【2026年最新】訴状の書き方|自分で売掛金訴訟を起こす手順を解説
【2026年最新】訴状の書き方|自分で売掛金訴訟を起こす手順を解説
納品も検収も終わっているのに、取引先が代金を払わない。何度督促しても「もう少し待ってほしい」の一点張りで、そのうち電話にも出なくなった——中小企業や個人経営の事業者の方から、こうしたご相談を受けることは少なくありません。泣き寝入りするわけにもいかず、かといって弁護士に頼むほどでもないと迷い、「自分で訴訟を起こせないか」と調べ始める方が多いのが実情です。
結論から言えば、訴訟は本人でも起こせます。そして2026年5月21日には改正民事訴訟法が全面施行され、訴状をインターネットで提出できるようになるなど、手続の姿が大きく変わりました。この記事では、売掛金の請求を例に、訴状に何を書き、どの裁判所に、いくらの費用で、どのように提出するのかを、横浜の弁護士が実務に即して整理します。
訴状とは何か──訴訟は訴状の提出から始まる
訴状とは、裁判所に対して「この相手に、こういう内容の判決を出してほしい」と申し立てるための書面です。民事訴訟は、原告が訴状を裁判所に提出することによって始まります(民事訴訟法134条1項)。裁判所は訴状に必要な事項が書かれているかを審査し、問題がなければ第1回口頭弁論期日を指定して、被告に対し期日の呼出状とともに訴状を送達します。
押さえておきたいのは、訴状は「言い分を全部書き尽くす書面」ではないということです。訴訟が始まったあとに準備書面で主張を補充することは当然に予定されており、訴状の段階で求められているのは、何を請求しているのかを裁判所と相手方が正確に理解できる状態にすることです。完璧を目指して提出が遅れるより、必要事項を満たしたうえで早く出すほうが有利に働く場面は少なくありません。
なお、請求金額が60万円以下の金銭支払請求であれば、原則1回の期日で審理を終える少額訴訟という簡便な手続も選べます。相手が争ってこないことが見込まれる場合は、支払督促という書面だけの手続もあります。どの手続を選ぶかについては、少額訴訟を自分で起こす方法や支払督促を自分で申し立てて売掛金を回収する方法の記事もあわせてご覧ください。
2026年5月21日から民事訴訟がデジタル化された
訴状の出し方を調べる際、最も注意が必要なのがこの点です。2026年5月21日に改正民事訴訟法・改正民事訴訟規則が全面施行され、民事訴訟手続が全面的にデジタル化されました。インターネット上には施行前の情報を前提とした解説が多く残っており、費用や提出方法について古い説明を鵜呑みにすると窓口で戸惑うことになります。
オンラインでの訴え提起ができるようになった
改正後は、誰でも裁判所のシステム(mints)を利用して、オンラインで訴えを提起し、準備書面を提出することができます(改正民事訴訟法132条の10第1項)。弁護士などの訴訟代理人については、このオンライン手続が義務化されました。一方で、本人が自分で訴訟を起こす場合には、これまでどおり紙の書面で裁判所に提出することも引き続き可能です。
収入印紙の貼付から電子納付へ、予納郵券は廃止
費用面の変更はさらに実務的です。従来、申立手数料は訴状に収入印紙を貼って納付し、これとは別に送達のための郵便費用(いわゆる予納郵券)をあらかじめ納める必要がありました。改正後は、申立手数料は原則としてペイジーを利用した現金納付となり、郵便費用は申立手数料に一本化されたため、別途納付する必要がなくなりました。
どの裁判所に訴状を出すか(管轄の決め方)
訴状は、正しい裁判所に提出しなければなりません。管轄には、どの種類の裁判所かという事物管轄と、どの地域の裁判所かという土地管轄の2つの視点があります。
事物管轄──140万円が境界線
訴訟の目的の価額(訴額)が140万円を超えない請求は簡易裁判所、これを超える請求は地方裁判所が第一審の裁判権を持ちます(裁判所法33条1項1号)。売掛金請求であれば、請求する元本の額が訴額になります。遅延損害金は、元本とあわせて請求する場合には訴額に算入しないのが原則です。したがって、売掛金150万円と遅延損害金を請求するのであれば、地方裁判所に提起することになります。
土地管轄──相手の所在地だけとは限らない
土地管轄は、原則として被告の住所地(法人であれば主たる事務所の所在地)を基準に決まります(民事訴訟法4条1項)。しかし、財産権上の訴えについては義務履行地の裁判所にも訴えを提起できます(同法5条1号)。そして、売買代金や請負代金のような金銭債務は、当事者間に特約がなければ債権者の現在の住所において弁済すべきものとされています(民法484条1項)。
この結果、売掛金の請求は、原告である自社の所在地を管轄する裁判所に提起できる場合が多いことになります。横浜市内に本店のある会社が遠方の取引先に売掛金を請求する場合でも、横浜地方裁判所に訴えを提起できる可能性があるわけです。ただし、契約書に「本契約に関する紛争は○○地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」といった条項があれば、その合意が優先します(同法11条)。訴状を書く前に、必ず契約書の管轄条項を確認してください。
訴状に必ず書かなければならない事項
訴状には、当事者及び法定代理人、請求の趣旨、請求の原因を記載しなければなりません(民事訴訟法134条2項)。これらが欠けていると、裁判長から補正命令が出され、補正しなければ訴状は却下されます(同法137条)。実務上は、次の要素を備えた形で作成します。
| 記載事項 | 内容と注意点 |
|---|---|
| 表題・作成日・提出先 | 「訴状」と表題を付し、作成年月日と「○○地方裁判所 御中」を記載する |
| 当事者の表示 | 原告・被告の住所と氏名(法人は本店所在地・商号・代表者の資格と氏名)。法人は資格証明書の記載どおりに書く |
| 連絡先 | 原告の電話番号・FAX番号。送達場所を別に指定する場合はその旨も記載する |
| 事件名 | 「売買代金請求事件」「請負代金請求事件」など、請求の内容がわかる名称を付ける |
| 訴訟物の価額・手数料額 | 訴額と、納付する申立手数料の額を記載する |
| 請求の趣旨 | 求める判決の内容を簡潔かつ確定的に記載する |
| 請求の原因 | 請求を特定するのに必要な事実と、請求を理由づける事実を具体的に記載する |
| 添付書類・証拠方法 | 提出する書類の種類と通数を列挙する |
売掛金請求の訴状──請求の趣旨と請求の原因の書き方
請求の趣旨は「判決主文をそのまま書く」つもりで
請求の趣旨は、勝訴したときに裁判所に書いてほしい判決主文を、そのまま書くイメージで作成します。売掛金請求であれば、次のような形になります。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
遅延損害金の利率は、当事者間に約定がなければ法定利率によります。法定利率は3年ごとに見直される変動制ですが、法務省の告示により、2026年4月1日から2029年3月31日までの期間も年3パーセントで据え置かれています。契約書に遅延損害金の定めがある場合は、その約定利率を記載します。
「仮執行の宣言」とは、判決が確定する前でも強制執行に着手できるようにしてほしいという申立てです。相手が控訴して時間を稼ぐことを防ぐ意味があるため、金銭請求では付けておくのが通常です。
請求の原因は「契約→履行→未払い」の順に事実を並べる
請求の原因では、請求を特定するのに必要な事実を記載します。売掛金請求であれば、次の流れで事実を積み上げるのが基本形です。
- 当事者の関係:原告がどのような事業を営み、被告と継続的な取引関係にあったこと
- 契約の成立:いつ、誰との間で、どのような内容の売買契約または請負契約を締結したか(目的物、数量、代金額、支払期日)
- 原告の履行:いつ、どのように商品を引き渡し、または仕事を完成させたか
- 被告の不履行:支払期日を経過しても支払がないこと、督促の経緯
- よって書き:「よって、原告は被告に対し、売買契約に基づく売買代金300万円及びこれに対する支払期日の翌日である令和○年○月○日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める」
多い失敗が、感情的な経緯や相手の不誠実さを長々と書いてしまうことです。裁判所が判断するのは、契約が成立したか、原告が履行したか、代金が支払われていないかという事実の有無であり、書くべきは証拠で裏づけられる客観的な事実です。
証拠(甲号証)の準備
主張を裏づける証拠書類は、甲第1号証、甲第2号証と番号を振り、写しを裁判所用1通と被告の人数分提出します。原本は手元に保管し、裁判官から指示があった際に提示します。売掛金請求では、契約書、注文書・注文請書、納品書、検収書、請求書、取引先とのメールやチャットの記録、督促した際の内容証明郵便とその配達証明などが典型的な証拠です。契約書がない取引でも、こうした周辺資料の積み重ねで契約の成立と履行を立証できる場合があります(内容証明郵便を自分で出す方法)。
訴状の提出に必要な費用と添付書類
申立手数料は書面申立てとオンライン申立てで異なる
2026年5月21日以降に提起する民事訴訟の申立手数料は、書面で申し立てるか電子で申し立てるかによって額が異なります。最高裁判所が公表している手数料額早見表から、主な訴額の手数料を抜き出すと次のとおりです(被告1名の場合)。
| 訴額 | 電子申立て | 書面申立て |
|---|---|---|
| 100万円 | 11,400円 | 12,500円 |
| 140万円 | 13,400円 | 14,500円 |
| 300万円 | 21,400円 | 22,500円 |
| 500万円 | 31,400円 | 32,500円 |
| 1,000万円 | 51,400円 | 52,500円 |
被告が2名以上の場合は、被告の数から1を減じた数に2,000円を乗じた額が加算されます。前述のとおり、予納郵券を別途納める必要はなくなりました。旧法の下では収入印紙代に加えて郵便切手を数千円分納める必要がありましたので、切手の額面を揃える手間はなくなったといえます。
添付書類
訴状の正本のほか、被告の人数分の副本を提出します。原告または被告が法人である場合には、3か月以内に取得した代表者事項証明書などの資格証明書を法人ごとに1通添付します。自分の控えとして、提出するものと同じ内容の書面を1部手元に残しておくことも忘れないでください。
訴状を出したあとの流れと、本人で進める場合の限界
第1回期日までの流れ
訴状が受理されると、裁判所は第1回口頭弁論期日を指定し、被告に訴状を送達します。被告は期日前に答弁書を提出し、原告の主張を認めるか争うかを明らかにします。争わずに欠席した場合は第1回期日で弁論を終結して判決に至ることもあり、争った場合には争点整理を経て、必要に応じて証人尋問などの証拠調べが行われ、判決または和解に至ります。
最高裁判所事務総局の「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」(第11回・2025年7月公表)によれば、地方裁判所の民事第一審訴訟事件の平均審理期間は9か月台で推移しており、終局区分では判決が約5割、和解が約3割を占めています。被告が争って対席判決に至る事件は、これより長期化する傾向にあります。
本人訴訟には現実的な限界がある
同報告書によれば、原告側に訴訟代理人が付いていない事件は全体の1割強にとどまり、多くの事件では少なくとも原告側に弁護士が就いています。これは、訴状の提出それ自体は本人でもできる一方、その後の手続には専門的な判断が求められる場面が多いことの表れでもあります。具体的には、次のような場面で本人での対応が難しくなります。
- 相手が実質的な反論をしてきたとき:契約内容の解釈、目的物の品質、相殺、消滅時効の援用など、法律構成に踏み込んだ反論には準備書面で的確に応答する必要があります
- 証拠が足りないとき:どの事実に立証責任があるかを見誤ると、主張自体は正しくても敗訴します
- 和解の判断:提示された和解条件が判決見込みと比べて有利か不利かの判断には、同種事案の相場観が必要です
- 回収まで見据えた設計:判決を得ても相手が支払わなければ、預貯金や売掛債権を差し押さえる強制執行の申立てが別途必要になります
また、訴えの提起には裁判上の請求として消滅時効の完成を猶予する効果があり(民法147条1項1号)、確定判決によって権利が確定すれば時効期間は10年となります(同法169条1項)。時効が迫っている場面では、書式の完成度を上げることより、まず期限内に訴えを提起することが優先されます。この判断を誤ると取り返しがつきません。当事務所の企業法務・顧問弁護士のご案内もあわせてご覧ください。弁護士費用の考え方については弁護士費用のページに掲載しています。
よくある質問
訴状は手書きでも受け付けてもらえますか。
手書きでも受理されます。ただし、鉛筆や消せるペンではなく、消えない筆記具で作成する必要があります。裁判所は貸金請求・売買代金請求・請負代金請求などの訴状の書式をWord形式で、記載例をPDF形式で公開していますので、パソコンで作成するほうが訂正や副本の作成が容易です。2026年5月21日以降にオンラインで提起する場合は、PDF等の電子データで提出することになります。
訴状に書いた金額や請求内容は、後から変更できますか。
訴えの変更という手続によって、請求の趣旨や請求の原因を変更することは可能です。ただし請求を増額する場合には、増額後の訴額に対応する手数料との差額を追加で納める必要があります。当初から請求額を過小に設定すると、かえって手間が増えることがあります。
被告が訴状を受け取らない場合はどうなりますか。
訴状は被告に送達されなければ手続が進みません。受取拒否や不在が続く場合には、就業場所への送達や書留郵便に付する送達、最終的には公示送達といった方法を検討することになります。相手方の住所や就業場所の調査が必要になるため、裁判所書記官と相談しながら追加の資料を提出することになります。
勝訴すれば弁護士費用も相手に負担させられますか。
訴訟費用は原則として敗訴した当事者が負担しますが、ここでいう訴訟費用に弁護士費用は原則として含まれません。不法行為に基づく損害賠償請求では、損害の一部として弁護士費用相当額の賠償が認められることがありますが、売掛金など契約に基づく請求では、契約に定めがない限り認められないのが一般的です。契約書に弁護士費用の負担条項を入れておくことが、こうした場面での備えになります。
判決が出れば売掛金は自動的に回収できますか。
判決が出ても、相手が任意に支払わなければ自動的にお金が入ってくるわけではありません。判決を債務名義として、預貯金や売掛債権などを差し押さえる強制執行を別途申し立てる必要があります。訴訟を起こす前に、相手にどのような財産があるかを把握しておくことが重要です。
まとめ
訴状の作成そのものは、決して手の届かない作業ではありません。管轄は訴額140万円を境に簡易裁判所と地方裁判所を選び分け、売掛金であれば自社の所在地の裁判所に提起できる場合が多いこと、請求の趣旨は判決主文の形で、請求の原因は契約・履行・未払いの順に客観的事実を並べること。この3点を押さえれば、形の整った訴状は作成できます。
2026年5月21日の民事訴訟デジタル化により、オンラインでの提起が可能となり、予納郵券が不要になるなど、手続の入口は以前より利用しやすくなりました。もっとも、訴訟の帰趨を決めるのは訴状の体裁ではなく、相手の反論を見越した法律構成と証拠の設計です。相手が本格的に争ってきた場合や、判決後の回収まで見通す必要がある場合には、早い段階で弁護士に相談することで、結果的に時間と費用の負担を抑えられることが少なくありません。タングラム法律事務所は横浜・山下公園の近くにあり、法務担当者を置いていない中小企業・個人経営の事業者の方からのご相談を数多くお受けしています。
売掛金の回収・訴訟対応でお困りの事業者の方へ
タングラム法律事務所では、企業法務(契約書レビュー・労務・法改正対応等)について、中小企業・個人経営の事業者向けに豊富な実績を有しております。訴訟の提起から強制執行による回収まで、見通しを立てたうえでご提案します。
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