示談後にまた誹謗中傷されたら?違約金請求と再発時の対処法
示談後にまた誹謗中傷されたら?違約金請求と再発時の対処法
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年11月4日 最終更新日:2026年11月4日
謝罪を受け、示談金も受け取って、ようやく終わったと思っていたのに、同じ相手らしき書き込みをまた見つけた。そのときの怒りと不安は、最初の被害とは違う重さがあるものです。「示談したのだから、もう何もできないのでは」「違約金はいくら取れるのか」と、横浜の当事務所で弁護士がこうしたご不安を伺うことがあります。
この記事では、示談後に誹謗中傷が再発した場合に請求できる内容、匿名の再投稿への対応、示談の形式によって変わる強制力、再度の刑事告訴の可否、避けるべき行動を順に解説します。
結論として、示談後の新たな投稿については、示談書の再発防止条項に基づく違約金や損害賠償、新たな不法行為としての損害賠償を請求できる可能性があります。ただし、請求の前提として、投稿者が示談の相手本人であることを示す必要があるため、まず証拠を保存し、示談書の条項を確認することが出発点になります。
示談後に再び誹謗中傷されたら最初に確認すること
相手に連絡する前に、次の3点を確認しましょう。
- 投稿の保存:URL、投稿日時、アカウント名、本文が分かる形で保存します。相手が削除することもあるため最初に行います。
- 示談書の条項:再発防止・接触禁止の範囲、違約金の有無と金額、清算条項の対象を確認します。
- 示談書の形式:当事者が署名しただけの書面か、公正証書か、裁判所の和解かによって、取れる手段が変わります。
示談は「和解」という契約であり、合意した範囲の紛争は終わります。しかし、清算条項の対象は通常、示談の対象となった件に限られるため、示談後に行われた新たな投稿まで当然に解決済みとなるわけではないと考えられます。もっとも、清算条項の書き方によって解釈が分かれることもあるため、文言の確認が欠かせません。条項の考え方は誹謗中傷の示談書に必要な条項を解説した記事で詳しく説明しています。
示談後の誹謗中傷で請求できる内容|違約金と損害賠償
再発時に考えられる請求は、主に次のとおりです。どれが使えるかは、示談書の内容と投稿の内容によります。
| 請求 | 根拠 | ポイント |
|---|---|---|
| 違約金 | 示談書の条項(民法420条) | 約束違反の事実を示す。条項がなければ請求できない |
| 債務不履行の損害賠償 | 民法415条1項 | 再発防止の約束違反による損害を請求する |
| 不法行為の損害賠償 | 民法709条 | 新たな投稿自体の違法性と損害を主張する |
| 投稿の削除 | 示談書の条項、人格権 | 相手本人への請求のほか、サイト運営者への請求も検討する |
期間にも注意が必要です。不法行為の損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条)。違約金など契約に基づく債権は、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年です(民法166条1項)。新たな投稿の時期を記録しておきましょう。
違約金を請求できる条件と限界
違約金の条項があれば、損害額を細かく立証しなくても定めた額を請求できるのが利点です。ただし、次の点に注意が必要です。
- 違反といえるか:「甲は乙について今後投稿しない」など、条項の文言に今回の投稿が当たるかが問われます。別のサイトへの投稿、名前を伏せた投稿、第三者の投稿の拡散が含まれるかは、文言次第で争いになり得ます。
- 賠償額の予定との関係:違約金は賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。そのため、実際の損害が定めた額より大きくても、上乗せの請求は難しくなる場合があります。別途の損害賠償も認める趣旨なら、その旨が明記されているかを確認します。
- 過大な金額:事案に比べて著しく高額な違約金は、公序良俗違反(民法90条)として全部または一部が無効と判断されるおそれがあります。
- 投稿者の立証:相手が「自分ではない」と争えば、相手の投稿であることを請求する側が示す必要があります。
相手が投稿を認めたやり取りがあれば有力な証拠になり得ます。認めていない場合は、次の開示請求が検討の中心になります。
匿名の再投稿は再度の発信者情報開示請求を検討する
匿名アカウントや掲示板への再投稿では、文体や内容が似ていても、それだけで同一人物と認められるとは限りません。投稿者を法的に確認するには、改めて発信者情報開示請求を検討することになります。
開示請求は、投稿によって権利が侵害されたことが明らかであり、開示を受ける正当な理由があることなどが要件です(情報流通プラットフォーム対処法5条1項)。裁判所の開示命令の手続も利用できます(同法8条)。以前の開示結果は過去の投稿についてのものなので、新たな投稿については、改めて要件を満たすかを判断する必要があります。
プロバイダ等の接続記録は一定期間で消去される可能性があるため、再投稿を見つけたら早めに動くことが大切です。手続の全体像は発信者情報開示請求・削除請求のページをご覧ください。SNSで繰り返される投稿については、SNSのなりすまし・誹謗中傷への対応もご参照いただけます。
示談書の形式で変わる強制力|公正証書と即決和解
相手が違約金を払わない場合や投稿をやめない場合に、すぐ強制執行できるかは示談の形式で異なります。
| 示談の形式 | 金銭の請求 | 投稿禁止の約束 |
|---|---|---|
| 当事者間の示談書 | 別途、訴訟や支払督促が必要 | 別途、訴訟等が必要 |
| 公正証書(強制執行認諾文言付き) | 金銭の一定額の支払について強制執行が可能(民事執行法22条5号) | 公正証書のままでは強制執行の対象にならない |
| 即決和解・訴訟上の和解・判決 | 記載内容に応じて強制執行が可能(同条7号等) | 間接強制を申し立てられる可能性がある(同法172条1項) |
公正証書や和解調書に違約金を定めていても、「約束違反があったこと」が条件になっている場合、執行文を受けるには、その事実を証する文書の提出が必要です(民事執行法27条1項)。投稿者が相手本人であることを文書で示せるかが、ここでも問題になります。
間接強制は、投稿をしない義務に違反した場合に金銭の支払を命じ、心理的に履行を促す手続です。最高裁平成17年12月9日決定は、不作為義務についての間接強制決定には、債務者が義務に違反するおそれの立証で足り、現に違反していることまでは立証を要しないとしています。手続の流れは間接強制の申立てを解説した記事も参考になります(開示の決定を題材としたものです)。
なお、現在の示談書が当事者間の書面でも、再発を機に改めて合意する場合は、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所での即決和解(民事訴訟法275条1項)を検討する余地があります。成立した和解の記録は確定判決と同一の効力を持ちます(同法267条1項)。
示談後の誹謗中傷で再度の刑事告訴はできるか
示談の際に告訴を取り消した場合、取り消した者は同じ事件について再び告訴できません(刑事訴訟法237条2項)。しかし、示談後の新たな投稿は別の事実として、名誉毀損罪(刑法230条1項)や侮辱罪(同法231条)の告訴を検討できる場合があります。
いずれも親告罪で、告訴は犯人を知った日から6か月以内に行う必要があります(刑法232条1項、刑事訴訟法235条)。示談書に「今後も告訴しない」といった条項がある場合は、対象の範囲を確認します。告訴の取消しについては告訴と示談の関係を解説した記事で説明しています。
再発時に避けたい行動
怒りのまま動くと、被害者の側が不利になることがあります。
- 反論の投稿や、示談内容の公表:口外禁止条項への違反や、新たな名誉毀損の問題になるおそれがあります。
- 相手の勤務先や家族への連絡:相手のプライバシー侵害等を主張されるおそれがあります。
- 強い言葉での要求:「払わなければ会社に知らせる」といった要求は、脅迫罪(刑法222条1項)や恐喝罪(同法249条1項)が問題になるおそれがあります。
- 証拠が不十分なままの断定:別人の投稿だった場合、請求した側が責任を問われる可能性があります。
示談後の誹謗中傷に関するよくある質問
示談書に違約金の定めがなくても請求できますか?
違約金の条項がなくても、再発防止の約束に違反した債務不履行や、新たな投稿による不法行為として、損害賠償を請求できる可能性があります。ただし、損害の内容と額は請求する側が示す必要があります。
違約金はいくらに設定されていても全額請求できますか?
事案に比べて著しく過大な額は、公序良俗に反するとして全部または一部が無効と判断されるおそれがあります。実際に請求できるかは、投稿の内容や示談の経緯を踏まえて検討します。
示談した相手の再投稿について、もう一度告訴できますか?
示談後の新たな投稿は、取り消した告訴とは別の事実として告訴を検討できる場合があります。ただし、告訴しない旨の合意の有無や範囲を確認する必要があり、親告罪の告訴には犯人を知った日から6か月という期間制限があります。
匿名の投稿が示談相手のものか分からないときはどうすればよいですか?
投稿を保存し、削除請求と発信者情報開示請求を検討します。文体が似ているだけで相手に違約金を請求すると、別人だった場合に新たな紛争になるおそれがあるため、相手を断定して連絡することは避けましょう。
まとめ|示談後の再発は証拠保存と条項確認から
- 示談後の新たな投稿には、違約金、損害賠償、削除請求、告訴を検討できる場合がある
- 違約金の請求は、条項の文言、金額の相当性、投稿者の立証が鍵になる
- 匿名の再投稿は、改めて開示請求を検討する。接続記録が消える前に早く動く
- 強制力は示談の形式で異なり、投稿禁止の実効性には和解や判決が関わる
- 反論、公表、勤務先への連絡は避ける
再発時は、示談書の解釈、開示請求の見通し、請求の順序を同時に考える必要があります。横浜の弁護士に相談すれば、相手に直接連絡せずに、状況に合った手段を整理できます。
示談後の誹謗中傷でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、発信者情報開示請求や削除請求など、インターネット上の誹謗中傷の問題を取り扱っております。示談書の内容を踏まえ、再発時に取り得る対応を検討します。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。