誹謗中傷の示談書を自分で作る方法|必要な条項と注意点を解説
誹謗中傷の示談書を自分で作る方法|必要な条項と注意点を解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年9月25日 最終更新日:2026年9月25日
発信者情報開示で投稿者がわかり、連絡を取ってみたところ「謝罪して示談金を払いたい」と申し出があった。あるいは、知人が投稿者だと判明し、裁判までは考えていないので当事者同士で解決したい——。そうした場面で、「示談書はどう書けばよいのか」「ネットのひな形をそのまま使って大丈夫か」と悩む方は少なくありません。
この記事では、誹謗中傷の被害者が加害者と自分で示談をする場合を想定し、示談書に入れるべき条項、条項ごとの書き方の注意点、相手が約束を守らなかったときに備える方法(公正証書・即決和解)、そして自分で進める場合の限界を解説します。
結論として、誹謗中傷の示談書には、少なくとも「対象投稿の特定」「解決金の額と支払方法」「投稿の削除」「再発防止」「清算条項」を明記する必要があります。私的に作った示談書だけでは不払いのときにすぐ強制執行できないため、金銭の支払は強制執行認諾文言付きの公正証書に、削除などの約束も含めて強制力を持たせたい場合は簡易裁判所の即決和解にすることを検討します。
誹謗中傷の示談書とは|口約束で済ませてはいけない理由
示談は、法律上は「和解」という契約です。民法695条は、和解を「当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約する」契約と定めています。いったん和解が成立すると、後から「実はもっと損害があった」と分かっても、原則として合意した内容で確定します(民法696条)。
口約束でも契約自体は成立しえますが、「どの投稿を削除する約束だったか」「支払期限はいつか」といった食い違いや、示談後の投稿再開・示談内容の公表などが起きやすいため、書面化は欠かせません。
示談交渉そのものの進め方や相場観については、誹謗中傷の示談交渉のポイントを解説した記事もあわせてご覧ください。
誹謗中傷の示談書に入れるべき主な条項
示談書に法律で定められた書式はありませんが、誹謗中傷の事案では次の条項を検討するのが一般的です。
| 条項 | 主な内容 | チェックポイント |
|---|---|---|
| 対象投稿の特定 | どの投稿についての示談かを明記 | URL・投稿日時・アカウント名を別紙目録にまとめる |
| 事実の確認・謝罪 | 投稿したことを認め、謝罪する | 謝罪文の公表まで求めるかは別途検討 |
| 投稿の削除 | 対象投稿やアカウントの削除 | 削除の期限と完了報告の方法 |
| 解決金の支払 | 金額・期限・振込先・振込手数料の負担 | 分割払いなら期限の利益喪失条項 |
| 再発防止・接触禁止 | 今後の投稿や連絡の禁止 | 禁止の範囲を具体的に書く |
| 違約金 | 約束違反の場合の支払額 | 過大な額にしない |
| 口外禁止 | 示談の内容を第三者に漏らさない | 双方に課すか一方のみか |
| 刑事手続の取扱い | 告訴の取消し・被害届の扱い | 取消しの時期と条件 |
| 清算条項 | 本件について他に債権債務がないことの確認 | 対象範囲を広げすぎない |
条項ごとの書き方と注意点
対象投稿は「別紙目録」で特定する
「ネット上の一切の書き込み」のような曖昧な書き方では、範囲をめぐって争いになります。投稿のURL・投稿日時・アカウント名・内容の要旨を一覧にした別紙を付け、本文では「別紙目録記載の各投稿」と引用するのが確実です。
削除は「期限」と「確認方法」をセットで
「甲は、本示談書締結日から3日以内に別紙目録記載の各投稿を削除し、削除した旨を乙に書面または電子メールで報告する」のように、期限と報告方法まで決めておきます。アカウント凍結などで本人が削除できない場合もあるため、事前に確認しておきましょう。
分割払いには期限の利益喪失条項を入れる
解決金を分割で受け取る場合、「支払を2回以上怠り、その額が○万円に達したときは、当然に期限の利益を失い、残額を直ちに支払う」といった条項を入れておかないと、未払い分しか請求できず、回収に手間がかかります。
違約金は相当な範囲にとどめる
違約金は賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。再発防止の実効性を高めるうえで有効ですが、事案に比べて著しく高額な違約金は、無効や減額と判断されるおそれがあるほか、交渉がまとまらない原因にもなります。
告訴の取消しは入金確認の後に
名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪であり、告訴がなければ公訴を提起できません(刑法232条1項)。告訴は公訴の提起があるまで取り消せますが、一度取り消すと同じ事件について再び告訴することはできません(刑事訴訟法237条1項・2項)。示談書で告訴の取消しを約束する場合は、「解決金全額の入金を確認した後、○日以内に取り消す」という順序にしておくのが安全です。
清算条項の範囲に注意する
清算条項は「本件に関し、本示談書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」と書くのが一般的です。「本件」の範囲を別紙目録の投稿に限っておかないと、示談後に発覚した別の投稿について請求できなくなるおそれがあります。発信者情報開示にかかった費用を解決金に含めるかどうかも、このタイミングで明確にしておきましょう。
不払いに備える|公正証書と即決和解
当事者が署名押印しただけの示談書は、それ自体では強制執行の根拠(債務名義)になりません。相手が払わなければ、改めて訴訟や支払督促を申し立てる必要があります。これを避ける方法として、次の2つがあります。
| 方法 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 公正証書(執行証書) | 公証役場で作成し、「直ちに強制執行に服する」旨の陳述(強制執行認諾文言)を入れる | 解決金を分割で受け取る場合など、金銭の支払を確保したいとき |
| 訴え提起前の和解(即決和解) | 相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に和解を申し立て、裁判所で合意を成立させる | 削除や再発防止など、金銭以外の約束にも強制力を持たせたいとき |
公正証書で強制執行ができるのは、金銭の一定額の支払などを目的とする請求に限られます(民事執行法22条5号)。投稿の削除や接触禁止といった約束は、公正証書にしても直ちに強制執行の対象にはなりません。
即決和解は民事訴訟法275条1項に基づく手続で、成立した和解が調書に記録されると確定判決と同一の効力を持ちます(同法267条1項)。申立手数料は2,000円と定められています(民事訴訟費用等に関する法律別表第一の9項)。ただし、事前に和解条項を固め、相手方にも期日に出頭してもらう必要があります。公正証書の手数料は目的の価額に応じて定められ、2025年10月1日に改定されているため、公証役場で確認してください。
示談がまとまらなかった場合の手続については、誹謗中傷の損害賠償を自分で提訴する方法や、支払督促で慰謝料を請求する方法で解説しています。
自分で示談交渉を進めるときの注意点
- 要求の仕方に注意する:相手を畏怖させて金銭を払わせると、恐喝罪(刑法249条)に問われるおそれがあります。「払わなければ勤務先や家族に知らせる」といった言動は避け、金額も裁判例の傾向から大きく外れない範囲で提示します。
- 時効に注意する:不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年で時効にかかります(民法724条1号)。交渉が長引いた場合に備え、示談書や相手からのメールで債務を認める記載を残しておくと、時効の更新(民法152条1項の「承認」)の証拠になります。
- 相手が未成年の場合:未成年者との契約は親権者の同意がないと取り消されるおそれがあるため、親権者も当事者として署名してもらうのが一般的です。
自分で作る場合の限界と弁護士に依頼する違い
示談書は自分で作成することもできますが、「提示された金額が妥当か判断できない」「条項の書き方ひとつで請求できる範囲が狭まった」「加害者と直接やり取りする負担が大きい」といった問題が起こりがちです。とくに清算条項や告訴の取扱いは、一度合意するとやり直しがききません。
弁護士に依頼した場合は、交渉の窓口を一本化でき、損害額の見積もりや条項の設計、公正証書・即決和解の手配まで任せることができます。投稿者の特定から示談・訴訟までを通した対応については、発信者情報開示請求・削除請求のページで詳しくご案内しています。
よくある質問
誹謗中傷の示談書に決まった書式はありますか?
法律で定められた書式はありません。示談は民法上の和解契約(民法695条)であり、合意内容を正確に書面に残すことが重要です。ひな形を使う場合も、対象投稿の特定や清算条項が事案に合っているかを確認する必要があります。
示談書は手書きでも有効ですか?
合意内容が明確であれば、手書きでも契約として有効と解されています。日付、当事者の住所・氏名、署名押印を入れ、同じものを2通作成して各自1通を保管するのが一般的です。
示談したら刑事告訴は取り下げなければなりませんか?
示談書で告訴を取り消すと約束した場合に限り、その義務を負います。告訴は公訴の提起があるまで取り消すことができますが、一度取り消すと同じ事件について再び告訴することはできません(刑事訴訟法237条1項・2項)。解決金の入金を確認してから取り消す段取りにするなど、順序に注意が必要です。
相手が示談金を払わない場合はどうなりますか?
私的に作成した示談書だけでは、すぐに強制執行をすることはできず、改めて訴訟や支払督促を申し立てる必要があります。あらかじめ強制執行認諾文言付きの公正証書(執行証書)にしておけば、金銭の支払について訴訟を経ずに強制執行を申し立てることができます。
まとめ
誹謗中傷の示談書は、対象投稿の特定、解決金の支払方法、削除と再発防止、告訴の取扱い、清算条項を具体的に書くことが要点です。不払いに備えるなら公正証書や即決和解を検討します。
一方で、金額の妥当性や清算条項の範囲は、一度合意すると後から修正できません。示談書に署名する前の段階で弁護士に確認するだけでも、将来のトラブルを防げる可能性があります。タングラム法律事務所は横浜の弁護士事務所として、ネット誹謗中傷の被害に関するご相談をお受けしています。
誹謗中傷の示談・示談書の作成でお困りの方へ
横浜のタングラム法律事務所では、理系・ITエンジニア出身の弁護士が、インターネット上の誹謗中傷について、投稿の証拠保全から発信者情報開示、投稿者特定後の示談交渉・損害賠償請求まで対応しております。示談書に署名する前の段階でもご相談いただけます。
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