タングラム法律事務所

ネット誹謗中傷の被害届が受理されない理由と対処法を弁護士が解説

ネット誹謗中傷の被害届が受理されない理由と対処法を弁護士が解説

ネット誹謗中傷の被害届が受理されない理由と対処法を弁護士が解説

ネット誹謗中傷の被害届が受理されない理由と対処法を弁護士が解説

ネット誹謗中傷の被害届が受理されない理由と対処法を弁護士が解説

ネット上に悪質な書き込みをされ、証拠を印刷して警察署に足を運んだものの、「これは民事の話です」「犯人が分からないと動けません」と言われて帰されてしまった——誹謗中傷の被害に遭われた方から、こうしたご相談を受けることは少なくありません。

もっとも、受理されなかったこと自体は、被害が法的に保護されないという意味ではありません。受理に至らない理由には典型的なパターンがあり、そこを補えば結論が変わることもあります。この記事では、被害届・告訴状が受理されない主な理由と対処法、刑事手続が進まない場合に有効な民事の手段について、横浜の法律事務所の弁護士が解説します。

被害届と告訴の違い——「受理」の意味は同じではない

まず押さえておきたいのが、被害届と告訴(告訴状の提出)は法的な性質が異なる点です。ここを混同していると、警察の対応の意味を読み違えてしまいます。

被害届 告訴
内容 被害に遭った事実を捜査機関に申告するもの 犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示をするもの
根拠 犯罪捜査規範61条1項 刑事訴訟法241条1項(書面又は口頭で検察官又は司法警察員に対して行う)
受理後の手続 捜査の端緒のひとつとして扱われる 司法警察員は、速やかに書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない(刑事訴訟法242条)
親告罪との関係 被害届だけでは足りない 名誉毀損罪・侮辱罪の起訴には告訴が必要(刑法232条1項)

重要なのは、告訴が受理されると、捜査機関には事件を検察官に送付する義務が生じる点です(刑事訴訟法242条)。名誉毀損罪・侮辱罪はいずれも親告罪であり、告訴がなければ公訴を提起することができません(刑法232条1項)。加害者の処罰を求めるのであれば、被害届ではなく告訴が必要になります。

また、犯罪捜査規範(国家公安委員会規則)は、被害の届出があったときは管轄区域内の事件かどうかを問わず「これを受理しなければならない」と定め(61条1項)、告訴・告発にも同様の受理義務を定めています(63条1項)。文言のうえでは、届出を受け取るのが原則ということになります。

それでも受理されないのはなぜか——典型的な5つの理由

規定上は受理が原則であるにもかかわらず、実際の窓口では受理が留保されることがあります。ネット誹謗中傷の事案では、次の理由が重なっていることが多く見られます。

1. 犯罪事実を特定できていない

告訴は、いつ・誰が・どのような行為をしたのかという犯罪事実を特定して申告するものです。「掲示板に悪口を書かれた」という説明だけでは、対象の投稿が定まりません。投稿ごとにURL・投稿日時・投稿内容を特定し、一覧にして示す必要があります。

2. 犯罪の成立要件を満たすか判然としない

名誉毀損罪は公然と事実を摘示して人の社会的評価を低下させた場合に、侮辱罪は事実の摘示がなくても公然と人を侮辱した場合に成立します(刑法230条1項、231条)。投稿が誰を指しているのか(同定可能性)、不特定または多数が認識し得る状態だったのか(公然性)が資料から読み取れないと、成立要件を判断できません。

3. 証拠が不十分である

スクリーンショットが本文だけを切り取ったもので、URLや投稿日時、ページ全体が写っていないケースは非常に多く見られます。証拠の残し方は誹謗中傷の証拠保全とスクリーンショットの正しい撮り方で解説しています。

4. 投稿者が匿名で、捜査の負担が大きい

匿名の投稿は、プロバイダへの照会を積み重ねて発信者を割り出す必要があり、相応の労力を要します。被害の重大性が窓口で伝わらないと、優先度が低いと判断されることがあります。

5. 告訴期間・公訴時効が問題になる

親告罪の告訴は、犯人を知った日から6か月を経過するとすることができません(刑事訴訟法235条1項)。匿名投稿では、この「犯人を知った日」は発信者が判明した時点と解されていますが、時間の経過は不利に働きます。公訴時効は名誉毀損罪・侮辱罪ともに3年です(刑事訴訟法250条2項6号。侮辱罪は2022年の改正で法定刑が引き上げられ、1年から3年になりました)。

「民事不介入」という言い方をされることがありますが、名誉毀損も侮辱も刑法上の犯罪です。民事の損害賠償請求ができることと、刑事事件として立件され得ることは両立します。

受理されなかったときに取るべき対処法

証拠と書面を作り直して再度提出する

最も現実的なのが、資料の作り直しです。投稿ごとにURL・投稿日時・投稿者名(ハンドルネーム)・本文を一覧表にまとめ、投稿全体が写ったスクリーンショットを添付します。そのうえで、自分がその投稿の対象であると分かる理由(勤務先、居住地域、写真、過去の投稿との関連など)を書面で説明します。

相談先を変える

最寄りの交番や警察署の窓口ではなく、都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口に相談する方法があります。警察庁のウェブサイトには全国のサイバー事案に関する相談窓口が掲載されており、緊急でない相談には全国共通の警察相談専用電話「#9110」も利用できます。相談先の選び方はネット誹謗中傷の相談先まとめもご参照ください。

検察官に対して告訴する

告訴は、司法警察員だけでなく検察官に対しても行うことができます(刑事訴訟法241条1項)。警察署での対応が進まない場合に、地方検察庁へ告訴状を提出するという選択肢があります。

弁護士に告訴状の作成・提出を依頼する

告訴状は、犯罪事実の特定、成立要件への当てはめ、証拠の整理という三つを備えて初めて検討の俎上に載ります。弁護士が代理人として提出すれば必ず受理されるわけではありませんが、書面と疎明資料の完成度は結果を左右します。手続そのものは誹謗中傷で刑事告訴する方法で解説しています。性的画像の流出のように緊急性が高い事案には、削除と証拠保全を先行させたうえで刑事告訴を支援するリベンジポルノ・性的画像流出への対応もご用意しています。

不起訴になった場合——検察審査会という選択肢

告訴が受理され、事件が検察官に送致されても、最終的に不起訴処分となることがあります。立件の分かれ目についてはネット誹謗中傷の加害者は逮捕されるのかで整理しています。

検察官の不起訴処分に不服がある場合、告訴をした者や犯罪により害を被った者は、その検察官が所属する検察庁の所在地を管轄する検察審査会に処分の当否の審査を申し立てることができます(検察審査会法30条、2条2項)。申立てに費用はかからず書面中心に進みますが、相応の期間を要し、必ず起訴に至るわけではありません。

刑事が動かないときこそ、民事の発信者情報開示が有効

刑事手続は、国が加害者を処罰するための制度です。精神的苦痛の賠償を得ることや投稿を削除させることは、その直接の目的ではありません。被害の回復を目指すのであれば、民事の手続を並行して検討する価値があります。

具体的には、プロバイダ責任制限法を引き継ぐ形で2025年4月1日に施行された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)に基づき、サイト運営者やアクセスプロバイダに発信者情報の開示を求め、投稿者を特定したうえで損害賠償を請求します。手続の全体像や費用は、当事務所の発信者情報開示請求・削除請求の取扱いページでご案内しています。

民事にも時間的な制約があります。不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条)。さらに実務上は、アクセスプロバイダが保有する通信ログの保存期間という、より短いタイムリミットがあります。

刑事と民事は排他的な関係にありません。告訴を検討しつつ、並行して発信者情報開示の準備を進めることもできます。どちらを主軸に据えるかは、被害の内容、投稿の悪質性、証拠の状況によって変わります。

よくある質問

被害届を出せば必ず捜査してもらえますか。

被害届は捜査の端緒のひとつにすぎず、提出したことで捜査機関に捜査を行う法的義務が生じるわけではありません。犯罪捜査規範61条1項は被害の届出を受理しなければならないと定めていますが、受理後にどの事件を優先して捜査するかは捜査機関の判断に委ねられています。投稿がどの犯罪に当たるのかを整理し、証拠を添えて説明することが重要です。

投稿者が匿名でも被害届や告訴はできますか。

犯人が誰か分からない状態でも被害届を出すことはできますし、犯人不詳のまま告訴をすることも可能と解されています。もっとも匿名の投稿は捜査の負担が大きく、慎重な対応をされることがあります。発信者情報開示で投稿者を特定してから改めて告訴をする順序を選ぶ方も少なくありません。

告訴状を持参したのに「民事の問題です」と言われました。どうすればよいですか。

その場で引き下がらず、犯罪の成立要件のどの点に疑問があるのかを確認しておくと、次の対応を立てやすくなります。書面を補充して再提出する、都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口に相談する、検察官に直接告訴する、といった方法が考えられます。並行して民事の発信者情報開示・損害賠償請求を進める選択肢もあります。

弁護士に依頼すると被害届や告訴状は受理されやすくなりますか。

弁護士が関与すれば必ず受理されるというものではありません。もっとも、名誉毀損罪・侮辱罪の成立要件に沿って事実を整理し、投稿の同定可能性や公然性を疎明する資料を添付できるかどうかで、捜査機関の検討のしやすさは大きく変わります。書面と証拠の作り込みが結果を左右する場面です。

まとめ

被害届・告訴状が受理されない背景には、犯罪事実の特定が不十分、成立要件の当てはめが示されていない、証拠が足りないといった、書面と資料の作り込みで改善し得る要因が潜んでいることが少なくありません。まずは対象の投稿を一覧化し、投稿全体が分かる形で証拠を保全することから始めてください。

そのうえで、サイバー犯罪相談窓口に相談先を変える、検察官に直接告訴する、不起訴なら検察審査会に審査を申し立てるといった選択肢があります。他方、賠償を得て投稿を消すという被害回復の観点では、発信者情報開示請求を軸とする民事の手続が中心になります。ログの保存期間という期限がある以上、迷っている時間そのものが不利益になり得ます。優先すべき手段に迷われたら、早い段階で弁護士にご相談ください。

被害届が受理されず、対応にお困りではありませんか

タングラム法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷について、投稿の削除請求から発信者情報開示請求、損害賠償請求まで数多くの案件を取り扱っております。刑事・民事のどちらから進めるべきかの見通しも含め、横浜の事務所でご相談をお受けしています。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。

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