チケットを定価以下で譲るのは違法か|手数料の上乗せはどうなる
チケットを定価以下で譲るのは違法か|手数料の上乗せはどうなる
「行けなくなったので、買った値段のまま譲った」「送料と振込手数料の分だけ足してもらった」。こうした譲渡が法律に触れるのかどうかは、チケット転売をめぐる相談で最も多い質問のひとつです。ネット上には「定価以下なら大丈夫」という短い答えが並びますが、それだけで片づけられる話ではありません。
この記事では、価格の要件が条文でどう定められているのか、比較の基準になる「販売価格」とは何を指すのか、手数料や送料を上乗せした場合はどう評価され得るのか、そして定価以下でもなお問題が残る場面はどこかを、弁護士が順に整理します。
価格は「不正転売」の3要素のひとつにすぎない
チケット不正転売禁止法(正式名称「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」)第2条第4項は、不正転売を次のように定義しています。
この定義は、次の3つの要素をすべて満たすことを求めています。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 事前の同意がない | 興行主の事前の同意を得ていないこと |
| 業として行う有償譲渡 | 反復継続の意思をもって有償で譲ること |
| 販売価格を超える価格 | 興行主等の販売価格を上回る価格で売ること |
したがって、価格が興行主等の販売価格を超えていなければ、この定義には当てはまりません。「定価以下なら不正転売にはあたらない」という説明は、この限りでは正しいことになります。要件の全体像はチケット転売はどこから違法かで整理しています。
比較の基準は「興行主等の販売価格」
ここで注意したいのは、条文が比較の対象としているのが「券面に印刷された金額」ではなく、「興行主等の当該特定興行入場券の販売価格」だという点です。
「興行主等」とは、興行主のほか、興行主の同意を得て興行入場券の販売を業として行う者を含みます。つまり、公式のプレイガイドを通じて販売された場合、そこでの販売価格が基準になり得ます。券面額と実際の販売価格が一致しないケースでは、どちらを基準に見るかが争点になり得ます。
実務的には、購入時の申込内容や決済の記録が、この点を示す資料になります。
手数料や送料を上乗せした場合
「定価どおりの金額に、システム利用料と送料を足して受け取った」という形は珍しくありません。この場合の評価は、上乗せ分をどう位置づけるかによって変わり得ます。
- 実費を実費として明示し、その額を超えて受け取っていない場合:チケットの対価としての「販売価格」を超えたとはいえないという整理があり得ます
- 名目は手数料でも、実質的に上乗せ分が利益になっている場合:全体として販売価格を超える価格で売ったと評価される可能性があります
条文が問題にしているのは「その販売価格」であり、名目ではなく実質で見られることになります。上乗せ分の性質を後から説明できるよう、金額の内訳がわかる記録を残しておくことが重要です。
定価以下でも問題が残る3つの場面
1 購入規約・会員規約への違反
チケットの購入規約やファンクラブの会員規約は、価格にかかわらず第三者への譲渡を禁じていることがあります。規約違反は法令違反とは別の問題で、チケットの無効化や会員資格の停止・退会措置につながり得ます。
2 民事上の損害賠償請求
興行主が民事上の請求をする場合、その根拠は同法違反ではなく、民法第709条の不法行為です。2026年3月には、転売出品が興行主の営業権を侵害すると判断した東京地方裁判所の判決が報じられています。定価以下であることは有利な事情になりますが、請求を受ける可能性が完全になくなるわけではありません。詳しくはチケット転売が営業権侵害と初認定をご覧ください。
3 「1回だけ」といえるかどうか
価格の要素を欠いていても、他の要素の評価は別に行われます。文化庁が公表している通知では、同一の出品者が元の販売価格を超える金額で2回以上出品する場合について、本法の禁止行為に当たり得るとの考え方が示されています。裏を返せば、出品の回数は「業として」の判断において重視される事情だということです。
公式リセールを使えばどうなるか
不正転売の定義は「興行主の事前の同意を得ない」譲渡であることを要素としています。興行主が用意した公式のリセールサービスを通じた譲渡は、通常この同意があると考えられますので、価格にかかわらずこの要素を欠くことになります。
行けなくなったチケットを手放す必要が生じたときは、まず公式のリセールが用意されているかを確認することが、最も確実な方法です。
「定価以下だった」を示すために残しておく記録
意見照会書や損害賠償の通知が届いたとき、価格の要素を争うには、その事実を示す資料が必要です。次のものは早い段階で保存しておいてください。
- チケットの購入履歴(購入日・購入価格・購入経路がわかるもの)
- 出品時の画面(設定した金額がわかるもの)
- 入金の記録(手数料が差し引かれた後の実際の受取額)
- 相手方とのやり取り(送料や実費の内訳を説明した部分)
これらは、出品の態様や利益額を説明する材料にもなります。請求額の交渉における位置づけはチケット転売の損害賠償はいくらかで解説しています。
よくある質問
買った値段そのままで譲りました。違法になりますか。
不正転売は「興行主等の販売価格を超える価格」で売ることを要素としていますので、同額での譲渡はこの要素を欠きます。もっとも、購入規約に違反する可能性や、民事上の責任が問われる可能性は別に検討する必要があります。
送料と振込手数料だけ上乗せしました。これも「超える価格」になりますか。
実費を実費として明示し、その額を超えて受け取っていないのであれば、チケットの対価としての販売価格を超えたとはいえないという整理があり得ます。ただし、名目にかかわらず実質で評価されますので、内訳がわかる記録を残しておくことが重要です。
定価以下で譲ったのに、意見照会書が届きました。なぜですか。
開示請求は、チケット不正転売禁止法違反を理由とするものとは限りません。民事上の権利侵害を理由として請求されている場合、価格だけで判断されるわけではないためです。届いた書面に記載された請求の根拠を確認してください。対応の手順はチケット転売で意見照会書が届いたらで解説しています。
チケット代のほかにグッズを一緒に譲った場合はどうなりますか。
全体の受取額のうち、どこまでがチケットの対価かという評価の問題になります。グッズの対価が客観的に説明できるかどうかが分かれ目になりますので、内訳を示せる資料が重要になります。
まとめ
- 価格は不正転売の3要素のひとつであり、興行主等の販売価格を超えていなければこの要素を欠く
- 比較の基準は券面額ではなく「興行主等の販売価格」
- 手数料や送料の上乗せは、名目ではなく実質で評価される
- 定価以下でも、購入規約違反・民事上の責任・出品回数の評価という問題は残る
- 公式リセールを通じた譲渡は「事前の同意」の要素を欠く
「定価以下だから問題ない」と考えていたところに書面が届いた、というご相談は少なくありません。価格の要素を争うには、購入と出品の記録を揃えたうえで、法的な枠組みにそって主張する必要があります。横浜のタングラム法律事務所では、発信者情報開示請求を受けた側の対応を数多く取り扱っています。当事務所の対応の流れと費用は、チケット転売の発信者情報開示請求への対応ページでご案内しています。
定価以下の譲渡で書面が届いた方へ
タングラム法律事務所(横浜・山下公園)は、チケット転売を理由とする発信者情報開示請求について、意見照会書への回答書作成から、開示後の損害賠償請求への対応・示談交渉まで取り扱っています。オンラインで全国からご相談いただけます。回答期限がある場合は、その日付をお知らせください。
法律相談の予約はこちら※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な事案についてのご判断は、弁護士にご相談ください。