タングラム法律事務所

誹謗中傷の告訴は示談で取り下げる?告訴取消しの効果と注意点

誹謗中傷の告訴は示談で取り下げる?告訴取消しの効果と注意点

誹謗中傷の告訴は示談で取り下げる?告訴取消しの効果と注意点

誹謗中傷の告訴は示談で取り下げる?告訴取消しの効果と注意点

誹謗中傷の告訴は示談で取り下げる?告訴取消しの効果と注意点

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月21日 最終更新日:2026年10月21日

ネット上の誹謗中傷について名誉毀損罪や侮辱罪で刑事告訴をしたところ、加害者やその弁護人から「示談金を支払うので告訴を取り下げてほしい」と連絡が来た――。賠償を受けられるなら応じたい一方で、「後で約束を破られたらどうなるのか」と迷う方は少なくありません。

この記事では、横浜の弁護士が、誹謗中傷の刑事告訴を示談で取り下げる(法律上は「告訴の取消し」といいます)ときに知っておくべき効果、取り消せる時期の限界、示談書に書くべき事項、民事の損害賠償との関係を、条文に沿って整理します。

結論として、名誉毀損罪・侮辱罪は告訴がなければ起訴できない親告罪であり、告訴を取り消すと加害者が起訴されることはなくなり、同じ事件で告訴し直すこともできません。そのため、告訴の取消しは示談金の受領や投稿の削除など、約束が実際に果たされたことを確認してから行うのが原則です。

誹謗中傷の刑事告訴と「告訴の取り下げ」の基本

ネット上の誹謗中傷で問題になる名誉毀損罪(刑法230条)と侮辱罪(刑法231条)は、刑法232条1項により「告訴がなければ公訴を提起することができない」親告罪とされています。検察官が加害者を起訴するには、被害者による有効な告訴が必要です。告訴の方法や告訴状の作り方は、誹謗中傷で刑事告訴する方法|名誉毀損罪・侮辱罪の要件と手続きで解説しています。

そして刑事訴訟法237条1項は「告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる」と定めています。一般に「告訴の取り下げ」と呼ばれているのは、この告訴の取消しのことです。

  • 方法:告訴と同じく、書面または口頭で、検察官または司法警察員に対して行います(刑事訴訟法243条・241条1項)。実務では「告訴取消書」などの書面を提出するのが一般的です
  • 代理:告訴の取消しは代理人によって行うこともできます(刑事訴訟法240条)。弁護士に依頼している場合は、弁護士が手続を行うことができます

告訴を取り消すとどうなるか|3つの効果

効果内容根拠
起訴されなくなる親告罪では告訴が起訴の条件であるため、取消し後は起訴できず、通常は不起訴処分で終わると解されています刑法232条1項、刑事訴訟法237条1項
再告訴ができない「告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない」とされています刑事訴訟法237条2項
共犯者全員に及ぶ親告罪では、共犯の一人に対する告訴の取消しは、他の共犯に対しても効力を生じます刑事訴訟法238条1項

特に注意が必要なのが2つ目と3つ目です。示談金の分割払いが途中で止まった、示談後に別のアカウントで同じような投稿が始まった、といった事情が生じても、一度取り消した事件について告訴し直すことはできません。また、複数人が共同で書き込んだ事案で、一人とだけ示談して告訴を取り消すと、他の共犯者にも取消しの効力が及ぶ点も見落とされがちです。

起訴された後は告訴を取り消せない

告訴を取り消せるのは「公訴の提起があるまで」です(刑事訴訟法237条1項)。検察官が加害者を起訴した後に示談が成立しても、告訴を取り消して手続を止めることはできません。起訴後の示談は、被害弁償がされたことや被害者の処罰感情などとして、量刑の判断で考慮される可能性があるにとどまります。

起訴後に被告人と被害者の間で賠償について合意できた場合には、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」19条に基づき、両者が共同して合意内容を公判調書に記載するよう刑事裁判所に申し立てる方法があります(刑事和解)。記載されると裁判上の和解と同一の効力を持ちます(同条4項)。

反対に、検察官が不起訴とした場合は、検察官は告訴人にその旨を通知しなければならないとされています(刑事訴訟法260条)。不起訴処分に不服があるときは、告訴をした者などは検察審査会に審査を申し立てることができます(検察審査会法30条)。罰金刑の実情などは、侮辱罪の罰金はいくら?法務省の統計と検討会報告書から見る実態もご参照ください。

示談で告訴取消しを求められたときの判断ポイント

告訴の取消しは「やり直しがきかない」手続です。示談に応じる場合は、次の点を確認してから判断することをおすすめします。

1.示談金の支払いを先にしてもらう

告訴の取消しを先に行い、示談金は後払い・分割払いという形にすると、支払いが滞っても刑事手続を再開する手段がなくなります。示談金は一括で、告訴取消書の提出より前(または引換え)に支払ってもらう形にするのが基本です。

2.投稿の削除と再発防止を条件に含める

示談の目的が金銭だけでなく被害の回復にある場合は、問題の投稿の削除、同種の投稿をしないことの誓約、違反したときの違約金などを示談書に盛り込み、削除が実際にされたことを確認してから取り消すようにします。

3.共犯者や他の投稿との関係を整理する

共犯の一人との示談でも取消しの効力は全員に及ぶため(刑事訴訟法238条1項)、複数人が関与している事案では、誰とどの投稿について示談するのかを特定し、他の加害者への対応方針と矛盾しないかを確認します。

4.まだ告訴していない場合は告訴期間に注意する

親告罪の告訴は、犯人を知った日から6か月を経過するとできなくなります(刑事訴訟法235条)。発信者情報開示で投稿者が判明した後、示談交渉を続けているうちに告訴期間が過ぎてしまうと、刑事告訴という選択肢そのものを失います。投稿者を特定する手続については、発信者情報開示請求・削除請求のページで詳しくご案内しています。

告訴取消しと民事の損害賠償・示談書の関係

告訴の取消しは刑事手続上の行為であり、それだけで民事上の損害賠償請求権(民法709条・710条)が消えるわけではありません。示談をせずに告訴だけを取り消した場合は、その後も慰謝料などを請求することは可能です。

一方、示談書に「本件に関し、本示談書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」という清算条項を入れた場合は、示談金以外の請求はできなくなるのが通常です。告訴取消しを約束する条項と清算条項はセットで提示されることが多いため、示談金の額が、慰謝料や投稿者の特定に要した調査費用などを踏まえて納得できるものかを確認してから署名することが大切です。示談書の条項の作り方は誹謗中傷の示談書を自分で作る方法|必要な条項と注意点で解説しています。

示談書に告訴取消しを約束する条項を入れる場合は、「示談金の着金を確認した後○日以内に告訴を取り消す」のように、支払いと取消しの順序を明記しておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。

SNS上のなりすましや誹謗中傷について、削除・投稿者の特定・示談までを一連で検討したい方は、SNSのなりすまし・誹謗中傷への対応についての特設ページもご覧ください。

よくある質問

告訴を取り消した後で、やはり処罰を求めたくなったら再度告訴できますか?

できません。刑事訴訟法237条2項は「告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない」と定めています。示談金が支払われない、投稿が再開されたといった事情が後から生じても、同じ事件について告訴し直すことはできないため、取消しの時期と条件は慎重に決める必要があります。

示談が成立したら、告訴は必ず取り下げなければなりませんか?

法律上の義務ではありません。告訴を取り消すかどうかは被害者が判断することです。ただし、示談書で告訴を取り消すと約束した場合は、その約束に従う必要があります。加害者側は告訴の取消しを示談の条件とすることが多いため、示談書にどう書くかが重要です。

告訴を取り消すと、損害賠償(慰謝料)の請求もできなくなりますか?

告訴の取消しは刑事手続上の行為であり、それだけで民事上の損害賠償請求権が消えるわけではありません。ただし、示談書に「本件に関し、本示談書に定めるもののほか、何らの債権債務がない」といった清算条項を入れた場合は、示談金以外の請求はできなくなるのが通常です。

加害者が起訴された後に示談した場合、告訴を取り消せますか?

取り消せません。告訴は公訴の提起があるまでしか取り消すことができないためです(刑事訴訟法237条1項)。起訴後に示談が成立した場合、被害者の処罰感情が和らいだことなどが量刑の事情として考慮される可能性があるにとどまります。

まとめ|告訴の取消しは約束の履行を確認してから

  • 名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪で、告訴を取り消すと加害者は起訴されなくなります
  • 取り消せるのは起訴されるまでで、一度取り消すと同じ事件で再告訴はできません
  • 共犯の一人との示談で取り消すと、他の共犯者にも効力が及びます
  • 示談金の支払い・投稿の削除を先に確認し、清算条項の範囲にも注意します

加害者側は、刑事処分を避けるために早期の告訴取消しを強く求めてくることがあります。示談金の額が妥当か、条項の順序や範囲に問題がないかを冷静に判断するには、刑事と民事の両面を踏まえた検討が欠かせません。横浜のタングラム法律事務所では、弁護士が告訴後の示談交渉や示談書の確認についてもご相談をお受けしています。

告訴後の示談・告訴取消しでお悩みの方へ

タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷の削除請求・発信者情報開示請求から、刑事告訴、加害者との示談交渉まで、多数のご相談に対応してきました。告訴の取消しを求められて判断に迷っている方は、署名や取消しの前にご相談ください。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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