誹謗中傷の投稿を削除すれば損害賠償は避けられる?弁護士が解説
誹謗中傷の投稿を削除すれば損害賠償は避けられる?弁護士が解説
プロバイダから意見照会書が届いた。あるいは、相手方の代理人から通知書が来た。書面を読んで最初に思い浮かぶのは、「とりあえず投稿を消しておこう」「先に謝ってしまえば穏便に済むのではないか」ということかもしれません。実際、横浜の当事務所でご相談をお受けする段階では、すでに投稿を削除されている方が少なくありません。
削除や謝罪という行動そのものは、必ずしも間違いではありません。ただし、それによって何が変わり、何が変わらないのかを理解しないまま動くと、かえって不利になることがあります。この記事では、削除・謝罪と損害賠償責任の関係を、民事・刑事の両面から整理します。
削除しても、成立した不法行為は消えない
他人の権利を侵害する投稿をした場合、損害賠償責任は民法709条の不法行為に基づいて生じます。この責任は、投稿がされ、他人の社会的評価が低下した時点で成立します。その後に投稿を削除しても、いったん成立した責任がさかのぼって消えるわけではありません。
「もう消したのだから請求される理由がない」という説明は、残念ながら通りません。削除は、損害がそれ以上拡大することを止める行為であって、すでに生じた損害をなかったことにする行為ではないためです。
それでも、削除には意味がある
もっとも、削除がまったく無意味というわけではありません。法務省民事局が令和8年4月に公表した「インターネット上の名誉権侵害等の損害賠償額等に関する調査報告書」は、203件の裁判例を分析し、慰謝料額を減額する方向で考慮された事情を集計しています。そこでは「謝罪・事後的対応がある」ことが減額方向に考慮された事案が16件(7.9%)ありました。
また、投稿が短期間で削除され、実際に閲覧した人が限られていた場合には、「不特定多数の者が認識していない」「社会的評価の低下が大きくない」といった事情としても評価され得ます。同報告書では、これらもそれぞれ14件(6.9%)で減額方向に考慮されています。
相手方は、すでに投稿を保存している
削除すれば投稿の存在を否定できるのではないか、と考える方もいます。しかし、これは期待しないほうが安全です。
発信者情報の開示を求める手続では、どの投稿が権利を侵害しているのかを特定して裁判所に示す必要があります。したがって、開示の手続が進んでいる段階では、相手方はすでに投稿の画面や本文を資料として保存しているのが通常です。意見照会書が届いているということは、その資料が提出済みであることを意味します。
削除は、投稿の存在を消すのではなく、これから閲覧される可能性を止めるものだと理解してください。
削除しても、開示の手続は止まらない
もう一つ誤解が多いのが、投稿を消せば発信者情報の開示も止まる、という理解です。投稿の削除と、投稿者が誰かを明らかにする発信者情報の開示は、目的も根拠も異なる別々の手続です。削除された後も、保存されている記録に基づいて開示の手続が進むことがあります。
両者の違いについては、削除請求と発信者情報開示請求の違いを扱った記事で詳しく整理しています。
謝罪をする前に、確認しておくこと
削除以上に慎重な判断が必要なのが、謝罪です。気持ちのうえでは自然な行動ですが、法的には次の2つの意味を持ち得ます。
投稿が違法であることを認めたと受け取られる
謝罪の文面は、後の交渉や訴訟で書証として提出されることがあります。摘示した事実が真実であったり、意見・論評の表明にとどまるとして違法性が阻却される余地のある事案でも、「不適切な投稿をしてしまい申し訳ありません」といった書面を出してしまうと、その主張が通りにくくなることがあります。
債務を承認したと評価される
支払いを約束する趣旨を含む謝罪は、債務の承認と評価されることがあります。不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から3年で時効にかかりますが(民法724条)、承認があるとその主張が封じられる場合があります。
刑事の観点では、削除と示談が持つ意味は大きい
投稿の内容によっては、名誉毀損罪や侮辱罪の成否が問題になることがあります。これらは告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪とされています(刑法232条1項)。したがって、示談が成立して告訴が取り下げられれば、起訴されないことになります。
この場面では、投稿の削除や被害弁償は、示談交渉を進めるうえでも、処分や量刑を判断するうえでも、考慮され得る事情です。民事の損害賠償と刑事の手続では、削除や謝罪の持つ重みが異なると理解しておくとよいでしょう。どのような犯罪の成否が問題になるかは、ネットの誹謗中傷は何罪になるかを扱った記事にまとめています。
よくある質問
投稿を削除すれば損害賠償を請求されなくなりますか?
削除しても、投稿の時点で成立した不法行為責任がさかのぼって消えるわけではありません。損害賠償を請求される可能性は残ります。もっとも、速やかな削除は、慰謝料額を検討する際に減額方向の一事情として考慮されることがあります。
削除すれば、相手方は投稿の内容を証明できなくなりますか?
通常はできます。発信者情報の開示を求める手続では、対象となる投稿を特定して裁判所に示す必要があるため、相手方は削除前の画面を保存しているのが一般的です。削除によって投稿の存在自体が争えなくなるとは考えないほうが安全です。
投稿を削除すれば、発信者情報開示の手続も止まりますか?
止まりません。投稿の削除と、投稿者が誰かを明らかにする発信者情報の開示は別の手続です。削除された後も、保存されている記録に基づいて開示の手続が進むことがあります。
相手方に謝罪の連絡をしてもよいでしょうか?
謝罪の内容によっては、投稿が違法であることを認めたものと受け取られることがあります。また、支払いを約束する趣旨を含むと債務の承認と評価され、消滅時効を援用できなくなる場合があります。書面で謝意を伝える前に、内容を検討することをおすすめします。
削除や謝罪は、刑事の手続では考慮されますか?
名誉毀損罪・侮辱罪は告訴がなければ公訴を提起できない親告罪です。示談が成立して告訴が取り下げられれば、起訴されないことになります。削除や被害弁償は、示談の交渉においても、量刑の判断においても考慮され得る事情です。
まとめ
削除は、責任をなくす行為ではなく、損害の拡大を止め、金額の検討において有利に働き得る行為です。謝罪は、交渉を前に進める力を持つ一方で、認めるつもりのなかったことまで認めた形になる危険を伴います。どちらも、何を争い、何を争わないかを決めたうえで行うべきものだといえます。
すでに削除や謝罪をしてしまった場合でも、そこで対応が終わるわけではありません。請求を受けた段階の全体像は誹謗中傷で損害賠償を請求されたときの対応に、その後の交渉や手続については損害賠償請求対応のページにまとめています。横浜のタングラム法律事務所では、開示を受けた側・請求を受けた側のご相談を扱っており、やり取りはオンラインで完結します。
削除や謝罪の前に、一度ご相談ください
タングラム法律事務所では、インターネット上の権利侵害を理由に開示請求・損害賠償請求を受けた方の対応を数多くお引き受けしています。書面を出す前であれば、選べる方針の幅が広く残ります。
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