美人局で不倫慰謝料を請求されたら?見分け方と払う前の対応を解説
美人局で不倫慰謝料を請求されたら?見分け方と払う前の対応を解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月21日 最終更新日:2026年10月21日
マッチングアプリやSNSで知り合った女性と会い、関係を持った直後に「夫」を名乗る男性が現れて「妻に手を出したな。慰謝料を今すぐ払え」と迫られた――。免許証を撮影され、念書まで書かされて、どうすればよいか分からず眠れない夜を過ごしている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、いわゆる美人局(つつもたせ)が疑われる不倫慰謝料の請求について、典型的な手口と見分け方、支払う前に確認すべきこと、夫婦が共謀していた場合の法的な考え方、すでに払ってしまった場合の対応を、横浜の弁護士が解説します。
結論として、相手の夫婦が共謀して関係を仕組んだ美人局であれば、慰謝料請求は権利の濫用などとして認められない可能性が高く、脅して金銭を交付させる行為は恐喝罪にあたり得ます。ただし、本当に美人局かどうかは事実関係次第です。その場で支払わず、念書を書かず、やり取りの記録を残したうえで、弁護士や警察に相談することが重要です。
美人局(つつもたせ)とは?不倫慰謝料の請求との違い
美人局とは、女性が男性を誘って関係を持たせ、その後に夫や交際相手を名乗る男性が現れて、金銭を脅し取る手口をいいます。「不倫の慰謝料」という名目が使われるため、正当な請求と区別がつきにくいのが特徴です。
本来の不貞慰謝料は、配偶者と第三者の不貞行為によって「婚姻共同生活の平和」が害されたことに対する損害賠償です(民法709条、710条)。これに対し、美人局は最初から金銭を得る目的で関係が仕組まれており、夫婦の平穏な生活が害されたという実態がありません。名目は同じ「慰謝料」でも、法的な評価はまったく異なります。
美人局が疑われる請求の典型的な特徴
次のような事情が重なる場合は、美人局の可能性を疑ってみる必要があります。いずれも一つだけで美人局と断定できるものではありません。
| 場面 | 美人局で指摘されることの多い特徴 |
|---|---|
| 出会い | 女性の側から積極的に誘い、出会ってから関係を持つまでが極端に早い |
| 発覚 | 関係を持った直後や、ホテルを出たところで「夫」がタイミングよく現れる |
| 請求の方法 | その場での現金払いや、当日中の振込みを強く求める |
| 金額 | 一般的な慰謝料の目安を大きく超える金額を、根拠を示さずに要求する |
| 証拠の扱い | 免許証や社員証を撮影し、「会社や家族に送る」と言って支払いを迫る |
| 相手の身元 | 「夫」が氏名や連絡先を明かさない、弁護士を立てることを嫌がる |
正当な請求は、通常、内容証明郵便や弁護士の書面で行われ、支払いまでに一定の期間が置かれます。その場で現金を要求し、身分証を撮影して脅すという進め方は、正当な権利行使としては不自然です。
夫婦が共謀していた場合、慰謝料を払う必要はあるか
そもそも法律上の夫婦かどうか
不貞慰謝料は、婚姻関係(または内縁関係)が存在することが前提です。美人局では、「夫」が実際には夫ではなく、交際相手や仲間にすぎないこともあります。婚姻関係の存在は請求する側が証明すべき事実であり、法律上の夫婦でなければ、不貞慰謝料の請求はその前提を欠くことになります。
夫婦が共謀していれば権利の濫用とされる可能性
仮に二人が本当に夫婦であっても、夫婦が共謀して関係を仕組み、金銭を得ようとしたのであれば、婚姻共同生活の平和が第三者によって害されたとはいえません。このような請求は、信義誠実の原則(民法1条2項)に反し、権利の濫用(同条3項)として認められない可能性が高いと考えられます。
美人局そのものの事案ではありませんが、最高裁平成8年6月18日判決は、妻が不貞相手に対して夫婦仲は冷めていて離婚するつもりだと伝えていたこと、関係を知った後に高額の慰謝料を要求し嫌がらせをしたことなどの事情を踏まえ、妻の慰謝料請求を権利の濫用として認めませんでした。配偶者自身の関与や請求の態様によっては、不貞行為があっても慰謝料請求が否定され得ることを示した判断といえます。
美人局と断定できない場合の注意
一方で、相手が本当に夫婦であり、夫が関係を知らなかったのであれば、既婚者と知りながら関係を持った以上、通常の不貞慰謝料の問題になります。「美人局だ」と決めつけて相手を非難したり、SNSなどで公表したりすると、かえって名誉毀損の問題を生じるおそれもあります。疑わしい事情を整理したうえで、冷静に対応することが大切です。
その場で払う・念書を書く前にやるべきこと
- その場で支払わない・約束しない:一度支払うと、「まだ足りない」と繰り返し要求されるおそれがあります
- 念書や示談書に署名しない:「慰謝料○○万円を支払う」と書くと、後で支払義務を争うことが難しくなるおそれがあります(念書の効力は不倫の念書は証拠になるかで解説しています)
- 記録を残す:メッセージのスクリーンショット、着信履歴、可能であれば会話の録音を保存し、相手の特徴や場所もメモしておきます
- 身の安全を最優先にする:監禁や暴力のおそれがある場合は、110番通報をためらわないでください
- 弁護士を窓口にする:「今後は弁護士を通してください」と伝えることで、直接のやり取りを断つことができます(直接交渉を求められた場合の対応も参考にしてください)
相手が暴露をちらつかせて金銭を要求する行為は、恐喝罪(刑法249条、10年以下の拘禁刑)や脅迫罪(刑法222条)にあたる可能性があります。脅されて念書を書かされた場合は、強迫による意思表示として取り消せる可能性もあります(民法96条1項)。
すでに払ってしまった場合・警察への相談
すでにお金を支払ってしまった場合でも、美人局であったことを証拠で示せれば、支払ったお金の返還や損害賠償を求められる可能性があります。ただし、相手の本名や住所が分からない、連絡が取れなくなったといった事情から、現実の回収が難しいケースも少なくありません。振込記録や受領のやり取りは必ず保存しておきましょう。
警察への相談も選択肢です。緊急性がない場合は、全国共通の警察相談専用電話「#9110」で相談できます。
美人局か通常の不倫慰謝料の請求かにかかわらず、請求された側の対応には共通するポイントがあります。当事務所の取り組みは、不貞慰謝料請求(請求する側・請求された側)の取扱分野ページでご紹介しています。また、交際相手本人から金銭を要求されている場合は、不倫相手から慰謝料を請求された場合の対応もご覧ください。
よくある質問
美人局だと思うのですが、慰謝料を払わなければなりませんか?
相手の夫婦が共謀して関係を仕組んだのであれば、婚姻共同生活の平和が害されたとはいえず、慰謝料請求は権利の濫用などとして認められない可能性が高いと考えられます。そもそも二人が法律上の夫婦でなければ、不貞慰謝料の前提を欠きます。ただし、美人局かどうかは事実関係次第ですので、その場で支払わず、記録を残したうえで弁護士にご相談ください。
その場で免許証を撮影され、念書も書いてしまいました。どうなりますか?
念書を書いたからといって、直ちに支払義務が確定するわけではありません。脅されて書かされた場合は、強迫による意思表示として取り消せる可能性があります(民法96条1項)。住所等を知られている場合は、今後の連絡や訪問への対応も含めて、早めに弁護士へご相談ください。
すでにお金を払ってしまいました。取り戻せますか?
美人局であったことを証拠によって示せれば、支払ったお金の返還や損害賠償を求められる可能性があります。ただし、相手の氏名・住所が分からない、証拠が乏しいといった事情により、回収が難しいことも少なくありません。振込記録やメッセージを保存し、警察や弁護士にご相談ください。
警察に相談すると家族や会社に知られませんか?
警察への相談が、それだけで家族や勤務先に知らされるものではありません。もっとも、事件化した場合の手続の進み方は事案によって異なります。緊急性がない場合は警察相談専用電話(#9110)で相談でき、身の危険を感じる場合は110番通報をためらわないでください。
まとめ
- 美人局は、関係を仕組んだうえで「不倫の慰謝料」の名目で金銭を脅し取る手口であり、正当な不貞慰謝料とは法的な評価が異なる
- 二人が法律上の夫婦でなければ不貞慰謝料の前提を欠き、夫婦が共謀していれば権利の濫用として請求が否定される可能性が高い
- その場での支払い・念書への署名は避け、メッセージや録音などの記録を残す
- 暴露をちらつかせた金銭要求は恐喝罪等にあたり得る。身の危険があれば110番、緊急性がなければ#9110へ
美人局が疑われる請求を受けると、家族や勤務先に知られたくない一心で、言われるままに支払ってしまいがちです。しかし、一度応じると要求が繰り返されることもあります。弁護士が代理人として窓口になれば、相手と直接やり取りする必要がなくなり、請求の根拠を確認したうえで、支払いを拒むべきか、どのように解決すべきかを判断できます。横浜を拠点とするタングラム法律事務所では、慰謝料を請求された側からのご相談にも対応しています。
美人局が疑われる慰謝料請求でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、不貞慰謝料の請求する側・請求された側の双方について、示談交渉から訴訟まで数多くの事件を取り扱っております。その場で支払いや念書を求められた場合や、暴露をほのめかされている場合の対応について、お早めにご相談ください。
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