誹謗中傷で損害賠償を請求されたら|加害者側の対応を弁護士が解説
誹謗中傷で損害賠償を請求されたら|加害者側の対応を弁護士が解説
ある日突然、身に覚えのある(あるいは半ば忘れていた)SNSや掲示板への書き込みについて、内容証明郵便や裁判所からの書類で「損害賠償を請求する」と告げられたら、多くの方が強い不安に襲われます。「請求された金額を全額払わなければならないのか」「無視したらどうなるのか」「今さら何ができるのか」——加害者側とされた立場では、被害者側とは異なる悩みが生じます。
この記事では、ネット誹謗中傷で損害賠償を請求された加害者側の方に向けて、請求が届くまでの流れ、請求の法的根拠、慰謝料の相場と過大請求の見分け方、無視することのリスク、そして示談で解決を図る際のポイントまでを、横浜の弁護士がわかりやすく整理します。冷静に対応するための全体像をつかんでいただければと思います。
誹謗中傷で損害賠償を請求されるまでの流れ
多くのケースでは、被害者はいきなり損害賠償を請求できるわけではありません。匿名で投稿された誹謗中傷については、まず「誰が投稿したのか」を突き止める必要があるためです。この投稿者を特定する手続が発信者情報開示請求で、コンテンツ提供者(サイト運営者)とアクセスプロバイダの二段階を経て、氏名・住所などが開示されて初めて、投稿者本人に対する請求が可能になります。
したがって、加害者側に請求が届くのは、次のような順序をたどった後であることが一般的です。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ①投稿者の特定 | 被害者が発信者情報開示請求を行い、投稿者の氏名・住所を取得する |
| ②請求書の到達 | 内容証明郵便などで、慰謝料や調査費用の支払いを求める通知が届く |
| ③交渉(示談) | 金額や謝罪・削除の条件について、当事者間で話し合う |
| ④訴訟 | 交渉がまとまらない場合、損害賠償請求訴訟が提起される |
すでに開示手続を経ているということは、被害者が相応の費用と時間をかけて本気で対応していることを意味します。「軽い気持ちの書き込みだった」という言い分だけで済ませることは難しく、落ち着いて対応を検討する必要があります。手続の全体像は、被害者側の視点をまとめた投稿者を特定した後の損害賠償請求・訴訟の流れの記事もあわせてご覧ください。
損害賠償請求の法的根拠と認められうる損害
ネット上の誹謗中傷に対する損害賠償請求の根拠は、民法709条の不法行為責任です。同条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。名誉やプライバシーといった人格的利益の侵害もここに含まれます。
そして、精神的苦痛に対する慰謝料は、民法710条が根拠となります。同条は、名誉を侵害した場合などについて、財産以外の損害に対しても賠償しなければならないと定めています。被害者は、この709条・710条を根拠に慰謝料を請求するのが基本です。
加害者側として請求されうる金銭には、主に次のものがあります。
- 慰謝料:名誉毀損・侮辱・プライバシー侵害などによる精神的苦痛への賠償
- 調査費用:投稿者特定のために被害者が支出した発信者情報開示の弁護士費用等。相当因果関係の範囲で損害と認められる場合があります
- その他の損害:営業上の損害(信用毀損による売上減少等)が主張されることもあります
もっとも、これらはあくまで「請求されうる」項目であり、実際に認められるかどうか、いくら認められるかは、投稿内容や被害の程度によって大きく異なります。
誹謗中傷の慰謝料相場と過大請求の見分け方
加害者側で最も気になるのは金額でしょう。ネット上の名誉毀損における慰謝料は、事案によって幅がありますが、一般的な目安として、被害者が個人の場合はおおむね10万円〜50万円程度、法人・事業者の場合は50万円〜100万円程度とされることが多いといわれます。投稿内容が虚偽で悪質性が高い場合や、社会的地位の高い人物に対する重大な名誉毀損では、さらに高額になることもあります。
注意したいのは、被害者側からの当初の請求額が、必ずしも裁判所が最終的に認める額と一致するわけではないという点です。実務上の相場を大きく上回る金額が請求されるケースも見られます。請求書に記載された金額に驚いて、内容を検討せずに支払いや高額な和解に応じてしまうと、本来払う必要のない金額まで負担することになりかねません。相場から乖離した請求に対しては、投稿の法的評価や損害の有無・程度を踏まえて減額を主張できる場合があります。
請求を無視するとどうなるか
「関わりたくない」という気持ちから請求書を放置してしまう方がいますが、これは多くの場合、状況を悪化させます。交渉段階の通知を無視すると、被害者は訴訟の提起に進むことが考えられます。訴訟が起こされた場合、答弁書を提出せず期日にも出頭しないと、相手の主張が認められて敗訴判決(欠席判決)となるおそれがあります。
判決が確定すれば、任意に支払わない場合には、給与や預貯金といった財産の差押えなど強制執行を受けるリスクが生じます。反論すべき事情があっても、手続に対応しなければそれを主張する機会を失ってしまいます。請求に納得できない場合ほど、無視ではなく適切な形で対応することが重要です。
消滅時効による対応が可能な場合
古い投稿について請求された場合には、消滅時効が問題となることがあります。不法行為による損害賠償請求権は、民法724条により、被害者またはその法定代理人が「損害及び加害者を知った時から3年間」行使しないとき、または「不法行為の時から20年間」行使しないときに、時効によって消滅します。
ネット誹謗中傷では、被害者が投稿を認識していても、匿名投稿では「加害者を知った時」といえないため、発信者情報開示によって投稿者の氏名等を知った時が3年の起算点になり得ると考えられます。したがって、投稿から長期間が経過していても、開示から間もなければ3年の時効は完成していないことが多い点には注意が必要です。時効を主張できるかどうかは起算点の評価が重要になるため、安易な自己判断は避けるべきです。
示談で解決を図る際のポイント
加害者側にとって、訴訟に至る前に示談で解決できれば、時間的・経済的な負担や、争いが長引くことによる精神的負担を抑えられる可能性があります。示談とは、裁判所を通さずに当事者間の話し合いで紛争を解決する合意で、賠償金の支払いを中心に、謝罪・投稿の削除・再発防止・口外禁止などの条件を示談書にまとめます。
示談を有利に進めるうえで意識したいのは次の点です。
- 誠実な対応と早期の是正:速やかな投稿削除や真摯な謝罪は、被害者の処罰感情を和らげ、賠償額の調整につながることがあります
- 請求内容の精査:慰謝料・調査費用の内訳や金額の根拠を確認し、相場や法的評価に照らして妥当かを検討します
- 示談条件の明確化:「本件で解決済み」とする清算条項を入れるなど、後から追加請求されない形に整えます
- 冷静な交渉:直接のやり取りは感情的になりやすいため、代理人を介した交渉が有効な場合があります
示談交渉の進め方の詳細は、誹謗中傷の示談交渉のポイントを解説した記事でも取り上げています。
自分で対応する場合の限界と弁護士に相談するメリット
加害者側でも、被害者と直接やり取りして示談をまとめることは不可能ではありません。しかし、請求額が妥当か、時効を主張できるか、投稿が本当に違法と評価されるのかといった判断には法的な知識が求められます。誤った判断で過大な支払いに応じたり、不用意な反論で相手の態度を硬化させたりすると、かえって不利益が拡大しかねません。
弁護士に相談すれば、請求内容の妥当性の検討、過大請求への反論、示談交渉の代理、訴訟に至った場合の対応まで一貫して任せることができます。横浜で誹謗中傷事件を扱う弁護士は、被害者側・加害者側双方の事案に触れているため、見込まれる着地点を踏まえた現実的な助言が可能です。請求書が届いた段階で早めに相談することで、選択肢を広く確保できます。
よくある質問(FAQ)
誹謗中傷の投稿を削除すれば損害賠償は請求されませんか?
投稿を削除しても、投稿時点で成立した不法行為責任がさかのぼって消えるわけではなく、別途損害賠償を請求される可能性があります。もっとも、速やかな削除や謝罪は、示談交渉における考慮要素として賠償額に影響することがあります。
損害賠償請求を無視するとどうなりますか?
交渉段階の請求を放置すると訴訟に発展する可能性があり、訴訟で対応を怠れば相手の主張どおりの判決が言い渡されるおそれがあります。判決が確定すると財産の差押えなど強制執行を受けるリスクもあります。
請求された金額は必ず支払わなければなりませんか?
請求額はあくまで相手方の主張であり、裁判所が最終的に認める額と一致するとは限りません。相場から大きく乖離した請求に対しては、投稿内容の評価や損害の有無を踏まえて減額を主張できる場合があります。
誹謗中傷の損害賠償請求に時効はありますか?
不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効消滅します(民法724条)。発信者情報開示により被害者が加害者を知った時が3年の起算点になり得るため、時効消滅しているかは慎重な検討が必要です。
加害者側でも弁護士に相談する意味はありますか?
責任の有無や見込まれる賠償額の見立て、過大な請求への反論、示談交渉の代理などを弁護士に依頼することで、不利益を抑えられる場合があります。感情的なやり取りを避け、冷静に解決を図る点でもメリットがあります。
まとめ
ネット誹謗中傷で損害賠償を請求された場合、加害者側としてまず大切なのは、慌てて全額を支払うことでも、不安から無視することでもなく、請求内容を冷静に精査することです。請求の根拠は民法709条・710条の不法行為責任にあり、慰謝料の相場には幅があるため、実際に認められうる金額は事案ごとに異なります。相場から乖離した過大な請求には減額を主張できる場合があり、古い投稿では民法724条の消滅時効が問題となることもあります。
一方で、請求を放置すれば訴訟や強制執行に発展するリスクがあり、判断を誤れば不利益が拡大します。早い段階で弁護士に相談することで、示談での解決や適正な金額での決着を目指しやすくなります。請求書や訴状が届いて対応に迷ったときは、横浜の弁護士に相談することをご検討ください。
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タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、被害者側・加害者側双方の豊富な実績を有しております。請求内容の精査から示談交渉、訴訟対応まで、状況に応じた対応をご提案します。
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