誹謗中傷の慰謝料を払わない相手の財産を調べる手続|自分で申し立てる方法
誹謗中傷の慰謝料を払わない相手の財産を調べる手続|自分で申し立てる方法
執筆:弁護士 安藤 一章(タングラム法律事務所/神奈川県弁護士会所属) 公開日:2026年10月17日 最終更新日:2026年10月17日
誹謗中傷の投稿者を特定し、損害賠償請求訴訟で勝訴判決を得た。それなのに相手は慰謝料を一向に支払わず、連絡にも応じない。差押えをしようにも、相手がどの銀行に口座を持っているのか、どこに勤めているのかが分からず、手が止まってしまっている方は少なくありません。
この記事では、弁護士を付けずに手続を進めたい方に向けて、相手の財産を調べるための「財産開示手続」と「第三者からの情報取得手続」の仕組み、申立ての要件・費用・必要書類、そして誹謗中傷の慰謝料では勤務先の情報を取得できないという注意点を、民事執行法の条文に沿って解説します。
結論から言うと、勝訴判決などの債務名義があれば、相手の預貯金口座の情報は、財産開示手続を経なくても、地方裁判所に申し立てて銀行等から取得できる可能性があります。ただし、勤務先(給与)の情報を市町村等から取得する手続は、養育費などの扶養義務等に係る請求権と、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権に限られており、名誉毀損などによる慰謝料では利用できません。勤務先を知るには、財産開示手続で債務者本人に陳述させる方法を検討することになります。
慰謝料を払わない相手には強制執行、その前に財産の特定が必要
判決で支払いが命じられても、相手が任意に支払わなければ、強制執行(差押え)によって回収するほかありません。ところが、預金を差し押さえるには銀行名を、給与を差し押さえるには勤務先を、申立ての段階で特定する必要があります。開示請求で分かるのは投稿者の氏名・住所等にとどまることが多く、財産の所在までは分からないのが通常です。
そこで利用するのが、2020年(令和2年)4月に施行された改正民事執行法で拡充・新設された次の2つの手続です。
| 手続 | 内容 | 誹謗中傷の慰謝料での利用 |
|---|---|---|
| 財産開示手続(民事執行法197条) | 債務者本人を裁判所に呼び出し、財産について陳述させる | 利用できる |
| 預貯金の情報取得(同法207条) | 銀行等から預貯金の情報を取得する | 利用できる(財産開示の前置は不要) |
| 不動産の情報取得(同法205条) | 登記所から不動産の情報を取得する | 財産開示期日から3年以内に限り利用できる |
| 勤務先の情報取得(同法206条) | 市町村・日本年金機構等から勤務先の情報を取得する | 利用できない |
そもそも勝訴判決を得るまでの流れは、誹謗中傷の損害賠償を自分で提訴する方法で解説しています。
申立ての前提となる要件
執行力のある債務名義の正本
いずれの手続も、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者が申し立てることができます。確定判決や仮執行宣言付判決、和解調書、仮執行宣言付支払督促などが債務名義に当たります。判決や和解調書の場合は執行文の付与を受け、債務者への送達証明書も用意します(紙の債務名義の場合)。支払督促で債務名義を得る方法は、誹謗中傷の慰謝料を支払督促で請求する方法をご覧ください。
強制執行の不奏功等(民事執行法197条1項)
財産開示手続と預貯金の情報取得手続には、次のいずれかに当たることが必要です。
- 強制執行等の配当等の手続で、債権の完全な弁済を得られなかったこと(申立ての日より6月以上前に終了したものを除く)
- 知れている財産に対する強制執行を実施しても、完全な弁済を得られないことの疎明があったこと
本人で申し立てる場合、多くは後者によります。裁判所が用意する「財産調査結果報告書」の書式に、債務者の住所地の不動産の登記の有無、把握している預金や勤務先の有無などの調査結果を記入し、資料を添えて提出するのが一般的です。
預貯金の情報取得手続を自分で申し立てる流れ
申立先は、債務者の住所地(普通裁判籍の所在地)を管轄する地方裁判所です(民事執行法204条)。相手が横浜市内に住んでいれば、横浜地方裁判所が執行裁判所になります。
- 申立書・当事者目録・請求債権目録などを作成する(各地方裁判所のウェブサイトに書式があります)
- 情報の提供を求める銀行等を選び、本店の所在地・商号・代表者名を記載する
- 債務名義の正本、送達証明書、財産調査結果報告書などを添付して提出する
- 裁判所の決定に基づき、銀行等から裁判所に書面で情報が提供され、その写しが申立人に送付される(同法208条)
- 判明した口座について、債権差押命令を申し立てる
情報を求める銀行は申立人が選ぶ必要があり、すべての金融機関を一括で照会できるわけではありません。相手の住所地の近くにある銀行や大手銀行、ネット銀行など、口座がありそうな先を複数選ぶのが実務的です。また、債務者の氏名の振り仮名や生年月日を可能な限り記載するよう求める裁判所もあり、銀行が把握している情報と食い違うと「該当なし」と回答されるおそれがあります。
費用の目安
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 1,000円 |
| 予納金 | 裁判所により異なる。例えば大阪地方裁判所では、第三者1名で5,000円、1名増えるごとに4,000円を加算 |
予納金や郵便切手の額は裁判所ごとに異なるため、申立先の地方裁判所のウェブサイトか窓口で必ず確認してください。
勤務先を知りたいときは財産開示手続を検討する
給与の差押えは継続的な回収が期待できる有力な手段ですが、市町村や日本年金機構等から勤務先の情報を取得する手続(民事執行法206条1項)は、扶養義務等に係る請求権と、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の債権者に限られています。名誉毀損やプライバシー侵害を理由とする慰謝料は、これに当たりません。
そこで検討するのが財産開示手続です。実施決定が確定すると財産開示期日が指定され、債務者は事前に財産目録を提出し、期日に出頭して宣誓のうえ自己の財産について陳述しなければなりません。給与債権も財産に含まれるため、陳述を通じて勤務先が明らかになることがあります。申立人は、裁判所の許可を得て債務者に質問することもできます。
財産開示手続の申立手数料は収入印紙2,000円で、予納金は裁判所により異なります(例えば盛岡地方裁判所では7,000円とされています)。なお、財産開示期日が実施されると、その期日から3年以内に限り、登記所から不動産の情報を取得する手続も申し立てられるようになります(民事執行法205条2項)。
相手が財産開示期日に来なかった場合
財産開示期日に正当な理由なく出頭しない、宣誓を拒む、陳述すべき事項について陳述しない、虚偽の陳述をする、といった開示義務者は、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象となります(民事執行法213条1項5号・6号)。もっとも、不出頭の場合は財産開示手続自体は終了するため、それだけで財産が判明するわけではありません。刑事告発を検討するか、預貯金の情報取得など他の手段に切り替えるかを判断することになります。
自分で進める場合の限界と弁護士に依頼するメリット
これらの手続は書式が整っており、本人でも申し立てることは可能です。一方で、照会先の銀行の選び方、財産調査結果報告書の書き方、判明した口座への差押えのタイミング(情報取得の後、債務者には情報が提供された旨が通知されるため、預金が移されるおそれがあります)など、回収の成否を分けるポイントも少なくありません。相手が財産を持っていなければ、手続を尽くしても回収できないこともあります。
開示請求から損害賠償、その後の回収までの弁護士の関与については、発信者情報開示請求・削除請求のページで詳しくご紹介しています。横浜の弁護士に相談し、どの手続をどの順番で使うかの見通しを立ててから動くのも一つの方法です。
よくある質問
預貯金の情報取得手続の前に、財産開示手続を経る必要はありますか?
預貯金の情報取得(民事執行法207条)には財産開示手続の前置は不要です。強制執行の不奏功等の要件(同法197条1項各号)を満たせば申し立てられます。前置が必要なのは不動産と勤務先の情報取得です。
誹謗中傷の慰謝料で、相手の勤務先を裁判所に調べてもらえますか?
市町村等から勤務先の情報を取得する手続は、扶養義務等に係る請求権と生命・身体の侵害による損害賠償請求権に限られるため、名誉毀損等の慰謝料では利用できません。財産開示手続で債務者本人に陳述させる方法を検討します。
相手が財産開示期日に出頭しなかったらどうなりますか?
手続は終了しますが、正当な理由のない不出頭は6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象となります(民事執行法213条1項5号)。
和解調書や示談の公正証書でも申し立てられますか?
和解調書や、強制執行認諾文言付きの公正証書も債務名義に当たるため、申立ての基礎にできます。示談書を作る段階で将来の回収まで見据えておくことが大切です(誹謗中傷の示談書を自分で作る方法も参考にしてください)。
まとめ
- 慰謝料を払わない相手に強制執行するには、預金口座や勤務先などの財産を特定する必要がある
- 預貯金の情報は、財産開示を経なくても、地方裁判所に申し立てて銀行等から取得できる可能性がある
- 勤務先の情報取得手続は、名誉毀損等の慰謝料では利用できない
- 勤務先を知るには財産開示手続を検討し、不出頭等には刑事罰がある
- 費用は申立手数料のほか予納金が必要で、額は裁判所ごとに異なる
判決を得ても、回収できなければ被害の回復にはなりません。横浜の弁護士として誹謗中傷の損害賠償請求を扱ってきた立場からは、判決や和解の前の段階から、回収の見通しも含めて検討しておくことをおすすめします。
慰謝料を支払わない相手への対応でお困りの方へ
タングラム法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷について、発信者情報開示請求から損害賠償請求、判決後の回収まで豊富な実績を有しております。ご自身で手続を進めている途中からのご依頼についてもご相談いただけます。
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