誹謗中傷の損害賠償を自分で提訴する方法|訴状の書き方と流れ
誹謗中傷の損害賠償を自分で提訴する方法|訴状の書き方と流れ
ネット上の誹謗中傷で投稿者を特定できたものの、「弁護士に依頼するほどの金額ではないかもしれない」「まずは自分で損害賠償を請求してみたい」とお考えの方もいらっしゃると思います。請求額が60万円を超えるようなケースでは、少額訴訟ではなく通常の民事訴訟によって損害賠償を求めることになりますが、この手続きは本人(弁護士に依頼しない本人訴訟)で行うことも制度上は可能です。
この記事では、誹謗中傷の損害賠償を自分で提訴する場合を想定し、訴訟を起こす前の準備、どの裁判所に訴えるか(管轄と訴額)、訴状の書き方、必要な費用、提訴後の流れ、そして自分で行う場合の限界までを、横浜の弁護士がわかりやすく解説します。
誹謗中傷の損害賠償を「自分で」請求できるのか
民事訴訟は、弁護士に委任せず当事者本人が追行することが認められています(これを「本人訴訟」といいます)。したがって、誹謗中傷の加害者に対する損害賠償請求訴訟を、被害者本人が起こすこと自体は可能です。
損害賠償の法的根拠は、民法709条(不法行為による損害賠償)と、精神的損害(慰謝料)について定める民法710条です。名誉毀損やプライバシー侵害などの人格権侵害が認められれば、加害者に対して慰謝料等の賠償を請求できます。
ただし、請求が認められるかどうかは、投稿の違法性(名誉毀損等の成立)と損害の発生・額を、原告である被害者側が主張・立証できるかにかかっています。制度上は自分でできても、争点の整理や立証には専門的な検討が必要になる点は、あらかじめ理解しておくことが大切です。
訴訟を起こす前に必要な準備
訴状を書き始める前に、次の3点を整理しておく必要があります。準備が不十分なまま提訴すると、請求が認められにくくなったり、途中で主張の追加を迫られたりします。
1.被告(投稿者)が特定できていること
損害賠償請求訴訟は、訴える相手(被告)の氏名・住所が判明していることが大前提です。匿名の投稿の場合は、先に発信者情報開示請求によって投稿者を特定しなければなりません。特定ができていない段階では、原則として損害賠償の本訴を起こすことはできません。開示によって特定した投稿者に対して初めて、この訴訟が可能になります。
2.証拠の確保
投稿の内容・投稿日時・URLがわかるスクリーンショットや、開示請求で取得した発信者情報など、違法性と被告を裏づける資料を整えておきます。投稿がすでに削除されている場合に備え、早い段階で保存しておくことが重要です。
3.請求額(損害額)の整理
慰謝料のほか、投稿者を特定するために要した発信者情報開示手続の弁護士費用・調査費用も、相当因果関係が認められる範囲で損害として請求できる場合があります。この点は発信者情報開示にかかった費用は加害者に請求できるかで詳しく解説しています。請求額の合計は、次に述べる管轄裁判所の判断にも関わります。
どの裁判所に訴えるのか|管轄と訴額
訴えを起こす裁判所は、「事物管轄」(どの種類の裁判所か)と「土地管轄」(どの地域の裁判所か)によって決まります。
事物管轄は、請求する金額(訴訟の目的の価額=「訴額」)を基準に分かれます。訴額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所が担当します。誹謗中傷の慰謝料に開示費用等を加えた請求額が140万円を超えるかどうかが、一つの目安になります。
| 訴額 | 担当する裁判所 |
|---|---|
| 140万円以下 | 簡易裁判所 |
| 140万円を超える | 地方裁判所 |
土地管轄については、原則として被告(相手方)の住所地を管轄する裁判所に訴えます(普通裁判籍)。加えて、不法行為に関する訴えは「不法行為があった地」の裁判所にも起こすことができ、ネット上の誹謗中傷では被害の生じた地との関係で被害者の住所地の裁判所を利用できる余地もあります。どの裁判所に提起できるか判断に迷う場合は、申立先候補の裁判所に事前に確認するとよいでしょう。
訴状の書き方|記載事項と請求の趣旨・請求の原因
訴えの提起は、原則として「訴状」を裁判所に提出して行います(民事訴訟法134条)。訴状には、法律上、次の事項を記載しなければなりません。
- 当事者及び法定代理人:原告(自分)と被告(投稿者)の氏名・住所を、特定できる程度に記載します。
- 請求の趣旨:訴えによって求める結論を、簡潔かつ確定的に示すものです。損害賠償請求では「被告は原告に対し、金○○円及びこれに対する令和○年○月○日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え」といった形で記載します。
- 請求の原因:請求を特定し、これを理由づける事実です。どの投稿が、いつ、どのような内容でなされ、それがなぜ違法(名誉毀損等)といえるのか、そしてどのような損害が生じたのかを具体的に記載します。
これらの必要的記載事項が欠けていると、裁判長から補正を命じられ、補正しなければ訴状が却下されることがあります。記載漏れを防ぐため、裁判所ウェブサイトで公開されている損害賠償請求事件の訴状記載例を参照しながら作成することをおすすめします。
訴え提起の費用|印紙代と郵便切手
訴訟を起こす際にかかる主な費用は、①手数料(収入印紙代)と②郵便切手代です。
手数料の額は、訴額に応じて民事訴訟費用等に関する法律の別表第一により算定され、その金額分の収入印紙を訴状に貼って納めます。おおまかな目安は次のとおりです(正確な額は裁判所の手数料早見表で確認してください)。
| 請求額(訴額) | 手数料(印紙代)の目安 |
|---|---|
| 50万円 | 5,000円 |
| 100万円 | 1万円 |
| 200万円 | 1万5,000円 |
| 300万円 | 2万円 |
このほか、裁判所と当事者の間で書類をやり取りするための郵便切手(予納郵券)を、提訴時に裁判所へ予納します。金額や組み合わせは裁判所ごとに異なるため、提出先の裁判所に確認します。証拠書類のコピー代や、必要に応じた資料の取得費用も自己負担となります。
提訴後の流れ|口頭弁論から判決・和解まで
訴状を提出してからの一般的な流れは次のとおりです。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ①訴状提出・審査 | 裁判所が訴状を受理し、記載事項や印紙・郵券を確認します。不備があれば補正を求められます。 |
| ②被告への送達・第1回期日指定 | 訴状が被告に送達され、第1回口頭弁論期日が指定されます。 |
| ③口頭弁論・主張立証 | 原告・被告が準備書面や証拠を提出し合い、争点を整理します。複数回の期日を重ねることが一般的です。 |
| ④和解の試み | 審理の途中で、裁判所から和解が勧められることがあります。合意すれば和解で終了します。 |
| ⑤判決 | 和解に至らない場合、判決が言い渡されます。認容されれば被告に支払義務が生じます。 |
判決が確定しても被告が任意に支払わない場合には、別途、強制執行(差押え等)の手続きを検討することになります。訴訟提起から判決までの期間は事案により幅がありますが、争点が多いほど長期化する傾向があります。訴訟全体の流れは投稿者を特定した後の損害賠償請求・訴訟の流れもあわせてご覧ください。
自分で行う場合の限界と弁護士に依頼するメリット
本人訴訟には、弁護士費用を抑えられるという利点があります。一方で、次のような負担・リスクがある点も理解しておく必要があります。
- 名誉毀損等の成否は、同定可能性・事実の摘示か意見論評か・違法性阻却事由の有無など、専門的な法的判断が必要になります。
- 慰謝料額は投稿の内容・拡散の程度・被害の実態などから総合判断されるため、適切な金額を主張・立証しなければ低額にとどまることがあります。
- 被告側から真実性・相当性などの反論が出された場合、これに的確に再反論する必要があります。
- 平日の期日への出頭や、準備書面の作成など、時間的・手続的な負担が生じます。
弁護士に依頼すれば、主張・立証の組み立てや期日対応を任せられ、争点が複雑な事案でも見通しを立てやすくなります。ご自身で進めるか依頼するか迷う場合は、争点の難易度や請求額を踏まえ、一度弁護士に相談して判断することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
投稿者が特定できていなくても損害賠償の訴訟を起こせますか?
損害賠償請求訴訟は、被告となる投稿者の氏名・住所が判明していることが前提です。匿名投稿の場合は、先に発信者情報開示請求で投稿者を特定する必要があります。特定前の段階では、原則として損害賠償の本訴を提起することはできません。
訴状は決まった書式でなければいけませんか?
法律で定められているのは記載すべき事項(当事者、請求の趣旨、請求の原因)であり、様式そのものが強制されるわけではありません。裁判所ウェブサイトや窓口で記載例・書式が配布されているため、これを参考に作成すると記載漏れを防ぎやすくなります。
訴えを起こすのにいくらかかりますか?
主な費用は、訴額に応じた収入印紙代(手数料)と、裁判所に予納する郵便切手代です。印紙代は訴額から算定され、たとえば請求額100万円で1万円、300万円で2万円程度が目安です。ほかに証拠取得費用等がかかる場合があります。
自分で訴訟をしても弁護士に依頼した場合と結果は変わりませんか?
本人訴訟でも判決を得ることは可能ですが、名誉毀損の成否や慰謝料額の主張・立証、被告からの反論への対応など、専門的な判断が求められる場面が多くあります。主張・立証が不十分だと請求が一部しか認められないこともあるため、争点が複雑な事案では弁護士への相談を検討することが望まれます。
まとめ
誹謗中傷の損害賠償は、投稿者が特定できていれば、本人訴訟として自分で提訴することも制度上は可能です。ポイントは、①被告の特定と証拠の確保、②訴額に応じた管轄裁判所(140万円が簡裁・地裁の境界)、③訴状の必要的記載事項(民訴法134条)、④訴額に応じた印紙代・郵便切手、⑤提訴後の口頭弁論から判決・和解までの流れを、あらかじめ押さえておくことです。
もっとも、名誉毀損の成否や適切な慰謝料額の立証には専門的な検討が欠かせません。ご自身で進めることに不安がある場合や、請求額が大きく争点が複雑な場合は、横浜のタングラム法律事務所にご相談ください。
誹謗中傷の損害賠償請求は、タングラム法律事務所にご相談ください
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。投稿者の特定から損害賠償の請求まで、事案に応じた見通しをご提示します。
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