システム開発で検収されない・代金未払いへの対応|ベンダー側の請求方法
システム開発で検収されない・代金未払いへの対応|ベンダー側の請求方法
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月21日 最終更新日:2026年10月21日
システムを納品したのに、発注者から「まだ不具合がある」「社内確認が終わっていない」と言われ、いつまでも検収書が出ない。検収が終わらないので請求書も受け取ってもらえず、開発費の回収が数か月止まっている。受託開発を手がけるIT企業にとって、検収拒否と代金未払いは資金繰りに直結する問題です。
この記事では、開発を受託したベンダー側の立場から、代金を請求できるタイミング、「検収未了」が支払拒否の理由になるのか、取適法の支払期日ルール、開発途中で打ち切られた場合の報酬、そして回収と予防の具体的な手順を、横浜の弁護士が解説します。
結論として、請負型のシステム開発では、予定された最後の工程まで作業を終えていれば「仕事の完成」が認められる傾向にあり、残った不具合は原則として契約不適合責任の問題として扱われるため、検収が終わっていないことだけで代金の支払を拒めるとは限りません。また、取適法が適用される取引では、検査の有無にかかわらず受領日から60日以内に代金を支払う必要があります。
システム開発の代金はいつ請求できるか|請負と準委任の違い
代金を請求できる時期は、契約が請負か準委任かで異なります。契約書の表題ではなく実際の合意内容で判断されます。
| 契約類型 | 報酬を請求できる時期 | 根拠 |
|---|---|---|
| 請負(完成責任あり) | 仕事を完成させ、成果物を引き渡すのと同時 | 民法632条・633条 |
| 準委任(履行割合型) | 委任事務を履行した後(期間で定めた場合は期間経過後) | 民法648条2項 |
| 準委任(成果完成型) | 成果の引渡しと同時 | 民法648条の2第1項 |
要件定義や保守・運用支援のように工数に応じて報酬を定める準委任契約では、完成を前提とせずに報酬を請求できます。一方、請負契約やフェーズごとの成果物に報酬を結びつけた契約では、「完成したかどうか」が争点になりやすくなります。両者の使い分けは、システム開発の頓挫は誰の責任かを解説した記事でも触れています。
「検収が終わっていない」は支払拒否の理由になるか
「仕事の完成」と「不具合」は別の問題
発注者が支払を拒む典型的な理由は「不具合が残っているので未完成だ」というものですが、裁判例では完成と不具合を区別して考える傾向があります。
東京地方裁判所平成14年4月22日判決(判例タイムズ1127号161頁)は、システム開発の仕事が完成したかどうかについて、当初の請負契約で予定していた最後の工程まで終えているか否かで判断し、完成を認めました。完成後に見つかった不具合は、修補(追完)・代金減額・損害賠償・解除といった契約不適合責任(民法559条・562条〜564条)の問題として処理されることになります。
契約書の検収条項を確認する
多くの開発契約には、「納品後○日以内に検査し、その期間内に書面で具体的な理由を示して異議を述べない場合は検査に合格したものとみなす」といった、いわゆるみなし検収条項が置かれています。この条項がある場合、検査期間の経過や、具体的な不具合の指摘がないことを根拠に、検収完了を主張できる可能性があります。まずは契約書・注文書・発注メールに検査期間や合格の基準がどう定められているかを確認しましょう。
取適法・フリーランス法の「受領日から60日」ルール
2026年1月1日に施行された「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法。旧下請法)が適用される取引では、委託事業者は、検査をするかどうかにかかわらず、成果物を受領した日から起算して60日以内の支払期日を定めなければなりません。期日を定めなかった場合は受領日が支払期日となり、支払が遅れると年14.6%の遅延利息が発生します。手形による支払も禁止されました。
プログラムの作成委託は取適法の対象となる取引であり、当事者の資本金の額または従業員数(プログラム作成委託では300人)の基準を満たせば適用されます。つまり「検収が終わらないから支払期日が来ない」という扱いは、取適法の下では通用しない場合があります。受託側が個人や一人法人の場合は、2024年11月1日施行のフリーランス法でも、原則として受領日から60日以内の支払期日の設定が求められています。
開発途中で打ち切られた場合の報酬
発注者から開発の中止を告げられた場合も、報酬が一切発生しないわけではありません。
- 注文者による任意解除(民法641条):請負人が仕事を完成しない間は、注文者はいつでも契約を解除できますが、請負人に生じた損害(既に支出した費用や得られたはずの利益)を賠償する必要があります。
- 割合的な報酬(民法634条):注文者の責めに帰することができない事由で完成できなくなった場合や、完成前に解除された場合でも、既にした仕事のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その利益の割合に応じて報酬を請求できます。
- 注文者に原因がある場合:発注者の協力不足や度重なる仕様変更が原因で完成できなくなったときは、報酬全額を請求できると解される余地があります(民法536条2項)。
未払い代金を回収するための手順
回収は、次の順序で進めるのが一般的です。
- 証拠の整理:契約書・見積書・要件定義書、議事録、課題管理表、テスト結果、納品記録、検査期間中のやり取りを時系列でまとめます。
- 請求書と内容証明郵便:完成と引渡しの事実、支払期日、遅延損害金を明記して請求します。遅延損害金は約定がなければ法定利率(令和8年4月から令和11年3月までも年3%)によります。
- 交渉:指摘された不具合の修補と引換えに支払を合意するなど、分割払いを含めて現実的な解決を探ります。合意内容は書面に残します。
- 法的手続:相手方が争わない見込みなら支払督促、争いがあれば訴訟や調停を選択します。相手方の資金状況に不安がある場合は仮差押えによる財産の保全も検討します。
開発代金の請求権は、権利を行使できることを知った時から5年で時効にかかります(民法166条1項1号)。話合いが長引いているときは、時効にも注意してください。
代金未払いを防ぐ契約書の工夫
- 検査期間・合格基準・みなし検収を明確に定める
- 工程ごとに契約を分ける(多段階契約)か、着手金・中間金を設定する
- 仕様変更は書面で合意し、追加費用と納期を同時に確定させる
- 発注者の協力事項(資料提供・判断期限)を具体的に書き込む
- 支払期日を「検収後」ではなく「納品日(受領日)から○日以内」とする
契約書の作成やレビュー、未払い代金の回収など、IT企業の契約トラブルへの対応については企業法務の取扱分野ページもご覧ください。
システム開発の代金未払いに関するよくある質問
Q. 不具合が残っていると、代金は一切請求できませんか?
A. 予定された最後の工程まで作業を終えていれば仕事は完成したと判断される傾向にあり、不具合は契約不適合責任(修補・代金減額・損害賠償・解除)の問題として扱われます。ただし、不具合が重大で契約の目的を達成できない場合は解除が認められることもあるため、不具合の内容と対応状況の整理が重要です。
Q. 発注者が検収書を出してくれない場合、いつから60日を数えますか?
A. 取適法が適用される取引では、支払期日は検査をするかどうかにかかわらず、成果物を受領した日から起算して60日以内に定める必要があります。期日を定めていない場合は受領日が支払期日となります。取適法の適用の有無は、当事者の資本金や従業員数、取引の内容によって判断します。
Q. 準委任契約でも代金を請求できますか?
A. 工数や期間に応じて報酬を定める履行割合型の準委任契約では、仕事の完成を前提とせず、委任事務を履行した後に報酬を請求できます(民法648条2項)。中途で終了した場合も、既にした履行の割合に応じた報酬を請求できます(同条3項)。
Q. 遅延損害金はどのくらい請求できますか?
A. 契約に定めがなければ法定利率によります。法定利率は令和8年4月1日から令和11年3月31日までの期間も年3%です。取適法が適用される取引では、受領日から60日を経過した日から支払日までの期間について、年14.6%の遅延利息が定められています。
まとめ|検収拒否には「完成」と「契約」の両面から対応を
検収が終わらないことを理由とする支払拒否に対しては、①最後の工程まで終えたという完成の事実、②契約書の検収条項や支払条件、③取適法・フリーランス法の支払期日ルール、の3つの観点から反論を組み立てることが有効です。一方で、不具合が重大な場合には解除や減額が認められる可能性もあるため、早い段階で証拠を整理し、修補を含めた現実的な解決策を探ることが大切です。請求額が大きい場合や、発注者が損害賠償を主張している場合は、横浜の当事務所をはじめ弁護士に相談することで、交渉と法的手続の見通しを立てやすくなります。
システム開発の代金未払い・検収トラブルはタングラム法律事務所へ
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