誹謗中傷の慰謝料・示談金に税金はかかる?税務を弁護士が解説
誹謗中傷の慰謝料・示談金に税金はかかる?税務を弁護士が解説
ネット上の誹謗中傷で発信者情報開示請求や損害賠償請求を経て、ようやく慰謝料や示談金を受け取れることになった——。そこで多くの方が不安に思うのが、「この慰謝料に税金はかかるのだろうか」「確定申告をしないと、あとで税務署から指摘されるのではないか」という点でしょう。せっかくの賠償金から思わぬ税金を取られるのではと心配になるのは自然なことです。
この記事では、誹謗中傷の被害者が受け取る慰謝料・示談金に税金がかかるのかを、所得税法の条文に基づいて整理します。原則として非課税となる根拠、例外的に課税されるケース、確定申告の要否、そして加害者として示談金を支払う側の税務まで、横浜の弁護士が解説します。
結論:被害者が受け取る誹謗中傷の慰謝料は原則「非課税」
先に結論をお伝えします。個人がネット上の誹謗中傷(名誉毀損・侮辱・プライバシー侵害など)の被害者として、精神的損害を補うために受け取る慰謝料や損害賠償金は、所得税法上、原則として非課税所得にあたります。したがって、受け取った金額に所得税・住民税は課されず、その分について確定申告をする必要も原則としてありません。
これは交通事故の慰謝料などと同じ考え方です。国税庁のタックスアンサー(No.1700「加害者から治療費、慰謝料及び損害賠償金などを受け取ったとき」)でも、心身に加えられた損害について支払を受ける慰謝料などは非課税となることが示されています。誹謗中傷による精神的苦痛への慰謝料も、この「心身に加えられた損害」に対する賠償という性質を持つため、同じ扱いになると整理できます。
なぜ慰謝料は非課税なのか|所得税法上の根拠
慰謝料が非課税とされる根拠は、所得税法にあります。所得税法9条1項18号は、心身に加えられた損害または突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得する保険金・損害賠償金などのうち、政令で定めるものを非課税所得と定めています。
これを受けた所得税法施行令30条1号は、非課税となる損害賠償金の範囲として「心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金」を挙げています。ネット上の誹謗中傷は、名誉感情や社会的評価、プライバシーといった人格的利益を侵害して精神的苦痛(心身に加えられた損害)を生じさせるものですから、その慰謝料はこの条文が予定する非課税の損害賠償金にあたると考えられます。
非課税とされる理由は、損害賠償金が他人の違法行為によって被った損害を埋め合わせる金銭であり、受け取った側に新たな「もうけ(担税力)」が生じるわけではないため、これに所得税を課すのは適当でないという点にあります。
| 区分 | 具体例 | 税務上の原則的な扱い |
|---|---|---|
| 精神的損害への慰謝料 | 名誉毀損・侮辱・プライバシー侵害による精神的苦痛の慰謝料 | 非課税 |
| 人格的利益への賠償 | 肖像権侵害・なりすまし等による損害賠償金 | 非課税 |
| 見舞金 | 社会通念上相当な額の見舞金 | 相当額の範囲で非課税 |
| 事業上の損失の補填 | 営業妨害・信用毀損による逸失利益・休業損害の補償 | 課税(事業所得等)の可能性 |
例外的に課税されるケース|事業所得を補填する部分
注意が必要なのは、受け取った金銭が「精神的損害への慰謝料」ではなく、「本来得られたはずの収入(もうけ)を補填するもの」という性質を持つ場合です。国税庁のタックスアンサーNo.1700でも、損害賠償金のうちに、各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための金額が含まれている場合には、その部分は各種所得の収入金額とされる、と明記されています。
たとえば、事業者が営業を妨害する内容の誹謗中傷を受けて売上が減少し、その「失われた売上・利益」を補填する趣旨で損害賠償金を受け取った場合、本来であれば事業の収入として課税されたはずの金額に代わるものですから、非課税とはならず事業所得の収入金額として課税対象になると整理されます。個人事業主やフリーランスの方が、屋号や店舗への中傷で営業上の損害を賠償してもらう場合には、特に注意が必要です。
このように、同じ「誹謗中傷の賠償金」でも、精神的損害への慰謝料部分は非課税、事業上の逸失利益を補填する部分は課税というように、金銭の性質ごとに扱いが分かれるのがポイントです。
示談金・和解金の場合の注意点|名目より「実質」で判断される
判決ではなく示談交渉や訴訟上の和解で解決するケースも多くあります。この場合に受け取る「示談金」「解決金」「和解金」などは、税務上、名目ではなくその金銭の実質によって課税・非課税が判断されます。
示談金の実質が精神的損害に対する慰謝料であれば、原則として非課税と整理できます。一方で、示談金の中に休業損害・逸失利益など収入に代わる性質のものが含まれていれば、その部分は課税対象となりえます。後日の税務上のトラブルを避けるためにも、示談書や和解調書に「本件示談金は名誉毀損による精神的損害に対する慰謝料である」といった内訳・趣旨を明記しておくことが望ましいといえます。示談交渉の進め方や示談書の作り方については、誹謗中傷で損害賠償を請求された側の対応もあわせてご覧ください。
加害者(支払う側)の税務|示談金は経費・控除になるのか
視点を変えて、誹謗中傷の加害者として慰謝料・示談金を「支払う側」の税務も確認しておきましょう。開示請求を受けて特定され、被害者から損害賠償を求められた方からしばしば問われる点です。
個人がプライベートな投稿による誹謗中傷の加害者として支払う慰謝料・示談金は、原則として生活上の支出(家事費)にあたり、事業の必要経費や所得控除の対象にはなりません。支払ったからといって自分の所得税が減るわけではない、というのが基本的な理解です。
他方、事業活動に関連して生じた信用毀損などについて法人や事業者が支払う損害賠償金の損金算入の可否は、その行為の性質(故意・重過失の有無など)を踏まえた別途の検討を要します。事業に絡む支払いをした場合は、税理士に相談して処理を確認してください。
確定申告は必要か|手続き上の注意点
個人が受け取る慰謝料が非課税所得である以上、その金額について確定申告は原則として不要です。非課税所得は、そもそも所得税の課税対象に含まれないためです。
もっとも、賠償金の中に事業所得の収入に代わる部分など課税対象となる金額が含まれているときや、事業者が受け取ってその一部を事業の収入として計上すべきときは、その部分について申告・納税が必要になることがあります。判断に迷う場合は、受領した金銭の内訳がわかる資料(示談書・判決書・振込記録など)を整理したうえで税理士に確認するのが安全です。なお、投稿者特定から損害賠償金の受領までの流れは投稿者特定後の損害賠償請求の流れで、慰謝料額の水準については慰謝料の増額・減額を左右する要素で解説しています。
よくある質問(FAQ)
誹謗中傷で受け取った慰謝料は確定申告が必要ですか?
個人が精神的損害の賠償として受け取った慰謝料は原則として非課税所得にあたり、確定申告は不要です。ただし賠償金の中に課税対象となる金額が含まれる場合は、その部分の申告が必要になることがあります。
示談金として受け取った場合も非課税ですか?
示談金という名目でも、実質が心身に加えられた損害への慰謝料であれば原則として非課税です。もっとも休業損害や逸失利益など収入に代わる部分が含まれる場合はその部分が課税対象となりうるため、示談書に内訳を明記しておくことが望ましいといえます。
受け取った金額が相場より高額でも非課税のままですか?
損害を補填する賠償金は非課税ですが、社会通念上の損害額を著しく超える金銭を受け取った場合は、その超過部分が課税対象と評価される可能性があります。具体的な事案では税理士に確認することをおすすめします。
加害者として支払った示談金は経費や控除になりますか?
個人がプライベートな誹謗中傷の加害者として支払う慰謝料・示談金は、原則として生活上の支出(家事費)にあたり、必要経費や所得控除の対象にはなりません。事業に関連する場合の損金算入は別途の検討を要し、税理士への相談が必要です。
まとめ
ネット上の誹謗中傷で個人が受け取る慰謝料・示談金は、精神的損害を補うものである以上、所得税法9条1項18号・同法施行令30条1号により原則として非課税であり、確定申告も原則不要です。一方で、事業上の逸失利益を補填する部分や遅延損害金部分などは、例外的に課税対象となりうる場合もあります。税務の最終判断は税理士の領域ですが、その前提として「どのような性質の金銭を、どのような名目で受け取る(支払う)か」を明確にしておくことが重要です。
誹謗中傷への慰謝料を適切に得るには、証拠の保全から発信者情報開示請求、損害賠償請求、示談書への的確な内訳の記載まで、手続きを丁寧に積み重ねる必要があります。弁護士に依頼すれば、一連の手続きを代理で進められるだけでなく、後の税務上の疑義が生じにくいかたちで示談内容を整えることも期待できます。
誹謗中傷の慰謝料請求・示談交渉は横浜のタングラム法律事務所へ
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。慰謝料の請求から示談交渉、示談書の作成まで、被害回復に向けた対応を弁護士がサポートいたします。
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