タングラム法律事務所

著作権切れの作品でもトレントは侵害か|保護期間の計算と意見照会書

著作権切れの作品でもトレントは侵害か|保護期間の計算と意見照会書

著作権切れの作品でもトレントは侵害か|保護期間の計算と意見照会書

著作権切れの作品でもトレントは侵害か|保護期間の計算と意見照会書

著作権切れの作品でもトレントは侵害か|保護期間の計算と意見照会書

執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月26日 最終更新日:2026年10月26日

BitTorrent(トレント)を理由とする意見照会書の対象が、何十年も前に公開された映画や昔の作品だった――。「もう著作権は切れているはずなのに、なぜ照会が来るのか」「古い作品なら自由に共有してよかったのではないか」と疑問に思う方は少なくありません。

この記事では、著作権の保護期間の基本的なルールと計算方法、法改正で延長された作品とされなかった作品の違い、保護期間をめぐる最高裁判決、海外の古い作品の注意点、そして古い作品にも新しい権利が重なっている場面を整理し、意見照会書を受け取ったときに確認すべき点を、発信者側の立場から解説します。

結論として、著作権には保護期間があり、満了した権利を根拠に侵害を主張することはできません。しかし、映画の保護期間は公表後70年に延長されており、「50年たったから切れている」とは限りません。また、字幕・吹替・リマスター版・特典映像など、古い作品に後から加わった部分には別の権利が残っていることがあります。照会書で、どの作品のどの権利が主張されているのかを確認したうえで、保護期間の満了を主張できるかを検討することが大切です。

著作権の保護期間の基本ルール

著作権は、著作物を創作した時に始まり、原則として著作者の死後70年を経過するまで存続します(著作権法51条1項・2項)。ただし、作品の種類や名義によって基準が異なります。

対象保護期間根拠
原則(実名の個人の著作物)著作者の死後70年51条2項
無名・変名の著作物公表後70年(死後70年経過が明らかなものはその時まで)52条1項
団体名義の著作物公表後70年(創作後70年以内に公表されなければ創作後70年)53条1項
映画の著作物公表後70年(創作後70年以内に公表されなければ創作後70年)54条1項
実演・レコード実演の翌年・発行の翌年から70年101条2項1号・2号
放送・有線放送放送の翌年から50年101条2項3号・4号

期間の計算は、著作者が死亡した日や公表された日の属する年の翌年1月1日から起算します(57条)。いわゆる暦年主義で、たとえば公表後70年の作品は、公表の翌年から数えて70年目の12月31日の終了で満了します。

映画については、映画の著作権が満了して消滅したときは、その映画の利用に関する原作(小説や脚本など)の著作権も、映画の著作権とともに消滅すると定められています(54条2項)。もっとも、これは「その映画の利用」に関する限りであり、原作そのものの著作権が消えるわけではありません。

「古い作品だから自由に使える」とは限らない理由

保護期間は、法改正によって延長されてきました。そのため、かつての「50年」の感覚で判断すると誤ることがあります。

  • 映画の著作物:平成16年(2004年)1月1日施行の改正で、公表後50年から70年に延長されました。
  • 著作者の死後の期間・団体名義の著作物・実演・レコード:環太平洋パートナーシップ(TPP11)協定の発効に合わせ、平成30年(2018年)12月30日から50年が70年に延長されました。

一方で、延長前の期間ですでに保護が満了していた作品について、保護が復活することはありません。たとえば2018年の延長では、著作者が1967年までに死亡した作品は延長前に満了しており、1968年以降に死亡した著作者の作品から延長の対象になったと報じられています。「いつ公表されたか」「著作者はいつ死亡したか」によって、同じ年代の作品でも結論が分かれ得るということです。

また、昭和46年(1971年)1月1日の現行著作権法の施行前に公表された作品については、旧著作権法による存続期間が現行法の期間より長い場合には旧法の例によるとされています(著作権法附則7条)。古い作品ほど、計算は複雑になります。

保護期間をめぐる最高裁判決

古い映画の保護期間は、最高裁でも争われてきました。いずれもBitTorrentの事案ではありませんが、計算の考え方を知るうえで参考になります。

延長の対象外とされた例

最高裁平成19年12月18日第三小法廷判決(平成19年(受)第1105号、民集61巻9号3460頁)は、昭和28年(1953年)に団体の著作名義で公表された独創性を有する映画の著作物について、平成16年施行の改正による保護期間延長の対象とはならず、平成15年(2003年)12月31日の終了をもって存続期間が満了したと判断しました。改正法の施行日と満了日が隣り合う場面で、延長の対象になるかどうかが結論を分けた例です。

保護期間が満了していないとされた例

最高裁平成21年10月8日第一小法廷判決(平成20年(受)第889号)は、旧著作権法の下で公表された映画について、映画の著作者は全体的形成に創作的に寄与した者が誰かを基準に判断すべきであるとし、自然人である著作者の実名が表示されて公表された場合には、団体名義の表示があっても、著作者である個人を基準とする旧法の規定が適用されるとして、保護期間はなお満了していないと判断しました。「古い作品で、会社の名前が表示されているから期間が短い」とは限らないことを示しています。

海外の古い作品の注意点

海外の作品には、さらに次のような特則があります。

  • 戦時加算:サンフランシスコ平和条約に基づく「連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律」により、アメリカ・イギリス・フランス・カナダなど一部の国の国民等が戦前・戦中に取得した著作権には、1941年12月8日から各国との平和条約発効の前日までの期間が加算されます。文化庁の資料によれば、多くの国で約10年が加算されています。
  • 保護期間の相互主義:ベルヌ条約等の締約国を本国とする外国の著作物で、本国の保護期間が日本より短いものは、本国の期間によるとされています(著作権法58条)。

外国の権利者からの照会では、どの国の法律がどのように関係するかという問題も生じます。考え方は「意見照会書の権利者が外国法人のとき|トレント開示請求と準拠法」で解説しています。

古い作品にも新しい権利が重なっていることがある

原作となる映画そのものの保護期間が満了していても、BitTorrentで流通しているファイルには、後から加えられた部分が含まれていることが少なくありません。

後から加わった部分問題になり得る権利
日本語字幕・吹替用の翻訳翻訳による二次的著作物(2条1項11号)の著作権
吹替の音声声優の実演、音声の録音に関する権利
特典映像・解説・新たな編集部分新たに創作された部分の著作権
テレビ放送を録画したもの放送事業者の著作隣接権(放送の翌年から50年)

画質や音質を整えるだけの作業で新たな著作物が生じるとは限りませんが、新たな創作が加わっていれば、その部分には独自の保護期間が進行しています。映画に関わる権利の構造は「映画・アニメのトレント共有と著作権|製作委員会からの意見照会書」も参考にしてください。

古い作品の意見照会書が届いたときの確認点

発信者情報の開示は、権利が侵害されたことが明らかであるときに認められます(情報流通プラットフォーム対処法5条1項1号)。主張されている権利がすでに消滅しているのであれば、権利侵害が明らかとはいえないことを理由に開示に同意しない、という回答が考えられます。そのためには、次の点を確認してください。

  • 対象の作品名・公表年と、照会書が主張する権利の種類(著作権か、著作隣接権か)
  • 著作者は誰か、実名の個人か団体名義か、著作者の死亡年
  • 作品の本国(海外作品の場合)と戦時加算の有無
  • 照会者が本当にその権利を持っているのか(譲渡・利用許諾の有無)
  • ファイル名・ハッシュ値から、字幕版・吹替版・リマスター版・放送録画など、どの版のファイルか

照会者の権利者性の確認方法は「トレントの請求者は本当に著作権者か|意見照会と権利者性の確認」で詳しく説明しています。

ただし、保護期間の判断を誤ったまま「著作権は切れているので問題ない」と回答書に書くと、ファイルを共有した事実を自ら認めたうえで、根拠のない反論をしたことになりかねません。どの事実を、どのような表現で書くかは慎重な検討が必要です。横浜の当事務所が意見照会段階でどのように対応しているかは意見照会対応のページでご紹介しています。BitTorrentの意見照会書への具体的な対応の流れや弁護士費用は、BitTorrent著作権侵害の意見照会書が届いた方向けの特設ページでご案内しています。

よくある質問

公開から50年以上たった映画なら、トレントで共有しても問題になりませんか。

そうとは限りません。現在の著作権法では、映画の著作物の著作権は公表後70年間存続します(著作権法54条1項)。映画の保護期間は平成16年(2004年)1月1日施行の改正で公表後50年から70年に延長されており、50年を過ぎていても、延長の対象となった作品は保護が続いている可能性があります。

保護期間が満了した作品であれば、意見照会書にどう回答すればよいですか。

照会の対象とされた権利がすでに消滅しているのであれば、権利侵害が明らかとはいえないことを理由に、開示に同意しない旨を回答することが考えられます(情報流通プラットフォーム対処法5条1項1号)。ただし、字幕・吹替・リマスター・特典映像などに別の権利が残っていることもあり、満了の判断は公表年・著作者・名義・国籍などを踏まえて慎重に行う必要があります。

海外の古い映画も、日本の作品と同じ計算でよいのですか。

同じとは限りません。アメリカ・イギリス・フランスなど一部の国の作品には、戦時加算(連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律)により、多くの国で約10年が上乗せされます。また、本国の保護期間が日本より短い外国の著作物は、本国の期間によるとされています(著作権法58条)。

保護期間はいつから数えるのですか。

著作者の死亡した日や著作物が公表された日の属する年の翌年1月1日から起算します(著作権法57条)。たとえば公表後70年の作品であれば、公表の翌年から数えて70年目の12月31日の終了で満了します。

まとめ

著作権には保護期間があり、満了した権利を根拠に侵害を主張することはできません。しかし、映画は公表後70年、個人の著作物は死後70年に延長されており、延長前に満了していたかどうか、旧法や戦時加算が関係するかどうかで結論が分かれます。さらに、字幕・吹替・リマスター版・放送録画など、古い作品に後から加わった部分には別の権利が残っていることがあります。「古いから大丈夫」と自己判断せず、照会書と添付資料で作品と権利を一つずつ確認したうえで、回答の方針を決めましょう。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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