ライブ映像のトレント共有と著作権|実演家の権利と意見照会書
ライブ映像のトレント共有と著作権|実演家の権利と意見照会書
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月25日 最終更新日:2026年10月25日
BitTorrent(トレント)を理由とする意見照会書の対象が、コンサートやライブの映像ファイルだった――。ライブ映像には、演奏された楽曲、撮影・編集された映像、そしてステージに立つ歌手や演奏家のパフォーマンスが一体となって収められています。「誰の、どの権利の侵害を言われているのか」「出演者本人からも請求されるのか」と戸惑う方は少なくありません。
この記事では、ライブ映像に重なる権利の整理、出演者(実演家)の権利の内容と、正規の映像・隠し撮りの映像・音声だけの音源で扱いがどう変わるのか、古い映像と保護期間の関係、そして意見照会書を受け取ったときに確認すべき点を、著作権法の条文に沿って発信者側の立場から解説します。
結論として、ライブ映像には楽曲の著作権、映像そのものの権利、出演者の著作隣接権が重なり得ますが、出演者の許諾を得て録画された正規の映像については、出演者の送信可能化権は及ばないと定められています(著作権法92条の2第2項1号)。一方、隠し撮りの映像や音声だけの音源では出演者の権利も問題になり得るため、照会者が誰で、どの権利を根拠にしているのかを照会書で確認することが、回答の方針を決める出発点になります。
ライブ映像には複数の権利が重なっている
一つのライブ映像ファイルには、少なくとも次のような権利が関係し得ます。
| 対象 | 権利を持ち得る者 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 演奏された楽曲(作詞・作曲) | 作詞者・作曲者、権利を譲り受けた者や管理を委託された者 | 著作権(公衆送信権・送信可能化を含む。23条1項) |
| 撮影・編集された映像作品 | 映像の製作者など | 映画の著作物(2条3項)としての著作権 |
| 歌唱・演奏・ダンスなどのパフォーマンス | 歌手・演奏家・舞踊家などの実演家 | 実演家の著作隣接権(89条1項・91条・92条の2など) |
| 音声だけを固定した音源(ライブ盤など) | レコード製作者 | レコード製作者の送信可能化権(96条の2) |
著作権法は、映画の著作物に「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」を含むと定めています(2条3項)。撮影や編集に創作性のあるライブ映像は、映画の著作物として扱われ得ます。
なお、実演家の権利は著作者の権利とは別個のもので、著作者の権利に影響を及ぼすものと解釈してはならないとされています(90条)。楽曲の権利と出演者の権利は、それぞれ独立して存在するということです。
出演者(実演家)にはどのような権利があるのか
著作権法上の「実演」とは、著作物を演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠するなどの方法で演ずることをいい、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものも含まれます(2条1項3号)。「実演家」は、俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者と、実演を指揮・演出する者です(同項4号)。
実演家には、自分の実演を録音・録画する権利(91条1項)や、自分の実演を送信可能化する権利(92条の2第1項)が認められています。これらの権利は、登録などの手続を経なくても当然に発生します(89条5項)。BitTorrentでファイルを他のユーザーから取得できる状態に置くことは、送信可能化として主張されるのが一般的です。送信可能化の考え方は「「ダウンロードしただけ」は通用するか|トレント開示請求と送信可能化権」で説明しています。
正規のライブ映像では、出演者の送信可能化権が及ばないことがある
ここがライブ映像に特有の、見落とされやすい点です。著作権法92条の2第2項は、実演家の送信可能化権が及ばない実演として、次のものを定めています。
- 録音・録画の権利を有する者の許諾を得て録画されている実演(同項1号)
- 許諾を得て映画の著作物に録音・録画された実演(91条2項の実演)で、一定の録音物以外の物に録音・録画されているもの(同項2号)
また、録音権・録画権についても、許諾を得て映画の著作物に録音・録画された実演には、原則として及ばないとされています(91条2項)。文化庁の著作権テキストも、実演家が自らの実演が映画の著作物に録音・録画されることをいったん了解した場合には、原則として改めて実演家の了解を得る必要はない、と説明しています。
そのため、出演者の許諾を得て撮影され、正規に発売・配信されたライブ映像をBitTorrentで共有したという事案では、出演者自身が送信可能化権を主張する場面は限られます。照会者として現れるのは、映像作品の権利者や楽曲の権利者であることが一般的と考えられます。もっとも、これは「侵害にならない」という意味ではありません。映像や楽曲の権利は別に存在するため、これらの権利を根拠とする主張には影響しません。
隠し撮り映像・音声だけの音源では扱いが変わる
隠し撮り(無許諾で録画された)ライブ映像
観客が会場で無断撮影した映像などは、出演者の許諾を得て録画された実演ではありません。したがって92条の2第2項1号の除外には当たらず、出演者の送信可能化権が及び得ます。加えて、演奏された楽曲の著作権も存在します。「正規の商品ではないから権利者はいないはずだ」という考えは、条文の構造からすると逆であり、正規の映像よりも主張され得る権利が増えることさえあります。
音声だけのライブ音源(ライブ盤など)
92条の2第2項1号が除外しているのは「録画されている実演」です。許諾を得て録音されただけの実演は、この除外に含まれていません。そのため、ライブ盤などの音源では、出演者の送信可能化権が残り、レコード製作者の送信可能化権(96条の2)や楽曲の著作権と並んで主張され得ます。
| ファイルの種類 | 出演者の送信可能化権 | ほかに主張され得る権利 |
|---|---|---|
| 正規に発売・配信されたライブ映像 | 許諾を得て録画された実演には及ばない(92条の2第2項1号) | 映像作品の著作権、楽曲の著作権 |
| 隠し撮りなど無許諾で録画された映像 | 及び得る | 楽曲の著作権 |
| 音声だけのライブ音源 | 及び得る(録音は1号の除外に含まれない) | レコード製作者の送信可能化権、楽曲の著作権 |
古いライブ映像と保護期間
実演の著作隣接権は、実演を行った時に始まり、実演が行われた日の属する年の翌年から起算して70年を経過した時に満了します(101条1項1号・2項1号)。楽曲の著作権や、映像が映画の著作物に当たる場合のその著作権は、それぞれ別の基準で存続期間が決まります。
そのため、「何十年も前の公演だから自由に使える」とは限りません。仮に一部の権利が満了していても、他の権利が残っていれば、その権利に基づく主張はあり得ます。どの権利の保護期間を問題にするのかを分けて考えることが大切です。
ライブ映像の意見照会書が届いたときの確認点
照会書を受け取ったら、まず次の点を確認してください。
- 照会者は誰か(映像の製作者か、楽曲の権利者か、出演者・所属事務所か、権利行使を委託された会社か)
- 侵害されたとする権利は何か(著作権か、実演家の権利か、レコード製作者の権利か)と、その根拠を示す添付資料
- 対象のファイル名・ハッシュ値から、正規の映像か、無許諾の録画か、音声だけの音源か
- 発信日時・IPアドレス・ポート番号と、その時間帯に回線を利用できた人
- 回答期限と回答書の提出方法
照会者が主張する権利と、ファイルの種類が条文上かみ合っているかは、回答書で指摘し得る論点の一つです。ただし、回答書に「正規の映像だから出演者の権利はないと思った」「隠し撮りなので問題ないと考えた」などと書くと、利用の事実や認識を自ら認めたものと受け取られ、後の交渉で不利になるおそれがあります。どこまでを、どのような言葉で書くかは慎重な検討が必要です。自分で回答書を作成する場合の注意点は「理由回答書を自分で書く場合の記載事項と限界」をご覧ください。
横浜の当事務所が意見照会段階でどのように対応しているかは意見照会対応のページでもご紹介しています。BitTorrentの意見照会書への具体的な対応の流れや弁護士費用は、BitTorrent著作権侵害の意見照会書が届いた方向けの特設ページでご案内しています。
なお、ライブ映像のように一つのファイルに複数の権利が重なる場合、権利者ごとに照会や請求が別々に届くこともあります。損害賠償額は、作品の性質、正規の販売・配信の形態や価格、共有していた期間、照会の件数などを踏まえて個別に検討されるもので、一律の基準があるわけではありません。算定の考え方は「トレントの示談金はどう決まるのか|損害賠償額の算定要素を解説」で整理しています。
よくある質問
ライブ映像をトレントで共有した場合、出演していた歌手やバンドから請求されることはありますか。
実演家(歌手・演奏家など)にも送信可能化権が認められています(著作権法92条の2第1項)。ただし、実演家の許諾を得て録画された実演には、この権利は及ばないと定められています(同条2項1号)。正規に発売・配信されたライブ映像では、出演者自身が送信可能化権を主張する場面は限られ、楽曲や映像の権利を持つ者が照会者となるのが一般的と考えられます。
隠し撮りされたライブ映像なら、権利侵害にはならないのですか。
そうとは限りません。実演家の許諾を得ずに録画された実演には、実演家の送信可能化権が及ぶ(著作権法92条の2第2項1号の除外に当たらない)ため、出演者の権利も問題になり得ます。演奏された楽曲の著作権も別に存在します。正規の映像ではないことは、侵害を否定する理由にはなりません。
音声だけのライブ音源(ライブ盤)の場合は扱いが違いますか。
異なります。著作権法92条の2第2項1号が除外しているのは「録画されている実演」であり、許諾を得て録音されただけの実演は除外されていません。そのため、ライブ盤などの音源では、実演家の送信可能化権が残り、レコード製作者の送信可能化権(96条の2)や楽曲の著作権と並んで主張され得ます。
何十年も前のライブ映像なら、権利は切れていませんか。
実演の保護期間は、実演が行われた日の属する年の翌年から起算して70年です(著作権法101条2項1号)。楽曲の著作権や、映像が映画の著作物に当たる場合のその著作権は、それぞれ別の基準で存続します。古い映像であることだけで、すべての権利が消滅しているとは限りません。
まとめ
ライブ映像には、楽曲の著作権、映像作品としての著作権、出演者(実演家)の著作隣接権が重なり得ます。出演者の許諾を得て録画された正規の映像では、出演者の送信可能化権は及ばないと定められている一方、隠し撮りの映像や音声だけの音源では出演者の権利も問題になり得ます。古い公演であっても、権利ごとに保護期間が異なるため、すべてが消滅しているとは限りません。照会者が誰で、どの権利を根拠にしているのか、対象のファイルがどの種類なのかを照会書と添付資料で一つずつ確認したうえで、回答の方針を決めましょう。
横浜の当事務所では、全国の方からのBitTorrent事案のご相談に、弁護士がオンラインで対応しています。
ライブ映像の意見照会書が届いて戸惑っている方へ
タングラム法律事務所では、BitTorrent(トレント)による著作権侵害を理由とする意見照会書への対応から、開示後の損害賠償請求・示談交渉まで数多く取り扱っております。照会書と添付資料を確認し、照会者が主張する権利と対象のファイルについて事情を伺ったうえで、回答の方針をご説明します。BitTorrentの意見照会に関するご相談に限り、オンライン(20分程度)で無料のご相談を承っています(その他の分野のご相談は対象外です)。
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