タングラム法律事務所

トレントで差止請求を受けたら|著作権法112条の削除・廃棄と示談書

トレントで差止請求を受けたら|著作権法112条の削除・廃棄と示談書

トレントで差止請求を受けたら|著作権法112条の削除・廃棄と示談書

トレントで差止請求を受けたら|著作権法112条の削除・廃棄と示談書

トレントで差止請求を受けたら|著作権法112条の削除・廃棄と示談書

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月27日 最終更新日:2026年10月27日

BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由に、権利者側から届いた通知書や示談書の案に「ファイルの削除」「ソフトのアンインストール」「今後一切共有しないことの誓約」といった項目が並んでいた――。お金の話だけでなく、こうした要求にどこまで応じなければならないのか、応じなかったらどうなるのかと不安に感じる方は少なくありません。

この記事では、著作権法112条が定める差止請求(侵害の停止・予防の請求)と、廃棄その他の必要な措置の請求の内容、差止請求が損害賠償請求とどう違うのか、裁判や仮処分で差止めが求められた場合の流れ、そして示談書に盛り込まれる削除・誓約条項の確認点を、発信者側の立場から解説します。

結論として、著作権者等は、侵害する者や侵害するおそれがある者に対して侵害の停止・予防を請求でき、それに際してファイルなどの廃棄その他の必要な措置も請求できます(著作権法112条1項・2項)。差止請求は損害賠償とは別の請求で、故意や過失は要件とされていません。示談で解決する場合は、削除や誓約の対象範囲、違約金の有無、清算条項との関係を確認したうえで合意することが大切です。

著作権法112条の差止請求とは

著作権法112条1項は、「著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。」と定めています。

BitTorrentの事案に当てはめると、作品のファイルをクライアントソフトで共有できる状態に置き続けていることが、送信可能化権(著作権法23条1項)などの侵害にあたるとして、その状態をやめること(停止)や、今後同じことをしないこと(予防)を求められる、という形になります。

差止請求をすることができるのは、条文に列挙された著作者・著作権者・出版権者・実演家・著作隣接権者です。請求者が本当にその権利を持っているかは、損害賠償の場面と同様に確認しておくべき点です。

削除・廃棄その他の措置の請求(112条2項)

112条2項は、差止請求をするに際して、「侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置」を請求できると定めています。BitTorrentの事案で問題になり得るものを整理すると、次のとおりです。

条文の文言BitTorrent事案で想定されるもの
侵害の行為によって作成された物ダウンロードされ、共有状態に置かれていた作品のファイル
専ら侵害の行為に供された機械・器具侵害のためだけに用いられた機器。日常的に他の用途にも使っているパソコンが「専ら」にあたるかは慎重に判断されると考えられます
その他の侵害の停止・予防に必要な措置ファイルの削除、共有設定の解除、クライアントソフトの停止など

2項の請求は、1項の差止請求を「するに際し」て認められる付随的なものです。また、条文は「必要な措置」に限っていますので、侵害の停止・予防に必要な範囲を超える要求まで当然に認められるわけではありません。

差止請求と損害賠償請求の違い

BitTorrentの事案で権利者側から届く通知書は、金銭の支払い(損害賠償)を求めるものが主ですが、差止請求は損害賠償とは性質の異なる請求です。

項目差止請求(112条)損害賠償請求(民法709条等)
求める内容侵害の停止・予防、削除・廃棄など過去の侵害によって生じた損害の金銭賠償
故意・過失条文上の要件とされていない必要
対象とする時点現在の侵害と、将来の侵害のおそれ過去の侵害

故意・過失が要件とされていないため、「共有されているとは知らなかった」という事情は、損害賠償の場面では検討の対象になり得ても、差止めの場面では結論を左右しにくいことになります。この点は「「意図せず共有していた」は通用するか|トレント意見照会と故意・過失」で詳しく解説しています。

一方で、差止めは「侵害する者又は侵害するおそれがある者」に対する請求です。すでに利用をやめ、ファイルも削除している場合には、現に侵害している状態はありません。ただし、再び侵害するおそれがあると判断されれば差止めが認められる可能性があり、おそれの有無は、利用をやめた時期や態様、侵害の事実を争っているかどうかなどの事情を踏まえて判断されると解されています。

裁判・仮処分で差止めが求められた場合

示談が成立しない場合、権利者側は訴訟で損害賠償とあわせて差止めを求めることがあります。また、判決を待っていては著しい損害を避けられないとして、民事保全法上の仮処分(仮の地位を定める仮処分)が申し立てられる可能性もあります。この仮処分は、「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」に発することができ(民事保全法23条2項)、原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができないとされています(同条4項)。

差止めを命じる判決や決定が出たのに従わない場合、「〜してはならない」という不作為の義務については、裁判所が、履行しないときは一定の額の金銭を支払うよう命じる間接強制(民事執行法172条1項)の方法で強制執行がされることになります。

示談書の削除・誓約条項で確認すべき点

差止めや削除に相当する内容は、裁判ではなく、示談書の条項として合意される形で求められることもあります。署名する前に、次の点を確認してください。

  • 対象の範囲:削除や不使用を約束する対象が、照会・請求の対象となった作品に限られるのか、権利者が権利を持つ全作品に及ぶのか
  • 求められる行為の内容:ファイルの削除だけか、クライアントソフトのアンインストールや機器の処分まで求められているのか。112条2項の「必要な措置」を超えていないか
  • 違約金条項:誓約に違反した場合の違約金が定められていないか、その金額は妥当か。違約金は、賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)
  • 削除の証明方法:削除したことを報告書や誓約書で示すのか、それ以上の確認を求められているのか
  • 清算条項との関係:示談金の支払いで、対象作品に関する過去の請求がすべて解決する内容になっているか

示談書全体のチェックポイントは「トレントの示談交渉を自分で行う場合の注意点|示談書の落とし穴」で解説しています。なお、意見照会書が届いた段階でファイルやソフトを削除してよいかという問題は、示談で削除を約束した後の履行とは場面が異なります。開示前・示談前の段階での注意点は「意見照会書が届いたらトレントソフトは消していいか|証拠隠滅になるのか」をご参照ください。

開示後の通知書や示談書への対応は、横浜の当事務所の損害賠償請求対応のページでもご紹介しています。まだ意見照会書の段階にある方は、BitTorrent著作権侵害の意見照会書が届いた方向けの特設ページで、回答から示談までの対応の流れと弁護士費用をご案内しています。

よくある質問

すでにトレントをやめてファイルも消していれば、差止請求を受けることはありませんか。

現に侵害している状態はなくなりますが、著作権法112条1項は「侵害するおそれがある者」に対する請求も認めています。再び侵害するおそれがあると判断されれば差止めが認められる可能性があり、利用をやめた時期や態様、侵害を争っているかどうかなどの事情を踏まえて判断されると解されています。

差止請求には故意や過失が必要ですか。

著作権法112条1項は、故意や過失を差止請求の要件としていません。そのため、共有されていることを知らなかったという事情があっても、侵害が成立していれば差止めの対象となり得ます。故意・過失は、主に損害賠償請求の場面で問題になります。

パソコンそのものの廃棄まで求められることはありますか。

著作権法112条2項は「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」の廃棄を請求できると定めています。日常的に他の用途にも使っているパソコンがこれにあたるかは慎重に判断されると考えられ、侵害の停止・予防に必要な範囲を超える措置が当然に認められるわけではありません。示談書でこうした条項が示された場合は、署名前に内容を確認することをおすすめします。

示談書の誓約に違反するとどうなりますか。

示談書に違約金の定めがあれば、その支払いを求められる可能性があります。違約金は賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。また、誓約違反とは別に、新たな共有行為が新たな侵害として請求の対象になることもあります。

まとめ

著作権者等は、侵害する者や侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止・予防と、それに必要な削除・廃棄などの措置を請求できます(著作権法112条)。差止請求は損害賠償とは別の請求で、故意・過失を要件としません。示談で解決する場合は削除・誓約条項として合意されることもあるため、対象範囲・求められる行為・違約金・清算条項を確認し、必要以上の義務を負わないようにすることが大切です。条項の意味や妥当性に迷う場合は、署名する前に弁護士に相談することをおすすめします。

横浜の当事務所では、全国の方からのBitTorrent事案のご相談に、弁護士がオンラインで対応しています。

BitTorrent著作権侵害の意見照会対応の詳細はこちら

差止めや削除の誓約を求められてお困りの方へ

タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする意見照会書への対応から、開示後の損害賠償請求・示談交渉まで数多く取り扱っております。通知書や示談書の案を確認し、削除・誓約条項の範囲や違約金の定めについて事情を伺ったうえで、対応の方針をご説明します。BitTorrentの意見照会に関するご相談に限り、オンライン(20分程度)で無料のご相談を承っています(その他の分野のご相談は対象外です)。

法律相談の予約はこちら

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

発信者情報開示請求・削除請求について見る

意見照会書や損害賠償請求の通知が届いた方へのご案内

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。