一概にはいえません。裁判例でも、遺産を取得させる趣旨と解したものと、手続や管理を委ねたにすぎないと解したものがあり、判断は分かれています。遺言書全体の記載、遺言者と長男の関係、作成当時の状況などを踏まえて判断されます。

日付の違う遺言書が2通見つかった場合、どちらが有効ですか?

両方とも方式を満たしていれば、内容が矛盾する部分については後の遺言が優先し、矛盾しない部分は前の遺言も有効です(民法1023条1項)。

遺言の解釈で争っている間に、遺留分の時効は進みますか?

進むおそれがあります。遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈等を知った時から1年で時効により消滅します(民法1048条)。解釈の争いとは別に、期限内に請求の意思表示をしておくことを検討してください。

まとめ

遺言書の文言があいまいでも、遺言が直ちに無効になるわけではなく、裁判所は文言を出発点に遺言書全体や作成当時の事情を考慮して遺言者の真意を探ります。「相続させる」と「遺贈する」の違い、複数の遺言書の優先関係(民法1023条)なども、解釈の結論に影響します。

解釈をめぐる争いは、どの事情をどう主張・立証するかで結論が変わりうる専門性の高い分野であり、遺留分の1年の時効のように争っている間にも進む期限があります。弁護士に相談すれば、判例に照らした見通しの検討から資料の集め方、調停・訴訟の選択まで一貫したサポートを受けられます。

遺言書の解釈をめぐって相続人ともめている方へ

タングラム法律事務所は、横浜・山下公園に事務所を構え、相続人間で対立の生じた遺産分割・遺留分の事案について、交渉から調停・訴訟まで一貫して対応しております。遺言書の文言の読み方や作成経緯の資料の集め方、遺留分の期限管理を含めて、事案に即した対応方針をご提案します。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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