発信者情報開示の決定に従わない?間接強制の申立て方法と流れ
発信者情報開示の決定に従わない?間接強制の申立て方法と流れ
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月30日 最終更新日:2026年10月30日
誹謗中傷の投稿者を特定するために裁判所へ申し立て、ようやく発信者情報の開示を命じる決定が出た。ところが、SNSや掲示板の運営者からいつまでたっても開示がない――。せっかく勝ち取った決定なのに、このまま待つしかないのかと不安になる方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、裁判所の決定に運営者が従わない場合に使われる「間接強制」という手続について、申立ての期限、申立先と費用、手続の流れ、開示命令(非訟手続)との違いを、横浜の弁護士が解説します。
結論から言うと、発信者情報開示の仮処分決定に運営者が従わない場合は、裁判所に「間接強制」を申し立て、開示するまで一定額の金銭の支払いを命じてもらうことで履行を促す方法があります。ただし、仮処分にもとづく間接強制は、決定が申立人に送達された日から2週間以内に申し立てる必要があるため(民事保全法43条2項)、決定が届いた直後から開示の有無を確認しておくことが重要です。
開示の決定が出ても運営者が開示しないことはある
X・Instagram・Googleマップなどの運営者(コンテンツプロバイダ)に対しては、IPアドレス等の開示を求めて仮処分を申し立てるか、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)にもとづく発信者情報開示命令を申し立てるのが一般的です。手続全体の流れは発信者情報開示請求・削除請求の取扱分野のページでもご紹介しています。
多くの場合、運営者は決定に従って開示に応じますが、社内手続の遅れや、開示の対象範囲についての独自の解釈などから、開示が遅れたり、なされなかったりすることがあります。
インターネット接続事業者の業界団体の勉強会資料でも、「裁判で結論が出ても、その決定が確定するまでは履行しないプロバイダが多い」と指摘されています。開示が遅れると、その後に経由プロバイダ(アクセスプロバイダ)へ開示を求める段階でログの保存期間が過ぎてしまうおそれがあるため、放置は禁物です。
間接強制とは|開示するまで金銭の支払いを命じる強制執行
間接強制は、民事執行法172条に定められた強制執行の方法です。債務を履行しない相手に対し、裁判所が「履行が遅れる期間に応じて、一定額の金銭を債権者(申立人)に支払え」と命じることで、心理的な圧力をかけて自発的な履行を促します。
発信者情報の開示は運営者自身にしかできない行為のため、第三者に代わりに行わせる代替執行にはなじまず、間接強制を用いるのが通常です。
仮処分の場合、民事保全法52条2項により、作為を命じる仮処分命令は債務名義(強制執行の根拠となる文書)とみなされます。そのため、開示を命じる仮処分決定そのものにもとづいて、間接強制を申し立てることができます。
間接強制の申立て期限は「送達から2週間」
仮処分にもとづく間接強制で最も注意すべきなのが期限です。民事保全法43条2項は、「保全執行は、債権者に対して保全命令が送達された日から二週間を経過したときは、これをしてはならない」と定めています。
東京地方裁判所の案内(間接強制に関するQ&A)でも、仮処分で不代替的作為義務を命じる場合は、債権者が送達を受けてから2週間以内に執行の着手をしないと執行できなくなるため、その期間内に間接強制の申立てをする必要がある、と説明されています。
なお、この期間の制限は、投稿の削除を命じる仮処分についても同じように問題となります。削除の仮処分の手続については投稿削除を仮処分で求める方法の記事で解説しています。
申立先・費用・必要書類
間接強制の申立先は、債務名義を作成した第一審の裁判所です。東京地方裁判所の案内では、東京地裁本庁で債務名義を得た場合には、民事第21部(民事執行センター)の担当係に申し立てることとされています。
| 項目 | 内容(東京地裁の案内による) |
|---|---|
| 申立手数料 | 原則として請求権1個につき収入印紙2,000円(当事者が複数の場合は請求権の個数×2,000円) |
| 郵便切手 | 債務者1名あたり1,290円分を2組、債権者用に1,220円分 |
| 主な書類 | 間接強制申立書、債務名義(仮処分決定)の正本、送達証明書、間接強制金の計算根拠(申立書に記載があれば不要)など |
取扱いや金額は変更される可能性があるため、申立ての際は申立先の裁判所の最新の案内を確認してください。
申立て後の流れ|書面審尋から決定まで
間接強制の申立てがされると、裁判所は債務者(運営者)の言い分を聴きます。東京地裁の案内では、回答期限を10日として書面審尋(書面の提出により債務者の意見等を確認する手続)を実施し、期限までに回答がなければ、期限経過後に申立てを認容する決定がされるとされています。
- 間接強制の申立て(送達から2週間以内)
- 裁判所から債務者への書面審尋(審尋書の送達)
- 債務者の回答(または回答期限の経過)
- 間接強制決定(開示するまで一定額の支払いを命じる)
- それでも履行されない場合、間接強制金を取り立てるための強制執行
申立てや審尋をきっかけに運営者が開示に応じる場合もあります。相手が海外の事業者である場合は、審尋書の送達に時間がかかる可能性があります。
開示命令(非訟手続)の場合は「確定」がポイント
2022年10月に導入された発信者情報開示命令(情プラ法8条)は、仮処分とは扱いが異なります。開示命令の決定に不服がある当事者は、決定の告知を受けた日から1か月の不変期間内に異議の訴えを提起できます(同法14条1項)。この期間内に異議の訴えが提起されなかったとき、または却下されたときは、決定は確定判決と同一の効力を有します(同条5項)。
つまり、開示命令の場合は、決定が確定するまでは運営者が開示を待つことが多く、確定後もなお開示されない場合に、強制執行として間接強制を検討することになります。仮処分のような「送達から2週間」という保全執行の期間制限は、開示命令には直接は当てはまりませんが、確定判決と同様の強制執行の準備(執行文や確定証明・送達証明など)が一般に必要となります。
開示命令とあわせて利用できる提供命令の解説記事もご参照ください。
間接強制を検討する前に確認したいこと
- 本当に「不履行」か:運営者から「該当する情報を保有していない」と回答された場合、決定に従わないのとは事情が異なります。この場合に間接強制が認められるかは慎重な検討が必要です。
- 開示された情報の範囲:一部だけが開示された場合、残りの履行を求めるか、開示された情報で次の段階に進むかを判断します。
- 次の手続の期限:経由プロバイダのログが消えてしまえば、投稿者の特定ができなくなります。間接強制と並行して、次の段階の準備を進めることが重要です。
開示請求がうまくいかなくなる典型的な場面については、発信者情報開示請求が失敗・棄却されるケースの記事でもまとめています。X・Instagram・Threadsなどでのなりすましや誹謗中傷にお悩みの方は、SNSなりすまし・誹謗中傷への対応の特設ページもご参照ください。
よくある質問
仮処分決定が出てから、いつまでに間接強制を申し立てればよいですか。
民事保全法43条2項により、保全執行は債権者に保全命令が送達された日から2週間を経過するとできなくなります。東京地方裁判所の案内でも、不代替的作為義務を命じる仮処分については、この期間内に間接強制の申立てをする必要があるとされています。決定が届いたら、開示の有無をすぐに確認することが大切です。
間接強制金はいくらくらいになりますか。
金額は、申立てを受けた裁判所が事案ごとに定めるもので、一律の基準はありません。申立書には、求める金額とその計算根拠を記載します。
削除の仮処分に運営者が従わない場合も、間接強制はできますか。
投稿の削除を命じる仮処分も、運営者に一定の行為を命じるものですので、従わない場合には間接強制の申立てを検討することになります。送達から2週間という期間の制限も同様に問題となります。
開示命令(非訟手続)の決定でも、間接強制はできますか。
情報流通プラットフォーム対処法14条5項により、異議の訴えが1か月の期間内に提起されなかった開示命令の決定は、確定判決と同一の効力を有します。確定後も開示されない場合には、強制執行として間接強制を申し立てる余地があります。ただし、決定が確定するまでは開示されないことが多い点に注意が必要です。
まとめ
- 開示の仮処分決定に従わない運営者には、間接強制(民事執行法172条)で履行を促せる
- 仮処分にもとづく間接強制は、送達から2週間以内に申し立てる(民事保全法43条2項)
- 開示命令は、確定すると確定判決と同一の効力を持つ
- 経由プロバイダのログ保存期間を意識し、次の手続も並行して準備する
間接強制は期限が短く、仮処分か開示命令かによって準備も変わります。決定が出たのに開示されないときは、早めに弁護士へご相談いただくことで、期限を逃さずに次の手続へ進められる可能性が高まります。
開示の決定が出たのに開示されない方へ
タングラム法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷について、削除請求・発信者情報開示請求・損害賠償請求に数多く対応してきました。運営者が決定に従わない場合の間接強制についても、横浜の弁護士が手続の見通しをご説明します。
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