発信者情報開示にかかった弁護士費用は加害者に請求できる?「調査費用」の損害賠償を弁護士が解説
発信者情報開示にかかった弁護士費用は加害者に請求できる?「調査費用」の損害賠償を弁護士が解説
「匿名で誹謗中傷をされ、相手を特定するために弁護士に依頼した。やっと投稿者が判明したけれど、開示請求にかかった弁護士費用が数十万円——これは加害者に支払わせることができないのだろうか」。発信者情報開示請求を経て損害賠償を考える段階になると、多くの方がこの疑問にたどり着きます。
慰謝料そのものよりも、投稿者を突き止めるためにかかった費用のほうが高額になることは珍しくありません。「結局は持ち出しのまま泣き寝入りになってしまうのか」と不安に感じている方も多いはずです。この記事では、発信者情報開示にかかった弁護士費用(いわゆる「調査費用」)を加害者に損害賠償として請求できるのか、その法的な考え方と裁判例の傾向を、ネット誹謗中傷対応を専門とする弁護士がわかりやすく解説します。
発信者情報開示の弁護士費用は「調査費用」として請求できる
はじめに結論をお伝えすると、発信者情報開示請求のために支出した弁護士費用は、加害者に対する損害賠償の一部として請求できる可能性があります。これは民法上の不法行為(民法709条)に基づく損害賠償の枠組みのなかで、「投稿者の特定に要した調査費用」として位置づけられます。
通常の損害賠償請求訴訟では、勝訴しても弁護士費用の全額が相手方負になるわけではなく、認容額の1割程度が「弁護士費用相当額」として上乗せされるにとどまるのが一般的です。しかし、発信者情報開示請求は事情が異なります。匿名の投稿者に損害賠償を請求するためには、まず相手が誰かを特定しなければならず、その特定作業そのものに専門的な手続が不可欠だからです。
なぜ「相当因果関係」が認められやすいのか
匿名投稿による被害では、加害者を特定しない限り、慰謝料を請求する相手すら分かりません。投稿者の特定には、コンテンツプロバイダ(SNS運営会社など)やアクセスプロバイダに対する開示請求といった裁判手続が必要になり、これらは高度な専門知識を要するため弁護士への依頼が事実上必須となります。
このように、開示請求の費用は「誹謗中傷という不法行為がなければ発生しなかった出費」であり、不法行為と相当因果関係のある損害といえます。実際、裁判例のなかには、開示請求にかかった弁護士報酬は損害賠償請求をするために必要不可欠の費用であって、通常の訴訟の弁護士費用とは異なり、特段の事情がない限りその全額を相当因果関係のある損害と認めるのが相当だ、と判断したものもあります。
裁判例の傾向——「満額」が認められるとは限らない
もっとも、裁判例の判断は統一されているわけではありません。むしろ実務上は、支出した調査費用の「一部」だけを損害として認定するケースが多く見られます。裁判所は、不法行為の態様や被害の程度、認められる慰謝料額とのバランス、事案の難易度といった一切の事情を総合的に考慮し、社会通念上相当と認められる範囲で裁量的に金額を定める傾向にあります。
| 裁判例 | 請求した調査費用 | 認定された損害額 |
|---|---|---|
| 東京高裁 令和5年8月31日判決 | 100万7000円 | 70万円 |
| 東京地裁 令和5年12月1日判決 | 77万円 | 33万円 |
このように、支出額の全額が認められることもあれば、半額以下にとどまることもあります。慰謝料額が比較的低額な事案で、それに対して調査費用が著しく高額な場合などには、「均衡」の観点から減額されやすい傾向があると考えられます。あくまで個別事情によるため、「いくら認められる」と一律に断定することはできません。
請求できる「費用」の範囲を整理する
投稿者の特定から損害賠償までの一連の流れでは、複数の費用が発生します。どこまでが加害者に請求し得る「調査費用」に含まれるのかを整理しておきましょう。
調査費用に含まれ得るもの
- コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示の手続にかかった弁護士費用
- アクセスプロバイダに対する開示請求(訴訟・開示命令手続)にかかった弁護士費用
- IPアドレスの調査やログ保全のために要した実費
- 裁判所に納める手数料・郵券などの手続実費
区別して考える必要があるもの
これとは別に、特定後の「損害賠償請求訴訟」そのものにかかる弁護士費用があります。こちらは前述のとおり、認容額の1割程度が弁護士費用相当額として上乗せされるのが一般的な扱いで、調査費用とは性質が異なります。両者を混同しないことが、請求額を正しく組み立てるうえで重要です。
回収可能性を高めるための実務上のポイント
調査費用をできるだけ多く認めてもらうには、その費用が「投稿者の特定に必要かつ相当だった」と裁判所に説明できることが重要です。具体的には、誰に対してどの手続を行ったのか(コンテンツプロバイダへの開示請求、アクセスプロバイダへの開示命令申立てなど)を時系列で整理し、各段階の弁護士費用や実費の内訳を領収書・契約書とともに保管しておくとよいでしょう。手続が複数のプロバイダにまたがって長期化した事案ほど、費用の必要性を丁寧に立証する準備が結果を左右します。
2025年施行の情プラ法と費用回収の現実
2025年4月に施行された「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法、旧プロバイダ責任制限法)」により、大規模プラットフォーム事業者には削除申請への対応の迅速化や運用状況の透明化が求められるようになりました。これは被害者にとって削除を進めやすくする方向の改正ですが、発信者情報開示の手続そのものや、開示で判明した加害者への損害賠償の枠組みが大きく変わったわけではありません。
したがって、調査費用を回収できるかどうかは、引き続き個別の裁判例の蓄積と、事案ごとの主張・立証にかかっています。費用を少しでも多く回収するためには、開示請求の段階から「後に損害賠償で調査費用を請求する」ことを見据え、支出の内訳や手続の必要性を記録・整理しておくことが大切です。
開示請求にかかった費用の回収まで見据えてご相談ください
タングラム法律事務所では、ネット誹謗中傷に関する発信者情報開示請求・削除請求・損害賠償請求について、豊富な実績を有しております。投稿者の特定にかかった弁護士費用(調査費用)をどこまで請求できるか、費用対効果も含めて見通しを丁寧にご説明します。まずはお気軽にご相談ください。
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