LINEしか知らない取引先が代金未払い|フリーランスの回収方法
LINEしか知らない取引先が代金未払い|フリーランスの回収方法
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年9月26日 最終更新日:2026年9月26日
SNSやスキル販売サイトで知り合った相手から、イラストやデザイン、動画編集の仕事を受けた。やり取りはすべてLINEで、納品までは順調だったのに、請求した途端に既読がつかなくなった――。相手の本名も住所も分からず、代金をどう請求すればよいか分からないというご相談は少なくありません。
この記事では、LINEしか連絡先の分からない相手が仕事の代金を払わない場合に、まず残すべき証拠、フリーランス法が使える場合と使えない場合、弁護士会照会による相手の特定、そして代金を回収する手順と費用倒れの注意点を、横浜の弁護士が解説します。
結論として、契約書がなくても、LINEのやり取りと納品の記録から代金を請求できる可能性があります。相手の連絡先がLINEしか分からない場合でも、弁護士会照会で氏名・住所を特定できる可能性がありますが、特定と回収には費用がかかるため、代金の額と回収の見込みを比べて進め方を決めることが大切です。
LINEでの受注で代金が払われない典型的なケース
神奈川県弁護士会は、インターネットで知り合った相手からイラスト作成を有償で依頼され、LINEでやり取りして納品したものの、相手が代金を支払わずLINEに応答しなくなった、という事例を紹介しています。この事例では、弁護士会照会によりLINEヤフー株式会社から相手の電話番号とメールアドレスが回答されたものの、氏名や住所は回答されていません。
このように、SNSを通じた個人間・小規模の取引では、契約書を作らず、相手の本名も知らないまま仕事を進めることが珍しくありません。そのため、未払いが起きたときに請求先が分からないという問題が生じます。
まず確認すべき証拠
仕事の依頼と引受けは、契約書がなくても、LINEのやり取りで成立します。成果物を完成させて引き渡す仕事(請負)であれば、報酬は原則として引渡しと同時に支払われるべきものとされています(民法632条・633条)。相手に争われたときに備え、次のような証拠を保存してください。
- 依頼の内容・金額・納期が分かるLINEのやり取り
- 納品したことが分かる記録(データの送付履歴、納品完了のメッセージなど)
- 請求書や、支払を催促したメッセージと相手の返信
- 相手のLINEのプロフィール画面、SNSのアカウント、受注したサイトの取引画面
フリーランス法が使える場合・使えない場合
令和6年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、事業者がフリーランスに業務を委託する取引を対象としています。
| 発注者 | フリーランス法の適用 |
|---|---|
| 消費者である個人(趣味の依頼など) | 対象外(民法に基づいて請求する) |
| 事業者(フリーランス同士の取引を含む) | 取引条件の明示義務の対象 |
| 従業員を使用する事業者など(特定業務委託事業者) | 上記に加え、報酬の支払期日を原則として受領から60日以内に定める義務などの対象 |
発注者が事業者であれば、フリーランス・トラブル110番で弁護士への相談や和解あっせんを利用できるほか、公正取引委員会などに申し出ることもできます。一方、発注者が消費者である場合や、そもそも相手が誰か分からない場合には、民法に基づいて自ら請求を進めることになります。
LINEしか分からない相手の氏名・住所を特定する
相手の連絡先がLINEしか分からない場合は、相手のプロフィール画面から通報したうえで、弁護士会照会によりLINEヤフー株式会社から登録電話番号などの回答を受け、さらに携帯電話会社に契約者の氏名・住所を照会します。詳しくはLINEしか知らない相手を特定する方法と電話番号から氏名・住所を調べる方法をご覧ください。
弁護士会照会は、代金の請求などの事件を弁護士が受任していることが前提の制度で、個人が直接利用することはできません。また、照会先に回答を強制する手段はなく、特定に至らないこともあります。
代金を回収する手順と費用倒れの注意点
相手の氏名・住所が分かれば、内容証明郵便による請求から始め、支払がなければ支払督促や少額訴訟(60万円以下の金銭請求)、通常訴訟へと進みます。手順の全体像は売掛金が回収できない場合の債権回収ステップで、ご自身で進める方法は自分で支払督促を申し立てる方法で解説しています。事業者としての取引先への債権回収については、企業法務の取扱分野のページもご覧ください。
もっとも、相手方の特定には費用がかかります。当事務所の場合、LINEしか分からない相手方の特定には、着手金110,000円と実費相当負担金33,000円(いずれも税込)がかかり、特定できた場合には報酬金55,000円(税込)が加わります。代金が数万円程度であれば、費用が回収額を上回るおそれがあります。ご依頼の前に、費用と回収の見込みを率直にご説明します。個人間の貸金の場合の考え方は、LINEで貸したお金が返ってこない場合の記事も参考になります。
時効と、次の未払いを防ぐための工夫
仕事の代金の請求権は、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年で時効により消滅します(民法166条1項)。かつての民法にあった職業別の短期の時効は、令和2年4月1日施行の改正民法で廃止されています。
今後の未払いを防ぐためには、初めての相手とは前払いや着手金を取り決める、発注内容と金額を書面やメッセージで明確にする、本名・住所・連絡先を確認してから仕事を始める、といった工夫が有効です。
よくある質問
契約書を作っていませんが、代金を請求できますか?
請求できる可能性があります。仕事の依頼と引受けは口頭やLINEのやり取りでも成立するため、依頼の内容・金額・納期と、納品したことが分かるLINEの記録があれば、契約の内容を示す証拠になります。
個人のお客さんからの依頼でも、フリーランス法は使えますか?
フリーランス法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)は事業者がフリーランスに業務を委託する取引を対象としており、消費者である個人からの依頼は対象外です。ただし、法律の対象外であっても、民法に基づいて代金を請求することはできます。
相手の電話番号とメールアドレスしか分からない場合はどうなりますか?
電話番号が分かれば、弁護士会照会により携帯電話会社に契約者の氏名・住所を照会できる可能性があります。神奈川県弁護士会が紹介している事例でも、LINEヤフー株式会社からは電話番号とメールアドレスが回答され、氏名・住所を知るには追加の照会が必要とされています。
数万円の代金でも弁護士に依頼すべきですか?
相手方の特定や訴訟には費用がかかるため、少額の場合は費用が回収額を上回るおそれがあります。ご自身で内容証明郵便や少額訴訟を行う方法や、フリーランス・トラブル110番の和解あっせんを利用する方法も検討してください。
まとめ
LINEしか連絡先の分からない相手が仕事の代金を払わない場合でも、LINEのやり取りと納品の記録があれば、代金を請求できる可能性があります。発注者が事業者であればフリーランス法やフリーランス・トラブル110番を利用でき、相手が誰か分からない場合は、弁護士会照会で氏名・住所を特定できる可能性があります。ただし、特定と回収には費用がかかるため、代金の額と見込みを比べて判断することが大切です。
横浜のタングラム法律事務所では、相手方の特定から代金の回収まで対応しています。相手方の特定の手続と費用は、LINEしか知らない相手の特定(弁護士会照会)の詳細はこちらをご覧ください。
代金を払わない相手がLINEしか分からずお困りの方へ
タングラム法律事務所では、LINEや電話番号しか分からない相手方の特定(弁護士会照会)から、内容証明・訴訟による代金の回収まで対応しております。費用倒れにならないかも含めてご説明いたします。
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