従業員のSNS炎上への会社の対応|懲戒・損害賠償を弁護士が解説
従業員のSNS炎上への会社の対応|懲戒・損害賠償を弁護士が解説
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月2日 最終更新日:2026年10月2日
「アルバイトが厨房でふざけた動画を投稿し、拡散された」「社員が取引先の悪口をSNSに書き込んでいた」。従業員の不適切な投稿による炎上は、規模を問わずどの会社にも起こり得ます。経営者や人事担当者の方は「すぐに解雇すべきか」「損害を本人に請求できるのか」と悩まれることでしょう。
この記事では、従業員のSNS炎上が起きたときに会社がとるべき初動対応、懲戒処分ができる場合とその限界、従業員に対する損害賠償請求が制限される理由、そして再発防止策を、横浜の弁護士が中小企業向けに解説します。
結論として、従業員のSNS炎上には「拡散防止と事実確認」を最優先し、そのうえで就業規則に基づく相当な範囲の懲戒処分を検討するのが基本です。従業員への損害賠償請求は可能ですが、判例上「損害の公平な分担」の見地から制限されるため、全額の回収を前提にした対応は避けるべきです。
従業員のSNS炎上が会社にもたらすリスク
従業員の投稿は、本人の私的なアカウントからであっても、勤務先が特定されれば「会社の問題」として受け止められます。具体的には、次のようなリスクが考えられます。
- 信用・ブランドの毀損:衛生管理や顧客対応への不信が広がり、客足や取引に影響する
- 直接の経済的損害:商品の廃棄、店舗の消毒・臨時休業、問い合わせ対応の人件費など
- 情報漏えい:顧客の個人情報や取引先の情報が投稿に含まれていた場合、個人情報保護法上の対応が必要になる
- 第三者への責任:投稿が第三者の名誉を毀損した場合などに、会社が使用者責任(民法715条)を問われる可能性がある
個人データの漏えいについては、要配慮個人情報が含まれる場合、財産的被害のおそれがある場合、不正の目的による場合、本人の数が1,000人を超える場合などには、個人情報保護委員会への報告(発覚から概ね3〜5日以内の速報、原則30日以内の確報)と本人への通知が義務付けられています(個人情報保護法26条)。従業員が顧客情報を意図的に投稿したケースは「不正の目的」に当たり得るため、注意が必要です。
炎上発覚直後に会社がすべき初動対応
炎上対応は時間との勝負です。慌てて処分を先行させるのではなく、次の順序で進めることをお勧めします。
| 段階 | 対応のポイント |
|---|---|
| 1. 証拠の保全 | 投稿のURL・日時・内容・拡散状況をスクリーンショット等で記録する(削除される前に) |
| 2. 投稿者の特定と削除要請 | 本人に事実を確認し、投稿の削除を求める。転載・まとめサイトへの対応は別途検討 |
| 3. 事実関係の調査 | 本人・関係者からのヒアリング、勤務記録・防犯映像等の確認。本人の弁明も記録する |
| 4. 対外的な説明 | 事実が確認できた範囲で、謝罪・再発防止策を公表するかを判断する |
| 5. 処分・請求の検討 | 調査結果を踏まえ、懲戒処分や損害賠償の要否・程度を検討する |
対外発表で従業員個人を特定できる情報を出すことは、新たなトラブルの原因になるため控えるべきです。ヒアリングの進め方は、ハラスメントの社内調査の進め方(ヒアリングと事実認定)で解説した手法が参考になります。
SNS炎上を理由に懲戒処分はできるか
就業規則の根拠が必要
懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒の種別と事由が定められ、従業員に周知されていることが前提です。そのうえで、処分が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、懲戒権の濫用として無効になります(労働契約法15条)。
勤務時間外・私用アカウントの投稿
私生活上の行為は本来、会社が干渉すべき領域ではありません。しかし最高裁は、職場外でされた職務遂行に関係のない行為であっても、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合には懲戒の対象となり得ると判断しています(日本鋼管事件・最判昭和49年3月15日民集28巻2号265頁)。その判断では、行為の性質・情状、会社の事業の種類・規模、従業員の地位・職種などが考慮されます。
処分の重さは「相当性」で決まる
炎上の規模が大きくても、直ちに懲戒解雇が有効になるわけではありません。投稿の悪質性(故意か軽率か)、会社が受けた損害の程度、本人の反省・削除への協力、過去の処分歴、同種事案での社内の処分例などを総合して判断されます。初めての軽率な投稿であれば、けん責や減給にとどめるのが相当とされる場合も少なくありません。手続面を含めた注意点は、懲戒処分の進め方|種類・手順と無効にならない注意点をご覧ください。
従業員に損害賠償を請求できる範囲
不適切な投稿により会社に損害が生じた場合、会社は従業員に対し、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償を請求できる可能性があります。ただし、ここで重要になるのが茨石事件(最判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁)です。
この判決は、使用者が被用者の行為によって損害を被った場合、事業の性格・規模、施設の状況、被用者の業務内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防や損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度でのみ請求できると判断しました。同事件では、請求できる額は損害の4分の1に制限されています。
この判例は業務中の事故の事案ですが、その考え方は従業員への損害賠償請求一般に影響します。故意の悪ふざけによる投稿であれば制限が緩やかに判断される可能性がある一方、売上減少などの損害は因果関係や金額の立証が難しく、認められる範囲は事案ごとに大きく異なります。
また、次の点にも注意が必要です。
- 損害賠償額をあらかじめ定める契約(「炎上させたら100万円」など)は禁止されています(労働基準法16条)
- 賃金は全額払いが原則であり(同法24条1項)、損害賠償金を一方的に給与から差し引くことは原則としてできません
- 悪質な投稿は業務妨害罪(刑法233条・234条)に問われる可能性もありますが、刑事告訴は社内の調査結果を踏まえて慎重に判断します
再発を防ぐための社内ルールづくり
炎上対応で最も効果的なのは、起きる前の備えです。事後の懲戒処分の有効性を支える意味でも、次の整備をお勧めします。
- 就業規則の見直し:服務規律と懲戒事由に「SNS等により会社の名誉・信用を毀損する行為」「業務上知り得た情報の投稿」を明記する
- SNS利用ガイドライン:職場での撮影禁止、顧客・取引先に関する投稿の禁止、勤務先の明示に関するルールなどを具体例とともに示す
- 誓約書・研修:入社時の秘密保持誓約書の取得と、アルバイトを含めた定期的な研修
- 会社公式アカウントの運用ルール:担当者・承認フロー・著作権や肖像権への配慮(SNS運用で著作権・肖像権侵害にならないためにも参照)
なお、ガイドラインで私生活上の発信を過度に制限すると、従業員の表現の自由との関係で問題となり得ます。規制の範囲は「会社の業務・信用に関わる投稿」に絞るのが適切です。就業規則や社内規程の整備については、当事務所の企業法務(契約書レビュー・労務・社内規程整備)のページもご覧ください。
よくある質問
勤務時間外に私用アカウントで投稿したものでも懲戒処分できますか?
私生活上の行為は原則として会社が介入できる領域ではありませんが、投稿が会社の名誉・信用を毀損したり、業務上の秘密や顧客情報を漏らしたりする場合には、懲戒処分の対象となり得ます(日本鋼管事件・最判昭和49年3月15日参照)。
炎上による損害の全額を従業員に請求できますか?
判例上、会社から従業員への損害賠償請求は、事業の性格・規模、業務内容、労働条件、加害行為の態様、会社の予防措置の程度などの事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に制限されます(茨石事件・最判昭和51年7月8日)。全額の請求が認められるとは限りません。
損害賠償の代わりに給与から差し引いてもよいですか?
賃金は全額を支払うのが原則であり(労働基準法24条1項)、会社が一方的に損害賠償金と相殺することは原則として許されません。懲戒処分としての減給にも上限があります(同法91条)。
炎上を防ぐために会社は何をしておくべきですか?
就業規則の服務規律・懲戒事由にSNS上の行為を明記すること、SNS利用ガイドラインの策定と研修、秘密保持誓約書の取得、店舗・事業所での撮影ルールの明確化などが考えられます。これらは事後の懲戒処分の有効性を支える根拠にもなります。
まとめ
従業員のSNS炎上が起きたときは、まず証拠の保全と拡散防止、事実関係の調査を行い、そのうえで処分や請求を検討するという順序が重要です。懲戒処分は就業規則の根拠と処分の相当性が必要であり、従業員への損害賠償請求も茨石事件の考え方により制限されます。感情的に重い処分や高額の請求を急ぐと、かえって労働紛争に発展し、会社の負担が増すおそれがあります。
初動対応から懲戒処分の選択、損害賠償請求の可否、規程整備まで、早い段階で弁護士に相談することで、法的リスクを抑えた対応がしやすくなります。横浜を拠点とする当事務所でも、こうした労務トラブルのご相談をお受けしています。
従業員のSNS炎上・不適切投稿への対応でお困りの事業者様へ
タングラム法律事務所では、企業法務(契約書レビュー・労務・法改正対応等)について、中小企業・個人経営の事業者向けに豊富な実績を有しております。炎上発生時の初動対応、懲戒処分の検討、SNS利用ガイドライン・就業規則の整備までご相談ください。
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