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ネット誹謗中傷の加害者は逮捕されるのか?刑事事件化した事例と警察が動く条件を弁護士が解説

ネット誹謗中傷の加害者は逮捕されるのか?

ネット誹謗中傷の加害者は逮捕されるのか?

ネット誹謗中傷の加害者は逮捕されるのか?刑事事件化した事例と警察が動く条件を弁護士が解説

「この人を逮捕してほしい」——ネット誹謗中傷の相談を受けていると、多くの被害者がそう訴えます。長期間にわたって心ない言葉を書き続けられ、社会的評価を傷つけられた被害者が、刑事的制裁を求めるのはごく自然なことです。しかし実際のところ、ネット誹謗中傷の加害者はどの程度逮捕・起訴されているのでしょうか。そして警察が動くためには何が必要なのでしょうか。

本記事では、ネット誹謗中傷が刑事事件として扱われるための法的根拠、実際に逮捕・書類送検された事例、2022年の侮辱罪厳罰化から約3年が経過した現時点での実態、そして刑事手続きと民事手続きをどう使い分けるべきかについて、弁護士の視点からわかりやすく解説します。

ネット誹謗中傷が刑事事件になり得る3つの罪名

ネット上の誹謗中傷行為が刑事事件として問われる場合、主に以下の3つの罪名が問題となります。

①名誉毀損罪(刑法230条)

「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」が対象となります(刑法230条1項)。実名・実情を示した上で相手の社会的評価を低下させる書き込みが典型例です。法定刑は3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金です。

名誉毀損罪の特徴として、「公然性」と「事実の摘示」が要件となっている点があります。不特定多数が閲覧できるSNSや掲示板への書き込みは公然性を満たし、「○○は詐欺師だ」「△△は不倫している」といった具体的な事実を摘示する内容であれば、この罪が成立し得ます。また、名誉毀損罪は親告罪(告訴がなければ起訴できない罪)であるため、被害者が告訴することが刑事手続きの出発点となります。

②侮辱罪(刑法231条)

「事実を摘示しないで、公然と人を侮辱した者」が対象となります。「バカ」「死ね」「気持ち悪い」など、具体的な事実を示さずに相手を蔑む言葉を公然と発する行為がこれにあたります。

2022年7月7日施行の改正刑法により、侮辱罪の法定刑は大幅に引き上げられました。改正前は「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」という非常に軽い刑罰でしたが、改正後は1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金(または拘留・科料)へと変更されています。また公訴時効も1年から3年に延長されました。侮辱罪も名誉毀損罪と同様、親告罪です。

③偽計業務妨害罪(刑法233条)

虚偽の事実を流布したり偽計を用いたりして他人の業務を妨害する罪です。法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。飲食店に虚偽の食中毒情報を拡散する、ネット上で嘘の悪評を組織的に投稿するといった行為がこれにあたります。偽計業務妨害罪は非親告罪であるため、被害者の告訴がなくても警察が独自に捜査・逮捕に踏み切ることができます。

罪名 主な要件 法定刑 親告罪か 公訴時効
名誉毀損罪(刑法230条) 公然と事実を摘示し、名誉を毀損 3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金 親告罪 3年
侮辱罪(刑法231条) 事実摘示なしで公然と侮辱 1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金(または拘留・科料) 親告罪 3年
偽計業務妨害罪(刑法233条) 虚偽の事実を流布し業務を妨害 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 非親告罪 3年
【注意】上記のほか、ストーキング行為に発展した場合はストーカー規制法、脅迫的な内容であれば脅迫罪(刑法222条)、実際に他人になりすました場合は不正アクセス禁止法違反として問われるケースもあります。

実際に逮捕・書類送検された事例

ネット誹謗中傷をめぐる刑事事件の報道は年々増加しています。以下では、実際に逮捕・書類送検・有罪判決に至った主な事例を紹介します。

テレビ出演者への大量誹謗中傷事件

テレビのリアリティ番組に出演していた女性が2020年5月に亡くなった事件では、その後の捜査で複数の投稿者がSNS上で侮辱的なコメントを繰り返していたことが判明し、書類送検されました。この事件が社会的に大きな注目を集めたことが、2022年の侮辱罪厳罰化立法の直接的な契機となりました。

妊娠中の女性への侮辱投稿事件

妊娠中の女性に対してSNS上で「転べ」「流産しろ」などの侮辱的な言葉を繰り返し投稿していた複数の人物が、発信者情報開示請求によって特定され、侮辱罪で書類送検されました。この事例では、被害女性が弁護士に依頼して発信者情報開示手続きを進め、複数の投稿者を特定したことが刑事手続きにつながっています。

飲食チェーンへの虚偽情報拡散事件

大手外食チェーンの店舗について「ナメクジが大量にいる」「寄生虫がいて絶対やばい」などの虚偽情報をSNSで拡散した元アルバイト従業員が、偽計業務妨害罪で逮捕されました。実際には根拠のない情報を流布して飲食チェーンの業務を妨害したとして、非親告罪である偽計業務妨害罪で捜査された事例です。

芸能人への継続的誹謗中傷事件

芸能人や公人に対してSNSで繰り返し侮辱的な投稿を行った加害者が、被害者側の刑事告訴を契機に書類送検される事例が複数あります。特に著名人が被害者である場合、告訴状が受理されやすく、捜査が進むケースも見られます。

2022年侮辱罪厳罰化から3年——変わったこと・変わらなかったこと

2022年7月の改正刑法施行から約3年が経過しました。厳罰化の成果として、侮辱罪による罰金刑の件数は全国で約90件(2025年時点)に上り、改正前と比べると刑事事件として処理される数は増加しています。

一方で、見逃せない現実があります。改正後も拘禁刑(懲役刑)が言い渡された事例は現時点でゼロとされています。インターネット上の侮辱罪事案では罰金刑が約82%を占めており、多くの事件が書類送検・略式命令(罰金)で終結しているのが実情です。「ネット誹謗中傷の加害者が刑務所に入る」という事態はまだほとんど実現していません。

また、警察への告訴状を持ち込んでも、受理されるまでに時間がかかったり、「民事的解決を先に試みてほしい」と諭されたりするケースもあります。特に名誉毀損罪や侮辱罪は被害者の申告なしに警察が動く事件ではないため、被害者自身が積極的に告訴の意志を示し、必要書類を整えて持参することが重要です。

【ポイント】厳罰化は確かに「制裁の可能性」を高めましたが、「必ず逮捕・拘禁刑になる」わけではありません。刑事手続きと並行して、発信者情報開示請求・削除請求・民事損害賠償請求という民事的アプローチも併用することが現実的な対策となります。

警察が動く条件——刑事事件化のハードル

被害者が告訴状を提出しても、警察がすぐに本格捜査に着手するとは限りません。実務上、警察・検察が刑事事件として扱いやすいケースには以下の特徴があります。

投稿の違法性が明確である

「批判」か「誹謗中傷」かの境界線は微妙な場合もあります。事実に基づく批判は名誉毀損罪の真実性・公益性の要件を満たせば違法にならない場合があります。一方で、まったく根拠のない情報を流布したり、人格を否定する侮辱的言葉を繰り返し発信したりしているケースは、違法性が明確で警察が動きやすくなります。

継続性・執拗性がある

単発の投稿よりも、長期間にわたって繰り返し投稿されているケースのほうが悪質性が高く評価されやすい傾向があります。特定の個人を標的にして何ヶ月にもわたって投稿を続けるなど、ストーキング的な側面が見られる場合は、警察の判断も迅速になりやすいです。

証拠が整っている

スクリーンショット(投稿日時・URLが確認できるもの)、投稿者のアカウント情報、発信者情報開示請求で特定されたIPアドレスや電話番号、投稿内容が精神的被害に与えた影響を示す診断書など、証拠が体系的に整理されていると、告訴状を受理してもらいやすくなります。

投稿者が特定されている、または特定の手がかりがある

刑事事件として立件するためには、加害者の特定が前提となります。そのため、民事手続きである発信者情報開示請求(情報流通プラットフォーム対処法に基づく非訟手続)によって事前に加害者のIPアドレスや電話番号を取得し、加害者の氏名・住所まで特定した上で告訴状を提出するのが最も効果的な流れです。

被害が重大であると認められる

精神的損害(うつ病の診断など)、社会的・職業的な損害(仕事を失ったなど)、脅迫を伴う内容など、客観的に深刻な被害が認められるケースほど、捜査機関が積極的に動く可能性が高まります。

刑事告訴の流れ——被害者がとるべき手順

ネット誹謗中傷について刑事告訴を行う場合の一般的な手順は以下のとおりです。

ステップ1:証拠を保全する

問題の投稿が削除される前に、投稿URL・投稿日時・本文が確認できるスクリーンショットを複数枚撮影して保存します。可能であれば、ウェブ魚拓などのアーカイブサービスを活用して第三者機関による証拠保全も検討しましょう。

ステップ2:発信者情報開示請求で加害者を特定する

匿名の投稿者を特定するため、SNS事業者や掲示板管理者、プロバイダに対して発信者情報開示請求を行います。2025年4月施行の情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)のもとでは、大規模プラットフォーム事業者に対して開示命令申立が可能となり、投稿者特定のルートが整備されています。この手続きは専門的な知識が必要なため、弁護士に依頼することが現実的です。

ステップ3:告訴状を作成し警察署に提出する

加害者が特定できたら、告訴状を作成して被疑者の住所地か犯罪地を管轄する警察署に提出します。告訴状には、被疑者の特定情報・投稿内容・投稿日時・適用法条・被害の詳細などを記載します。弁護士が作成した告訴状は受理率が上がりやすい傾向があります。

ステップ4:捜査・書類送検・起訴の流れ

告訴状が受理されると警察が捜査を開始します。任意捜査を経て逮捕・書類送検が行われ、検察官が起訴・不起訴を判断します。多くのケースでは起訴後に略式命令(罰金)で終結しますが、悪質性が高い場合は正式起訴となり公開の裁判が開かれます。

刑事手続きと民事手続きの使い分け

刑事告訴は被害者にとって重要な手段ですが、それだけに頼るのは得策ではありません。刑事手続きと民事手続きをうまく組み合わせることで、より実効的な被害回復が期待できます。

手続き 目的・メリット デメリット・限界
刑事告訴 加害者に刑事罰を与えること・社会的制裁・抑止効果 被害者が直接金銭を得られない・捜査・起訴は検察の裁量次第・逮捕・拘禁刑になるケースは限定的
発信者情報開示請求(民事) 匿名投稿者の氏名・住所を特定できる・刑事告訴の前提としても機能する 時間と費用がかかる・ログ保存期間が短く迅速な対応が必要
削除請求(民事) 問題の投稿をいち早く削除して被害拡大を防げる 投稿者を特定しなくても可能な場合があるが、プラットフォームの判断による
損害賠償請求(民事) 慰謝料・弁護士費用などを加害者から回収できる 加害者の資力次第では回収が難しい場合もある

実務的には、まず証拠保全と削除申請を行い、次に発信者情報開示請求で加害者を特定し、その後刑事告訴と民事損害賠償請求を並行して進めるという流れが最も効果的です。刑事告訴によって捜査機関が動くことで加害者にプレッシャーがかかり、民事の示談交渉が有利に進むケースもあります。

被害者が注意すべき点

告訴期間(親告罪の時効)に注意

名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪ですが、親告罪には犯人を知った日から6ヶ月以内に告訴しなければならないという期間制限があります(刑事訴訟法235条)。発信者情報開示請求で投稿者が判明した後、できるだけ速やかに告訴を行うことが重要です。

ログ保存期間の短さ

プロバイダがIPアドレスのアクセスログを保存する期間は、事業者によって異なりますが一般的に3ヶ月〜1年程度とされています。問題の投稿を発見してから長期間放置すると、発信者情報開示請求をしてもすでにログが削除されていて投稿者を特定できなくなる可能性があります。被害に気づいたら、早期に弁護士に相談することが大切です。

証拠の信頼性を高める

スクリーンショットによる証拠保全の際には、投稿日時・URLが写り込んでいることを確認してください。また、スクリーンショットは自分で撮影したものだけでは後に改ざんを疑われる可能性があるため、タイムスタンプ付きの電子公証サービスや弁護士による公正証書化を利用することでより確かな証拠として機能します。

反訴リスクを避ける

誹謗中傷被害者が感情的になり、SNS上で加害者を批判する投稿を行ったり、関係者への連絡行為が行き過ぎたりすると、逆に名誉毀損や業務妨害で訴えられるリスクが生じます。刑事告訴・民事手続きを進める際は法的アドバイスに従い、自身の言動にも注意を払ってください。

まとめ——刑事と民事の「両輪」で被害回復を

ネット誹謗中傷の加害者が逮捕・起訴される事例は確実に増えており、2022年の侮辱罪厳罰化がその流れを後押ししています。しかし現時点では、拘禁刑(実刑)に至るケースはほとんどなく、多くは書類送検・罰金刑で終結しているのが現実です。刑事手続きは「加害者への制裁と社会的制裁」という側面で重要ですが、被害者自身が金銭的な救済を得るためには、並行して民事手続きを進めることが不可欠です。

発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求・刑事告訴——これらを適切に組み合わせ、戦略的に動くことが被害回復への最短ルートです。被害を一人で抱え込まず、まずは専門家へのご相談をお勧めします。

ネット誹謗中傷でお困りの方へ——刑事・民事両面からサポートします

タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。刑事告訴のご検討から民事手続きの対応まで、被害回復に向けた最善の戦略を一緒に考えます。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的なご事情については、弁護士にご相談ください。

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