誹謗中傷の本人訴訟で準備書面を書く方法|反論の書き方と提出手順
誹謗中傷の本人訴訟で準備書面を書く方法|反論の書き方と提出手順
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月24日 最終更新日:2026年10月24日
ネットの誹謗中傷について、投稿者を相手に自分で損害賠償請求訴訟を起こしたところ、被告から「投稿は自分ではない」「名誉毀損には当たらない」といった答弁書が届き、裁判官から「次回までに原告の反論を準備書面で出してください」と言われた――。本人訴訟では、この「準備書面」で戸惑う方が少なくありません。
この記事では、誹謗中傷の損害賠償訴訟を本人で進めている方に向けて、準備書面の役割、被告がよく出す反論の類型、認否と再反論の書き方、提出期限・直送・オンライン提出の方法、そして自分で書く場合の限界を、横浜の弁護士が解説します。
結論として、準備書面は「被告の主張のどこを認め、どこを争うか」を明らかにしたうえで、争う点ごとに理由と証拠を示す書面です。提出は裁判所が定めた期限までに行い、相手方にも同じものを直送するのが原則です。誹謗中傷事件では同定可能性・社会的評価の低下・真実性などが争点になりやすく、争点の見極めを誤ると結論に影響するおそれがあります。
準備書面とは?訴状・答弁書との関係
民事訴訟法161条1項は「口頭弁論は、書面で準備しなければならない」と定めています。この口頭弁論の準備のために出す書面が準備書面で、同条2項により、自分の主張(攻撃又は防御の方法)と、相手方の請求・主張に対する陳述を記載します。被告が最初に出す答弁書も、準備書面の一種です。
流れとしては、原告が訴状を出し、被告が答弁書で反論し、原告が準備書面で再反論する、というやり取りを争点が整理されるまで続けます。訴状の作り方は誹謗中傷の損害賠償を自分で提訴する方法で解説していますので、あわせてご覧ください。
誹謗中傷の損害賠償訴訟で被告が出しやすい反論
準備書面を書く前に、被告の答弁書がどの点を争っているのかを整理することが出発点です。誹謗中傷事件で典型的な反論は次のとおりです。
| 被告の反論 | 内容 | 原告側で検討すべき点 |
|---|---|---|
| 同定可能性がない | 投稿は原告のことを指していない | 前後の投稿・スレッドの題名・周囲の反応などから、一般の閲覧者が原告と分かるか |
| 社会的評価を下げていない | 単なる意見・感想にすぎない | 事実の摘示か意見・論評か、表現の受け取られ方 |
| 真実性・相当性 | 内容は真実で、公益目的の投稿である | 公共の利害・公益目的・真実性(又は真実と信じた相当の理由)の各要件 |
| 発信者ではない | 回線を家族と共有している、心当たりがない | 開示された情報と投稿の時期・内容の整合性 |
| 損害額が過大 | 慰謝料・調査費用の請求額が高すぎる | 投稿の内容・期間・拡散の程度、開示手続に要した費用の内訳 |
真実性・相当性の抗弁は、最高裁昭和41年6月23日判決が示した枠組みに基づくもので、情報流通プラットフォーム対処法の関係ガイドラインに付属する判例集にも掲げられています。被告がこの主張をしてきた場合は、各要件のどれが欠けるのかを意識して反論します。
準備書面の書き方——基本の形式と構成
冒頭に記載する事項
裁判所が公表している説明資料では、準備書面に裁判所名(宛先)、事件番号、事件名、作成日付、提出者の氏名を記載するよう案内されています。表題は「準備書面(1)」「準備書面(2)」のように番号を振ると、後で引用しやすくなります。
本文の基本構成
- 第1 被告の主張に対する認否:答弁書の項目ごとに「認める」「否認する」「知らない(不知)」「争う」を明らかにする
- 第2 被告の主張に対する反論:否認・争う点について、理由と根拠を示す
- 第3 原告の主張の補充:訴状で足りなかった事実や、新たに分かった事情を補う
- 証拠:主張ごとに、どの証拠で裏付けるかを「(甲第3号証)」のように示す
認否で気をつけたいこと
相手方の主張した事実を争うことを明らかにしないと、その事実を自白したものとみなされることがあります(民事訴訟法159条1項)。逆に、事実として正しいことまで否認すると、主張全体の信用性を下げかねません。また、民事訴訟規則では、相手方の主張を否認する場合にはその理由を記載すべきものとされています。「否認する」と書くだけでなく、「投稿日時の時点で被告は〇〇にいたとの主張は、甲第5号証の記載と矛盾する」のように、なぜ違うのかを具体的に書きましょう。
証拠の出し方や証拠説明書の作り方は、誹謗中傷の裁判で自分で証拠を出す方法で詳しく解説しています。
誹謗中傷事件で反論を書くときのポイント
- 投稿の文言を正確に引用する:要約ではなく、証拠として出した投稿の文言をそのまま示し、どの部分がどのような事実を摘示しているかを特定します。
- 一般の閲覧者の受け取り方を軸にする:裁判例では、投稿が名誉を毀損するかどうかは、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準に判断される傾向があります。「自分が傷ついた」だけでなく、第三者がどう受け取るかを論じます。
- 感情的な表現を避ける:事実と評価を分けて、淡々と書くほうが裁判官に伝わります。
- 反論の対象を絞る:被告の主張のすべてに反論する必要はありません。結論に影響する争点に力を注ぎます。
投稿者の特定から訴訟までの全体像は、当事務所の発信者情報開示請求・削除請求のページでもご紹介しています。
準備書面の提出期限・直送・オンライン提出
提出期限
民事訴訟規則では、準備書面は、記載した事項について相手方が準備をするのに必要な期間をおいて裁判所に提出しなければならないとされています。実務上は、裁判所から「次回期日の1週間前まで」といった期限を指示されることが多いでしょう。裁判長は特定の事項に関する準備書面の提出期間を定めることができ、その期間を過ぎて提出する当事者は、守れなかった理由を説明しなければなりません(民事訴訟法162条)。さらに、故意又は重大な過失により時機に後れた主張は、訴訟の完結を遅延させると認められると却下されることがあります(同法157条1項)。
相手方への直送
準備書面は、裁判所に出すだけでなく、相手方にも直接送る(直送する)のが原則です。直送はファクシミリによることも認められています。自分で直送できない場合は、裁判所に送付を依頼する方法もありますが、郵便費用などの取扱いは裁判所に確認してください。
オンライン提出(mints)
2026年5月21日に改正民事訴訟法・改正民事訴訟規則が施行され、民事裁判書類電子提出システム(mints)を通じて、誰でもオンラインで準備書面を提出できるようになりました。弁護士などの訴訟代理人はオンライン提出が義務化されていますが、本人訴訟の当事者は紙での提出も可能です。施行前に提起された事件は引き続き書面で審理・送達されるため、手元の事件がどちらに当たるかは裁判所に確認しましょう。
期日当日の進み方は誹謗中傷の本人訴訟、期日当日の流れで解説しています。
自分で書く場合の限界と弁護士に依頼する違い
準備書面は書式自体は自由度が高い一方、何を主張し、何を認め、どの証拠で立証するかという判断に専門性が求められます。特に誹謗中傷事件は、同定可能性や真実性の抗弁など、裁判例の蓄積を踏まえた主張が必要になる場面が多く、反論が的外れになると、本来認められるはずの請求が認められないおそれもあります。
弁護士に依頼すると、争点の見極めから準備書面の作成・提出、期日への出頭までを任せることができます。被告の反論が想定外だった場合や、提出期限に追われている場合は、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
よくある質問
準備書面は何回くらい出すことになりますか?
決まった回数はありません。被告の答弁書に対する反論、被告の再反論に対する再々反論というように、争点が整理されるまで主張と反論を繰り返すのが一般的です。裁判所から次回までに反論すべき点を指示されることも多いため、その指示に沿って提出します。
準備書面の提出期限に間に合わない場合はどうすればよいですか?
期限が近づいた段階で、裁判所の担当書記官に早めに連絡して事情を伝えるのが望ましいといえます。裁判長が定めた期間の経過後に準備書面を出す場合、その期間を守れなかった理由を説明しなければならないとされています(民事訴訟法162条2項)。遅れが重なると主張が却下されるおそれもあるため、余裕をもって準備しましょう。
被告の主張を認めると不利になりますか?
事実として正しいことまで否認する必要はありません。かえって信用性を損なうおそれがあります。ただし、「認める」とした事実は原則として争えなくなる可能性があるため、どの事実を認め、どの事実を争うのかは慎重に判断する必要があります。
準備書面はオンラインでも提出できますか?
2026年5月21日に施行された改正民事訴訟法により、民事裁判書類電子提出システム(mints)を通じて、本人訴訟の当事者も準備書面をオンラインで提出できるとされています。弁護士などの訴訟代理人は原則としてオンライン提出が義務化されていますが、本人は紙での提出も可能です。施行前に提起された事件は従来どおり書面で進むため、裁判所に確認してください。
まとめ
- 準備書面は、口頭弁論のために自分の主張と相手方の主張への認否・反論を記載する書面(民事訴訟法161条)
- 誹謗中傷事件では、同定可能性・社会的評価の低下・真実性・発信者性・損害額が争点になりやすい
- 認否を明らかにし、否認する点は理由と証拠を具体的に示す
- 提出期限を守り、相手方にも直送する。2026年5月21日以降の事件はmintsでのオンライン提出も可能
本人訴訟は費用を抑えられる反面、主張の組み立てを誤るリスクを自分で負うことになります。準備書面の内容に不安がある場合は、横浜のタングラム法律事務所の弁護士にご相談ください。
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