ネット上の信用毀損・業務妨害とは?名誉毀損との違いと法的対処法を弁護士が解説
ネット上の信用毀損・業務妨害とは?名誉毀損との違いと法的対処法を弁護士が解説
「競合他社が自社について虚偽の悪評をSNSに投稿している」「元取引先が事実無根の書き込みで顧客を奪っている」「ネットに嘘の口コミを書かれて来客数が激減した」——こうした被害を受けた場合、法的にはどのような対処ができるのでしょうか。
ネット上の有害な書き込みというと「名誉毀損」が真っ先に思い浮かぶかもしれませんが、事業活動や商品・サービスへの悪影響を狙った虚偽情報の拡散には、刑法233条の信用毀損罪・偽計業務妨害罪が適用される場合があります。本記事では、これらの罪の成立要件と名誉毀損との違い、そして被害を受けた場合の具体的な対処法について、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
信用毀損罪・業務妨害罪とは——刑法233条・234条の概要
刑法には、人の「名誉」を守る規定(名誉毀損罪・侮辱罪)とは別に、人の「信用」と「業務」を守る規定が設けられています。
刑法233条(信用毀損罪・偽計業務妨害罪)は「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する」と定めています。
また、刑法234条(威力業務妨害罪)は「威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条と同様とする」としており、こちらは「虚偽の風説」や「偽計」ではなく「威力」(暴行・脅迫など)を用いた業務妨害を対象とします。
ネット上での書き込みが問題となる場面では、主に刑法233条の信用毀損罪と偽計業務妨害罪が問題になります。
名誉毀損罪との違い——保護法益・虚偽性・親告罪か否か
「名誉毀損」との違いを整理しておくことが実務上とても重要です。以下の表で主な相違点を確認しましょう。
| 比較項目 | 名誉毀損罪(刑法230条) | 信用毀損罪(刑法233条) |
|---|---|---|
| 保護法益 | 人格的な社会的評価(名誉) | 経済的・商業的な信頼(信用) |
| 虚偽性の要件 | 不要(真実でも成立しうる) | 必要(虚偽の風説であること) |
| 手段・方法 | 「事実を摘示して」 | 「虚偽の風説の流布」または「偽計」 |
| 親告罪か否か | 親告罪(被害者の告訴が必要) | 非親告罪(告訴なくても捜査・起訴可) |
| 法定刑 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 違法性阻却 | 公共性・公益目的・真実性で阻却 | なし(虚偽性が要件のため) |
大きなポイントは2つです。第一に、名誉毀損罪は真実の事実を摘示しても成立しうるのに対し、信用毀損罪は「虚偽の風説」であることが必要です。逆にいえば、真実の悪評を書かれた場合でも名誉毀損が成立する余地がありますが、信用毀損罪が成立するためにはその内容が客観的に虚偽でなければなりません。
第二に、名誉毀損罪は親告罪であるため、被害者が告訴しなければ起訴されませんが、信用毀損罪・偽計業務妨害罪は非親告罪であり、被害者の告訴がなくても検察官が起訴できます(もっとも、実務上は被害届や告訴状によって捜査が端緒となるケースが大半です)。
「信用」の意味——商品・サービスの品質評価も含まれる
信用毀損罪における「信用」とは、かつては主に支払能力・支払意思といった経済的な信用(金銭的な支払い能力)を指すと解釈されていました。しかし、最高裁平成15年3月11日判決は、「信用」には経済的な信用だけでなく、商品やサービスの品質に関する信用も含まれると判断しました。
この判例以降、飲食店の料理の品質や安全性、企業の製品性能、医療機関の治療の質など、サービス・商品の品質評価に関する虚偽の書き込みも信用毀損罪の対象となることが明確になっています。たとえば、「この飲食店はネズミが出る(虚偽)」「この会社の製品は欠陥品だ(虚偽)」といった書き込みは信用毀損罪に該当しうるのです。
偽計業務妨害罪が成立する典型的なケース
偽計業務妨害罪は、「虚偽の風説の流布」または「偽計」(欺罔・誘惑・人を誤解させる行為など)によって業務を妨害する犯罪です。ネット上では次のようなケースで問題となることが多くあります。
虚偽の悪評・口コミ投稿
実際には利用したことがないにもかかわらず、グルメサイトや通販サイトのレビューに「虫が入っていた(虚偽)」「詐欺同然の業者(虚偽)」などと投稿し、顧客からの注文や来店を減少させた場合、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
SNS・掲示板での虚偽情報の拡散
X(旧Twitter)や5ちゃんねる、爆サイ等に「この会社はブラック企業で給料未払いが常態化している(虚偽)」「この店は食中毒が出た(虚偽)」などと書き込み、業績に悪影響を与えた場合も同様です。競合業者や悪意ある元従業員・元取引先によるケースが少なくありません。
架空注文・嫌がらせ予約
飲食店や宿泊施設に多数の架空予約を入れてキャンセルしたり、通販サイトで大量注文したうえで受け取りを拒否したりする行為も、「偽計を用いて業務を妨害した」として偽計業務妨害罪に該当しえます(直接的なネット書き込みではありませんが、ネット経由で行われる場合が多い手口です)。
実際の被害では、一つの書き込みが名誉毀損・信用毀損・偽計業務妨害の複数の罪に同時に該当することがあります。どの法的構成を採るかは、被害の性質(人格的名誉の傷つきか、売上等の経済的損害か)や書き込み内容の虚偽性によって異なります。複数の根拠を並列させて主張することも可能ですので、専門家に相談することが重要です。
被害を受けた場合の法的対処法
信用毀損や偽計業務妨害に当たるネット書き込みの被害を受けた場合、主に以下の手順で対応を進めることが考えられます。
STEP 1:証拠の保全
まず、問題の書き込みが削除される前にスクリーンショットを撮影して保全しておくことが不可欠です。書き込み内容、URL、投稿日時、アカウント名が画面に収まるように撮影します。可能であれば、インターネットアーカイブ(web.archive.org)への保存や、公証役場の確定日付取得も有効な手段です。また、売上の減少や取引先からのキャンセルなど業務妨害の具体的な損害についても記録を残しておきましょう。
STEP 2:削除申請(情プラ法の活用)
2025年4月1日から施行された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)により、X(旧Twitter)・Meta(Facebook/Instagram)・Google・LINEヤフー・TikTokなど指定された大規模プラットフォーム事業者は、削除申請を受けた場合に原則7日以内に対応を判断し通知することが義務付けられました。
被害を受けたら、各プラットフォームの削除申請フォームや情プラ法に基づく苦情申出窓口を利用し、虚偽情報であることや業務妨害に当たることを具体的に説明したうえで削除を求めます。削除申請が通らない場合は、弁護士を通じた仮処分申立て(民事保全手続)によって裁判所の判断を求めることができます。
STEP 3:発信者情報開示請求で投稿者を特定する
匿名・ハンドルネームでの書き込みであっても、情プラ法(旧プロバイダ責任制限法)に基づく発信者情報開示請求を通じて投稿者を特定できる場合があります。プラットフォーム事業者(SNS運営会社等)に対してIPアドレス等の開示を求め、次にそのIPアドレスを管理するインターネットプロバイダに対して氏名・住所等の開示を求めるという二段階の手続きです。
なお、信用毀損罪・偽計業務妨害罪に当たる書き込みも「権利を侵害する情報」として開示請求の対象となりえますが、開示請求を認めてもらうためには法的根拠の丁寧な主張が求められますので、弁護士に依頼することが現実的です。
STEP 4:民事上の損害賠償請求
投稿者を特定できたら、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を行います。信用毀損・業務妨害の場合は、売上の減少額、取引のキャンセルによる損害、風評被害の回復に要した広告費用など、業務上の実損が損害として認定されやすいのが特徴です。慰謝料だけでなく財産的損害を具体的に立証できれば、賠償額が相当額に上るケースもあります。
STEP 5:刑事告訴
民事での対応と並行して、または被害が重大な場合には、警察に対して刑事告訴(信用毀損罪・偽計業務妨害罪)を行うことも選択肢となります。前述のとおり、これらの罪は非親告罪ですので、告訴がなくても捜査が開始される場合もありますが、実務上は告訴状を提出することで捜査に入ってもらいやすくなります。逮捕・起訴されれば、民事交渉を有利に進めるきっかけにもなりえます。
信用毀損・業務妨害と名誉毀損を両方主張する実務
実際の事案では、一つの書き込みが「名誉毀損」と「信用毀損・業務妨害」の両方に当たる場合が少なくありません。たとえば「この会社の社長は横領をしている(虚偽)」という書き込みは、社長個人の名誉を傷つける(名誉毀損)とともに、会社の信用を損ない業務を妨害する(信用毀損・偽計業務妨害)側面を持ちます。
損害賠償請求の場面では、会社(法人)としての損害(売上の減少、取引先の喪失など)と個人(役員等)としての損害(精神的苦痛による慰謝料)を分けて請求することが可能です。複数の法的根拠を組み合わせることで、より実効的な被害回復が期待できます。
企業・事業者が信用毀損被害に遭いやすいケースと予防策
信用毀損・業務妨害は、個人よりも企業・事業者が標的となるケースが多い傾向があります。特に注意が必要な場面として次のものが挙げられます。
- 競合他社による妨害工作:業界内の競合が意図的に虚偽情報を拡散するケース
- トラブルになった元取引先・元顧客:クレームや返金交渉が決裂した後に報復目的で書き込むケース
- 退職した元従業員:解雇・退職後に虚偽の職場環境情報を転職サイトや掲示板に投稿するケース
- 炎上に便乗した第三者:一度炎上が起きると、無関係の第三者が虚偽情報を乗せて拡散するケース
予防策としては、定期的なエゴサーチ(自社名・商品名での検索)や風評被害モニタリングサービスの活用が有効です。問題のある書き込みを早期に発見し、初動対応のスピードを上げることで、被害の拡大を防ぐことができます。また、従業員が在職中から誤った情報を拡散しないよう、SNS利用ポリシーや秘密保持契約の整備も重要な予防策の一つです。
まとめ——「虚偽の書き込み=信用毀損・業務妨害」として法的に対処できる
事実無根の悪評や虚偽情報によってビジネスが傷つけられた場合、名誉毀損だけでなく、刑法233条の信用毀損罪・偽計業務妨害罪を根拠とした法的対処が可能です。虚偽の書き込みによって生じた具体的な営業損害を立証できれば、高額の賠償を得られるケースもあります。
ただし、発信者情報開示請求や仮処分申立て、刑事告訴など、実際の手続きは専門的な知識と経験を要します。「書き込みが虚偽かどうか、どの法的構成が最適か」を見極めるためにも、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
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